認知症とは?4つの種類と特徴を知って普段のケアに役立てよう
文/中村 楓(介護支援専門員・介護福祉士・介護コラムニスト)介護の現場では、認知症を患っている利用者さんがたくさんいます。会話がかみ合わなかったり、コミュニケーションをとりづらく感じたり、認知症の方の対応に悩む人もいるのではないでしょうか。介護の仕事に携わるうえで、認知症の知識は不可欠。この記事では認知症の種類や特徴、ケアのポイントについて解説します。
1.高齢者に多い疾患である認知症とは
認知症とは、さまざまな原因で、脳の細胞が死んでしまったり、働きが徐々に悪くなったりしてしまった結果、認知機能が低下して社会生活に支障をきたしている状態が6か月以上継続している状態をいいます。原因となる病気は複数ありますが、認知症の原因としてよくあげられるのは、アルツハイマー型認知症や脳血管障害などです。
認知症になると、徐々に進行していくことがほとんどです。しかし、認知症のなかには、正常圧水頭症や内分泌疾患など、原因となっている疾患を治療することで認知症が治るケースもあります。
また、認知症とはいえないものの、記憶力などが低下して正常ともいえない状況になっている人もいます。この状況を軽度認知障害(MCI)といい、軽度認知障害(MCI)の半数は5年以内に認知症になるといわれています。
厚生労働省の推計によると、2022年の認知症高齢者は約443万人となっており、患者数は今後ますます増える見込みです。また、軽度認知障害(MCI)も同様に増えていくと推計されています。
2.認知症4つの種類と特徴を知ろう
認知症のなかでも、代表的な4種類の疾患について、詳しくみていきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症のなかで最も多く、認知症患者の約6割を占めています。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく変性疾患で、脳神経細胞は本来の老化よりも早く減ってしまい、認知症が徐々に進行していきます。進行のスピードはゆっくりで、症状がみられるようになってから約半数が寝たきりになるまでに約2~8年、発症から死亡するまでの平均年数は8~10年といわれています。
アルツハイマー型でよくみられる症状には、以下のような症状がみられます。
- 体験そのものを忘れる
- 物盗られ妄想
- 徘徊
- 夜間せん妄
- 時間や場所がわからなくなる
- 身の回りのことが正しく行えなくなる
- 言葉の理解や発語が難しくなる
病状は緩やかに進行していき、徐々に昔のことも忘れていきます。うまく会話ができなくなることや、食事や着替え、入浴、トイレなどの身の回りのことが一人で正しく行えなくなります。最終的には、寝たきり状態になります。
アルツハイマー型認知症の治療は、薬物療法が一般的であるものの、根本的に治す薬はありません。薬は服薬だけでなく、貼付薬が処方されることもあります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳の血管障害で起こる脳梗塞や脳出血などによって起こる認知症です。脳血管障害によって脳神経細胞に栄養や酸素がいきわたらなくなった結果、その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れたりして引き起こされます。脳血管性認知症の最大の特徴は、突然症状が現れたり、落ち着いていると思っていたら急に悪化したり、といったように、変動がみられることです。ある分野のことはしっかりできるのに、他のことは何もできないといった症状から、まだら認知症といわれることもあります。
脳血管性認知症の根本的な原因は脳血管障害であるため、脳血管性障害によって引き起こされる以下のような症状が早くからみられます。
- 歩行障害
- 手足のまひ
- ろれつの回りにくさ
- 排尿障害
- 感情失禁
- 夜間せん妄
脳血管性認知症の治療は、根本的な原因である脳血管障害の危険因子である高血圧や糖尿病、心疾患などに関わる服薬が行われることが多いでしょう。脳梗塞の方の場合は、再発予防のために血液をサラサラにする薬が使われることもあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に異常な物質が溜まっていくことで症状が出る認知症で、変性疾患の1つです。レビー小体型認知症の経過や症状は多様であり、人によってさまざま症状がみられます。よくみられる症状には、次のようなものがあります。
- 一日のなかや週単位で症状が変動
- 見えないものが見える幻視
- 動作緩慢や筋固縮などのパーキンソン症状
- 自律神経症状
- レム睡眠行動障害
最も特徴的なのが幻視で、人や動物、虫などの幻覚が鮮明に見え、幻視の内容もかなり具体的です。また、夜間寝ているときに大声を上げたり、体をバタバタ動かしたり、壁をドンドンたたいたりといったレム睡眠行動障害もよく見られます。
