誤嚥とは?原因と症状・介護現場で役立つ予防対策をわかりやすく解説
文/山本史子(介護福祉士)誤嚥(ごえん)は、高齢者に起こりやすい症状で、介護現場でもよく見かけるものです。とくに嚥下機能が低下している高齢者にとって、誤嚥は誤嚥性肺炎や窒息の原因にもなるため、ときには迅速な対応が求められます。しかし、誤嚥する原因や具体的な症状がわからなければ、適切な対応をするのは難しいかもしれません。
そこで今回は、誤嚥の初期症状や予防方法について詳しく解説します。誤嚥の原因やリスクを理解し、利用者さんが安心して過ごせるような知識と技術を身につけましょう。
1.誤嚥とは?
誤嚥とは、食べ物や飲み物・唾液などが、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態を指します。健康な人でも会話中に唾液が気管に入ることもあり、軽い誤嚥は年齢を問わず日常的に起こります。通常、せきをすることで、気管に入ったものを自然に外に出せますが、加齢や病気によって飲み込む力が弱くなっている場合、うまく出せずに、気管や肺に炎症を引き起こすことがあります。とくに高齢者は、誤嚥性肺炎のリスクが高く、命に関わることもあるため注意が必要です。
誤嚥には、せきやむせなどの症状がみられますが、本人に自覚症状がない場合や、見た目だけでは症状がわからないときもあります。症状が出ないケースでは発見が遅れやすく、重症化しやすいためしっかり観察しなければいけません。誤嚥は食事の工夫や環境整備で予防することが可能です。日頃から誤嚥のリスクを意識し、実践することが大切です。
2.どんなときに誤嚥は起こる?誤嚥の原因とは
誤嚥は、日常生活のさまざまな場面で発生する可能性があります。とくに身体機能の低下がみられる高齢者では、そのリスクが高まります。代表的な原因として以下の3点が挙げられます。
- 加齢による嚥下機能低下
- 不適切な食事環境
- 就寝中の唾液・胃液
続いて、誤嚥が起こる具体的な原因について詳しく解説します。
加齢による嚥下機能低下
年齢を重ねるとものを飲み込む機能(嚥下機能)が低下し、誤嚥しやすくなります。飲み込みに必要なのどの筋肉や神経の機能が衰え、食べ物をスムーズに飲み込めなくなるためです。加齢に伴い、唾液の分泌量が減少することで、食べ物を滑らかに移動させにくくなることも、誤嚥を招きます。
さらに、噛む力が低下し、食べ物がきちんと噛み砕けなくなると、大きな塊のまま飲み込んでしまい、場合によっては窒息などの危険性が高まります。高齢者の既往歴によっては、嚥下に関わる筋肉の機能低下が生じるケースもあり、その場合、さらに誤嚥のリスクが高まるでしょう。
不適切な食事環境
誤嚥のリスクは、食事の環境によっても大きく影響されます。例えば、体が前かがみになりすぎた状態で食事をすると、首やのどの筋肉が圧迫され、飲み込みにくくなります。また、ベッド上で寝たまま食事をする利用者さんは、食べ物が下に移動しにくい状態になり、誤嚥しやすくなるため注意が必要です。食事をする際は、適切な食事姿勢を保つ工夫が求められます。
加えて、食事の種類も誤嚥に関係します。パサパサした食べ物や粘り気のある食べ物は口腔内に残りやすく、スムーズに飲み込めないケースもあります。介護現場では食事介助が必要な方が複数いる場合もあり、食事介助にかけられる時間が限られるかもしれません。食事介助をするときは、ひと口の大きさを小さめにして、落ち着いておこなうようにしましょう。
就寝中の唾液・胃液
高齢者の場合、就寝中にも誤嚥が起こるリスクがあります。通常、寝ている間に唾液が口にたまると自然に飲み込みをします。しかし、加齢によって嚥下機能が低下している場合、起きている時間は飲み込みができても、就寝時では無意識のうちに唾液が気管に入り込み、誤嚥を招くことがあります。また、逆流性食道炎がある場合は、胃液が食道に流れ込み、誤嚥起こすことも考えられます。普段から誤嚥のリスクが高い利用者さんには、就寝前の口腔ケアや適切な寝具を選ぶなどして、就寝中の誤嚥を防ぐようにしましょう。
3.誤嚥が起きたときの症状
誤嚥の症状はすぐに現れるものから後になって気づくものまで、さまざまです。誤嚥が発生したときは、主に次のような症状がみられます。
- せきこむ・むせる
- 声がかすれる
- 呼吸音がグルグル鳴る
- たんが絡む
- 口の中に食べ物が残る
