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ニュース 医療介護最新ニュース 2021/06/14

#うつ#職場#薬物依存#心的苦痛#不安#人間関係

薬物依存[私の治療]宮田久嗣先生 (東京慈恵会医科大学精神医学講座教授)解説

介護のみらいラボ編集部コメント

今回は薬物依存について、宮田久嗣先生(東京慈恵会医科大学精神医学講座教授)が、診断のポイントや処方の組み立て方などについて治療経験が少ない人でも使えるSMARPPプログラムなどを上げ、詳しく説明しています。
薬物依存の病態は、薬物への強い欲求が止まらず、やがては生活全般が薬物中心となり、社会生活や心身に障害が生じている状態のことを指します。
薬物依存の患者は、客観的に見ると薬物で生活を壊していますが、本人にとっては短期的な心理的苦痛の回避となっていたり、違法薬物は依存性が高く簡単にやめられないことから、薬をやめることだけを目標として治療を開始すると、途中で治療をやめてしまうことがあります。そのため、初期には断薬でなくまず減薬を目標とすることもあります。人間関係の把握も重要です。
薬物依存には,覚醒剤、大麻、オピオイド(ヘロインなど)、幻覚薬、危険ドラッグなどの違法薬物のほかにも、一般的にも安易に入手できるニコチン、カフェインなどの嗜好品や睡眠薬、抗不安薬などの処方薬によるものがあります。

薬物依存には,覚醒剤,大麻,オピオイド(ヘロインなど),幻覚薬,危険ドラッグなどの違法薬物のほか,ニコチン,カフェインなどの嗜好品,睡眠薬,抗不安薬などの処方薬によるものがある。
病態は,薬物への強い欲求があり,薬物中心の生活となり,社会生活や心身に障害が生じている状態である。また,耐性(薬物効果の減弱のために摂取量が増えていくこと)や,離脱症状(断薬や減薬によって,有害な精神・身体症状が生じること)を伴う。

▶診断のポイント

薬物使用によって仕事,学業,家事などの日常生活や,大切な人間関係,心身に重大な支障が生じていないか確認する。本人だけではなく,周囲の人間からの情報も大切である。生活に支障が生じているにもかかわらず,減薬や断薬に失敗しているならば,薬物依存を考える。また,耐性や離脱症状の存在も重要な情報となる。

処方薬依存ではベンゾジアゼピン系の睡眠薬,抗不安薬が多く,通常の用量を超えて過量に服用している場合(複数の医療機関から薬をもらっていることが多い)と,医師の処方通りに服用を遵守している臨床用量依存の2通りある。臨床用量依存とは,睡眠薬,抗不安薬への強い欲求があるわけではなく,社会生活も普通に行っている。ただし,使用を中止したときに不安,不眠などの離脱症状が生じるのでやめられない。使用を中止しなければ何の問題もない特異な依存である。

▶私の治療方針・処方の組み立て方

【治療方針】

最も確実な治療目標は断薬である。しかし多くの患者にとっては,刹那的でも薬物がストレスや心的苦痛の回避に役立っている側面があり,また,違法薬物の依存性は強いことから,断薬を唯一の治療目標にすると治療の脱落率が高くなる。したがって,治療からの脱落を防ぐために,合法薬物の場合や依存の程度が低い場合には,患者が達成可能な減薬(使用量低減)から治療を開始し,断薬をめざす方法がある。

【関係づくり】

薬物依存の患者は,薬物関連の問題で連れてこられたり,他の疾病の治療中に薬物使用が明らかになったりと,様々なかたちで治療が始まる。事情はどうあれ,違法薬物の使用を告白することは非常に勇気のいることである。打ち明けてくれたことを感謝し,患者の支援者であることを伝えることが重要である。

【治療の動機づけ】

患者は変わっていくものである。「いつでもやめられる」と言っているときは前熟考期,「やめたい気持ちと,やめられない気持ちが混在している」ときは熟考期ととらえ,患者の段階に応じて情報を提供し,変化を後押しする。たとえば「1カ月に3回使用してしまった」と告げられたときには,「残りの日はよく我慢できましたね。どうやったのですか」と問う。

【治療プログラム】

米国のマトリックスモデルを参考につくられた「せりがや覚せい剤再乱用防止プログラム(SMARPP)」は,治療経験が少ない医療者も安心して使えるテキストである。再使用のきっかけ(引き金)や,薬物への欲求が生じたときの対処法を学ぶことができる。

【自助グループ】

ダルクなどの民間リハビリテーション施設やナルコティクス アノニマスなどの自助グループへの参加は有効であるため,折をみて勧めていく。このようなグループで,患者が回復したメンバーを見ることは,治療の上で大きな力になる。

【入院治療】

薬物によって強い精神症状や自傷他害の危険性がある場合には入院治療の適応であるが,基本的には,入院治療は退院後の薬物を使用しない生活を続けていくための準備期間である。そのためにも,入院前に良好な治療関係を築き,入院治療の目的を明確にしておくことが大切である。

【薬物療法】

薬物による幻覚・妄想,情動不安定,衝動的な欲求に対して,抗精神病薬や気分安定薬が用いられる。ただし,薬物依存患者は,「薬ですぐに気分が変わる」ことを求めてきたために,速効性のある睡眠薬の使用には慎重であるべきである。

▶併存症・合併依存症への対応

薬物依存では併存症が多い。薬物によって幻覚・妄想や躁状態が誘発されたり,離脱症状としてうつ状態や不安障害が生じることがある。一方,外傷後ストレス障害(PTSD),注意欠如・多動症(ADHD),境界性パーソナリティー障害がもともとあり,その生きにくさやつらさを和らげるために薬物を乱用することもある。また,アルコールなど複数の薬物を乱用していることも少なくない。併存症や合併依存症の可能性に注意し,これらに適切に対応しないと治療がうまくいかないことが多い。

▶家族への対応

依存症患者をかかえた家族は,何とか問題を解決しようとして失敗し,疲れ果てている。これまでの労苦をいたわり,一緒に解決策を考えていくことを提案する。家族には,家族心理教育プログラムを受けたり,家族の自助グループに参加することを勧める。家族に回復のイメージを持ってもらい,患者に余裕のある対応をとってもらうことは大切である。

▶届け出義務

麻薬及び向精神薬取締法では,麻薬中毒と診断した場合,都道府県知事への届け出義務がある(この場合の麻薬とは,ヘロイン,コカイン,LSD,エクスタシーなど覚醒剤以外の違法薬物を指す)。また,医師が公務員の場合,違法薬物の使用にかかわらず犯罪告発義務がある。一方,覚醒剤や大麻の場合,診断しても届け出義務はない。しかし,どのような場合でも,患者に治療の意思があり,自傷他害の危険性がない場合には,届け出るか否かは医師の裁量にゆだねられている。患者に通報しないことを保証することで,治療関係は明らかに改善する。ただし,告発する場合,医療機関で採取した尿などの検体を使用することはできない。

【参考資料】

▶ 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会,監:新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 新興医学出版社, 2018.

宮田久嗣(東京慈恵会医科大学精神医学講座教授)

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出典:Web医事新報

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