ヘルパー(訪問介護員)ができないこと一覧|できないことを頼まれたときの対処法も解説
編集/中西紗羅(介護福祉士)ヘルパー(訪問介護員)は、介護保険法に基づき、利用者の自宅に訪問して、主に身体介助と生活支援の介護サービスを提供する仕事です。ヘルパーの業務は、ケアマネージャーが作成するケアプランによって決められています。しかし、ヘルパーになったばかりの方は、「ヘルパーができないことってどんなことだろう」「できないことをお願いされたらどうしよう」と悩むこともあるでしょう。
本記事では、ヘルパーの役割やヘルパーのできること・できないこと一覧、できないことを依頼されたときや、判断に迷うときの対処法についてそれぞれ解説します。
- 目次
- 1.「ヘルパーができないこと」とは
- 利用者本人が自力でできること
- ケアプランに記載されていないこと
- 利用者本人以外をサポートすること
- 日常生活に関係のないこと
- 市区町村によって決まりは異なる
- 2.ヘルパーができること・できないこと一覧
- 身体介護
- 生活援助
- 医療行為
- 3.できないことを依頼されたときの対処法
- 「できない理由」を明確に説明する
- 代替案を提案する
- 家族・同居人に対応してもらう
- 介護保険適応外のサービスを利用する
- 訪問看護を利用する
- ボランティア団体に依頼する
- 4.判断に迷ったときの対処法
- 職場の上長・ケアマネージャーに相談する
- やむを得ずに、一時的な対応が求められることもある
- まとめ
1.「ヘルパーができないこと」とは

ヘルパーは、介護保険法に基づいて作成されたケアプランに沿って介助を行います。つまり、ヘルパーはケアプランに該当しない下記のような事柄は、原則、行えません。
利用者本人が自力でできること
介護サービスは、「利用者が自力ではできないこと」をサポートします。したがって、本人が自力でできることは、ヘルパーは対応しません。また、本人ができないことでも、同居人が対処できる場合にも、介護サービスは提供できません。
そのため、「掃除が苦手・嫌い」という理由で掃除をすることはありません。
ケアプランに記載されていないこと
ケアプランは、利用者1人ひとりの介護状態やニーズに合わせて作成されます。ヘルパーは、ケアプランの内容に基づいて介護サービスを提供するため、原則、ケアプランに記載されていない内容については提供できません。
利用者本人以外をサポートすること
家族と同居している利用者でも介護サービスは利用できますが、介護サービスはあくまでも利用者に提供するものです。そのため、家族を含め、本人以外の人物への介護や家事のサポートは行えません。もちろん、来客対応もヘルパー業務の範囲外です。
日常生活に関係のないこと
基本的に、要介護者が生活するうえで直接関係のないことは行えません。
酒やタバコなどの嗜好品の買い物、庭の手入れ・草むしり、ペットの世話など、日常生活を送るうえで「必須ではないもの」に対しては、ヘルパーの支援介入はできません。引っ越しの手伝い、大きな荷物や家具の移動、大掛かりな掃除なども、日常的な生活の支援を超える範囲であり、対応不可です。
市区町村によって決まりは異なる
介護サービスの実施主体は市区町村であり、各市区町村によってサービスの細かなルールが異なることがあります。自分たちが、利用者に対してどの範囲までの対応ができるかについては、担当のケアマネージャーや、管轄の市区町村窓口に確認しておくと安心です。
2.ヘルパーができること・できないこと一覧

ヘルパーが対応できることとできないことについて、身体介護・生活援助・医療行為の3つの項目に分けて紹介します。
身体介護
身体介護とは、日常生活を送るうえで必要な動作、行動などが難しい利用者に対して、ヘルパーが直接、食事・入浴・排泄などの介助を提供することです。
身体介護でヘルパーができること
| 内容 | ヘルパーができること |
|---|---|
| 食事 | 準備配膳・食事の見守りや介助後の片付け |
