軽音楽を取り入れたデイサービスで働くスタッフとは?三味線の名取を持つ看護師も働く「ミュージックケア KEION」|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー埼玉県川越市に位置する「ミュージックケア KEION」は、その名の通り、軽音楽を取り入れたデイサービスです。利用者さんは来所後、三味線やギターの生演奏にあわせたラジオ体操や、各種楽器の演奏など、音楽をふんだんに活用したプログラムに取り組みます。デイサービスを立ち上げた経緯や、スタッフの傾向などについて、株式会社OPENUP代表の上野拓氏に話を聞いてみました。
1.軽音楽を取り入れたデイサービスを設立しようと思ったきっかけ
ーー軽音楽を取り入れたデイサービスを設立しようと思ったきっかけを教えてください。
前職で働いていた際に、「人として生きるうえでの幸せとは何か」を、深く考えるようになったことが大きなきっかけです。私はもともと警察官として40年近く埼玉県警に勤務し、主に鑑識の仕事に携わってきました。仕事柄、さまざまな事情でお亡くなりになった方と接するなかで、次第に「幸せな生き方とは何だろう」と考えるようになったのです。そして、自分なりに考えを深めていくうちに、「何かに熱中できることこそが、人生の幸せなのではないか」という答えに辿り着きます。しかし、同時に、自分自身の今後についても考えるようになりました。その頃は、ちょうど定年後の人生を見据えていた時期でもあり、「仕事がなくなったあと、自分は何に熱中して、どんな風に日々を過ごせば良いのだろう」と将来への不安が頭をよぎったのです。そこで、幼い頃から好きだった音楽を軸にした暮らしができないかと考えましたが、プロとして活動できるほどの技術はありません。また、ライブハウスの経営も考えたものの、知人から「経営は難しい」との話を聞き断念します。
そんな時にふと思い出したのが、ある高齢男性との会話でした。ある日、110番通報を受けて現場に駆けつけると、高齢の男性とそのご家族が、デイサービスに行く・行かないを巡って、激しく揉めていたのです。事情徴収のために男性の部屋に入ると、ホコリをかぶったギターが目に留まりました。私もギターが趣味だったことから、「音楽がお好きなんですか?」と尋ねると、「若い頃はギターをやっていたけれど、今はもう弾けないんだ......」と、その男性はぽつりと呟いたのです。この時の出来事がずっと心に残っていて、「それならば、介護保険を使って通える、ライブハウスのようなデイサービスを作れないだろうか」と考えるようになります。それから本気で事業計画を立て始め、定年の1年前に退職。施設の運営を本格的にスタートさせました。
2.介護業界未経験でのデイサービスの開設・運営にあたり、難しかったこと
ーー介護業界未経験でのデイサービスの開設・運営にあたり、難しかったことはありますか。
ゼロから施設を立ち上げるにあたっては、特に金銭面での苦労が大きかったと感じています。当施設の建物は、もともとレストランとして使用されていたもので、2020年の年末に契約を結びました。そして、翌2021年1月から改修工事を始め、4月のオープンを目指していたのですが、工事は予定より大幅に遅れ、完成したのは7月になってからでした。当然ですが、オープン前にお金が入ってくることはありません。それに加え、開業許可を得るためには従業員を雇用している必要があり、全く収入がない状態にもかかわらず、半年以上にわたって家賃と給料を支払い続けることになったのです。
その後やっと開業にこぎつけましたが、今度は新型コロナウイルスが流行。なかなか利用者さんが集まらず、銀行口座の残高が数千円になってしまったこともありました。思わず送迎の車内で「もうやっていけないかもしれない」とつぶやいたところ、利用者の皆さんが口をそろえて「大丈夫。この施設ほど楽しいところは他にないんだから、大丈夫だよ」と励ましてくれたのです。その「大丈夫」には根拠はありませんでしたが、不思議と心に響き、肩の力が少し抜けたような気がしました。その後も経営は決して安定していた訳ではありませんが、口コミや紹介を通じて少しずつ利用者さんが増えていき、なんとか現在まで施設の運営を続けることができています。ここまでやってこられたのは、支えてくれた利用者の皆さんや、スタッフのおかげだと心から感じています。
