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仕事・スキル 介護士の常識 2023/02/21

#認知症#認知症ケア

認知症ケアの実践「ユマニチュード」とは?4つの柱・5つのステップも解説

文/笑和(社会福祉士、介護福祉士) No1_A(thumbnail).jpg

厚生労働省が発表した「認知症の人の将来推計について」によると、認知症高齢者の数は2025年には約700万人になると推測されており、別の統計では近い将来、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になるとの指摘があります。

今後、認知症を抱える人が増える可能性は高く、介護現場では、さらなる認知症ケアの理解と実践が求められることでしょう。

そうした認知症ケアの1つの方法として注目を集めているのが「ユマニチュード」です。今回は、ユマニチュードの特徴について説明するとともに、介護場面における具体的な実践方法や、メリットについて解説します。

1.ユマニチュードの特徴、考え方



ユマニチュードとは、「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語で、フランスの2人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケアの技法です。

「ポジティブな人間関係を構築するためのケア」という考え方に基づいたもので、本人が持っている能力をできる限り使ってもらうことで、本人の健康の維持・向上を狙いとする取り組みです。それは、「その人の持つ能力を奪わない」を根本的な考え方とするケアの実践といえます。

認知症の中核症状には、記憶障害・見当識障害・判断力の低下があり、その周辺症状として、不安・抑うつ・感情のコントロールが困難な例があります。そうした利用者さんの「その人らしさ」を重視する認知症ケアの方法の1つであり、誰もが学びやすいという点で注目を集めています。

介護の場面においては、「4つの柱」と「5つのステップ」を基とし、人と人との関係性に着目したケアを実践する点に特徴があります。

2.ユマニチュードにおける「4つの柱」



ユマニチュードが示す4つの柱は、ケアを受けている人に対して「あなたは私にとって大切な存在です」と伝えるための技術です。見る、話す、触れる、立つ技術のそれぞれのポイントを見てみましょう。

見る技術

認知症の人の介護をする際、多くの場面でコミュニケーションを取りながら本人を見ています。口腔ケアを行う際には口の中を見るというように、介護を必要とする体の部位に注目します。しかし、ただ単に見るのではなく「大切に思っている」ということが相手に伝わるようにしなければなりません。

介護の場面においては、言葉に頼らなくとも認知症の方へメッセージを送ることができます。認知症の方と同じ目線にすること、適度な距離で見つめること、正面から相手を見ることで「相手に対して正直であること」を伝えるといった見る技術が求められます。

話す技術

認知症の方に対して介護を提供する際、介護者はどうしても「そのままでいて下さい」「少し待って」「すぐ終わります」などの言葉を発しがちです。命令口調でなくとも、認知症の方は不快に思うことがあるかもしれません。また、介護をスムーズに行うためだけに話すことが往々にしてあります。しかし、ユマニチュードの考え方では、介護者は、相手のことを大切に思っていることを伝えるために「話す」ことが重要です。

相手に聞こえる程度の大きさ、声の低さに注意しながら話すと、「安定した関係」「穏やかな状況」の演出につながるとともに、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を実現できます。

相手との会話が難しい状況でも、ユマニチュードでは「話す」という技術を用います。これは、介護者が提供する介護の内容を実況するという方法です。具体的には、更衣介助の場面で「きれいな服に着替えをしましょうね」、食事介助の場面で「美味しいお魚を食べましょう」、入浴介助後の場面で「お水を飲んで喉を潤しましょうね」といった前向きな言葉とともに、提供する介護内容を実況する「オートフィードバック」を行います。

こうしたオートフィードバックは、介護者が自分の提供する介護内容を確認することにもなるため、事故を防止する観点から有効な技術であるといえます。

触れる技術

認知症の方を介護する際、利用者の体に「触れる」のではなく、「つかむ」ことになっていることがあります。しかし、つかむ行為は利用者の自由を奪っていることを意味し、認知症の方の不安・不満につながってしまいます。

ユマニチュードでは、認知症の方の体に触れることも相手へのメッセージであり、相手を大切に思っていることを伝えるための技術とされています。「広い面積で触れる」、「つかまない」、「ゆっくりと手を動かす」ことなどによって優しさを伝えます。

具体的には、コミュニケーションを取りながら、肩や背中をさすり相手の反応を見ます。次第に手、顔に優しく触れるとよいでしょう。突然、何の前触れもなく認知症の方の体に触れないように注意しましょう。

立つ技術

本来、人は直立して行動します。私たちの体は、立つことによって生理機能が十分に働くようにできています。また、立つことは「人間らしさ」を表す方法の1つです。

認知症の方のADL(Activity of Daily Living:日常生活動作)にもよりますが、1日の間で少しでも立つ時間があれば、人間らしさを保つことにつながります。日常生活を過ごすなかで、立つ機会・時間を適度に設けたり、トイレへ移動するために歩行したり、洗面やシャワーを立って行うなどの工夫を実践しましょう。

