互助×ICTで認知症患者の迷子問題に新風を吹き込む!「みまもりあいアプリ」とは?
認知症の代表的な症状として知られる「記憶障害」や「見当識障害」により、近年ますます増加しているのが高齢者の迷子です。高齢者向けのGPS機器の性能も進化し続けていますが、確実な対策がないのが実情です。そんな社会課題に対して、互助とICTという視点からアプローチするのが「みまもりあいアプリ」です。2017年のアプリ開発から既に200万ダウンロードを突破しました。認知症当事者とそのご家族、施設を支えるアプリの仕組みとは? 発案者である「みまもりあいプロジェクト(一般社団法人セーフティネットリンケージ)」代表の高原達也氏にお話を聞いてみました。
1.「みまもりあいプロジェクト」の活動内容
――「みまもりあいプロジェクト」の活動内容を教えてください。
私たちは、認知症の方とそのご家族が安心して暮らせる社会の構築を目指して2017年から「みまもりあいプロジェクト」を発足、認知症の方のひとり歩きを地域住民がサポートし解決へと導く捜索支援アプリ「みまもりあいアプリ」(厚生労働省介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業)提供を開始しました。そして2023年から当アプリは、対象を拡大し、認知症の方だけではなく迷子になった子どもや障がい者の捜索時などにも活用されています。そして、見守り支援から開始した本プロジェクトは現在、在宅の認知症当事者とご家族に、地域の「声」を届ける居場所支援(日常支援)などにも拡がりを見せています。
2.「みまもりあいアプリ」とは?
――プロジェクトの軸である「みまもりあいアプリ」とはどのようなアプリなのでしょうか。
「みまもりあいアプリ」とは、「みまもりあい(GPS配信・捜索依頼)」「つながりあい(音声配信)」「ささえあい(グループ情報配信・アンケート・トーク)」機能を搭載した地域共生支援アプリです。2017年4月に正式リリース。立ち上げ当初に約80以上のメディアに取り上げられたこともあり、約6年で全国200万ダウンロードを突破しました。現在は約50の自治体にも導入・活用されています。
ベースの機能である「みまもりあい(GPS配信・捜索依頼)」機能は、認知症の方や子どもが行方不明になった際に、ご家族や介護施設などがアプリから配信距離を決めて捜索依頼を配信すると、アプリをダウンロードしている配信距離内にいる不特定多数の「協力者」に依頼が届く仕組み。依頼に記載されている顔写真や特徴などの情報を共有することで、行方不明者の早期発見・保護につなげます。なお、アプリ利用料は無料で、過去5年間で累計約27,943回活用されています。
また、アプリと連動して、行方不明になるおそれがある高齢者や子どものご家族向けに、日本初の緊急連絡システム「みまもりあいステッカー」も有料で提供しています。登録者には、電話番号(フリーダイヤル)と「緊急連絡転送ID」が記載されたステッカーを配付。高齢者や子どもが身に着ける衣類や財布などに貼ることで、困っている人のステッカーを発見した第三者からの通報電話が登録者に転送され、直接対話できます。
ステッカーはアプリからの捜索配信時の発見者からの連絡を頂くための電話番号としても活用します。緊急時にステッカー登録されていない場合は、個人の携帯番号を使えば、無料で配信することが可能です。
みまもりあいステッカー
3.アプリ、ステッカー開発のきっかけ
――「みまもりあいアプリ」「みまもりあいステッカー」を開発したきっかけについて教えてください。
もともと私はプレママ・新米ママ向けの雑誌やペット情報をお届けするメディアの開発に携わってきました。そこで問題視されていたのが、子どもやペットの迷子です。しかし、迷子は子どもやペットだけの問題とは限りません。認知症の方のご家族にとっても大きな悩みの種であり、捜索には精神的・身体的・時間的負荷を伴います。事実、私の祖父も認知症を患い一人歩きをして、迷子になって行方不明になり、警察に保護された経験が数年間にわたってありました。とても大変でした。
そんな時、この国は、年間総額160億円の現金が拾われて交番に届けられていて、そのうちの約7割は現金を落とした本人に戻っている事実を知りました。この国には「困っている人がいると、当たり前のように助け合おうとする力(互助力)」が働き、この世界に誇るべき「互助」は、信頼する「交番」という仕組みがあって成り立っています。
多くの人は、落とし物を見つけると、当たり前のように交番に届けます。落とし物には「電池を使ったGPS機能」がなくても、「人の優しさ」の力で本人に戻ります。この「優しいエネルギー」をICTでサポートできるプラットフォームがあれば、多くの地域課題解決の助けになるのではと考え、「認知症の方の迷子問題」の解決に互助を活用することを決めました。
4.アプリの開発時、開発後の苦労
――アプリの開発時、開発後に苦労した点とは
まず開発時には、前例がない取り組みだったので、協力を求めたICT企業からは、「このアプリには、ポイントも付かない、ゲーム性もない、日本人は忙しい、誰がこのアプリをダウンロードするのか?」という厳しいご意見を頂いたことがありますし、捜索時の「個人情報」と「地域互助」をどう両立させればいいのか苦心しました。
アプリは人命救助を目的としているので、個人情報を取得せず、不特定多数の人の協力をもらうために、地域と対話する発想からGPSを活用した仕組みを。ステッカーは、個人情報保護のために、発見者とご家族の間に第三者を介さず直接連絡できるように、フリーダイヤルと転送技術を使った仕組みで、「個人情報と互助」の水と油の関係を両立させることに成功しました。
開発後はアプリの知名度を上げることが最重要課題でした。せっかく社会貢献につながるアプリを開発しても、利用してもらわないと意味がありません。しかし、運が良いことにアプリが完成した2017年4月にNHKの「ニュース7」で紹介頂き、それがきっかけで、さまざまなメディアから取材を依頼されたこともあり、アプリのダウンロード数が飛躍的にアップ。講演依頼も増え、口コミでアプリが広がるようになりました。
取材・文/松丸まきこ 編集/イージーゴー
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