高齢者が主役の「組合型食堂」とは? シニアが活躍する新しい事業「ジーバーFOOD」に注目|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
高齢化が進むなか、「年を重ねても社会と関わり、働き続けたい」と考える人は少なくありません。一方で、雇用条件などの制約から、シニアが活躍できる場はまだ十分とはいえないのが現状です。こうした課題に対し、株式会社ジーバーでは、シニアが主体となって食堂の運営などを行う事業「ジーバーFOOD」を展開。シニア世代が活躍できる仕組みを全国に広げています。事業の概要や、シニアスタッフと運営を続けるうえでの工夫について、株式会社ジーバー取締役の山崎莉沙氏に話を聞いてみました。
ーー「ジーバーFOOD」とは、どのような事業なのでしょうか。
ジーバーFOODは、2022年11月にスタートした事業です。ジーバーFOODという名称は、「じいちゃん、ばあちゃん」と「地場」という言葉を掛け合わせており、食を通じて、シニアが地域全体を元気にしていくことを目指しています。2026年現在は、地域に「街のもう一つの食卓」 を創り出すことを目指し、シニアが手作りのおむすび・豚汁・漬物の一汁一菜定食を提供する「街仲食堂 by ジーバーFOOD」 をメインで展開しています。この食堂は、「まるで実家のような温かさ」 が特徴。単なる飲食店ではなく、地域の人々が繋がり、シニアが主役となって輝ける居場所となっています。
ジーバーFOODでは、こうした取り組みを各地へ広げるため、全国の地域企業とパートナー契約を結ぶことで、各地に拠点を拡大。活動はすでに全国60地域以上に広がっており、累計330名以上のシニアが参加しています。なお、参加対象は60歳以上で、現在は60歳から86歳までの幅広い年代の方が活動に参加しています。また、1回あたりの活動時間はおおむね3時間半前後で、ランチタイムを中心に無理なく続けられる形を重視しています。
ーー「全国の地域企業とパートナー契約を締結している」とのことですが、それぞれの店舗はどのような形で運営しているのですか?
各地域では、サポーター企業の方々が地域でシニアを募り、その方々とともに店舗を運営していく仕組みをとっています。当社では「FC企業募集」という形で広告も出していますが、ここでいうFCは一般的なフランチャイズではなく、「ファンコミュニティ」の略です。事業に共感した地域企業が参画し、一緒に地域を盛り上げていく仕組みです。事業の理念に共感し、応援してくださる仲間を地域ごとに広げながら、温かい循環を生み出していくコミュニティの育成を目指しています。
また、ジーバーFOODでは、いずれの店舗においても、シニアを雇用する形をとっていません。一般的な飲食店では、企業が主体となり、店長や社員の管理のもとでパート・アルバイトが働くという構造が多いと思います。しかし私たちは、シニアの皆さん自身が主体となり、シニアだけで組合を作り、店舗を運営しているのです。そして、サポーター企業は、その運営が安全かつ持続可能に行われるように後方支援を行っています。

街仲食堂では、シニア世代の知恵と愛情を込めた「一汁一菜定食」を提供している
ーーでは、お店で働いているシニアの方は、時給制での雇用ではないのでしょうか?
