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仕事・スキル 介護士の常識 2024/12/06

#認知症ケアの現場から

介護拒否がある認知症の利用者さんへの対応のコツ10選|認知症ケアの現場から(24)

文・写真/安藤祐介 care24_2.jpg

認知症の利用者さんは、時に介護拒否をすることがあります。特に、入浴や排泄といった長年自立して行ってきたことや、人に見られるのが恥ずかしいことへの介入は拒否が強くなる傾向にあります。

その際、介護の必要性を説明して、理解できる方であれば対応しやすいのですが、認知症がある方は言葉の理解力が低下していたり、今の自分を若い頃のままだと認識していたりします。そのため、対応に難しさを感じてしまうことも珍しくないでしょう。

そこで本記事では、筆者が認知症の利用者さんと関わるなかで学んできた、「介護拒否がやわらぐ対応のコツ10選」をお伝えします。どれだけ長い経験があっても、都度適切な対応を見つけるのは難しいものです。記事の内容を参考にさまざまな対応を実践し、利用者さんにとってのより良い声のかけ方・関わり方を見つけていただければ幸いです。

1.コツ①:声をかける時間を変える

介護拒否の理由はさまざまですが、実感として特に多いと感じるのは、「今は何となく気が進まない」というその時の気分や調子による拒否です。

認知症の利用者さんと関わったことがある介護職員であれば、「今日は調子が悪いから」「お風呂はさっき入ったから」「家に帰ってから」などの理由で、その場を取り繕うように拒否された経験があるのではないでしょうか。また、理由がたびたび変わって、困惑したことがある方も多いでしょう。それは認知症の利用者さんが、その瞬間に自分が感じている感覚や思考に素直に生きているからだと私は考えています。

そうした拒否に対して、介護職員がすぐできる簡単な対応の1つが、声をかける時間を変えることです。例えば、午前9時にお風呂の声かけをして拒否されたら、次は11時に声をかける。それでもだめなら午後に声をかけて、まただめだったら翌日に声をかけてみる......。そんな具合に、声かけのタイミングをずらしていけば、どこかでご本人が「今なら入ってもいいかな」と思える瞬間に出会えるかもしれません。もし出会えたら、そこで入ってもらいましょう。

ただし、それ以外の時は無理なお誘いをしないことが大事です。そうやって柔軟に対応するうちに、拒否がやわらぐ場合があります。

<拒否が緩和する対応例>
△声をかける時間がいつも決まっている
〇声をかける時間を柔軟に調整している

2.コツ②:声をかける職員を代える

介護拒否の程度には、利用者さんと職員との関係性が影響しています。私たちも、仲の良い友だちから「遊びに行こう」と誘われた時と、あまり仲良くない友だちから「遊びに行こう」と誘われた時では、前者のほうが行きたい気持ちが強くなりますよね。それと同じで認知症の利用者さんも、親しい関係が築けており、日々自分を気遣ってくれる顔なじみの職員から声をかけられたほうが、拒否はやわらぎます。

利用者さんと職員との関係はあくまで人間関係の1つなので、相性の良し悪しがあります。対応を工夫してもなかなか信頼関係が築けない場合、職員の力量不足ではなく、相性が良くなかっただけというケースもあるのです。ですから、介護拒否があった時はこれまでの関わり方に課題がないかを見直し、どうしても難しい場合は、相性が良さそうな職員に一緒に声をかけてもらうのも手です。

認知症の利用者さんとの信頼関係を深める方法に興味がある方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。

●関連記事:認知症の利用者さんとの信頼関係が深まる声かけのコツ10選

<拒否が緩和する対応例>
△拒否された職員が何度も声をかける
〇他の職員に代わりに声をかけてもらう

3.コツ③:親しい利用者さんに声をかけてもらう

「認知症の利用者さんをお風呂に誘うのは、職員の役割」と考える必要はありません。場合によっては、他の利用者さんに依頼して声をかけてもらうのも、拒否をやわらげる良い方法です。介護拒否には、お互いの関係性が影響しているケースがあるからです。

例えば、職員があの手この手で声をかけても、入浴を拒否する利用者さんがいたとします。困った職員は、いつも一緒に過ごしているなじみの利用者さんに代わりにお風呂に誘ってもらうことに。すると、「あんたと一緒ならいいよ」とすんなりお風呂にきてくれました。

こうした事例は、関係性が影響した典型例です。利用者さんと職員はどうしても介助をする側とされる側になりがちですが、利用者さん同士は友だちだったり、同じ場所で過ごす仲間だったりします。つまり、職員では築きにくい関係性を築いている場合があるのです。そうした関係性を介護に活用するためにも、日頃から利用者さん同士の人間関係を気にかけたり、利用者さんにちょっとしたお願いごとをしたりして、多くの方と好ましい関係を築けるように努めましょう。

