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ニュース 介護業界ニュース 2025/07/17

#インタビュー

認知症の人も暮らしやすいまちに|福岡市の「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」が描く未来

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介護のみらいラボ編集部コメント

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福岡県福岡市では、認知症になっても、住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らせるまちを目指す「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」を2018年から実施しています。認知症に関するセミナーの開催はもちろん、「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」策定や、企業と認知症の人をつなぐ取り組みなどを実施。さらに、認知症コミュニケーション・ケア技法「ユマニチュード○R」の普及啓発にも注力しています。プロジェクトの推進において心がけていることや今後の展望について、福岡市ユマニチュード推進部長の笠井浩一氏に話を聞いてみました。

1.プロジェクトの推進で心がけていること、大変だったこと

ーーユマニチュードの啓発を含め、認知症フレンドリーシティ・プロジェクトの推進において、心がけていることがあればお聞かせください。

最も意識しているのは、誰もが参加しやすい講座づくりです。学びのフェーズを大きく3段階に分けることで、入門編・中級編・実践編の講座体系を整えました。また、これらをより簡易化したバージョンを、小中学校や地域向けの講座として展開。受講者の目的やレベルに応じて、自由に選択できる環境を整えています。さらに、受講生の属性に合わせて内容を柔軟にアレンジすることも心がけています。例えば企業向け講座では、認知症のあるお客様を迎える際の対応方法を取り入れるなど、できるだけイメージしやすいように工夫しています。

ーー認知症フレンドリーシティ・プロジェクトの推進にあたり、大変だったことはありますか。

地域の企業にも積極的に取り組みに参加していただくことは、簡単ではありませんでした。もちろん、少子高齢化の進行を見据えて、前向きに研修を導入したり、勉強会へ参加したりしてくださる企業もありますが、「まだ自社には早い」と様子を見る企業も少なくありません。ただ、経済産業省が中心となって高齢社会への対応を進めている現在、地域単位での準備は決して早すぎることではないと考えています。

認知症の人やその家族が安心して生活できる環境を整えるには、やはり企業の協力は欠かせません。福岡市では「福岡オレンジパートナーズ」や「オレンジ人材バンク」を設立し、企業と共同で製品やサービスを開発する取り組みを実施しており、実際にいくつかの製品は商品化・販売されています。今後も、誰にとっても暮らしやすいまちづくりを目指し、認知症に関する正しい理解と実践的な知識を広めていきたいと考えています。

「第6回日本ユマニチュード学会・福岡総会」にて大会長講演をする高島福岡市長

「第6回日本ユマニチュード学会・福岡総会」にて大会長講演をする高島福岡市長

2.県内外からの反応

ーー認知症フレンドリーシティ・プロジェクトについて、県内外からの反応はいかがですか。

ありがたいことに、否定的な声はほとんど届いていません。むしろ、「うちの自治体でも取り組みたい」「立ち上げに協力してほしい」といった相談が全国各地から増えています。なかでも、2023年に開設した「認知症フレンドリーセンター」への関心は高く、これまでに1万2千人以上の来場がありました。同センターは、プロジェクトの取り組みを集約した拠点施設で、認知症の人やご家族の相談対応、本人・家族・企業等の交流の場の提供、ユマニチュードを中心とした研修、さらにはARを活用した当事者体験まで、多彩なプログラムを実施しています。同センターへは、国内のみならず、アジア、アメリカ、ヨーロッパからの視察も続いているため、このままプロジェクトを推進することで、アジアのモデル都市になればと考えています。

また、ユマニチュードの認知度についても、着実に広がりを見せています。2022年に実施した市民の認識度調査ではユマニチュードの認知度が約20%だったのに対し、2024年には倍の約40%にまで上昇しました。これは、公民館や商業施設、小中学校など多様な場で継続的に講座を行ってきた成果ではないかと考えています。特に、子どもたちが学校で学んだ内容を家庭で話すことで、自然と家族にも理解が広がっているのかもしれません。今後も講座をはじめとした普及・啓発活動を継続することで、ユマニチュードを広めていく予定です。

福岡市では企業向けのユマニチュード講座も多数開催している

福岡市では企業向けのユマニチュード講座も多数開催している

3.今後の展望

ーー認知症フレンドリーシティ・プロジェクトに関して、今後の展望を教えてください。

福岡市が目指しているのは、認知症になっても、住み慣れた地域で安心して「自分らしく」暮らし続けられることです。ただし、その「自分らしさ」は、認知症の人だけでなく、ケアをしているご家族にとっても重要です。だからこそ、市としてできる限りのサポートを提供したいと考えています。また、企業とも連携しながら、認知症のある方が地域で活躍できる仕組みや、日常生活を支える製品・サービスの開発にも取り組む必要性を感じています。

福岡市は、団塊ジュニア世代の方々が全て後期高齢者になる2040年を一つの節目として捉えており、「残された15年で市民の意識をどこまで変えられるか」が、認知症になっても前向きに暮らせるまちづくりの鍵となります。今後も一歩ずつ、着実にこのプロジェクトを広げていく予定です。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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