シニアの「働きたいのに働けない」をなくすために|高齢者が主体となった事業「ジーバーFOOD」の誕生背景|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
高齢化が進むなか、「年を重ねても社会と関わり、働き続けたい」と考える人は少なくありません。一方で、雇用条件などの制約から、シニアが活躍できる場はまだ十分とはいえないのが現状です。こうした課題に対し、株式会社ジーバーでは、シニアが主体となって食堂の運営などを行う事業「ジーバーFOOD」を展開。シニアが活躍できる仕組みを全国に広げています。事業を始めたきっかけや、今後の展望などについて、株式会社ジーバー取締役の山崎莉沙氏に話を聞いてみました。
ーー「ジーバーFOOD」を始めたきっかけを教えてください。
事業開始の背景にあるのは、働く意欲のあるシニアが増えている一方で、実際に活躍できる場が十分に用意されていないという社会の状況です。65歳を過ぎても働き続けたいと考える方は多いにもかかわらず、一般的な雇用の仕組みでは、年齢を重ねるほど働き続けることが難しくなります。体力の変化によって以前と同じ働き方ができなくなると、職場に居づらさを感じるケースも少なくありません。
また、健康という観点では、身体的・精神的健康に加えて「社会的健康」、つまり社会とのつながりが重要とされています。しかし、退職後にその機会が急激に減り、孤立を感じるシニアも一定数存在します。特に男性の一人暮らしでは、地域活動などへの参加のハードルが高く、家に閉じこもりがちになることが社会問題にもなっています。孤独は認知機能の低下などにも影響するとされており、個人だけでなく、社会全体にとっても大きな課題です。
ジーバーFOODでは、毎回新規店舗のオープン前に説明会を実施しているのですが、1回に40~50人が参加することもあり、活躍の場を求めているシニアが非常に多いことを実感しています。参加理由を尋ねると、「配偶者を亡くしてからほとんど人と話していない」「外に出るきっかけがほしかった」といった切実な声が寄せられることもあります。そうした方々にとって、新しい居場所や希望になりたいという思いが、この事業を始めた大きな理由です。
ーーそこから、どのように事業を展開したのでしょうか。
最初の仕事は、宮城県にある大きな空きテナントを活用した、お弁当の製造でした。当社の代表の永野は、以前より不動産事業を手掛けているのですが、ある日「この場所をシニアの憩いの場にしたい」と、テナントの元オーナーから相談が寄せられたのです。そこで、料理上手なシニアが集まり、地域に向けて手作りの食事を届ける拠点として活用できないかと考え、ジーバーFOODがスタートしました。
その後は、地域からの反響や支援が広がり、社員食堂の再生や空き施設の活用など、新たな展開につながっていきました。人手不足で閉鎖されていた食堂を、地域に開かれた場所として再生したり、自治体と連携して古民家を活用した食堂を運営したりと、活動は徐々に広がっています。2026年現在は、おにぎりと汁物を中心とした食堂モデル「街仲食堂」を全国に展開し、各地域でシニアが主体的に活躍できる場づくりを進めているところです。
私たちは単なる飲食事業ではなく、年齢に関係なく、役割を持って輝ける場をつくることを目的としています。具体的には、一般的な雇用では難しい部分を補うために組合方式を採用し、一人ひとりができることを持ち寄り、チームとして力を発揮できる仕組みを整えました。そのため、シフトの調整からメニューの内容まで、参加者同士で話し合って運営する形を取り入れています。

食堂では、地域の食材を積極的に活用するなど、地産地消の推進にも取り組んでいる
ーー「参加者同士で運営を決めていく形式」とのことですが、飲食の経験がない方が多い場合、運営は難しそうに感じます。
もちろん、店舗の立ち上げ後、いきなりすべてを任せるのは難しいのが現状です。そのため、まずは無理なく取り組める形から始められるように工夫しています。
例えば、食堂の形態の一つとして、現在全国展開している「街仲食堂」は、メニューがおむすび・豚汁・漬物の一汁一菜定食に絞られており、長年家庭で作ってきたなじみのある料理であることが特徴です。特別な技術がなくても取り組める内容にすることで、初めての方でも安心して参加できるよう、ハードルを下げているのです。また、おにぎりの具のみを定期的に変更するなど、自由度をあえて限定することで、継続しやすい仕組みにしています。
ーーおにぎりの具も、皆さんで話し合って決めているのでしょうか。
そうですね。店舗運営は本部が細かく指示するのではなく、地域ごとの主体性を大切にしています。食材の仕入れ先や調味料は各地域に任せており、長年利用してきた地元の店を活用したり、メンバーが育てた野菜を使ったりすることも可能です。おむすびの具材についても、基本の種類はありますが、定期的に新しいメニューを考える機会を設けています。アイデアを出し合い、試作を行ったうえで提供するなど、参加者自身が店舗づくりに関わる余地を残しています。
