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ニュース 医療介護最新ニュース 2020/12/28

加齢性難聴[私の治療]内田育恵 愛知医科大学耳鼻咽喉科学講座准教授解説

介護のみらいラボ編集部コメント

高齢になればほとんどの人が経験する難聴。「ちょっと耳が聞こえにくくなった」から、補聴器では間に合わず、人工内耳を必要とするレベルまで様々です。
介護職で知らない人はいない難聴という状態ですが、だいたい何デシベル聞こえないくらいから補聴器を適応するのが普通かはご存じでしょうか?
治る難聴ももちろんあります。医師の内田育恵 愛知医科大学耳鼻咽喉科学講座准教授が解説します。

加齢に伴って認められる聴力低下を「老人性難聴」と呼ぶが,加齢変化は30歳を過ぎる頃から始まるとされており,近年は「加齢性難聴」と呼ばれることが多い。地域住民を対象とした調査によると,日常生活に支障をきたす程度の難聴(両耳が中等度以上の難聴)は,70歳代男性の5人に1人,女性の10人に1人の頻度で,高齢になるほど高くなる。

▶診断のポイント

【難聴の特徴】

難聴の性状は,両側対称性の高音漸傾型感音難聴が一般的である。標準純音聴力検査の測定値は,低周波数領域は比較的保たれるが,高周波数領域ほど悪く,年齢とともに悪化する。同年代でも男性のほうが,女性に比べて聴力が悪い傾向がある。純音聴力レベルの程度のわりに,語音弁別能が低下している例も多く,音は聞こえても言葉の内容が聞き取れないという症状を示しやすい。騒音下や複数話者の存在下では,音声理解がいっそう困難となる聴覚情報処理機能の低下も併せてみられる。難聴の程度や語音弁別能は,個人差が大きい。

【難聴の程度】

難聴全般を対象とした難聴(聴覚障害)の程度分類に関しては,(500Hz+1000Hz+2000Hz+4000Hz)/4により算出された平均聴力レベルを用いた,日本聴覚医学会による以下の分類がある。

〈軽度難聴〔mild hearing loss(impairment)〕:25dB以上40dB未満〉

小さな声や騒音下での会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。会議などでの聞き取り改善目的では,補聴器の適応となることもある。

〈中等度難聴〔moderate hearing loss(impairment)〕:40dB以上70dB未満〉

普通の大きさの声の会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。補聴器のよい適応となる。

〈高度難聴〔severe hearing loss(impairment)〕:70dB以上90dB未満〉

非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない。しかし,聞こえても聞き取りには限界がある。

〈重度難聴〔profound hearing loss(impairment)〕:90 dB以上〉

補聴器でも,聞き取れないことが多い。人工内耳の装用が考慮される。

▶私の治療方針

現時点で,生じた加齢性難聴の聴力レベルを回復させる方法はない。難聴によるコミュニケーション障害を補完する方法として,補聴器の使用が推奨される。

会話や言葉の聞き取りといった言語処理の支障は,末梢聴覚系の機能低下のみならず中枢聴覚系の機能により大きく左右される。さらに聴覚系だけでなく,注意,記憶,情報処理速度などの認知機能の関与もある。中枢神経系機能および認知機能は,高齢者においても可塑性があるとされており,補聴器を用いた聴覚活用により,言語聴取や認知の機能に有益な効果がみられたとする報告がある。

加齢性難聴の進行抑制を含む予防的観点では,難聴リスクの回避に関する教育や指導,啓発が挙げられる。騒音は,聴覚障害を引き起こす危険因子の中で最もよく研究されている環境要因で,詳細は別稿に譲るが,慢性的な騒音環境に長年さらされることで加齢性難聴の一部が形成されると考えられている。携帯型音響機器の頻用による加齢性難聴発症の若年化は,世界保健機関(WHO)の懸念事項でもあり,聴器保護の啓発が重要である。

加齢性難聴の発症には,酸化ストレスが関与している。活性酸素によりミトコンドリアDNA損傷の蓄積,ミトコンドリア機能悪化がもたらされ,内耳の細胞が傷害され難聴が進行するという機序が想定されている。内耳の加齢変化に対して保護的な作用が報告されている手法として,エネルギー制限,魚や多価不飽和脂肪酸の摂取,ポリフェノール,α-リポ酸,コエンザイムQ10,ビタミンE,ビタミンC,L-カルニチンなどのサプリメントや抗酸化薬の摂取などがある。実験動物レベルでは,老化個体の蝸牛細胞変性を有意に抑制したといったアンチエイジング効果が期待されているが,摂取量や,摂取開始のタイミング,ヒトでのエビデンスなど,加齢性難聴への効果について一定の見解に達しているとは言えず,今後の研究進展に期待したい。

▶治療の実際

【軽度~中等度難聴】

一手目:対処法は成人難聴一般と異なるものではなく,補聴器フィッティングを主として行う。補聴器の導入を決める前に,難聴の種類や程度の評価,治療による回復が見込める難聴ではないかどうかの耳鼻咽喉科的判断を行う。日本耳鼻咽喉科学会では,所定の講習カリキュラムのすべてを履修した耳鼻咽喉科専門医を補聴器相談医と認定して,ウェブサイトで公開している1)。個人差の大きい高齢難聴者への正しい補聴器選択,フィッティング,補聴器装用継続のため,日本耳鼻咽喉科学会補聴器相談医,言語聴覚士,認定補聴器技能者,認定補聴器専門店の連携のもとに補聴器導入が行われることが望ましい

二手目:上述のように言語聴取のためには末梢・中枢を併せた機能が必要であり,補聴器を装用しての聴覚リハビリテーションの重要性も注目されてきている。背景雑音の中での文章の聞き取りや,音の違いの識別などの聴覚トレーニングプログラムは,まだ標準化されたものはないが,治療手法として今後の発展が期待される

【高度以上の難聴】

一手目:高度以上の難聴例では,聴覚障害の身体障害等級に該当しないか評価する。高出力タイプやハウリング抑制機能に配慮した補聴器のフィッティングを行う。人工内耳の適応についても考慮する

二手目:難聴者側のみの対策ではなく,話し手側への指導もコミュニケーション障害軽減に有効である。高齢難聴者では聴覚過敏を伴う場合もあり,大き過ぎる声や耳元に近い声は,響きや不快感が強くなる。相手に表情を見せること,ゆっくり,はっきり話すよう心がけることで効果がある

【文献】
1) 日本耳鼻咽喉科学会ウェブサイト:補聴器相談医.
内田育恵(愛知医科大学耳鼻咽喉科学講座准教授)

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出典:Web医事新報

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