病院が実施する"フレイル予防講座"とは? 山梨県の城東病院における「こちたく・かがやか」の取り組み
山梨県甲府市にある医療法人慶友会 城東病院は、地域住民に向けたフレイル予防の啓発活動を積極的に実施している医療機関です。2024年現在は、フレイル予防の出前講座を行う「こちたく」と、フレイル予防の体操やレクリエーションを行う院内サロンの「かがやか」の主に2つの取り組みを軸に活動しています。病院が実施するフレイル予防教室とは、一体どのようなものなのでしょうか。同院の作業療法士の石原光氏と、看護師の守澤留美氏に話を聞いてみました。
1.医療法人慶友会 城東病院の紹介
――医療法人慶友会 城東病院の紹介をお願いいたします。
守澤:山梨県甲府市に位置する病院です。当院は1983年の開院以来、継続して高齢者の慢性期医療に携わってきました。2024年現在は医療療養病棟と介護医療院を軸に、地域密着型の在宅支援病院として、外来や在宅支援、訪問診療、通所リハビリなどを提供しています。また、「いつまでもあなたらしくいられるために」を基本理念として、持続可能な高齢者支援を邁進している病院でもあります。現在は、病気ではなくても気軽に立ち寄れるコミュニティホスピタルを目指して、「こちたく」「かがやか」のようなフレイル予防活動をはじめ、さまざまな取り組みを実施しているところです。
2.「こちたく」とは?
――まずは、「こちたく」の概要について教えてください。
石原:「こちたく」は、2022年6月から始まった当院のフレイル予防事業です。「こちたく」という名前は「こちら琢美(たくみ)地区まるごと元気応援団 城東分団」の略称で、「城東病院がある琢美地区から元気を届けたい」という気持ちを込めて名付けました。
主な活動内容は、フレイル予防やACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及啓発を目的とした講座の開催です。具体的な取り組みとしては、公民館やシニアクラブなどでの出前講座をはじめ、「こちたく」ホームページ上のブログの更新、地域のイベントへの出展などを行っています。なお、ACPは最期まで本人の意思決定を支援する「人生会議」のことを指します。具体的にいえば、突然の事故や病気で自分の意思を伝えられなくなってしまった場合に備え、自分が望む生活や治療を考えたり、周囲の人と話し合ったりすることなどが当てはまります。
3.「こちたく」の具体的な講座内容
――「こちたく」では、具体的にはどのような講座を実施しているのでしょうか。
石原:初めてお会いする方に、いきなりACPについてお話すると受け入れられないこともあるため、どちらかといえば、フレイル予防の講座をメインで開催する機会が多い傾向にありますね。取り上げるテーマは、健康増進や介護予防、オーラルフレイル、認知症予防などがメインとなっています。
ただ、講座は毎回同様のものを実施している訳ではありません。各講座の参加者さんからのご要望や年齢層などの傾向によって、内容をアレンジしています。例えば、年齢層が比較的低い方が多く、フレイル予防の重要性をお伝えしたい場合は、データをたくさん盛り込んだスライドを使用する。年齢層が高い方が多く、実践しやすい情報をお伝えしたい場合は、食事や運動など生活に直結することを中心にお話するなど、20以上のスライドをアレンジして、参加者さんに最も適した情報をお伝えするように心がけています。
「こちたく」にて開催したオーラルフレイル講座の様子
――ACPに関しては、どのような活動を行っているのですか。
石原:「こちたく」でACPについて取り上げる際には、まずはACPよりも前の段階であるALP(アドバンス・ライフ・プランニング)について考えていただいています。ALPとは、生活のなかで自分が大切にしていることや、どのような人生にしたいのかを考えることです。具体的な活動としては、甲府市が発行しているACPノートの「わたしの想いノート」に、参加者さんご自身が大切にしていることを書く練習をしています。
自分と向き合うことは簡単ではないかもしれませんが、身体が動かなくなってしまってからALPやACPについて考えるのは、もっと難しいことです。そのため「こちたく」では、万が一のケースに備えて、ご自身のことを書く練習をしていただいているのです。
4.「かがやか」とは?
――「かがやか」はどのような場なのでしょうか。具体的な取り組みの内容についてお聞かせください。
守澤:「かがやか」は、外来のスペースの一部を用いた院内サロンです。2023年5月から活動を開始しました。「かがやか」との名前には、「今までの人生がキラキラと輝いていたように、これからの人生も輝かせるためのお手伝いをします」との思いが込められています。活動内容は、フレイル予防の体操やレクリエーション、季節のイベントの実施などで、2024年現在は、月1回・第3金曜日の14時から60分間の活動を実施しています。
最近実施した取り組みとしては、参加者さん全員でトマトを植えたり、七夕飾りを作ったりするレクリエーションや、暑さに負けないためのフレイル予防体操などが挙げられます。身体を動かすことはもちろん、手作業をはじめとした手指を動かすレクリエーションも実施することで、参加者さんの満足感アップにも繋がっているのではないかと感じています。
――「かがやか」の参加者さんは、どのような方が多いのでしょうか。
守澤:基本的には、60代から90代くらいの方を対象としています。介護認定を受けていないけれど、体力に自信のない方や、要支援の方も多数参加されていますね。参加者数は、多いときで20人ほどでしょうか。「かがやか」を始めたばかりの頃は4人ほどしか集まらないこともありましたが、現在は琢美地区の方を中心に、毎回多くの方に参加していただいています。
5.地域の方々や参加者さんからの反応は?
――「こちたく」「かがやか」の活動について、地域の方々や参加者さんからの反応はいかがですか。
石原:以前、「こちたく」の活動を手伝っていただいている方に、「病院は病気にならないと行けない場所だったけれど、城東病院が地域の人に向けた活動を始めてくれたことで、病院を頼るハードルがぐっと下がったんだ」と声をかけてもらったことがありました。このような反応をいただき嬉しかったと同時に、今まで地域からのニーズに気がつけなかったことに、ハッとさせられたのです。活動を継続することで、「何か相談があったら城東病院に行けばいいのね」「なんだか病院が身近な存在になったな」などの声をいただく機会が増えたと感じています。これからも、困ったときの相談先として、頼っていただけたら嬉しいですね。
守澤:「かがやか」はまだ始まったばかりの取り組みですが、最近では、「毎回の体操のおかげで、身体が柔らかくなったよ」「来月は何をするのか楽しみ」などの感想をいただくことが増えてきました。「かがやか」の活動が地域に定着してきているだけでなく、皆さん活動をとても楽しみにしてくださっているようです。今後も地域の方々が気軽に参加できる場所を目指して、活動を続けていきたいと感じています。
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介護のみらいラボ編集部コメント
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