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ニュース 介護業界ニュース 2021/10/22

#インタビュー#感染症#新型コロナウイルス

国立国際感染症センター長 大曲貴夫先生に聞く(1)「コロナ・インフルエンザ同時流行対策の最前線。介護施設にこれだけは知っておいてほしいこと」

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介護のみらいラボ編集部コメント

新型コロナウイルス感染症は、第二波がやや落ち着きを見せつつあります。しかし、終息の兆しはまだ見えず、時折介護や医療施設の集団クラスターの報道も。
これからインフルエンザやノロウイルスのシーズンを迎え、介護職は利用者と自分自身の健康を守るためにどうすればよいのでしょうか。国立国際医療研究センター・国際感染症センター長の大曲貴夫先生にオンラインインタビューさせていただきました。(2020年10月現在)

国立国際感染症センター長。日本で著名な専門家のため、新型コロナウイルス感染症対策や解説で多忙な日々を送る。

解説/国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 大曲貴夫センター長 医師
取材/中保裕子(医療ライター)

流行拡大か、減少に向かうかは、私たちの「行動」次第

10月中旬現在、東京都の1日当たり新規感染者数は200人前後。日によって増減があるものの、緊急事態宣言が発令されていた5月頃と比べれば、少し落ち着いているように見えます。できればこのまま終息に向かってほしいものですが、まずは専門家がどのように予測されているか、うかがいました。

――新型コロナウイルスの今後の見通しについて教えてください。

正直なところ、私たちもどうなるのかわかりません。9月以降、東京都など大都市圏の新規感染者数はほぼ横ばいです。その一方で、人の接触の機会はだんだん増えてきています。いわゆる"コロナ疲れ"でそろそろ外へ出かけたい人が増えていますし、行政も一時の自粛は解除しています。外出自体がいけないわけではありませんが、そこで無頓着に3密の状況を作ってしまうと問題です。外出る人が増えても、感染対策がきちんとできていれば新型コロナは広がらずにすみますが、中途半端な対策では増えてしまう。つまり、再流行するかこのまま減っていくのかは私たちの行動次第なのです。

「リスクの高い人を感染させない」ことがコロナ対策の重点ポイントに

4~5月の第一波と比べると、PCR検査体制が整ったため陽性と診断される人が増えた一方、重症化したり、亡くなる方の割合は減少しています。

ーー 重症化する人が減った理由は?

ひとつは医療や介護の現場で感染対策が上手にできるようになったこと。もうひとつはPCR検査体制が増えて診断がつけやすくなり、患者さんが早く病院に来て治療を受けられるようになったことだと考えられます。コロナに感染しても、早く診断がつき、早く治療を受けることができれば重症化のリスクは減らせます。国立国際医療センターは重症の患者さんが多く搬送される病院ですが、6月5日以降、亡くなった方はひとりもいらっしゃいません。流行が長期化しても、現在のような感染状況がこのまま続くとしたら、当初ほどこわがる必要はなくなると思います。

ただ、高齢者の死亡率については、他の年代と比べて高いという事実もあります。

心臓や肺、腎臓などに持病がある方が新型コロナウイルスにかかると、やはり重症化しやすく、死亡リスクも高いといえます。介護を受けている高齢者の多くが何らかの持病を持っています。これからはコロナを過度に恐れる必要はありませんが、『リスクの高い方々をいかにコロナに感染させないか』が大事なポイントになってくる。その意味で、介護の現場は非常に大事です。

インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行――最悪の状況を想定しておく

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大曲貴夫センター長は「介護職や医療職であるならば、最悪の事態を想定し準備をしたほうがいい」と指摘する

秋冬はインフルエンザやノロウイルスの流行期。インフルエンザは例年、11月下旬頃から始まり、翌年の1~3月にピークとなり、4~5月で減少、という流れをたどります。一方、ノロウイルスによる食中毒は一年中起こり得ますが、12~1月がピーク。これらと新型コロナの同時流行が予測されているのも不安なところです。

――インフルエンザやノロウイルス食中毒と新型コロナに同時にかかってしまったら?