<拒否が緩和する対応例>
△職員だけが声をかける
〇親しい利用者さんに協力してもらう

4.コツ④:動きがある時に声をかける

お風呂やトイレの声かけをする時は、認知症の利用者さんが自ら動く意思を示しているタイミングに合わせるのが、拒否を減らすコツです。

例えば、利用者さんが居室から食事の席まで移動している最中に、「ごはんの前にトイレに寄って行きませんか?」と声をかければ、その流れでトイレまできてもらえるケースがあります。なぜかと言うと、動き出すのが最も難しいのが「何の動きもない時」だからです。私たちもソファーにゆったりと座っていたり、ベッドで横になっていたりする時に動き出すのは、とても億劫ですよね。しかし、いざ動き出しさえしてしまえば、その流れでさまざまな用事が済ませられるのではないでしょうか。

認知症がある利用者さんも、動いていない時に声をかけられると、気持ちが乗らず拒否をすることがあります。そんな時は、利用者さんの動向を見守りながら、ご本人が何かしらの用事で動き出したタイミングであらためて声をかけてみてください。

<拒否が緩和する対応例>
△椅子に座っている時に声をかける

動きがある時に声をかける

〇動きがある時に声をかける

小さな刺激で覚醒を促す

5.コツ⑤:「お風呂」という言葉をさける

介護拒否のなかでよく見られるのは入浴拒否ですが、利用者さんにとっては無理もないことだと思います。入浴は浴室への移動から始まり、服を脱ぐ、髪や体を洗う、石けんを洗い流す、浴槽に入る、浴槽内で座位を保つ、浴槽から出る、タオルで体を拭く、服を着る、髪を乾かすなど、とても多くの工程を必要とします。また、身体的な負担だけでなく、職員に素肌を見せながら必要な援助を受けるというストレスもあります。

だからこそ、利用者さんは「お風呂」という言葉に敏感に反応したり、顔を曇らせたりして入浴を拒否するのかもしれません。そうした点を解消するのは容易ではありませんが、現場ですぐできる対応に、「お風呂」という言葉を避けながらお風呂に誘うという方法があります。

例えば「ご家族が着替えを持ってきてくれたんですが、見にきてもらえますか?」「看護師さんがお薬をつけてくれるので、こちらにきてもらえますか?」など、お風呂とは言わずに声をかけることで、最初の動き出しがスムーズになり、その後の入浴につながりやすくなる場合があります。

<拒否が緩和する対応例>
△「体操があるので行きましょう」:体操という言葉を使う
〇「私と一緒にきてもらえますか」:体操という言葉をさける

6.コツ⑥:心が動くキーワードを見つける

お風呂やトイレの声かけをする時は、利用者さんごとに反応が良い言葉が違います。例えば、Aさんの場合は「お風呂に行きましょう」という声かけよりも、「みんなも入っているので、お風呂に行きましょう」という声かけのほうが、お風呂にきてくれる確率が高まります。なぜだと思いますか? 

それは、Aさんにとっての「みんな」が心を動かすキーワードだからです。「みんなも入っているなら私も入ろうかな」「みんな入ったのに私だけ入らないわけにはいかない」。そんなふうに、周囲との関係性や集団生活における社会性を大切にしているAさんにとって、「みんな」と言う言葉は行動の指針でもあるのです。

しかし、1人でのんびり入りたいBさんや、特別扱いをしてほしいCさんがいた場合、この声かけは逆効果になります。1人で入りたい人なら「今は誰もいないので、ゆっくりとお湯につかれますよ」といった声かけが有効で、特別が良い人なら「〇〇さんのために一番風呂を用意しました。いい香りの柚子の入浴剤もありますよ」といった声かけが良いでしょう。

このように、関わりのなかで相手の心が動きやすい言葉が見つけられると、拒否の緩和につながります。

<拒否が緩和する対応例>
△「トイレにきてください」:キーワードがない
〇「先生が出してくれたお薬を塗りたいのでトイレにきてください」:先生・薬といったキーワードを交えて声をかける

7.コツ⑦:行くことを前提に声かけをする

声かけのパターンにはいくつかありますが、認知症の利用者さんの場合は「質問のなかに答えを入れておく」というやり方が、拒否の緩和に役立つことがあります。

例えば、「今日お風呂はどうしますか?」という声かけをすると、利用者さんのなかには「入る」「入らない」という選択肢が生まれます。自分で選択できるのは良いことですが、毎回「入らない」を選択されると困ってしまいますよね。では、「今日のお風呂は午前にしますか? 午後にしますか?」という声かけに変えたらどうでしょう。利用者さんのなかでは「午前に入る」「午後に入る」という選択肢が生まれますが、どちらを選んでもお風呂に入ることになります。

これを活用した例として「ごはんの前にトイレに行っておきますか? 後にしますか?」「体操は1時頃にしますか? おやつを食べた3時過ぎがいいですか?」などが挙げられます。利用者さんの意思を大切にしつつ、業務も滞りなく進むように声かけを工夫してみてください。

<拒否が緩和する対応例>
△「トイレに行きましょうか?」:ご本人の意思にゆだねる
〇「トイレは今行きますか?もう少し後にしますか?」:行くことを前提に選択肢を提示する

