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学ぶ やさしい介護法律講座 2020/07/09

#介護の法律

介護施設での死亡事故。責任は誰にある?刑事事件と民事事件の違いも【弁護士とやさしく学ぶ介護の法律ー第2回】

文:中沢信介 弁護士 law_20200707_1_01.jpg

こんにちは。 弁護士の中沢信介です。
前回(介護士が現場で逮捕されるとどうなる?)は、介護福祉士が入所者に暴力を振るった刑事事件の裁判例を紹介しました。

今回は、東京地方裁判所で判決が出た介護施設での送迎時転倒・肺炎で死亡という民事事件の裁判例を解説していきたいと思います。
民事事件というのは皆さんが日常生活の中でも聞いたことがある損害賠償などを請求する訴訟です。それではみていきましょう。

介護現場で起こった転倒事故。介護士と施設に責任が生じるケース

中沢弁護士 こんにちは。今回は前回と違い民事事件の裁判例をみていきたいと思います。

A奈美さん 前回は刑事事件だったのですね。言われてみれば民事事件と刑事事件があるのは分かるのですが、何が違うのかと改めて聞かれるとよく分かりませんね。

中沢弁護士 ニュースなどでよく見るのは刑事事件で、民事事件はあまり報道されたりすることが少ないので、なかなか接する機会がないですよね。

ただ、実際には、多くの民事事件が裁判になっています。今回は、介護の現場でよく問題となる民事事件を取り上げたいと思います。

A奈美さん 介護の現場で問題となる事案ってあまり想像できません。
私たち介護職員自身が責任を負うこともあるのですか。

中沢弁護士 場合によっては、介護職員が責任を負うこともあります。そこで、今回は、どういう場合に介護側(介護職員を含みます。)に責任が生じるのかをみていきましょう。

刑事事件と民事事件の違い

中沢弁護士 さて問題です。刑事事件と民事事件はどこが違うでしょうか。

A奈美さん えっ、いきなりクイズですか。悪い人を裁くのが刑事裁判というイメージです。

中沢弁護士 そうですね。大きな違いのひとつとして、裁判の当事者(登場人物)の違いがあります。共通して出てくるのは裁判官になりますが、

刑事事件の裁判は、犯罪を行った被告人を検察官が起訴するものです。

民事事件の裁判は、個人や会社などが同じく個人や会社を訴えるもの
です。

A奈美さん そうなんですね。

中沢弁護士 あとは大きいところでいうと判決の内容ですかね。民事事件の裁判は、お金を返せとか、建物を明け渡せなどといった判決が多いのですが...

A奈美さん あっ、刑事事件の裁判は前回の講義であった「被告人を懲役〇年に処す。」などといった判決ですね。

中沢弁護士 そうです。判決によって刑罰を科すのが刑事事件の裁判になります。

A奈美さん 言われてみれば結構違いますね。

見守りの範囲は?裁判例をもとに解説

中沢弁護士 次に具体的な事案になりますが、今回紹介するのは平成15年3月30日に東京地方裁判所において判決となった民事事件です。

A奈美さん どういった事案なんでしょうか。

中沢弁護士 デイケアサービスの利用者Xさん(78歳)がバスで自宅に送迎をしてもらった時に転倒し、骨折したことをきっかけにして、肺炎となり、その後死亡してしまった事案です。

その時現場にいた施設側の職員はバスの運転手兼介護士であるYさんひとりのみでした。 

A奈美さん シニアの転倒事故は重大な結果につながりやすいですよね。

中沢弁護士 今回は、複数ある争点のうち3つを抜粋します。

㋐デイケアサービスの提供者である施設側がバスの送迎時まで利用者の安全 に配慮しなければならないのか(契約の範囲)。

㋑配慮しなければいけないとなった場合であっても、今回配慮が足りなかったのか。

㋒利用者Xの過失の有無(過失相殺)。

介護事故、責任の所在は?

A奈美さん ㋐についてはかなり気になりますね。一人で送迎をしている施設を私も結構知っています。

中沢弁護士 今回のケースでは、施設側が利用者の安全に配慮しなければならないということになりました。

なぜなら、バスの送迎についてもXさんは施設利用料とともに追加の料金を支払っていました。そうすると、施設からXさんが受けるサービスは全体として一体であって、送迎だけを施設利用と分けるべきではないということになります。

その結果、施設利用に関して施設側が当然に負担すべき安全に配慮する義務というのは、送迎においても負担しなければならないとなりました。

A奈美さん そうすると、私たちも送迎を行う際には利用者の行動を気にかけなければならないということですね。

中沢弁護士 十分な注意が必要だと思います。

次に㋑になります。送迎時に安全に配慮しなければならないとしても、実際にYさんの行動がこの配慮する義務に違反していたといえるかどうかという点です。

A奈美さん ㋐の義務を負っているかという点と、㋑の義務を負っていることを前提に違反があるかというのは分けて考えるのですね。

中沢弁護士 そのとおりです。この点、裁判所は、結論としてYさんの義務違反があると認定しました。

理由としては、利用者Xさは78歳で、貧血状態にあり、体重が直前の半年間で激減する(45kgから39kg)など、些細なことで転倒する危険が十分にあったといえること、利用者Xさんが転倒した場所は足場の悪い未舗装道路であり、転倒の危険は十分に予測できたことが理由として挙げられ、それにもかかわらず、常時目を離さず付き添わなかったことは責任があると判断されました。

A奈美さん 介護側には厳しい判断ですね。

中沢弁護士 そうですね。

最後に問題となったのは㋒利用者Xさんの過失です。

A奈美さん 利用者Xさんの過失って関係あるのですか。

中沢弁護士 利用者側に過失があると、過失相殺といって、認められた責任を少なくすることになります。

今回の場合利用者Xさんは普段の自立歩行ができたので、利用者Xさんの歩行にも不注意がなかったとはいえないと判断されました。

A奈美さん そういったところで施設側の言い分が反映される場合もあるんですね。

施設の賠償金額は●●●万円

中沢弁護士 その結果、施設側は合計686万円の損害賠償を支払えという判決が下されました。

A奈美さん 施設側は686万円を支払わなければならなくなったのですね。

中沢弁護士 このような裁判例からわかるように、事故が起こると予見されるときにはこれを対処するための人員を割くことをためらわないといったことが必要だと思います。

A奈美さん 本当にそうですね。ありがとうございました。

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中沢信介(Shinsuke Nakazawa)

弁護士

弁護士。1984年生まれ。2013年弁護士登録。 明治大学経営学部会計学科卒業後に弁護士になることを決意。明治大学法科大学院修了。法教育にも力を入れており年間十数件程度の小・中学校や高校を訪問している。多数の医療関係の法人の顧問も務め、病院の第三者委員会の委員としての経験も有している。

中沢信介の執筆・監修記事

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