| 入浴 | 入浴介助(部分浴・全身浴・清拭) |
| 排泄 | トイレ移動・トイレ誘導・見守り・失禁時の介助・おむつ交換 |
| 体位交換 | 体位変換(褥瘡(床ずれ)の防止) |
| 移動・移乗 | 移動介助・車椅子への移乗・外出時の介助 |
| 身体整容・更衣 | 洗顔・整髪・口腔ケア・爪切り・ひげ剃り・着替えの介助 |
| 起床・就寝 | 起床、就寝の介助(着替え・排泄・整容の介助など) |
| 服薬 | 服薬・飲み忘れの確認 |
身体介護でヘルパーができないこと
| 内容 | ヘルパーができないこと |
|---|---|
| 身体整容 | 散髪 |
| マッサージ | 筋肉の緊張や痛みを和らげるマッサージ |
生活援助
生活援助とは、利用者が日常生活を送るために必要な調理・掃除・洗濯などの支援を行うことをいいます。全てを支援するのではなく、基本的には利用者本人が自力でできる範囲は、本人に対応してもらい、自立支援を促します。
ただし、同居人の居室の掃除、家族全員分の食事の調理など、本人以外が関与する範囲のことは、ヘルパーの業務ではありません。また、私用への同行、嗜好品の購入などの日常生活に関係のない範囲のことも、ヘルパーは行えません。
生活援助でヘルパーができること
| 内容 | ヘルパーができること |
|---|---|
| 掃除 | 利用者がメインで使う部屋に関する掃除 トイレ・浴室・洗面所・テーブルの上の掃除 ゴミ出し |
| 洗濯 | 洗濯(洗濯機・手洗い)・洗濯物干し・取り入れ・収納・アイロンかけ |
| 調理 | 一般的な調理・配膳・後片付け |
| ベッドメイク | 布団干し・シーツ交換 |
| 衣類の整理補修 | 衣類の整理・衣替え・ボタンやほつれなどの補修 |
| 買い物 | 近隣店舗での買い物(食材、衣類、生活家電などの生活必需品) 「買い物代金」の支払い代行 |
| 外出・通院 | 乗車、降車時の歩行・車椅子での移動や移乗介助・の介助、付き添い 医療機関への通院時の同行・薬局での薬剤受け取り 公共サービスの申請・選挙・納税・免許更新などの同行 金融機関への同行(生活資金を降金するため) |
| その他 | 居室環境の確認(換気・室温調整・日当たりの調整など) |
生活援助でヘルパーができないこと
| 内容 | ヘルパーができないこと |
|---|---|
| 掃除 | 利用者が使う部屋以外の掃除 花の水やり・草むしりなど庭の手入れ 仏壇の掃除 浴室・トイレなどの掃除(同居家族がいる場合) 窓・ベランダ・換気扇などの掃除や大掃除 洗車 ペットの世話や散歩 引っ越しの準備 |
| 洗濯 | 利用者以外の衣類の洗濯や洗濯物干しなど |
| 調理 | 利用者以外の食事の用意 おせちや誕生日ケーキなど、イベント用の特別な食事の用意 |
| ベッドメイク | 利用者以外が使う寝具のベッドメイク |
| 衣類の整理補修 | 利用者以外が使う衣類の整理・補修 裾上げ、仕立て直しなどの大幅な衣類補修 |
| 買い物 | 趣味・嗜好品などの購入 お歳暮・来客用の品などの購入 生活圏外にある店舗への外出・購入 |
| 外出・通院 | 自家用車(本人やヘルパーのもの)での外出 趣味や習い事・地域の集まり・理容室・墓参り・法事・などへの同行 リハビリ目的以外の散歩への同行 医療機関の診察待ち中の付き添い 医療機関の転院の付き添い |
| その他 | 留守番・ヘルパーが単なる話し相手として居座る 部屋の模様替え・家具家電の移動 来客対応・お茶出し 仕事の手伝い(自営業の利用者) 家屋の修理・ペンキ塗り 自家用車への給油 年賀状・手紙の代筆 など |
医療行為
医療行為は原則、医師や看護師などの医療従事者のみが行えます。したがって、介護の専門職であるヘルパーでは、医療行為は対応できません。
しかし、「医療行為とみなされない」「専門的な判断や管理が必要ない」ことについては、ヘルパーでも支援できます。どの行為であればヘルパーが行えるのかを、しっかりと理解しておきましょう。
