構音障害とは?症状と介護時のコミュニケーション方法【国試過去問ドリル第6回】
文:馬淵 敦士(まぶち あつし) 「ベストウェイケアアカデミー」学校長。介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)。構音障害とは、「言葉を発するための器官が正常に機能しないことにより、言葉を正しく発音できない状態」を指します。発音に困難がある状態であり、決して「コミュニケーションがとれない状態」ではありません。
介護職が構音障害への正しい知識を身に着け、コミュニケーション方法を工夫することで、ご利用者との意思伝達がスムーズにいくことが多いです。
そこで、介護福祉士国家試験に出題された構音障害の問題から、構音障害の原因を解説するとともに、介護の現場でご利用者とどのようにコミュニケーションをとったら良いのかを考察します。
介護福祉士国家試験 過去問題
第32回 午前 問題29
構音障害のある利用者とのコミュニケーションに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 閉じられた質問の活用を控える。
2 聞き取れないところは、再度言ってもらう。
3 はっきりと発音するように促す。
4 耳元で大きな声で話しかける。
5 筆談の活用を控える。
解答と解説
正解:2
構音障害とは
私たちが言葉を話すとき、口腔・舌・咽頭といった器官を動かし、発音したい音を作ります。この過程を構音といいます。音を作る器官が、何らかの原因でうまく機能していなかったり、動きに問題があったりして、正確に発音できない状態を、構音障害といいます。
似たような言語障害として、失語症が挙げられますが、失語症は高次脳機能障害にあたり、脳卒中など、大脳の損傷が原因で起こります。言葉の理解や、話す・復唱することが難しい状態を指し、場合によっては読み書きができなくなることもあります。
構音障害は、脳ではなく構音に問題がある状態を指すため、言葉の理解に問題はありません。
構音障害は、主に「器質性構音障害」「運動障害性構音障害」「機能性構音障害」の3つに分けられます。
・器質性構音障害
発声発語器官の形状に異常が生じ、発音がうまくできない状態を指します。原因としては、口蓋裂などの先天性の場合と、舌や咽頭の切除など後天性の病気による場合があります。
・運動障害性構音障害
神経や筋肉の障害(脳性マヒや脳卒中、筋萎縮性側索硬化症など)が原因で、発音が不明瞭な状態を指します。例えば、ろれつが回らない、声がかすれてしまう、震えてしまうといった症状などです。器質性構音障害や機能性構音障害よりも発音が不明瞭なことが多く、理解するまでに時間がかかり、ご利用者に負担をかけてしまうこともあります。
・機能性構音障害
口腔・舌・咽頭などには障害がないにもかかわらず、発音がうまくできない状態を指します。子どものころに誤った発音のくせを付けてしまった、あるいは病気などの原因が見当たらない場合は、機能性構音障害の可能性があります。
構音障害の具体的な症状
例えば、「サ行」がうまく発音できず、「タ行」に聞こえてしまうなどです。当事者は「さかな」と言いたいのに、周囲には「たかな」に聞こえてしまいます。「魚(さかな)を買ってきて」と言っているのに、「高菜(たかな)」を買ってきて」と取り違えてしまうと大きな間違いとなります。
ここまでの情報から整理すると、構音障害のご利用者に対する対応として、選択肢3の「はっきりと発音するように促す。」や選択肢4の「耳元で大きな声で話しかける。」はふさわしくありません。また、選択肢1の「閉じられた質問の活用」や選択肢5の「筆談」は、構音障害のご利用者とのコミュニケーションには有効な手段であり、活用を控えるべきではありません。
選択肢2 「聞き取れないところは、再度言ってもらう。」が正解です。
実務での活かし方
構音障害のご利用者から、「スーパーで"たかな"を買ってきて」という依頼があったとします。このとき、聞き取れない部分については、ご利用者に負担がかからないよう、聞き直し方を工夫すると良いでしょう。
例えば、「何ですか?」と聞き直すと、ご利用者は再度、「スーパーでたかなを買ってきて」と言わなければなりません。しかし、「スーパー」だけが聞き取れなかった場合、「どこで高菜を買ってくればいいですか?」と聞き直すと、ご利用者は「スーパー」だけ答えればいいので、負担は軽減されます。
"たかな"が、高菜と魚、どちらを指しているのかが分からない場合は、「つけものの高菜ですよね?」と具体的に確認すると良いでしょう。求めているものが高菜であれば、「そうそう」などという返答があるでしょうし、魚であれば、「ちがう」「たかなじゃなくて、たかな(魚じゃなくて高菜の意味)」という返答があるでしょう。
また、「聞き取れないところを再度言ってもらったけれど、やはり理解できなかった」というときは、筆談やコミュニケーションボード、タブレット、意思伝達ツールなどを活用するのも手です。
構音障害のご利用者は、言語の理解に問題がない分、発音ができないもどかしさを抱えているかもしれません。真摯にコミュニケーションをとり、目の前のご利用者と向き合うことが大切です。「負担がかかるから」、「面倒だから」といって、理解したふりをするのは避けましょう。
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