「約13人に1人が認知症と共に生活する町」が取り組むまちづくりとは?|鹿児島県錦江町(きんこうちょう)に注目
鹿児島県錦江町では、認知症の人を含めた全ての町民が暮らしやすい町を目指す「認知症フレンドリーな錦江町」に向けた取り組みを2021年から実施しています。「認知症に関する普及啓発・認知症カフェの開催・まちづくり」を3つの柱として、町民を巻き込みながらさまざまな活動を行っています。取り組みの概要や、認知症当事者を主体とした認知症カフェについて、錦江町副町長の有村智明氏と、地域包括支援センター 保健師の金川美穂氏に話を聞いてみました。
1. 「認知症フレンドリー」の取り組みの概要
ーー鹿児島県錦江町では、「認知症フレンドリーな錦江町」を目指した取り組みを実施しているそうですね。まずは、取り組みの概要について教えてください。
有村:「認知症フレンドリーな錦江町」づくりは、認知症当事者の声や意見を取り入れることで、"認知症を含めた全ての町民が生活しやすい町"を目指す取り組みです。2021年より、以下の3つの柱を中心とした活動を開始。徐々に活動の輪を広げ、2023年からは「Our Project」と呼ばれる、町民主体の取り組みも実施しています。
- 普及啓発:全ての町民に、認知症や認知症の人に対するこれまでのイメージを変えていただく
- 認知症カフェ:認知症があっても、やりたいことにチャレンジし、社会や当事者同士でつながっていける場所や仕組みをつくる
- まちづくり:認知症の人を含めた町民の皆さんが、少しでも生活しやすい町に変えていく
これらの活動は、「当事者・住民・企業・学生・専門職などが一体となり、町をあげた取り組みである」として、2024年に、NHKとNHK厚生文化事業団主催の「第8回認知症とともに生きるまち大賞」を受賞しました。
キャプ:表彰式での有村さん(右)と金川さん(左)
ーー具体的には、どのような取り組みを実施しているのでしょうか。それぞれの内容を教えてください。
有村:まず、認知症の普及啓発活動としては、「庁内/町内キックオフ・ミーティング」や「認知症フレンドリーパートナー養成講座」の開催が挙げられます。キックオフ・ミーティングは、その名の通り、2021年の取り組み開始時に実施したものです。「宮城県おれんじドア」代表であり、若年性アルツハイマー型認知症の当事者である丹野智文さんの講演やワークショップの実施等により、これから目指す町の姿を参加者全員で共有しました。その後、2022年1月からは、丹野さんの講演動画の視聴や、当町の取り組みの説明を主な内容とする独自の「認知症フレンドリーパートナー養成講座」を積極的に開催。同講座は町内の小学校でも開催しており、子ども向けに認知症を分かりやすく説明するほか、丹野さんに年一回お越しいただき、児童との交流も実施しています。
次に認知症カフェでは、2025年現在は、「当事者同士でつながるカフェ」と「社会とつながるカフェ(事業所と連携した有償ボランティア)」の2つの取り組みを実施しています。2021年に初めてカフェを開催した際は、全国で広く実施されているものと同じように、認知症当事者とそのご家族が自由に話せる会を行っていました。しかし、それだけでは、認知症の人が社会とつながったり、やりたいことにチャレンジしたりすることは難しく、もっと効果的な取り組みはないだろうかと頭を悩ませていたのです。そこで、試行錯誤した結果、「自己選択・自己決定」「社会貢献や仲間意識の醸成につながる共同作業」「子どもたちや事業所との交流」をキーワードとして、活動型のカフェを開始。なかでも、メンバー(参加者)の方々が自分自身の意思によりカフェで取り組むメニューを選ぶ、「自己選択・自己決定」を特に重視しています。
そして、まちづくりでは、「認知症フレンドリーコミュニティ推進チーム」の設立が挙げられます。2025年3月時点での推進チームメンバーは72人で、医療・介護・福祉関係者、役場の若手職員や金融機関、NPO法人など、さまざまな分野の町民が参画しています。これまでの取り組みとしては、図書館での「認知症との出会いコーナー」の設置や、「認知症フレンドリー事業所制度」の創設などを行いました。また、認知症カフェのメンバーさんから出た声をもとに、当事者が何をしたいか、共に何ができるかを考え、実行する町民主体の「Our Project」も実施。2025年現在は6つのチームが活動しており、無人販売所やキッチンカーを活用した交流拠点づくりや、農作物の収穫などの作業を通じた交流機会の確保、スーパーなどで当事者が働く機会を確保する社会参加の推進などに取り組んでいます。
