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仕事・スキル 介護士の常識 2025/07/14

介護のリスクマネジメントとは?利用者さんにとって安全な環境を守る重要性と実践方法

文/山本史子(介護福祉士) thumb_250709.jpg

介護施設では、利用者さんの身体の状況により、さまざまなリスクが存在しています。これらのリスクを防ぎ、利用者さんに安全で質の高い介護サービスを提供するためには、リスクマネジメントは欠かせません。しかし、リスクマネジメントの具体的な内容をよく知らないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、介護施設におけるリスクマネジメントの目的や具体的な事例、その実践方法を解説します。施設全体で予測できるリスクに備え、利用者さんも職員も安心できる環境を目指しましょう。

1.介護施設におけるリスクマネジメントとは

介護施設におけるリスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、事故やトラブルなどのリスクを予測・分析し、事故を防止したり発生した事故による被害を最小限に抑えたりするための活動全般を指します。介護施設では、万が一、事故や問題が発生したときでも被害が最小限に抑えられるように、現場のリスクの認識と適切な対策が求められます。利用者さんに質のよいサービスを提供するためには、利用者さんが安全で安心した生活を送れるように、起こりうるリスクに対して施設全体で取り組むことが必要です。

介護のリスクマネジメントの目的

介護現場におけるリスクマネジメントの目的は、次の3つです。

  • 利用者さんの安全確保
  • 職員の負担軽減と安心して働ける環境づくり
  • 施設のスムーズな運営

介護現場では、利用者さんの加齢や病気などによる身体機能の低下によって、小さな事故が大きな問題につながることがあります。介護施設でのリスクマネジメントは、さまざまなリスクについて予測・対策することで、利用者さんの安全確保につながります。
一方、リスクマネジメントは、職員の安全を守ることにもつながります。事故が発生した場合、職員がその責任を感じたり、ショックを受けたりすることが少なくありません。事故の相談や報告ができる環境を作って職員の負担を軽減したり、事故の報告や分析をして職場環境の整備や人手を確保したりすることで、より質の高い介護サービスが提供できるでしょう。
事故やトラブルが発生した際に適切な対応ができていないと、法的な責任を問われる可能性があります。利用者さんや家族からの信頼を失うことも考えられるため、リスクマネジメントは、スムーズな施設運営をするためにも重要だといえるでしょう。

介護施設でリスクマネジメントが求められる理由

介護施設においてリスクマネジメントが求められる理由は、高齢者の身体機能や認知機能の低下により、事故や問題が発生しやすいからです。高齢者には、以下のような日常生活に影響する機能低下がみられます。

  • 骨がもろくなる
  • 筋力が低下する
  • 噛む力・飲み込む力が弱くなる
  • 判断力が低下する
  • 視力が低下する

機能低下による事故は、命に関わる事態に発展する可能性が考えられます。そのため、リスクマネジメントを実施し、施設内の管理や職員の対応を強化することは、事故の予防につながります。
事故が発生しやすい場面を想定し、適切な予防対策をしておくことは、利用者さん、職員、施設全体を守るために不可欠な取り組みだといえるでしょう。

2.介護現場で起こりやすい事故・ヒヤリハット事例

介護現場で起こりやすい事故・ヒヤリハット事例

介護現場では、どれだけ気をつけていても事故やヒヤリハットが発生するものです。ヒヤリハットとは、事故にはつながらなかったものの、危険が潜んでいた出来事を指します。誰もが、仕事中に「ヒヤッとした」「ハッとした」ことがあるでしょう。このことから「ヒヤリハット」と呼ばれています。ヒヤリハットや事故の事例を知ることで、介護現場での事故の予防に備えることが大切です。
ここでは、介護現場で多いとされる事故・ヒヤリハットの事例を紹介します。

転倒・転落

転倒・転落は、骨折や打撲など重大な事故につながる恐れがあります。介護現場では、転倒事故が最も多いとされており、以下のような事例があげられます。

  • 雨の日の通所で玄関の通路がぬれており、杖が滑ってバランスを崩し転倒した
  • ベッドから立ち上がる際にふらつき、支えきれずに壁に頭をぶつけた
  • 椅子から立ち上がったときに、椅子の脚に足がひっかかり転倒した
  • 夜中に自分でトイレに行こうとしてベッドから滑り落ちた
  • 寝返りを打った際に、ベッドから転落した
  • 入浴介助中に利用者さんが手すりをつかみそこねてバランスを崩した
  • 車椅子のブレーキがかかっておらず、体が落ちそうになった

このように、転倒・転落は歩行中や車椅子移乗、入浴介助などさまざまな場面で起こる可能性が高いといえます。

誤嚥・窒息

誤嚥や窒息は命に関わる可能性の高い事故・ヒヤリハットです。高齢者は、加齢とともに唾液の量が少なくなり、噛む力や飲み込む力、詰まった食べ物を吐き出す力が低下しています。そのため、以下のようなミスやサポート不足により、誤嚥や窒息を起こす可能性があります。