医療行為に該当しないこと(ヘルパーができること)
| 内容 | ヘルパーができること |
|---|---|
| 口腔ケア | 歯ブラシを使った口腔ケア(重度の歯周病がない場合) |
| 爪切り | 爪切り・爪やすり(爪周囲に異常がない場合) |
| 耳掃除 | 耳垢の除去 |
| 測定 | 体温測定・血圧測定・パルスオキシメーターの装着 |
| 薬・服薬 | 内服の介助(一包化されたもの) 湿布・軟膏の塗布 点眼薬の点眼 坐薬の挿入 鼻腔粘膜への薬剤噴霧 |
| 処置 | 傷の処置(軽度な切り傷、擦り傷、やけどなど) ガーゼ交換 ストーマパウチに溜まった排泄物の処理 カテーテルの準備、姿勢保持などの自己導尿の補助 インスリン注射や血糖値測定の声かけ・見守り・確認 浣腸(市販のグリセリン浣腸) |
医療行為に該当すること(ヘルパーができないこと)
| 内容 | ヘルパーができないこと |
|---|---|
| 口腔ケア | 歯周病が重度な場合の歯ブラシによる歯磨き・口腔ケア |
| 爪切り | 爪や爪周囲の皮膚に異常がある(炎症・化膿など) 利用者に糖尿病がある場合の爪切り |
| 耳掃除 | 耳垢が詰まっている(耳を塞いでいる)場合の耳掃除 |
| 測定 | 血糖値測定・水銀血圧計での血圧測定 |
| 薬・服薬 | 服薬管理 |
| 処置 | 褥瘡や、専門的な判断が必要な傷の処置 ストーマパウチの取り替え インスリン注射 導尿・摘便 人工呼吸器の管理 喀痰吸引※ 経管栄養・中心静脈栄養※ |
※喀痰吸引や経管栄養は医療行為に該当するため、基本的にはヘルパーでは対応不可となっています。しかし、必要な研修を受けている場合には、一定の条件のもと、ヘルパーでも対応可能なケースがあります。
3.できないことを依頼されたときの対処法

ヘルパー業務をしていると、利用者から「ヘルパーが対応不可なこと」を依頼されるケースがあります。そのようなときに、ヘルパーはどのような対処をすればいいのでしょうか。対処法の具体例を紹介します。
「できない理由」を明確に説明する
まずは、利用者に対して、ヘルパーができない理由を明確に説明します。例えば、「利用者以外の人に向けては、ヘルパーはお手伝いができない」「医師ではないので、病気の診断はできない」などのように伝えます。
ただ単に断るのではなく、理由を明確に説明することで相手の理解を促進しましょう。利用者とのトラブル回避を心がけることも、関係性の構築には大切なポイントです。
代替案を提案する
ヘルパーは家事手伝いではないため、利用者からの依頼を"何でも"引き受けることはしません。しかし、ただ断るだけだと、利用者の困りごとは解決しないこともまた事実です。
そのため、可能な範囲で代替案を提案するといいでしょう。代替案があれば、利用者の不安も和らぎ、困りごとを解決するための1つの糸口となるかもしれません。
「家族分の食事は調理できないが、配食サービスを利用するという方法がある」「T字カミソリは使用できないが、電動カミソリであればお手伝いできる」など、理由と代替案をセットで説明できると、利用者の理解を促せます。
家族・同居人に対応してもらう
介護サービスの根源には、要介護者本人ができないことは家族がサポートし、それでもサポートしきれない部分をヘルパーが対応するという考えがあります。したがって、利用者に家族や同居人がいる場合には、その人たちにサポートをしてもらうことが望ましいといえるでしょう。
例えば、庭の手入れや、ペットの世話など、ヘルパーが対応できないことを、家族・同居人にお願いします。その際には、家族・同居人に対しても、ヘルパーができない理由を明確に説明する必要があります。
あるいは、利用者とのヘルパーサービスの契約時に、家族・同居人にも立ち会ってもらい、ヘルパーの業務範囲を説明することも、ヘルパーの役割を理解してもらう1つの方法です。