かなり重症化すると思われます。介護の必要な高齢者や持病がある方は、インフルエンザ、ノロウイルス、どちらに1回かかっただけでも生命にかかわるほどの大ダメージを受けます。新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザやノロウイルスも強いウイルスで、そのために亡くなる高齢者が毎年いらっしゃいます。その合併は私たち医療者でも想像したくありません。

ただ、実際にインフルエンザと新型コロナウイルスが合併したという事例は、世界的にもそれほど多くはありません。日本でも2019年秋のシーズンはインフルエンザがほとんど流行しませんでした。その背景としては、外出の自粛で、人の行き来がとだえているからではないかとか、手をよく洗うようになったという理由が考えられます。
また、異なるウイルス同士は互いをはねつけ合う性質があるとも言われています。インフルエンザにかかると、体内でさまざまな免疫が活発化するので新型コロナウイルスが入り込む余地がなくなるのではないかとも考えられています。
しかし、それでも流行が予測できない以上、インフルエンザの流行と新型コロナウイルスの第三波が同時に来てしまうことは十分あり得ます。ですから、介護や医療の業務に関わる私たちは最悪を想定して準備をしておくほうがいい。と言っても、その準備=感染対策はそれほど複雑なものではありません。

――業務中の対策については、後ほどまとめておうかがいしますが、先にワクチンについてお聞きします。ワクチン開発が進んでいますが、現場で予防に使える見通しは?

ようやく日本でも治験が始まりました。しかし、どういう効果が得られるのか、安全に接種できるものなのかは治験の結果が出なければわかりません。

ワクチンとはそもそも、ほんのわずかな細菌やウイルスなどの病原体の毒性をなくしたり弱くしたりして体内に入れ、体のもつ免疫の働きで抗体がつくられることで感染予防効果を発揮するものです。ところが、未知のウイルスである新型コロナウイルスの場合、「抗体」のことがまだよくわかっていません。

そもそも抗体ができるのか、できるとしてもワクチン接種後いつ頃できてくるのかも未知数です。私もワクチンによって新型コロナウイルスで亡くなる方が今もよりさらに少なくなっていくことに期待していますが、まだ読めないというのが正直なところです。

若手介護職から利用者への感染を防ぐには?

――業務中の感染予防としては、どのようなことに気をつければよいでしょうか?

普段から業務中にはマスクをつけ、手洗いをしっかりする。手洗いはノロウイルス予防にも有効です。重装備の感染防護服を着たり、消毒のために高額な機器を購入したり、ましてや効果のわからない怪しげな製品に飛びつく必要など全くなく、マスクと手洗いという基本的なことをしっかりやるだけでも全然違います。 それから、もうひとつ大切なことがあります。これからは『体調の悪い介護職はとにかく仕事を休む』ことです。

感染が拡大し始めた2020年の春ごろには、中高年の感染が多かったのですが、その後若者への感染が拡大し、2020年9月現在の陽性者数は20代がダントツ、ついで30代という順になっています。

インフルエンザの場合は、他人に感染させるのは発熱してからですが、新型コロナウイルスの場合は、無症状でも感染させてしまいます。実際に介護施設のクラスター感染は、20~30代の若手介護職からハイリスクの高齢者に感染しています。発熱前の軽い風邪のような症状、たとえばちょっとのどが痛いとか、頭痛がするといった程度でも感染している可能性があります。軽い体調不良でもとにかく休まなければ、高齢者にウイルスを感染させてしまう可能性があると考えてください。