3.ユマニチュードにおける5つのステップ



上述した「4つの柱」を基に、ユマニチュードではすべてのケアの場面において次に紹介する「5つのステップ」を実践します。詳しく見てみましょう。

出会いの準備

認知症の方を介護する前に、あらかじめ来訪の旨を伝えておきます。このステップを設けることで、利用者が介護者あるいは、介護を受け入れる状態にあるかどうかをチェックできます。

利用者さんによっては、介護を受ける前に心と体の準備をしておきたいと考える人がいます。認知症の症状によっては、介護者の突然の来訪に戸惑い、目的が分からないので混乱することがあるかもしれません。私たちが普段の生活において、訪問前にアポイントメントを取るのと同じように、介護の場面でも同じようなステップを踏むことが重要です。

ケアの準備

実際に介護を行う場面において、介護者は認知症の方から、今から行う介護の同意を得ることが大切です。先に述べた「出会いの準備」において承諾を得ていたとしても、このステップを設けることで、これから行うケアについて、介護者と認知症の人がお互いに準備できます。介護する側・される側の双方が不安や障壁を感じることなく、ケアが実践される環境を作れます。

知覚の連結

このステップは、認知症の方に提供される介護全般を指します。相手の疾病や障害、認知レベルに応じた適切な介護を提供することが大切です。
この介護場面では、先に述べた4つの柱を実践しながら提供することが求められます。介護を提供しながら「あなたは大切な存在です」というメッセージを送ることを忘れないようにしましょう。

感情の固定

介護が終わった後に、介護する側・される側が共に良い時間を過ごしたことを振り返るステップです。相手の症状によって感情のコントロールが難しい場合がありますが、介護を受けている際にかけられた言葉や、介護者の態度をしっかりと認知していることがあります。提供した介護に良い感情・記憶を持ってもらえるように、介護の後に双方で振り返って、良い感情を固定するように努めましょう。

再会の約束

これまでに紹介した4つのステップを実践して、再会(次回の介護予定日)の約束をします。介護する側・される側の双方で、良い感情を固定できていれば、再会の約束をすることができ、認知症の方に「また来てほしい」と思ってもらえるでしょう。

ただし、介護者が一方的に、半ば無理矢理に再会の約束をすることではありません。介護者の言葉や姿勢によって「あなたが大切な人です」と認知症の方に感じ取ってもらえるように心がけたうえで、再会の約束をするように工夫しましょう。

4.ユマニチュードに期待される効果



ユマニチュードは、認知症の方だけではなく介護者にとっても良い影響を与えると期待されています。どのような効果が期待されるのか具体的に見ていきましょう。

認知症の方への効果

認知症の方に対しては、大きく以下の2つの効果が挙げられます。

・身体機能の向上
ユマニチュードの「4つ柱」の1つである「立つ技術」を使ったケアの実践が、認知症の方のADLの維持・向上につながります。生理学的に立位は、骨粗鬆症の予防、筋力低下の防止、血液の好循環、肺の容積を増やすなど、私たち体のさまざまな部位に好影響を与えるとされています。

・精神的な安定、不安の軽減
ユマニチュードによるケアの実践によって、認知症の方が抱える不安の軽減または解消が期待されます。また、病気を患って以降、内向的になっていた利用者が、ユマニチュードのケアを受けることによって、コミュニケーションが活性化したり、性格が前向きになったりするなどの効果が期待できます。

ユマニチュードによるケアの実践は、認知症の方に身体的・精神的な良い影響を与える効果が期待できます。「人間らしさを取り戻す」「人としての尊重」を実現できる方法の1つと言えるでしょう。

介護者への効果

介護者のなかには認知症の方に対する介護場面において、難しさを感じている人も少なくありません。状況によっては、介護に対する抵抗があったり、こちらの意図が伝わらなかったりするからです。

しかし、ユマニチュードによるケアを実践することで、認知症の方との信頼関係を構築しやすくなり、スムーズな介護の提供につながります。また、「4つ柱」の1つである「立つ技術」の実践により、認知症の方のADLの維持・向上につながれば、介護者の負担を軽減することができます。加えて、介護する側・される側双方の「良い感情の固定」によって、介護に伴う精神的な負担を軽減することができるでしょう。

つまり、ユマニチュードは介護者の身体的・精神的負担の解消に役立つことが期待できます。

5.まとめ:ユマニチュードに基づくケアの実践で大切なこと



ユマニチュードは、認知症の方が本来持つ力に注目し、彼らの人としての尊厳を守りながら介護を実践する技法です。「4つの柱」と「5つのステップ」を実践することで、介護者と認知症の方との間で、信頼関係を築けるだけでなく、双方にとってのさまざまな負担軽減が期待されます。

ユマニチュードによるケアの実践では、介護者が「相手のことを大切に思う」「人として尊重する」という考えを明確に持ち、提唱されている5つのステップを繰り返すことが大切です。こうした考え方や、基本原則を十分に理解したうえで、介護場面での実践につなげてみてはいかがでしょうか。

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笑和(Showa)

大学教員(社会福祉士、介護福祉士)

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアを持ち、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障全般にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

笑和の執筆・監修記事

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