捻挫(ねんざ)[私の治療]
捻挫とは,外力によって関節運動が強制され,関節を構成している靱帯や関節包などの軟部組織が損傷した状態のことで,関節面相互に位置関係の乱れのないもののことである。よって,骨折や軟骨損傷がある場合は捻挫とは言わない。重症度別の的確な治療が必要で,それを怠ると,関節不安定性や変形性関節症などの重大な後遺症を生じることがある。
▶診断のポイント
問診で,どのような受傷機転であったのかを詳しく聴取する。スポーツなのか歩行中の転倒なのか,関節がどのような方向に外力を受けたのかを聴き取る。続いて,視診,触診ではどの部位に疼痛があるのか,また,圧痛点はどこにあるのかを詳細に調べる。
そして,可能な範囲で関節を動かし,どの方向の運動で疼痛が増大するかを調べる。ストレス検査を行って関節不安定性を調べることが重要である。画像検査では,まず単純X線検査を行い,骨折の有無を確認する。場合によってはCT,MRI検査を追加する。四肢関節の捻挫では,エコー検査がきわめて有用である。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
捻挫の治療においては,その重症度を正しく把握することが重要である。関節包などの伸張だけで関節不安定性のないⅠ度損傷,靱帯の部分断裂であって軽度の関節不安定性があるⅡ度損傷,靱帯の完全断裂であって重度の関節不安定性のあるⅢ度損傷,に分類する場合が多い。
下肢においては,受傷直後に荷重歩行ができればⅠ度損傷で,荷重歩行ができないほどの疼痛があればⅡ,Ⅲ度損傷と考えてよい。膝関節捻挫ではMRI検査が有効であり,これによって損傷靱帯とその程度がわかり,治療方針をたてることができる。
また,膝関節捻挫ではストレス検査が有効で,前方引き出しテストで前十字靱帯損傷を,後方引き出しテストで後十字靱帯損傷を,内反ストレステストで外側側副靱帯損傷を,外反ストレステストで内側側副靱帯損傷を診断することができる。
他の関節ではエコー検査が有用であり,損傷程度を判定することができる。足関節ではストレスX線検査が有用で,距骨傾斜角が15°以上の場合,前距腓靱帯,踵腓靱帯の完全断裂を疑う1)。
Ⅰ度損傷に対してはアイシング,湿布や弾力包帯固定で十分に対処できる。Ⅱ度損傷に対しては基本的には保存的治療がよい。2~4週間程度のギプスなどによる関節固定が適当である。Ⅲ度損傷に対しては,よく本人と話し合い,高いレベルをめざすアスリートであれば外科的治療を選択する。
処方は,基本的には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が中心である。一手目として,消化器への副作用の少ないアセトアミノフェン類を用いる。効果のない場合はロキソプロフェンがよい。ただし,消化器への副作用を考慮し,H2受容体拮抗薬などを併用するとよい。
▶治療の実際
各関節ともⅠ度損傷は湿布,弾力包帯固定でよい。以下,Ⅱ度およびⅢ度損傷に対する治療法を関節ごとに記載する。
【手・肘関節】
手指では2週間程度のアルフェンス固定を行う。手関節,肘関節のⅡ,Ⅲ度損傷では2~3週間程度のギプスシーネ固定を行う。エコー検査が有用であり,Ⅱ度とⅢ度の鑑別や損傷修復過程がわかり,スポーツ復帰へのタイミングを判定することができる。
【肩関節】
肩関節のⅡ,Ⅲ度損傷では3週間程度の三角巾固定を行い,1週間程度の早い段階で,前屈位での肩関節可動域訓練を愛護的に始め,肩関節拘縮を予防することが重要である。
【足関節】
Ⅱ,Ⅲ度損傷に対して,基本的には2週間のギプス固定を行う。荷重は許可する。その後,足趾の自動可動域訓練(タオルギャザー),腓骨筋を中心とした足関節周囲筋力増強訓練を行う。具体的には母趾,踵部を床につけたまま,第5中足骨基部を上に挙げ,足関節を外がえしする訓練を10回ずつ1日3セット行う。受傷後3カ月からジョギング等を再開して,4カ月程度で元のスポーツへ復帰させる2)。
【膝関節】
膝関節ではMRI検査をすることが望ましい。MRI検査では,低信号中の高信号像が靱帯損傷のサインである。内側,外側側副靱帯損傷であれば,それぞれに対応した膝関節サポーターを3~4カ月程度装着する。前十字靱帯,後十字靱帯損傷でも,まず膝関節サポーターを装着するが,不安定性が強い場合は靱帯再建術などの外科的治療が必要である。
【股関節】
股関節は深部関節のため,エコー検査よりもMRI検査が有用である。関節唇損傷では,3カ月程度のスポーツ禁止が必要である。
一手目
:ロキソニン®50mgテープ(ロキソプロフェン)1回1枚1日1回,カロナール®200mg錠(アセトアミノフェン)1回2錠1日3回(毎食後),ムコスタ®100mg錠(レバミピド)1回1錠1日3回(毎食後)併用
二手目
:〈処方変更〉ロキソニン®60mg錠(ロキソプロフェン)1回1錠1日3回(毎食後),ガスター®20mgD錠(ファモチジン)1回1錠1日2回(朝・夕食後)併用
▶ケアおよび在宅でのポイント
捻挫後2日間はアイシングを行わせる。氷囊をタオルで包み,15分ほど局部に当てる。在宅では,下肢であれば枕挙上するなど,なるべく患肢を挙上しておくことが大事である。
ギプスなどで関節固定をしているときも,常に等尺性の筋力訓練を指導し,固定除去後は,関節可動域訓練と関節周囲の筋力増強訓練を,段階的に進めていくリハビリテーションが非常に重要である。
【文献】
1) Hashimoto T, et al:J Orthop Sci. 2009;14(6):699-703.
2) 橋本健史:日臨スポーツ医会誌. 2013;21(2):286-93.
橋本健史(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授・副所長)
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出典:Web医事新報
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介護のみらいラボ編集部コメント
橋本健史慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授・副所長が、老若男女ほぼ全ての人が経験する「捻挫」について、それはそもそもどんな状態か、軽い場合はアイシングと湿布でいいのか、ちょっとひどい場合はギプス固定、かなりひどい場合はどうするのかなど、治療法や考え方を解説します。通常使用される薬の種類を知っておくと、安心できますね。