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仕事・スキル 介護士の常識 2024/11/19

世帯分離とは?メリット・デメリットと手続き方法を徹底解説!

文/長谷部宏依(介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー) thumb_2411_12.jpg

みなさんは、「世帯分離」という言葉を耳にしたことはありますか? 同じ家に住んでいても、別々の世帯として扱われるこの制度は、多くの人にとって、あまりなじみがない言葉かもしれません。しかし、世帯分離は高齢者の経済的負担を軽減し、より適切な福祉サービスを受けるための重要な選択肢となるため、内容を理解しておいて損はないでしょう。

この記事では、世帯分離の基本的な考え方や具体的なメリット・デメリット、手続き方法などをわかりやすく解説します。世帯分離について知りたいと思っている方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.世帯分離とは

世帯分離とは、制度上の手続きをして、同じ家に住んでいる家族間の世帯を分けることをいいます。一般的には、親と子の間で行われる世帯分離が多く、市区町村の窓口で手続きを行うと、住民票上の世帯を分けることができます。

世帯分離の主な目的は、所得の少ない人や高齢の親の住民税を軽減することです。例えば、親と子の世帯を分けると親世代の世帯年収が下がり、「住民税非課税」となる可能性があります。また、国民健康保険料の軽減や高額医療費の上限区分の低下といった、経済的メリットが得られる場合もあります。

こうしたことから、世帯分離は高齢者の経済的負担を軽減するための有効な手段といえるでしょう。

2.世帯分離のメリット

高齢者世帯にさまざまな経済的メリットがもたらす世帯分離は、「生活の質を維持しながら、経済的な負担を軽減するのに役立つ制度」と考えることもできます。

ここからは、世帯分離によってもたらされる主なメリットについて、詳しく解説していきます。

介護費用の軽減ができる

世帯分離によって、介護費用を大幅に軽減できる場合があります。世帯分離をすると、親の所得のみが介護費用負担額の算定対象となるため、介護保険の自己負担割合が軽減される可能性が高いからです。筆者が実際に見聞きしたなかにも、世帯分離前後で介護費用の差額が1カ月あたり数万円になったケースがありました。

とくに、「高額介護サービス費制度」や「高額医療・高額介護合算療養費制度」においては、影響が大きくなる可能性があります。これらは、同じ世帯での医療や介護の費用を合算する仕組みとなっているため、世帯分離を行うと制度の適用において有利になり、結果として介護費用の節約につながるでしょう。

現在、介護保険の自己負担割合が2割や3割の方は、世帯分離によって割合を減らせる可能性もあります。介護費用の金銭的な負担が重いと感じている場合は、世帯分離を検討するメリットが十分にあるといえるでしょう。

ただし、具体的な効果は個々の状況によって異なるため、ケアマネジャーや市区町村に詳細を確認してみることが大事です。

高額介護サービス費制度の自己負担額の上限を下げられる

高額介護サービス費制度は、1カ月の介護費用が自己負担額の上限を超えた場合、超過分が介護保険から払い戻される制度です。自己負担額の上限は、所得が少ないほど低く設定されているため、世帯分離によって計算上の所得が少なくなると、より低い段階の上限が適用されます。

つまり、世帯年収を抑えることで、高額介護サービス費制度の恩恵が大きくなり、介護費用の実質的な負担が軽減されるわけです。ただし、具体的なメリットは対象者の状況によって異なるため、それぞれに合った選択が必要となります。

高額介護サービス費制度における自己負担額の上限は、以下のとおりです。

区分 負担の上限(月額)
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 140,100円(世帯)
課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満 93,000円(世帯)
市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満 44,400円(世帯)
世帯の全員が市町村民税非課税 24,600円(世帯)
上記のうち、前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
生活保護を受給している方等 15,000円(世帯)

(出典:厚生労働省「高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

介護保険施設の居住費と食費が安くなる

介護保険施設を利用する際、居住費と食費は原則自己負担ですが、「負担限度額認定制度」を活用すると、負担金額が大幅に軽減される可能性があります。なお、この制度は介護保険施設への入所だけでなく、ショートステイの利用時にも適用されます。

認定の条件は、所得と預貯金に基づいて4段階に分けられており、所得や預貯金が少ないほうが負担軽減の割合が大きくなります。そのため、世帯分離を行うことで計算上の所得が下がれば、より有利な段階で認定を受けられる可能性が高いでしょう。