そうですね。組合の仕組みは、生協をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。参加するシニアは一口1,000円を出資して組合員となり、仲間同士で力を合わせて運営していきます。「ジーバー街仲組合」という組織を設け、日々の食堂運営はこの組合が担う形です。
食堂の売り上げは、まず食材費や備品費などの必要経費に充て、そのうえで運営を支援するサポーター企業へサポート料を支払います。こうして残った純利益を、組合員であるシニアの皆さんで平等に分配する仕組みです。また、シフトも上から決められるのではなく、組合員同士で話し合って決めます。自分の体力や生活に合わせて関わり方を選ぶことができ、毎日のように活動する方もいれば、週1回程度のペースで続けている方も。もちろん、分配額は参加回数に応じて増えるため、努力が収入に反映されやすい仕組みといえます。
この仕組みは、企業側にとっても、社会的・経済的に持続可能な運営モデルとなっています。主体的に関わりながら収益を分かち合う形にすることで、無理なく継続できる働き方を実現しているのです。
ーーほとんど自分たちで運営しているとは、驚きです! サポーター企業は、具体的にどのような支援をしているのですか。
サポーター企業は、日々の運営を側面から支援しています。具体的には、組合ごとに「コミュニティサポーター」と呼ばれる担当者を1人配置し、定期的に現場を訪れて声かけを実施。「困っていることはありませんか」「体調は大丈夫ですか」といった定期的な見守りに加え、新しく参加するメンバーへの研修や調整も担います。
また、シニアには金銭管理に不安を感じる方も多いため、売上の管理や収支の取りまとめなどの事務的な部分も、サポーター企業が担当します。さらに、物件の賃貸契約など対外的な手続きも企業側が行い、拠点を組合に利用してもらう形をとっています。
費用について一例を挙げると、1食1,000円のランチに30人が来店すると、単純計算で売上は3万円になります。このうち10%が運営支援の対価としてサポーター企業に支払われるほか、家賃についても固定額ではなく、拠点利用料として売上の15%が組合からサポーター企業に支払われます。そして、その残りから食材費や光熱費などの経費を差し引き、最終的に出た純利益を、その日に参加した組合員で均等に分配するイメージです。なお、実際の精算は日ごとではなく、月単位で行っています。
ーーサポーター企業には、どのような業種の会社が多いのでしょうか。
業種として最も多いのは、医療・介護・看護分野で、全体の約4割を占めています。次いで、不動産・建築関連など、自社で拠点を確保しやすい企業が多く参画しています。特に、医療・介護系の事業者の方々の中には、「介護が必要になる前の段階から、シニアの暮らしを支えたい」という思いを持って参画されるケースが多く見られます。日々介護に携わっていると、「もっと早い段階で関わることができれば、進行を遅らせられたのではないか」と感じる場面も少なくないようです。そうした経験から、地域での活動や就労の機会を通じて、シニアが自立した生活を長く続けられるよう支援したいという考えを持ち、活動に参加されている企業さんは多いと感じています。
また、参加の動機は高齢者支援だけにとどまりません。日々、負担の大きい現場で働くスタッフの心理的なケアという側面もあります。介護や看護の現場では、人手不足が深刻で、一人ひとりへの負担が大きくなっているのが現状です。そうした中で、「支援する側」ではなく「活躍するシニアを支える側」として関わることで、スタッフの気持ちが前向きになったり、将来に希望を持てるようになったりするという声もあります。このように、地域の高齢者の自立支援と、現場で働く人の心の余裕の両方につながる取り組みとして、多くの医療・介護系事業者が関心を寄せています。
ーージーバーFOODについて、参加者さんやご家族、地域の方々などからの反応はいかがですか。
参加の経緯は様々で、ご自身で活動を知って参加される方もいれば、ご家族が心配して「まずは外に出てみたら」とすすめたことをきっかけに参加される方もいます。なかでも、配偶者を亡くしたことをきっかけに気力を失い、外出もほとんどしなくなっていた方が、活動への参加によって元気を取り戻すケースは少なくありません。
参加された方からは、「生きるのが楽しくなった」「新しい目標ができた」といった言葉をよくいただきます。さらに、ご本人だけでなく、ご家族や知人、習い事の先生など、以前からその方を知っている周囲の方から、感謝の声をいただくことも。以前は表情が暗く、外出することもほとんどなかった方が、参加後は見違えるように明るくなり、活動日以外にも外に出る機会が増えるなど、大きな変化が見られています。
私たちが目指しているのは、シニアの生きがいづくりに留まりません。年齢を重ねても社会と関わり、役割を持って生き生きと暮らす高齢者の姿を、地域の子どもたちが身近に見ることで、「将来こんなふうに年を重ねたい」と思えるような社会づくりにつながると考えています。シニアとともに、世代を超えて、前向きな循環が生まれる地域社会を実現していきたいと思っています。
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