  • とろみが必要な方にそのまま汁物を提供した
  • 入れ歯の装着を忘れて、食事介助をした
  • ひと口の量が多く、むせてしまった
  • 利用者さんの誤嚥リスクを把握しないまま食事介助をした

介護現場では、利用者さんの状態の把握不足や目を離した際の誤嚥などに注意が必要です。

薬の飲み忘れ・誤薬

薬の飲み忘れや誤薬も介護現場で多い事故・ヒヤリハットのひとつです。服薬回数や薬の量は利用者さんによって異なるため、十分な確認や把握が必要となるでしょう。薬の誤薬や飲み忘れの事例には、以下のようなものがあります。

  • 他の利用者さんの薬を間違えて飲ませた
  • 薬を提供するのを忘れた
  • 薬が増えていることを把握しておらず、薬を提供しなかった
  • 朝と夕方の薬を間違えて服薬しそうになった

薬の誤薬や飲み忘れは、職員同士の確認不足や連携がうまくできなかったときに発生する傾向にあります。薬は、準備するとき、提供するとき、服薬するときなど、その都度確認することが大切です。通所の場合は自宅から持ってくるのを忘れる場合もあるため、家族との連携も必要となるでしょう。

利用者さんの持ち物の破損や紛失

介護現場では、利用者さんの持ち物の破損や紛失も起こりやすく、とくに眼鏡や時計、補聴器など入浴の際に取りはずすものは、以下のようなケースで紛失・破損しやすいといえます。

  • 介助の際に眼鏡を落として壊した
  • ポケットに入れていた補聴器を出すのを忘れて洗濯した
  • 入浴時に他の利用者さんの衣類と混ざった
  • 補聴器や眼鏡など、外したものをどこに置いたか忘れた

利用者さんの持ち物の破損や紛失は、利用者さんや家族との信頼関係を損なう要因となりえます。利用者さん本人が管理できない場合は、ほかの利用者さんの持ち物と混ざらないように、記名したり職員の目の届くスペースに管理場所を決めたりしておくことが大切です。

3.介護施設でのリスクマネジメントの実践方法

介護施設でのリスクマネジメントの実践方法

介護現場におけるリスクマネジメントは、事故やヒヤリハットを防ぎ、利用者さんの安全を守るために不可欠です。具体的な実践方法についてお伝えします。

介護事故のリスクの発見と把握

介護事故を防ぐためには、定期的に施設内を巡回し、利用者さんが安全に過ごせる環境なのか点検することが大切です。例えば、施設内の危険な場所を明確にし、段差の解消や照明の場所・数、滑り止めの設置などの改善策を考えます。
しかし、どれだけ対策・改善しても、思いもよらないアクシデントが起こることもあるため、すべての事故を防げるわけではありません。日常業務のなかで、どこで事故が起きそうなのか、常にアンテナを張っておくことが大切です。
また、利用者さんの身体的、認知的な状態に合わせたリスクを把握することも重要です。リスクの洗い出しをするときは、利用者さんの自由が過剰に制限されないよう、予測できるものから優先的に取り組むとよいでしょう。

事故やヒヤリハットの分析

1件の重大な事故が起きる際には、29件の軽い事故と300件のヒヤリハットが存在しているといわれています。事故やヒヤリハットの記録には、発生した時間や場所・職員や利用者さんの状況が詳しく記載されているため、分析することで、事故が発生した原因を把握でき、どのようにして防げばよいのかといった対策を考えられるでしょう。過去の事故やヒヤリハットの事例は、介護現場でのリスクを予測するうえで役立ちます。

具体的な対応策の検討

施設内の危険な場所に対応策を講じることで、事故のリスクが軽減できます。例えば、転倒事故の場合、次のような対策が考えられます。

  • 不要な道具を片付ける
  • 浴槽の中に滑り止めマットを敷く
  • 見守りセンサーといったICT技術を活用する

上記のように、物理的な環境を整えることで、事故やヒヤリハットを防ぎやすくなります。加えて、転倒のリスクのある利用者さんには歩行器の使用を促す、嚥下機能が低下している利用者さんには食事形態を変更するなど、個別の対応策も検討しましょう。

職員への周知

リスクマネジメントは、施設全体で取り組む必要があります。職員がリスクを理解し、日々の業務に反映させることが大切です。リスクマネジメントに関するミーティングや研修会を開いて情報共有したり、事故予防・対策に関する委員会を設置して、職員同士が話し合う機会を設けたりするとよいでしょう。看護師やリハビリ職などさまざまな職種の職員がそれぞれの立場から意見を出し合い、リスクに対する共通意識をもつことが理想的です。

また、施設内でマニュアルやチェックリストを作成し、職員に配布したり、施設でいつでも確認できるようにしたりするとよいでしょう。普段から同僚や上司に、リスクマネジメントについて情報共有をしやすい職場環境にすることも大切です。