誤嚥が起きると、体は異物を吐き出そうと反射的にせきをします。せきやむせる症状は、誤嚥の初期症状でよくみられます。強いむせが続く場合は体を前屈みにさせ、せきやむせを促して、無理に抑えないようにしましょう。加えて、以下のような症状にも注意が必要です。
- 発熱
- たんの増加
- 食欲・食事量の低下
- 食事に時間がかかるようになる
嚥下機能が低下した場合、食べ物の一部が口の中に残りやすくなります。利用者さんに自覚がなくても、頻繁にせきをしたりのどの違和感を訴えたりするかもしれません。発熱がみられたときは、誤嚥性肺炎の可能性が考えられます。誤嚥の症状はさまざまですが、発熱や普段と異なる様子がみられたときは、必ず主治医に相談しましょう。
4.誤嚥による健康リスク
誤嚥は、単なるむせやせきだけでなく、深刻な健康リスクを引き起こすことがあります。誤嚥によるリスクとして、主に次のようなものがあります。
- 誤嚥性肺炎
- 窒息
- 体重低下・脱水症状
具体的な危険性について詳しく解説します。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は、誤嚥をきっかけに引き起こされる肺炎です。誤嚥した異物や唾液に細菌が含まれており、気道や肺に感染を起こすことで発症します。誤嚥性肺炎になると発熱やせき・呼吸困難・たんが絡むといった症状が出ますが、本人の既往歴や体力によっては生命に関わります。誤嚥性肺炎は繰り返されることが多く、慢性的な呼吸器疾患の原因となるため、予防と早期の治療が重要です。
窒息
窒息は、気道に入った異物が気道をふさぐことによって起こります。窒息は呼吸ができなくなるため、素早い対応が求められます。とくに食事中に発生しやすく、激しいむせや呼吸困難などの症状がみられます。窒息が発生した場合、すぐに背部叩打法(はいぶこうだほう)や腹部突き上げ法(ハイムリック法)などの応急処置が必要です。ただし、誤嚥による窒息が起きていても、せきやむせの症状がみられない場合があります。利用者さんの様子を観察しながら、顔色が青白く変化したときや意識がないときは、すぐに応急処置を実施し、救急車を呼ぶようにしましょう。
体重低下・脱水症状
誤嚥が頻繁に起こる高齢者は、食事や水分摂取を避ける傾向があります。食べることへの不安から食欲不振となり、栄養不足や体重が低下するかもしれません。さらに、水分不足になると脱水症状を招きます。栄養不足や脱水によって免疫力や体力が低下すると、感染症にかかりやすくなったり、介護レベルが上がったりするリスクがあります。
5.誤嚥を予防する方法
誤嚥は、生命に関わるリスクもあるため、介護の現場ではとくに注意が必要です。介護職員は、利用者の状態に合わせて適切なケアを行うために、次のような誤嚥を防ぐ対策を理解しておきましょう。
- 食事の工夫
- 食事の姿勢と環境
- 食事前の口腔体操
- 食後や就寝前の口腔ケア
介護職員が実践できる具体的な誤嚥予防の方法について、詳しく解説します。
食事の工夫
誤嚥を予防するためには、利用者さんに適した食事を提供することが重要です。利用者さんが食べやすい食事を提供し、誤嚥のリスクを減らしましょう。
【誤嚥しやすい食べ物の特徴と具体例】
水分が少ない食べ物 |
・スムーズに飲み込みしにくい ・いも類・卵の黄身・パン など |
噛み切りにくい食べ物 |
・口の中に食べ物が残りやすい ・生野菜・いか・肉類 など |
口やのどに引っかかる食べ物 |
・口やのどに食べ物がへばりつく ・お餅・焼きのり など |
小さい粒状の食べ物 |
・飲み込むときに粒が気管に入りやすい ・そぼろ・ご飯・おから など |
粉末状の食べ物 |
・口の中に広がりやすく、むせやすい ・きな粉・粉チーズ など |
一般に、誤嚥がしやすい食べ物は、口の中に残りやすく、飲み込みにくいという特徴があります。嚥下機能が低下している場合、水分ものどまで届くスピードが早く、飲み込むタイミングを合わせるのが難しくなるため、食事を提供する際には、水分にトロミをつける必要があります。噛み切りにくい食材の提供は控えるか、噛み切りやすく切り込みを入れたり小さく刻んだりするとよいでしょう。利用者さんの嚥下機能の低下を感じたときは、主治医と相談し、刻み食やペースト食などの飲み込みやすい食事形態を選択することが大切です。
食事の姿勢と環境