――スタッフ不足の現場では、のどの痛み程度では休みづらいという声も聞こえてきそうです。

考え方の切り替えが必要です。インフルエンザの場合は高熱などの症状が急激に現れるから、『高熱が出たから休みます』と言い出しやすいですよね。新型コロナでは症状が軽いだけに「休ませてください」と言いだしにくいし、スタッフ同士でも人手がない中で容認するのはなかなか難しいかもしれません。やはりすばやいPCR検査、在宅ワークが可能な部分は導入していくなどとともに施設の管理者の配慮が必要でしょう。介護力を落とさないようマンパワーを確保しながら、スタッフが休養できる体制を整えるためには、事業所だけでなく国や自治体にも支援を望みたいところです

もちろん新型コロナウイルス感染症かどうかは、PCR検査を受けて初めて診断されます。症状のあるうちは出勤しないことが前提ですが、その後の出勤時期については、陽性か陰性かで大きく変わります。

だるかったり、咳や鼻水がちょっと出ただけでもPCR検査を受けられる仕組みづくりが大事だと思います。施設の管理職は、どこに行けばPCR検査を受けられるかを普段から調べておくといいでしょう。また、スタッフに感染が疑われるときに速やかに検査を受けられるよう、行政と相談しておくことも大事です。今は国からも、高齢者や持病のあるハイリスクの方、介護職などその方々と接する職種の方には早めにPCR検査を受けられるようにしようという大きな方針が出ています。それを地域で具体化するには、行政に任せっぱなしにするのではなく、むしろ施設側から行政に要望を出していくことが大事。利用者の安全に関わることですから、遠慮せずにどんどん要望を出したほうがいいと思います。

――スタッフに陽性者が出た場合の施設運営への影響はかなり大きいと予想されます。

陽性の人から施設内に広がってしまうのは、『のどが痛かったのに休みがとれずそのまま働いてしまった』といった場合です。早く検査を受けて近くの病院や保健所に相談していれば、施設内に広がらずにすみ、事業停止や縮小などの程度、期間も少なくてすみます。 これからのwithコロナの時代は施設内にひとりや2人の新型コロナ陽性者が出ても仕方ないという心構えで臨んでください。新型コロナは長期化しますし、ずっとつきあわなければいけない病気です。いつかは絶対に陽性の人が出ると想定して、陽性の人が出た場合の対応の仕方を訓練しておく方が現実的でしょう。

施設内で感染が起こりやすいのは、「食堂」「休憩室」

――介護施設内で感染に注意すべき場所は?

あまり知られていないのですが、スタッフが食事をとる休憩室のリスクが高いのです。換気のしにくい小さな部屋で、マスクをとってにぎやかにおしゃべりしながら食事をとることで感染が起こりやすくなっています。バックヤードについては気がゆるみがちで、感染対策が抜け落ちがちです。少し寂しいですが、食事はひとりずつ交代でとるとか、少し離れた場所で食べるといった配慮が必要です。お天気のいい日なら、施設の庭など屋外で食べるのもよいのではないでしょうか。

疲れないように、がんばる

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介護職は社会に安心を提供することができる。

――介護職へのメッセージをお願いします。

介護の場は、医療現場とともにコロナ対策の最前線です。介護の現場でコロナ対策がしっかり行われれば、リスクの高い高齢の皆さんに、ひいては社会に安心を提供することになります。その意味で、介護職の皆さんはとても重要な役目をになっています。
新型コロナの流行は長期化しますが、対策のポイントはわかってきました。ポイントをしっかり押さえさえすれば、これまで言われていたほど怖がる必要はありません。やがてはインフルエンザと同じような扱いの病気になっていくと予想しています。
しかし、終息までにはまだ長くかかりそうですので、その間の介護職の皆さんの『疲れ』が心配です。私たちも1月からずっと緊張の連続でしたので、皆さんの大変さはよくわかります。
疲れがたまれば、免疫力が低下して病気に感染しやすくなり、また重症化しやすくなるリスクもあります。
介護職が互いに協力しあって、ぜひ積極的に休みをとることができる体制をつくっていただきたいですね。"疲れないように、がんばる"。それがとても大事です。

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