キャプ:カフェのメンバーさんと、「認知症フレンドリーコミュニティ推進チーム」チーム員との交流の様子
2. 「自己選択・自己決定」を重視するようになったきっかけ
ーー認知症カフェでは、どのようなきっかけで「自己選択・自己決定」を重視するようになったのでしょうか。現在の形に至るまでの流れを教えてください。
有村:「自己選択・自己決定」を重視するようになったのは、若年性アルツハイマー型認知症の当事者である、丹野智文さんからアドバイスをいただいたことがきっかけです。カフェを開催したばかりの頃は、当事者やそのご家族の困りごとをお聞きし、その解決を目指す形で、手探り状態で進めていました。しかし、ご家族チームの会話が盛り上がる一方で、当事者チームでは、スタッフがうまく困りごとをお聞きすることができず、今後どのように取り組んでいけばいいのか悩んでいました。すると、この様子を見た丹野さんが「いつもカフェではお茶を出しているようだけれど、皆さんお茶が飲みたいとは限らないと思う。やはり、何でも自分で選んでいただくことが大切なのではないか」とアドバイスをくださったのです。
そこで、自己選択・自己決定の実践のため、2021年10月からは、全員で近くの自動販売機まで行き、メンバーさん自らカフェの飲み物を購入していただくことにしました。また、「ただ話をするだけでなく、何か全員で一緒に活動できるものはないだろうか」と考え、認知症カフェの活動の一環として、町内の小学校でのボランティア活動を開始。その際も、強制的にボランティアへの参加を促すのではなく、「みんなでおしゃべり」「小学校での花の苗の手入れ」など複数のメニューから、自分のやりたいことを選んでいただく方式を採用しました。こうして自己選択・自己決定を重視した、活動型のプログラムを開始すると、メンバーの皆さんの表情が明らかに変わったのです。そこで、この活動をさらに広げようと、当事者が希望する農産物を自ら生産・調理して味わう取り組みや、事業所と連携した有償ボランティアなどを実施。いずれの活動においても、自己選択・自己決定を重視しています。
3. 「社会とつながるカフェ」開始のきっかけ
ーー2025年現在実施している「社会とつながるカフェ(事業所と連携した有償ボランティア)」は、今までの活動とは少し方向性が異なっているように感じます。同取り組みは、どのような経緯で開始することになったのでしょうか。
有村:「社会とつながるカフェ」を始めた理由は、東京都町田市にある介護事業所「DAYS BLG!」のような場を目指したいと考えたためです。同事業所では、利用者さんの自己選択・自己決定を重視しており、来所後のプログラムは全て利用者さんやスタッフを含めた話し合いで決定されます。さらに、取り組みの一環として、地域の企業での有償ボランティアも実施。有償ボランティアを含む仕事にはいくつかの選択肢があり、利用者さんは毎回、自分の好きな仕事を選んで作業を行っています。そこで、錦江町の認知症カフェでも似たような取り組みを実施したいと考え、「社会とつながるカフェ」という名前で、地域の事業所と連携した「ハタラク」取り組みを月に2回始めました。
2025年現在は、町役場のすぐ近くにあるスーパー「新鮮倶楽部おおやま」での野菜等の陳列作業や、大根占(おおねじめ)枝物生産組合の構成員さん宅でのシキミの出荷作業の下準備、看護小規模多機能型居宅介護事業所「宝樹」での草取りや掃除、こども園で使用する積み木づくりなどの作業を行っています。例えば、先日は、①シキミの出荷作業 ②「宝樹」での草取りや掃除 ③積み木づくり ④雑巾づくりの4つのメニューから、それぞれ参加したいものを自己選択・自己決定して過ごしました。カフェの開催時間は毎回2時間ほどを基本としていますが、作業内容やメンバーさんの体調なども考慮しながら、無理のないように進めています。
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介護のみらいラボ編集部コメント
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