基本的に「街仲食堂」では、売り上げ管理や研修などは、運営を支援するサポーター企業が担当する仕組みを取り入れています。しかし、長く運営を続けている店舗では、食材の買い出しやメニュー作成、売上の計算まで、ほぼすべてをシニアたちが担っている例も。経験を重ねることで、運営そのものを主体的に行えるようになります。
なお、こうした新たな決定は、主に月に1回の定例会で話し合っています。売上や食材費、光熱費などの経費、各メンバーの参加回数などを見える形で共有するほか、配当額の決定や、来月のメニューや改善点、お客さまからの要望への対応などについても話し合います。もちろん、話し合いが活発になる一方で、意見がまとまりにくくなることもあるため、サポーター企業のコミュニティサポーターが進行役として入り、論点の整理や合意形成を支援するように工夫しています。
ーー活動には体力も必要になると思いますが、シニアに元気に働いてもらうための工夫があれば教えてください。
コミュニティサポーターが定期的に個別面談を行い、日々の生活の様子や困りごとがないかを丁寧に聞き取っています。活動の場面だけでなく、普段の暮らしも含めて把握することで、心身の変化に早めに気づけるようにしています。
また、シニア同士で支え合う文化づくりも重視しています。ジーバーFOODでは、「オーケストラではなくジャズ」という表現をよく使うのですが、それぞれが状況を見ながら柔軟にフォローし合うことで、安心して活動できる環境をつくっているのです。実際に、疲れている仲間に「今日は休んだ方がいい」と声をかけて代わるといった場面も見られます。こうした関係性の育成も、コミュニティ運営のうえでの重要な点の一つとして、コミュニティサポーターにお願いしています。
ーー認知機能の低下などにより、活動の継続が難しくなった際は、どのように対応していますか。
加齢に伴う物忘れなどが見られるようになった場合は、まずメンバー同士で声をかけ合い、「ミスのないようにチェックしよう」と確認し合うなどのフォローを行っていますね。現時点では、そうした支援の中で活動を続けられているケースがほとんどです。
もし症状が進み、これまでと同じ役割を担うことが難しくなった場合でも、すぐに参加をやめてもらうのではなく、その方の状態に合わせて別の役割を検討する予定です。役割を持つこと自体が生活の張りや意欲につながるため、できる範囲で関わり続けられる形を模索したいですね。必要に応じて活動内容を制限することはありますが、完全に切り離すのではなく、その人に合った関わり方を探していくことを大切にしたいと考えています。
ーー店舗での担当業務はどのように決めているのでしょうか。
ジーバーFOODでは、それぞれの参加者さんの強みに合わせて役割分担を行っています。先述の通り、新規店舗のオープン時には、まず説明会を実施。その後、「おしごと体験」の機会を設け、実際の活動に近い形でイベントを行います。具体的には、おむすびを販売するイベントを参加者の皆さんで企画し、具材の検討や試作、準備、本番の販売までを一通り経験するのです。
その過程で、料理が得意な人、接客が得意な人、調整役が向いている人、買い出しや運搬が得意な人など、それぞれの強みが自然に見えてきます。こうした体験を通じ、適性を把握したうえで、得意な分野から関わってもらいます。
とはいえ、その役割のみを継続するのではなく、少しずつできる仕事を増やしていくことを大切にしています。組合は参加者自身が運営する仕組みであり、一部の人だけに負担が偏らないようにするためです。一つの業務に慣れたら、次の業務へとステップを広げ、自分たちでお店を回せる力を育てていくイメージです。コミュニティサポーターは、その成長過程を見守りながら、無理のない範囲で役割の幅を広げられるよう支援しています。こうした見守りと役割分担の仕組みによって、シニアが無理なく、意欲を持って活動を続けられる環境を整えています。
ーー長期的に「ジーバーFOOD」をどのような取り組みにしていきたいとお考えですか。
私たちは必ずしも「食」にこだわっているわけではなく、地域のシニアが活躍できる場を生み出すこと自体を目的としています。現在は食をテーマに事業を展開していますが、それはあくまで入口の一つにすぎません。
現在のジーバーFOODでは、参加者の約9割が女性であることからも、男性高齢者の孤立という課題に対しては十分に対応できていないと感じています。そこで今後は、農作業やものづくり、学びの場づくりなど、男性も参加しやすい分野での取り組みを広げていきたいと考えています。具体的には、農業に関わる活動や地域の子どもに知識や経験を伝える場、手仕事を生かした活動など、シニアの経験をそのまま価値にできるような仕組みを構想しています。
さらに、今後は介護事業者との連携も一層強化していきたいと考えています。高齢者が要介護状態になる前の段階から、地域で役割を持って暮らし続けられる仕組みをつくることは、本人の生活の質の向上だけでなく、地域全体の持続可能性にもつながるためです。今後も、地域ごとの課題に応じて多様なモデルを広げていきながら、シニアが生き生きと活躍できる社会をつくっていきたいと考えています。
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