レビー小体型認知症の治療では、薬物療法と療養環境の調整が行われます。レビー小体型認知症の場合、自律神経症状を合併することが多く、転倒リスクが高いため、転倒しないような環境整備が重要です。転倒を恐れるあまり活動性が低下することもあるため、身体機能の維持のためのリハビリテーションを進められることも少なくありません。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉と側頭葉に委縮が起こる認知症で、物忘れよりも人格や行動の変化が目立つのが特徴です。社会的に不適切な言動や、突然立ち去るなどの症状などもよくみられます。具体的には、以下のような症状が該当します。
- 万引きしてしまう
- お金を払わずにスーパーで食品を食べてしまう
- 赤信号を平気で渡る
- 会話の途中で突然いなくなる
また、同じことに固執して繰り返す情動行動や、同じ場所をぐるぐる回る周徊、なんでも口に入れてしまう口唇傾向などがみられることもあります。さらに、ものの名前が出てこないことや、食品を見ても食べ物と理解できないといった症状や、話し方がたどたどしくなることもあります。
前頭側頭型認知症認知症では、物忘れよりも社会的に逸脱した行動や異常な行動が目立つため、介護者である家族や周りの関係者が疲弊することも多い認知症といえるでしょう。
3.認知症のケアで大切な4つのポイント
認知症のケアを行うときには、どのような点に気を付けたらよいでしょうか。認知症のケアで押さえておくべきポイントを4つ紹介します。
わかる言葉で簡潔に話しスキンシップは多めに
認知症になると、言葉を理解しにくくなり、自分が話しかけられていることを認識しにくくなります。また、高齢になると難聴になる人も少なくありません。認知症の利用者さんに話をするときには、利用者さんの目を見て、わかりやすい言葉で1つひとつ簡潔に話しましょう。表情を見ながら理解しているかどうかを確認しておくと、よりコミュニケーションがとりやすくなるでしょう。
また、スキンシップを頻繁にとると、相手に安心感を与えることができ、ケアがしやすくなります。実際にスキンシップをとるときには、手を握る、そっと背中に手を添える等、優しく触れることが大切です。スキンシップは、認知症が進んでコミュニケーションがとりにくくなった場合にも有効な手段となります。認知症ケアの手法として知られるユマニチュードでは、利用者さんに触れることが基本的概念の1つとしていることからも、スキンシップは認知症ケアで重要な役割を果たしていることがわかります。
相手のペースを守りプライドを傷つけない
認知症になると、急がせたり中断させられたりすることが混乱や興奮のきっかけになってしまうことがあります。間違った言動がみられたとしても、叱ったり無理に訂正したりせず、相手のペースを守るようにしましょう。
認知症の方のケアで大切なのは、プライドを傷つけないことです。認知症によってできないことや忘れることが増えたとしても、そのときに感じた感情は残ります。いやな思いが残ってしまうと、認知症状が悪化してしまうこともあるので注意しましょう。
見守る姿勢を忘れずに孤独にさせない
認知症が原因で正しい行動ができなかったとしても、できるだけ行動を制限しないようにしましょう。介護者は、危なくないように見守る姿勢を持ち、ケアを行うようにしてください。危険性のあるものは身近に置かないなど、安全な環境づくりをすると、行動を抑制するような状況が少なくなります。
また、孤独を感じると認知症状は悪化しやすいため、できるだけ声かけを行い一人にしないことも大切です。ただし、いつでもそばにいる必要はなく、常に見守る姿勢を持ちながら、必要な場面で行動をともにするようにしましょう。
急な環境変化は避ける
認知症になると、環境の変化に弱くなることが多くなります。引っ越しや施設への入所、入院などをきっかけに、認知症状が急激に悪化することも少なくありません。基本的に急な環境の変化は避けるようにしましょう。
もし、どうしても環境を変える必要がある場合には、少しずつ慣らしていくことが大切です。施設への入所といった場合には、お気に入りのものや家族の写真など、なじみのものを置く、配置を自宅の環境に近くするなどの工夫をし、安心できる空間を作るようにしましょう。
まとめ:認知症の知識を身に付け普段の業務に役立てよう
介護の仕事をしていくうえで、認知症の知識は欠かせないものです。認知症のなかでも代表的な4種類について理解しておけば、日々の仕事のなかで利用者さんに適切な対応ができるようになります。介護職として成長していくためにも、認知症の知識やケアのポイントをしっかり学んでいきましょう。
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