4.万が一、事故が発生したときの対処法

介護施設でのリスクマネジメントの実践方法

介護現場では、どんなに予防・対策をしても、事故を防ぎきれないことがあります。万が一、事故が起きた場合には、以下のような迅速な対応が求められます。

  • 状況に応じた処置
  • 関係機関への連絡
  • 家族への連絡
  • 事故が起きた原因を調べる
  • 事故を記録する

事故後の対応が遅れると、患者さんの状態が悪化するなどの二次的な問題が発生するかもしれません。そのため、事故が発生したときは、適切に対処することがとても重要です。ここでは、事故発生時の対処法について詳しく解説します。

状況に応じた応急処置

事故が発生したときは、状況に応じた対応が必要です。まずは利用者さんの安全を確保しましょう。利用者さんの意識や呼吸の有無、出血していないかなどを確認します。看護師や医師、管理者などへ迅速に報告し、冷静に対応しましょう。

関係機関への連絡

施設内の事故の場合、まずは施設の管理者に状況を報告し、その後の対応の指示を仰ぐことが大切です。利用者さんの状態によっては救急搬送の要請が必要となります。関連機関に連絡するときは利用者さんの状態を簡潔に伝え、迅速に処置が受けられるようにしましょう。
生命に関わる事故なら救急車、死亡事故の場合は警察、感染症や食中毒は保健所へ連絡します。早急に対応することで、利用者さんの状態悪化を防げるでしょう。

家族へ連絡

事故が発生した場合、利用者さんの家族に速やかに連絡を取り、状況を報告することが大切です。連絡する前には、どのような状況で事故が発生したのか、あらかじめまとめておくとスムーズに報告できます。
家族への連絡が遅れたり説明があいまいだったりすると、利用者さんや家族から不信感を抱かれるかもしれません。家族に納得してもらえない場合は、訴訟問題につながる可能性も考えられます。トラブルにならないよう丁寧に対応しましょう。

事故が起きた原因の調査と記録

事故が発生した後は、その原因を調査することが重要です。原因を特定することで再発を防ぐことが可能となり、施設内での安全性が高められるでしょう。事故報告書には、事故発生の日時や場所・利用者さんの状況や職員の配置など、発生した原因を記録します。リスクは、次の4つの要因に分類されます。

人的要因 ●職員の不注意
●ヒューマンエラー
●疲れ
●悩み など
設備的要因 ●段差
●車椅子が整備されていない など
環境的要因 ●職員の人手不足
●情報共有がされていない など
管理的要因 ●マニュアルが作成されていない
●スタッフの教育が不十分
●役割分担が明確ではない など

これらのことに注意しながら、事故への対応策を検討しましょう。

5.介護施設のリスクマネジメントを強化するための資格

介護施設のリスクマネジメントを強化するための資格

介護施設におけるリスクを包括的に把握し、現場でリスクマネジメントができる人材を育てるために、全国老人保健施設協会は「介護老人保健施設リスクマネジャー」という資格を創設しました。資格を取るためには、養成講座を修了し、資格試験に合格する必要があります。
養成講座は第一部と第二部に分かれており、講座とグループワークを含めた30時間のカリキュラムを受講します。カリキュラムの修了後に資格試験を受け、合格した場合に資格を取得できます。介護老人保健施設リスクマネジャーの資格を取得することで、管理者に必要なリスクマネジメントの視点を学べるでしょう。

資格名 介護老人保健施設リスクマネジャー養成講座
対象者 ・介護老人保健施設の職員で管理的役職者
・介護老人保健施設に関連する法人の職員者で管理的役職者
・その他、受講希望者
受講料 ・会員価格: 38,500円(税込)
・非会員価格:49,500円(税込)
※振込手数料、資格試験費用は別途必要
資格試験の合格基準点 最高得点者の60% 最高得点者の60%


まとめ:リスクマネジメントを実践して安全な介護現場を作ろう

まとめ:リスクマネジメントを実践して安全な介護現場を作ろう

介護現場におけるリスクマネジメントは、安全安心で質の高い介護サービスを提供するために必要な取り組みです。普段から事故が起きる要素がないか点検し、万が一のときでも適切な対応ができるように、職員同士で情報共有してください。
リスクマネジメントについて深く学びたい方は「介護老人保険施設リスクマネジャー養成講座」を受講するのも方法のひとつです。幅広いリスクマネジメントの知識が得られ、施設のリスク管理の強化に役立ちます。
介護施設おけるリスクマネジメントは、質の向上と安全の確保に欠かせません。職員全体が積極的に関わり実践的な対策をすることで、利用者さんが安心できる介護サービスが提供できるでしょう。

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山本史子(Fumiko Yamamoto)

介護福祉士

デイサービスで約20年現場職員として経験。2007年に介護福祉士の資格を取得。「この施設にいると楽しい、また行きたい」と笑顔で帰ってもらえるデイサービスにしたいという思いで20年間利用者様のケアをしている。知的障害のある自閉症の息子がいるため、介護現場で働きながら、母親の立場から障がい者福祉にも関わっている。

山本史子の執筆・監修記事

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