「認知症フレンドリーな町」を目指す理由は?鹿児島県錦江町(きんこうちょう)が取り組むまちづくり
鹿児島県錦江町では、認知症の人を含めた全ての町民が暮らしやすい町を目指す「認知症フレンドリーな錦江町」に向けた取り組みを2021年から実施しています。「認知症に関する普及啓発・認知症カフェの開催・まちづくり」を3つの柱として、町民を巻き込みながらさまざまな活動を行っています。取り組みを始めた理由や、町民からの反応について、錦江町副町長の有村智明氏と、地域包括支援センター 保健師の金川美穂氏に話を聞いてみました。
1.「認知症フレンドリーな錦江町」づくりに注力している理由
ーー町全体を巻き込んだプロジェクトの推進は、なかなか難しい面もありそうです。なぜ、ここまで「認知症フレンドリーな錦江町」づくりに注力しているのでしょうか。
有村:このような取り組みを実施している背景には、高齢化率の上昇が挙げられます。改めてご紹介すると、錦江町は鹿児島県南部に位置する、人口6,100人ほどの町です。2020年度の国勢調査時のデータと比較すると、2025年までの5年間で808人減少しており、少子高齢化が進行している地域といえます。実際に、2025年4月1日時点の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は49.1%でした。2023年の全国平均値である29.1%と比較すると、かなり高い数値といえるでしょう。
こうした高齢化の進行は、認知症を発症する方の増加にもつながります。2025年4月1日時点の錦江町において、認知症かつ要介護認定を受けている方は、481人にのぼります。これは高齢者の6.2人に1人、町民の12.8人に1人の計算です。ただし、この481人の内訳に注目すると、そのほとんどが、自立度が比較的高い「ランクⅠ~Ⅲ」に当てはまっており、常に介護が必要な方はほとんどいらっしゃいません。そのため、「自立した日常生活を過ごしている方が、より生活しやすい環境を整えたい」「いつ、誰が認知症になったとしても、暮らしやすい町にしたい」との考えから、この取り組みを開始しました。
初期の認知症カフェの様子。メンバーさんの「自己選択・自己決定」を重視することで、徐々に活動が広がっていった
2.取り組みを継続するなかで大変だったこと
ーーこれまで、「認知症フレンドリーな錦江町」づくりに関する取り組みを継続するなかで、特に大変だったことはありますか。
金川:一番大変だったのは、認知症カフェの実施時に、なるべくメンバーさん(参加者)の口から意見が出るのを待つことです。私は保健師という職業柄もあり、相手が考えていることを先読みして話してしまうことが多々ありました。しかし、カフェでは、「本人の声」を伺うという観点からも、ご本人が言葉を発するのを待つことが重要です。発言するまでの時間は人により異なるため、初期段階はどのように話を盛り上げようかと、運営に苦労しました。ただ、カフェの活動が活発化してくるにつれて、徐々にメンバーさん同士の交流が盛り上がるようになり、今では「少しご自身の意見を抑えてくださいね」と言う場面が出るほどに。開催初期と比較すると、皆さん驚くほど交流を楽しまれており、当事者同士の良い関係が築かれつつあるように感じています。
ーー認知症カフェで有償ボランティアを始めることも、簡単ではなさそうなイメージがあります。参加者さんが受け取る物は、どのように決めたのでしょうか。
有村:町役場前に位置するスーパーマーケット「新鮮倶楽部おおやま」での作業時は、飲み物売り場に並んでいる商品のうち、それぞれのメンバーが飲みたいものを1本謝礼として受け取れることになっています。この飲み物の謝礼は、カフェのメンバーさん同士の話し合いで決めたものです。最初に「謝礼は何が良いですか」と尋ねたところ、「年金を貰っているからお金はいらないかな。お茶1本でいい」といった意見が出ました。すると他の方が、「夏になったらジュースも飲みたいかもしれない」とおっしゃったので、作業後に好きな飲み物を一本いただくことで意見がまとまったのです。また、同店ではそれに加え、お店のご厚意として、店舗での作業に2回参加するごとに、同店で使える商品券500円を贈呈していただいています。その他の事業所の作業では、終了後にお茶とお茶菓子をいただくことが多いです。
地元のスーパーマーケット「新鮮倶楽部おおやま」では、野菜や果物の陳列作業を担当させてもらっている
3.地域住民や当事者の方、ご家族からの反応
ーー「認知症フレンドリーな錦江町」づくりについて、地域住民や当事者の方、ご家族からの反応はいかがですか。
金川:錦江町では、認知症の普及啓発活動の一環として、地域の小学校においても、「認知症フレンドリーパートナー養成講座」を開催しています。同講座の実施後には毎回アンケート調査の記入をお願いしているのですが、「認知症の人は怖いイメージがあったけれど、そんなことはないと分かった」「今日習ったことを家族にも教えたいと思った」などの感想を寄せてくださる児童が多く、非常にうれしく感じています。また、「宮城県おれんじドア」代表であり、若年性アルツハイマー型認知症の当事者である丹野智文さんと児童との交流も、良い影響を生み出しているようです。認知症カフェのメンバーさんと児童との交流の様子を見ていると、「認知症の方には、昨日食べたものではなく、今夜食べたいものなどワクワクするようなことを聞いて欲しい」という丹野さんからのアドバイスを実践している子もいて、学んだことをさっそく活かしていて驚きました。自宅に高齢のご家族がいる児童も多いと思うので、日々の生活のなかで役立ててもらえたらと思っています。
有村:認知症カフェに関しては、「毎週カフェに行くことが励みになっています」「毎日開催して欲しい」などの声が寄せられています。1回あたりの平均参加者は年々増えており、2021年度は5.5人だったのに対し、2022年度は6.7人、2023年度は6.8人、2024年度は9.7人になりました。もちろん、広報誌などで紹介している影響もあるとは思いますが、口コミなどで取り組みが町全体に広がり、少しずつ参加してくださる方が増えているようです。初期段階のカフェでは、メンバーさんに意見を聞いても「やりたいことは特にない」といったお返事が多かったものの、最近では「今日はこれがやりたい」「こんなことができたらいいな」といった前向きな意見が非常に増えてきました。今後も皆さんにとって、さまざまなチャレンジができる場になればと考えています。
2024年12月には、「ハタラク」取り組みの一環として作成した積み木を子ども園にプレゼントした
4.今後の展望
ーー「認知症フレンドリーな錦江町」づくりについて、今後の展望を教えてください。
有村:認知症カフェの作業の一環として製作している「積み木」を、町の産業祭でメンバーさんに販売していただくなど、現在の取り組みを少しずつ発展させていく予定です。また、メンバーさんと地元の小学4年生が一緒に役場内を巡り、「認知症の方も利用しやすい役場にするための工夫を考える取り組み」の実施も検討中です。今後も、「普及啓発・認知症カフェ・まちづくり」を3つの柱として、全ての人が暮らしやすい町を目指していきたいと思います。
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介護のみらいラボ編集部コメント
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