負担限度額認定制度の適用を受けた場合の居住費と食費の自己負担額は、以下のとおりです。

利用者負担段階 居住費(滞在費)
ユニット型個室 ユニット型 個室的多床室 従来型個室 多床室
第1段階 880円 550円 550円(380円) 0円
第2段階 880円 550円 550円(480円) 430円
第3段階① 1370円 1370円 1370円(880円) 430円
第3段階② 1370円 1370円 1370円(880円) 430円

利用者負担段階 食費
施設サービス 短期入所サービス
第1段階 300円 300円
第2段階 390円 600円
第3段階① 650円 1000円
第3段階② 1360円 1300円

(出典:鹿児島市「施設入所時の食費・居住費の負担軽減制度(特定入所者介護サービス費)」

国民健康保険料が安くなる可能性がある

国民健康保険料は、前年の所得と被保険者の人数をもとに算出されます。つまり、世帯の収入が高ければ高いほど、また被保険者の数が多ければ多いほど、保険料は高くなるわけです。

そのため、世帯を分けると計算上の世帯所得が減少し、結果として保険料が下がる可能性が出てきます。とくに、高齢の親と働き盛りの子どもが同居している場合、世帯分離によって親世帯の所得が大幅に減少するため、親世帯の国民健康保険料が大きく軽減される可能性があります。

ただし、世帯分離の効果は対象者の状況によって異なるため、詳細が知りたい場合は市区町村の健康保険窓口に相談し、具体的に試算してもらうとよいでしょう。

以上のように、世帯分離は国民健康保険料の負担を軽減するための有効な選択肢の1つとなります。

後期高齢者医療制度の保険料が下がる可能性がある

後期高齢者医療制度は、75歳以上の方々を対象とした健康保険制度であり、高齢者の医療費負担の軽減を目的としています。加入者は、自己負担1割で医療機関を利用できますが、制度を活用するには保険料を納付しなければなりません。

保険料の算定方法は世帯所得に基づいており、所得が高ければ保険料も高くなる仕組みです。世帯を分けることで親世帯の所得が減少し、結果として保険料が下がる可能性があるでしょう。

3.世帯分離のデメリット

世帯分離には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここからは、世帯分離に伴うデメリットについて詳しく解説しましょう。

国民健康保険料が高くなる場合もある

国民健康保険料は、世帯主が支払う義務を負っていますが、世帯分離した場合には金額が変わります。親と子が別の世帯主になると、それぞれに保険料を支払う必要があるためです。その結果、世帯全体での保険料負担が増加するケースも考えられます。

そのため、世帯分離を決めるにあたっては、分離後の各世帯の保険料を計算し、納付総額がどのように変化するかを確認することが大事です。

手続きが面倒

世帯分離を行うには、住民票の取得やさまざまな書類への記入など、面倒な手続きが発生します。とくに注意が必要なのは、高齢の親が自ら手続きを行えない場合です。このような状況では子どもが代わりに手続きを行いますが、代理を担う際は「委任状」が必要になります。

世帯分離による経済的なメリットはけっして小さくありませんが、恩恵を受けるためにはそれなりの時間と手間がかかることも事実です。

各種手当が使えなくなる

各種手当の変更や喪失も、世帯分離を検討する際の注意点の1つです。子どもが親を扶養に入れている場合、世帯分離によって扶養関係が解消されるため、さまざまな影響が生じるでしょう。

例えば、子どもの会社から扶養手当や家族手当が支給されている場合、世帯分離によって支給されなくなることも考えられます。

子どもの勤務先の健康保険組合を利用できない

世帯分離を行うと、親は子どもの扶養から外れます。これまで子どもの勤務先の健康保険組合に加入し、実質的に保険料負担がなかった人は、扶養から外れることで組合のサービスを利用できなくなる可能性が高いでしょう。

