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ニュース 介護業界ニュース 2025/06/19

#インタビュー

認知症の高齢者がホールスタッフとして働く飲食店|歴17年の介護福祉士が営む「ちばる食堂」に注目

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介護のみらいラボ編集部コメント

愛知県岡崎市にある「ちばる食堂」は、認知症の高齢者がホールスタッフを務める飲食店です。認知症の人が日常的に働くお店は全国的にも珍しく、国内のみならず、海外からも注目を集めています。お店の概要や認知症の高齢者と働くうえでの工夫について、店主の市川貴章氏に話を聞いてみました。

1.ちばる食堂とは?

――「ちばる食堂」はどんなお店なのでしょうか。

当店は認知症の高齢者を一般雇用する沖縄料理店です。2019年4月に開店しました。2025年現在の営業日は、月・火・木・金・土・日曜日で、水曜日以外は毎日営業しています。また、営業時間は、月・火・木・日曜日はランチ(11:00〜14:00)のみ。金・土曜日は、ランチだけでなく夜営業(17:30〜21:30)も行っています。店舗の運営体制は、料理担当の私と、ホール担当の認知症の女性3人・ダウン症の男性1人の計5人で、認知症のスタッフは主に70〜80代が中心です。それぞれのスタッフができることを活かしながら働けるよう配慮しつつ、給与面も含め一般的な飲食店と同様の運営を心がけています。なお、店名の「ちばる」とは、沖縄の方言で頑張るという意味です。「認知症の方も頑張れる場所にしたい」との思いを込めて名付けました。

2.認知症のスタッフと働くうえでの工夫

――認知症のスタッフと働くうえでの工夫があれば教えてください。

実を言うと、工夫と呼べるようなことは特にしていません。開店当初は、全員が働きやすいように様々な方法を試していました。例えば、オーダー用紙にメニュー名をあらかじめ記載し、スタッフがチェックを入れるだけで済むようにしていたのです。しかし、毎回メニュー名を確認してチェックするよりも、自分で記入する方がスムーズだったようで、すぐに白紙の用紙に変更することになりました。このように、「こちらの方が働きやすいのでは」と考えて行ったことでも、あまり効果がなく取りやめたことはいくつかあります。認知症のためミスをしてしまうことも多々ありますが、だからといって特別な方法を取り入れるのではなく、それぞれのスタッフの特性を理解したうえで、それに合わせた対応をすることが重要だと考えています。

――そうすると市川さんの負担が大きくなりそうですが、大変ではないのでしょうか。

よく「大変そうですね」と声を掛けられるのですが、あまりそうは思っていません。普通の仕事をすることと、なんら変わりはないと思っています。例えば、企業のリーダー的なポジションで働いている人は、常に様々な特性の人を取りまとめて、業務を円滑に進める方法を考えていますよね。そのようなシチュエーションと同じようなイメージです。当店ではどのスタッフも、自分の役割を理解しながら一生懸命仕事をしてくれています。一般的には「認知症=何もできない」という考えが強い傾向にありますが、認知症を発症していても、できることはたくさんあります。「認知症の人と働いているなんて大変だね」ではなく、「いつも混んでいて、忙しくて大変だね!」と言ってもらえるように、お店を続けることで認知症への偏見をなくしていきたいと考えています。

それぞれのスタッフが自身の得意・不得意を活かしながら働いている

それぞれのスタッフが自身の得意・不得意を活かしながら働いている

3.お店を運営するなかで、介護福祉士としての経験が活かされている部分

――市川さんは開業以前、介護福祉士として17年間働いていたそうですね。お店の運営について、介護福祉士としての経験が活かされている部分はありますか。

目の前の作業をしながら、店内全体の状況を把握する点については、介護の経験がとても活かされていると感じています。介護の現場では、目の前の利用者さんと会話しながら、周囲の様子を常に把握する必要があります。それぞれの利用者さんがどのような行動をしているのかアンテナを張っておくことで、何か起こりそうな時に素早く対応するためです。「あのお客さんはそろそろ注文しそうだな」「もうお会計をしたいのでは」と察知し、スタッフに適切な指示を出せるのは、介護現場での経験があってこそだと思っています。

4.お客様やスタッフからの反応

――ちばる食堂について、お客さんからの反応はいかがですか。

スタッフが認知症だと知らずに来店されるお客様も多いのですが、皆さん温かく受け止めてくださっています。例えば、お冷を複数回持って行ってしまっても「ちょうど喉乾いていたから嬉しいよ」と言ってくださる方や、注文の内容が分からなくなったスタッフに「自分が紙に書くから、そのまま店長さんに渡せば大丈夫」と声をかけてくださる方もいるほどです。また、片づけやすい場所に食器を置いて帰るなど、さりげなく協力してくださる方も多く、お客様に支えられていることを実感しています。スタッフが一生懸命働く姿を見て、「自分も何かしたい」と思ってくださるのかもしれません。

実は、開店当初はメニューに認知症の人が働いていることを記載していたのですが、最近その表示をやめました。「公表した方が受け入れてもらいやすいはずだ」という考えは、独りよがりなものだと気が付いたためです。人によって受け取り方は様々なため、「認知症の人が働いている」と明記することで、かえってレッテルを貼ってしまうのではと感じました。そこで、現在は明記することはやめて、他のお店と何も変わりない飲食店として運営しています。

――スタッフやご家族からの反応はいかがでしょうか。

スタッフに「働いてみてどう?」と尋ねると、「今日が初日だから、まだ分からないかな」「私も良い年だし、そろそろ辞めた方がいいかしら」といった返事が多く、認知症の特性を実感しています。なかには出勤を忘れてしまうスタッフもいるため、その際はご家族に協力いただいたり、「今日は何時に迎えにいきますよ」と事前に電話をすることで、無理なく働けるようにサポートしていますね。一方で、ご家族からは「ちばる食堂がなかったら、とっくに施設に入っていたと思う」という声を複数いただいています。やはり、皆さん、できる限り在宅での生活を続けて欲しいと考えているのではないでしょうか。今後も働くことが、それぞれのスタッフにとって良い刺激になればと考えています。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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