加えて、ケアプランの作成時には、家族・同居人の状況も考慮し、家族の負担を軽減しつつ、要介護者の自立支援を行えるように調整することが大切です。
介護保険適応外のサービスを利用する
これまで記述した内容は、あくまでの「介護保険サービス」におけるヘルパーの役割です。つまり、介護保険適応外のサービス(いわゆる「自費」でのサービス)であれば、その範囲を広げることが可能といえます。
例えば、「利用者の食事を調理した後に、庭の手入れをする」のような支援は、自費サービスであれば対応ができるでしょう。ただし、介護保険サービスと、適応外サービスを同時に提供することはできません。
トラブル防止のためにも、どの範囲までは保険適応内で、どこからが適応外かを説明するとともに、適応外サービスの料金(自費)も合わせて説明することが求められます。
訪問看護を利用する
医療ケアを希望する場合には、訪問看護を利用する方法があります。訪問看護とは、医師の指示を受けた看護師が、利用者の自宅に訪問して医療ケアを提供する、医療保険制度に基づいたサービスです。
利用者は、必要性に応じて、訪問介護・訪問看護の両サービスを受けられます。例えば、毎週月・水曜日には訪問介護を、毎週金曜日には訪問看護を利用する、というスケジュールを組むことも可能です。
その際には、訪問介護と訪問看護の担当者同士で、利用者の情報共有・連絡・連携することが、利用者に対する適切なサービス提供を実現するために求められます。
なお、訪問看護を利用する場合は、ケアプランにその旨を記載する必要があります。医療行為が必要となる場合は、まずは担当のケアマネージャーに相談しましょう。
ボランティア団体に依頼する
社会福祉協議会などの団体が、有償ボランティアを提供していることがあります。ヘルパーでは対応できない範囲(話し相手になる、墓参りの同行など)を依頼できるケースもあるため、利用者のニーズに合わせて活用できるといえます。
その他にも、高齢者の就労支援や社会参加促進を目的としている「シルバー人材センター」に仕事を依頼するのも1つの方法です。シルバー人材センターでは、除草・草刈り、清掃(屋内外)、自動車の運転、留守番などが対応可能です。
4.判断に迷ったときの対処法

利用者から「どうしても◯◯をやってほしい」と懇願されることもあるでしょう。ヘルパーが現場で判断に迷ったときの対処法を解説します。
職場の上長・ケアマネージャーに相談する
ヘルパー自身が判断に迷ったら、まずは職場の上長や、ケアプランを作成するケアマネージャーへ相談しましょう。トラブル防止のためにも、現場の状況や利用者の訴えなどを伝えたうえで、指示を仰ぐことが望ましい行動です。
緊急性がない事案の場合には、利用者の訴求内容を一旦持ち帰り、事業所内で対応を検討する方法も取れます。
やむを得ずに、一時的な対応が求められることもある
例えば、「花瓶が倒れた・飲料水をこぼした」という事情で、利用者の居室以外(廊下、玄関など)が濡れてしまったとします。本来であれば、利用者の居室以外の清掃はヘルパーの対応範囲外ですが、濡れた床を処理しないと、利用者の転倒や怪我につながる恐れがあります。
このように、日常生活を送るうえで危険性が懸念される場合には、一時的にヘルパーが対処しなければならないケースが少なからず存在することは、認識しておきましょう。
ただしこれらは、あくまでも一時的な対処です。問題の根本的な部分は、利用者や関係者らと改めて相談、検討しながら、ケアプランや支援の再考をすることが望ましいといえます。
5.まとめ

介護保険法に基づいて介護サービスを提供するヘルパーには、できることと、できないことがあります。それらは、ヘルパー自身が理解しておかないと、利用者とのトラブルや、重大な違反行為(誤って医療行為を行ってしまった)につながる恐れも考えられます。
適切な介護サービスを提供できるよう、今回の内容を参考に、ヘルパー自身の役割をしっかりと理解しておきましょう。
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