多くの場合、国民健康保険への加入が必要となり、新たな経済的負担が発生します。

4.世帯分離の手続きができる条件

世帯分離の手続きができる条件は、「対象者がそれぞれの世帯で独立した家計を営んでいること」です。

同じ屋根の下で生活していても、親子が別々の収入源を持ち、日々の生活費や固定費を個別に負担しているような状況であれば、世帯分離の条件を満たせるでしょう。

5.世帯分離の手続きの流れ

ここからは、世帯分離の手続きの基本的な流れを説明します。なお、具体的な要件や提出書類は市区町村によって異なるため注意が必要です。

経済的メリットを確認する

世帯分離の手続きを行うにあたっては、どの程度の経済的なメリットがあるのか、具体的に検討することが大事です。

例えば、親の年金額が比較的高い場合、世帯分離を行っても期待するほどの効果が得られないかもしれません。また、これまで子どもの扶養に入っていた親が独立した世帯になると、国民健康保険料の支払いが増加する場合があります。加えて、勤務先から受けていた扶養手当などが支給されなくなる可能性もあるでしょう。

書類をそろえる

世帯分離の手続きを進める場合は、一般的に以下の書類が必要になります。

  • 本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
  • 世帯変更届
  • 国民健康保険証
  • 印鑑
  • 委任状(親以外による申請の場合)

不備があると手続きができなくなるので、事前に市区町村の担当窓口に問い合わせて確認を行うとよいでしょう。

市区町村の窓口に行く

世帯分離の手続きをする際は、市区町村窓口で「住民異動届」を入手し、必要事項を記入したうえで提出します。

手続きの基本的な流れは次のとおりです。

1. 住所地の市区町村窓口に行き、「住民異動届」を入手する
2. その場で必要事項を記入する
3. 準備した必要書類(本人確認書類、国民健康保険証など)と一緒に提出する
4. 子どもが親の代わりに申請する場合は、委任状も提出する

窓口では世帯分離の理由や生活状況について、質問される場合もあります。

6.世帯分離ができないケースはある?

世帯分離はほとんどの場合、申請が受理されますが、いくつかの例外もあります。例えば、夫婦が同じ住所で生活している場合、民法上相互扶養義務があるため、原則として世帯分離は認められません。

ただし、夫婦が明らかに別居しており、それぞれが独立した生計を営んでいる場合や一方が介護施設に入所している場合には、世帯分離が認められる可能性があります。

夫婦間の世帯分離では、その目的も重要なポイントです。介護保険料の軽減が主な目的になっている場合、制度の本来の趣旨から外れると判断されるため、申請が受理されないケースが多いようです。

7.世帯分離をする際の注意点

世帯分離を行うにあたっては、慎重に検討することが大事です。以下に、世帯分離を行う際にとくに注意すべき点をまとめました。

介護費用に関する話は避ける

市区町村の窓口で世帯分離の理由を尋ねられたときは、「生計を別々にするから」とシンプルに説明するのが適切です。

世帯分離は介護費用の負担軽減を主な目的とした制度ではありません。そのため、介護費用に関する話などは避けるべきでしょう。本来の目的から外れた説明をした場合、申請が受理されない可能性もあるため注意が必要です。

健康保険の手続きをする

世帯分離後は、健康保険の手続きが必要です。例えば、国民健康保険に加入している世帯が世帯分離をしたときは、それぞれの世帯主が国民健康保険料を支払うことになります。ちなみに、その場合の手続きは世帯分離の申請と同時に行うことが可能です。

夫婦の世帯分離は手続きが難しい

先にお伝えしたように、夫婦での世帯分離の手続きは条件によって可能ですが、自治体によっては、夫婦の世帯分離を認めていないところもあります。

まとめ:世帯分離は申請前にメリットとデメリットを理解することが大事

世帯分離にはさまざまな経済的メリットがあり、介護費用の負担が軽減されたり、国民健康保険料が安くなったりする可能性があります。しかし、対象者の年金額によっては、逆に出費が増えてしまうケースも考えられます。

世帯分離を申請する際は、メリットとデメリットを十分に理解し、適切に判断する必要があるでしょう。

        

※当記事は公開時点の情報をもとに作成しています

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長谷部宏依(Hiroe Hasebe)

介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー

介護職員として介護老人保健施設に入職。その後介護福祉士を取得し訪問介護や訪問入浴、デイサービスで働く。ケアマネジャーは20年の実績があり、100名以上の高齢者を担当。認認介護・老老介護・介護拒否など困難事例も多く経験。現在はWebライターとしてさまざまな記事を執筆している。福祉住環境コーディネーター2級も取得。

長谷部宏依の執筆・監修記事

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