正しい食事姿勢を保つための環境づくりは、誤嚥予防に欠かせない取り組みです。介護職員は利用者さんが安全に食事できるよう、環境を整えるようにしましょう。
利用者さんが食事をする際は、背筋を伸ばして椅子に深く座り、頭をやや前方に傾ける姿勢を保つように支援します。また、食事を食べるテーブルは高すぎず、両足の裏がきちんと床につく椅子を使用するのが適切です。利用者さんの身長や車椅子に合わせて、高さを調節できるテーブルを利用するほか、正しい座位を維持できるように足台で高さを調節してください。食事の途中で姿勢が崩れないように、背中や腰にクッションを置いてサポートするのもよいでしょう。
ベッド上での食事の場合、ベッドの背もたれを30度〜40度起こし、あごが上がらないように頭に枕を入れます。食事中はテレビを消して、食事に集中できる環境を作ることも大切です。介助が必要な利用者さんには、ひと口ずつゆっくりと食べさせるようにしましょう。
食事前の口腔体操
嚥下機能の改善を図るためには、食事前の口腔体操が有効です。例えば、舌やのどの筋肉を鍛える運動や唾液を促すものなど、さまざまな方法があります。毎食前に利用者さんに簡単な口腔体操をすることで嚥下機能の維持・向上を目指し、唾液分泌を促しましょう。
【口腔体操の一例】
- 舌を上下、左右に動かす
- パ・タ・カ・ラと声を出す
- 頬を膨らませる
- 頬をすぼませる
- せき払いをする
- 肩の上げ下げ
- 肩を回す
- 首を前後、左右に動かす
- 首を回す
口腔体操は筋肉をバランスよく鍛え、口の中のものをこぼさず食べられるようにするものです。さらに、肩や首の運動は、姿勢の維持や食事の動作にも役立ちます。
食後や就寝前の口腔ケア
誤嚥のリスクは、口腔内の清潔さも影響します。口の中の食物残渣(しょくもつざんさ)が気管に入り、誤嚥を引き起こすことがあるからです。逆に、食後や就寝前に口腔ケアをすることで、誤嚥と誤嚥性肺炎のリスクを減らせるでしょう。食後は義歯を外して、口の中の食べかすをしっかりと取り除くことが大切です。また、食後すぐに横になると、胃液が逆流し誤嚥する恐れがあります。食後1時間~2時間は体を起こすように促しましょう。
なお、食後の口腔ケアは、唾液の分泌が促進され、口腔内の細菌の繁殖を抑制してくれます。とくに口腔内が乾燥しやすい高齢者には、保湿剤を使うとよいでしょう。就寝前は義歯を外し洗浄液に浸すと、より清潔が保たれます。
6.誤嚥が起きてしまったときの対処法
誤嚥が起きたときは、落ち着いて状況を把握することが大切です。むせる、せき込むなどの症状がみられたら、すぐに食事や水分摂取を中止しましょう。利用者さんがせきをすることで自然に異物を出せる場合もありますが、呼吸困難や顔色が悪いなどの症状がみられたときは、すぐに救急車を呼び、救急隊員や医療機関の指示に従いましょう。
その際、口の中に食べ物が残っている場合、義歯を外して口の中の食べ物を指で取り除きます。意識がある場合は、背中をさすったり、せきを促したりして異物が出せるような介助が必要です。窒息を起こしている場合、すぐに背部叩打法や腹部突き上げ法などの応急処置を行います。
先にもお伝えしたように、誤嚥は窒息や誤嚥性肺炎など、命に関わるリスクが高いため、素早い対応が重要です。誤嚥が起きたときは気が動転し、どのような対処をしていいかわからなくなるかもしれません。緊急対応についても日頃から施設内で研修を実施したり、いつでも確認できる仕組みを作ったりしておくとよいでしょう。日頃から利用者さんの食事形態に気を配り、よく噛めているか、顔色に変化がないかなど様子を観察することも大切です。
まとめ:誤嚥は嚥下機能の低下で起こりやすい!適切な食事や口腔ケアで予防しよう
嚥下機能が低下している高齢者にとって、誤嚥は命に関わる問題です。介護職員は誤嚥のリスクを理解し、利用者さんが誤嚥しないような予防策に取り組まなければいけません。誤嚥のリスクを下げると同時に、利用者さんの様子をしっかりと観察し、誤嚥の症状を見逃さないことが大切です。
万が一、誤嚥したときは落ち着いて対処し、必要に応じて救急車を呼ぶ判断力も求められます。介護職員が誤嚥に対する知識と技術を身につけ、利用者さんに安心して食事を楽しんでもらえるようにしましょう。
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