8.コツ⑧:用件を伝える前に相手を気遣う

認知症ケアの現場では、「そろそろトイレに行きましょう」「お風呂の時間ですよ」といった具合に、職員から利用者さんに用件だけを伝える場面があります。職員からすれば、1日の介護業務に沿って声かけをしているわけですが、唐突に「トイレに行きましょう」と言われたら、利用者さんが困惑してしまうかもしれません。場合によっては、その唐突感が介護拒否につながることもあります。

特に認知症の利用者さんは、自分が置かれている状況や物事の前後関係を理解するのが難しく、唐突に用件だけを言われても受け入れにくい傾向にあります。そうした時は、用件を伝える前に気遣いの言葉を入れてみてください。例えば、「〇〇さんこんにちは、調子はどうですか?」「昨日はよく眠れましたか」「今日もお元気そうですね」など、相手を気遣う声かけをすれば、利用者さんは職員を「この人は私を気にかけてくれている」「悪い人じゃないみたい」と認識できるはずです。そして、その後に本来の用件を伝えれば、より前向きな反応が得られるでしょう。

<拒否が緩和する対応例>
△唐突に用件を伝える
〇相手を気遣ってから用件を伝える

9.コツ⑨:お風呂に入りたくない気持ちを肯定する

介護拒否があると、職員は利用者さんの生活を守る使命感から、お風呂やトイレにきてもらえるように説得を試みたり、やや強引に介護を行ったりしがちです。しかし、場合によっては、相手が拒否したい気持ちをそのまま受け止めることも大切です。なぜなら、それが結果的に利用者さんとの信頼関係を深めたり、介護拒否の軽減につながったりするからです。

例えば、お風呂に強い拒否がある利用者さんを職員主導で車椅子に乗せ、服を脱がせて、お風呂に入ってもらったとします。職員からすれば、何とかお風呂に入ってもらえて良かったと思うかもしれませんが、利用者さんからすれば「本当は入りたくなかったのに無理に入れられた」と思い、職員への不信感が強まることもあります。

入浴拒否があった時は、「今日は入りたくないですよね。体が大変ですものね」「お風呂は嫌ですよね。お家でゆっくり入りたいですよね」と相手が拒否したい気持ちに理解を示し、肯定してみてください。それによって利用者さんに「この人は良い人だ」「私のことをわかってくれている」と感じてもらえれば、お互いの関係性はぐんと深まるでしょう。

信頼関係が深まれば、その日は入ってもらえなかったとしても、長い目で見て介護拒否の軽減につながるケースは多いものです。

<拒否が緩和する対応例>
△お風呂に無理に誘導する
〇お風呂に入りたくない気持ちを肯定する

10.コツ⑩:体と心と環境を気にかける

認知症の利用者さんの発言や行動には、体や心の状態や周囲の環境が影響しています。例えば、自分の職場に強い介護拒否がある利用者さんがいたとしましょう。その方は、声かけや関わり方を工夫してもまったく変化が見られません。それどころか、日を追うごとに拒否が強くなり、職員に対する暴言・暴力も増えていきます。しかし、後になってこの利用者さんは心臓の病が進行しており、体の不調が原因で認知症状が悪化していることがわかりました。

自分の心身の状態がわかっていて、「痛い」「切ない」「苦しい」といったことを伝えられる方であれば、周囲も異変に気づきやすかったはずです。しかし、認知症があると、自分の状態を明確な言葉にするのが難しくなります。そうしたなか、ご本人は確かに不調を感じており、その影響で不機嫌になったり、歩きまわることが増えたり、夜寝なくなったりしていたのです。

上記はあくまで例え話ですが、みなさんの前にいる利用者さんの介護拒否も、心身の状態が「別の形で表現された結果」かもしれません。いろいろな工夫をしても、変化が見られない場合は、体と心の状態にもしっかり気を配ってください。

なお、認知症の利用者さんの発言・行動には、不安、いら立ち、孤独感といった心の状態や、周囲との人間関係、音、光、室温といった環境上のストレスも作用しています。介護拒否がなかなか緩和されない時は、バイタルや既往歴の確認、入浴時に行う全身のボディチェック、水分量や尿便の状態把握などとともに、その方の心情やストレス量にまで気を配り、声かけや関わり方の工夫だけにとどまらない広い視野で対応しましょう。

逆に言えば、「体が健康であること」「心が安定していること」「穏やかな環境で暮らせること」の3つを目指していけば、おのずと介護拒否も緩和に向かっていくと私は考えています。

<拒否が緩和する対応例>
△拒否がある方に対して声かけや関わり方だけを工夫する
〇体や心や環境など広い視点から拒否の原因を考える

まとめ

今回は、「介護拒否がやわらぐ対応のコツ10選」をお伝えしました。認知症の利用者さんに何度も拒否をされると、落ち込んだりつらい気持ちになったりする方もいるかもしれません。しかし、それは利用者さんの心身の健康を思いやる優しさや、託されている役割・使命を果たそうとする責任感があるからこそのつらさだと思います。そして、相手への気遣いや仕事に向き合う姿勢は、例え認知症がある方であっても確実に伝わっていくと思います。

利用者さんが、提供する介護を快く受け止めてくださる日はきっときます。今回の記事がそのための一助となれば幸いです。

●関連記事:認知症の利用者さんとの信頼関係が深まる接し方のポイント10選

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

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