完成したKEIONと代表の上野さん
3.施設で働いているスタッフの特徴
ーー現在施設で働いているスタッフは、どのような人が多いのでしょうか。やはり、楽器を演奏できる人が中心となっているのですか。
楽器の演奏の有無に関係なく、音楽好きな人たちが集まっています。たとえば、当施設の看護師は三味線の名取を持つほどの腕前の持ち主です。まだ施設が工事中だった頃に、「ここは、自分が目指す介護のスタイルとぴったりあっているから」と訪ねてきて、オープン当初から働いてくれています。生活相談員も音楽好きで、過去に歌のオーディションを受けたこともあるそうです。デイサービスでの勤務歴が20年近くあり、その豊富な経験を活かして活躍してくれています。そのほかにも、音楽療法の専門学校を卒業した介護士も在籍。気づけば、介護業界未経験で働いているのは私だけかもしれません。最近ではありがたいことに、介護と音楽の両方を学んだ方から「ぜひこの施設で働きたい」とお電話をいただくことがあります。やはり、介護と音楽の両方の知識や経験を活かせる場は、利用者さんだけでなく、働く人たちにとっても求められているのではないでしょうか。
4.スタッフにとって働きやすい環境の維持のために、意識していること
ーースタッフにとって働きやすい環境の維持のために、意識していることがあればお聞かせください。
先ほども触れたように、私は介護について、ほとんど知識も経験もない状態でこの施設を立ち上げました。妻が訪問看護の仕事をしていたので多少の理解はありましたが、自分自身が現場で働いた経験はありません。だからこそ、現場を支えてくれているスタッフには、深い敬意と信頼の気持ちを持って接することを大切にしています。当施設で働いているのは、いずれも実務経験が10年以上の経験者ばかり。そのうえ、介護と音楽の両方に精通しているメンバーが揃っています。どのスタッフも頼もしく、「自分がやっていることが、誰かの人生を明るくする」という自覚と誇りを持って取り組んでくれていると感じています。イベントの企画や日々の活動も、どうすればもっと楽しめるかを考えて動いてくれていていますね。
だからこそ、現場で起きたことに対して一方的に口を出すのではなく、スタッフ一人ひとりの経験や判断を尊重し、共に学ぶ姿勢を何より重視しています。また、施設の運営を続けるうちに、知人から音楽イベントの開催について声をかけられることも増えてきました。そうした機会には、スタッフが地域のイベントなどで活躍できるよう、積極的に紹介するようにしています。
5.今後の展望
ーー今後の展望をお聞かせください。
この「KEION」をどんどん広げていきたいと考えています。以前、福島県にあるデイサービスのオーナーと知り合い、私と看護師の2人で演奏に伺ったことがありました。すると、感激して涙を流してくださる方もいたほど、皆さんとても喜んでくださったのです。この経験を通じて、「こうした形のデイサービスを必要としている方は、全国に数多くいらっしゃるのではないか」と確信するようになりました。現在も、プロのミュージシャンやスタッフによる演奏を取り入れている施設はありますが、私たちは、能動的かつ継続的な音楽との関わりにこそ、より大きな効果があると感じています。
これから団塊の世代が本格的に介護サービスを利用するうえで、特化型の施設はますます求められると考えられます。例えば、染め物やDIYに取り組める施設を作り、利用者さんの手で作られた品を販売すれば、楽しみと収益を両立させることも可能なのではないでしょうか。当施設でも、YouTubeチャンネルでの発信に注力することで、知名度の向上や収益化に取り組んでいます。これからも、本当に必要とされるサービスを提供していけるように、試行錯誤を重ねながら運営を続けていく予定です。
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