Produce by マイナビ介護職 マイナビ介護職

介護の未来ラボ -根を張って未来へ伸びる-

仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2020/05/28

#健康

介護士の悩み、腰痛を改善・予防する正しい動作・姿勢とストレッチを理学療法士が解説

文:福辺 節子 理学療法士・介護支援専門員。厚生労働省非常勤参与 upskilling_0528.jpg

介護職はデスクワーク等と比べ、体を動かすことが多い仕事。職業柄、介護職の方の中には、腰痛で悩んでいる方が多いのではないでしょうか。
そして、「介護に腰痛はつきもの」と諦め、痛みを我慢していませんか? 今回は、考えられる腰痛の原因とその予防策、改善策についてご紹介します。

腰痛の原因とは

ある調査によると、介護をしている人の5割以上が、「介護を原因とした腰痛の症状がある」と自覚しているという結果が出ています。このように多くの人を悩ませる腰痛は、なぜ起きてしまうのでしょうか。

腰痛の原因は人によってさまざま

腰痛が起きたとき、筋肉や関節などを思い浮かべ整形外科を受診する方が多いのではないでしょうか。
整形外科で判断できる腰痛の原因としては、レントゲンやMRI写真で、脊椎のすべり症やヘルニア、脊柱管狭窄(きょうさく)症などがあります。
高齢者では骨粗しょう症や、それに伴う圧迫骨折なども考えられます。

しかしながら、中には整形外科では判断できない腰痛もあります。姿勢が原因のものや、内蔵疾病がその一例です。
内蔵疾病では、泌尿器系、婦人科系、消化器系の不調や、がんなど隠れた病気の可能性も。
整形外科を受診しても原因不明の場合は、放置せず異なる診療科を受診してもいいかもしれません。

慢性疼痛(まんせいとうつう)の可能性も

腰痛の原因は人によってさまざまですが、中には医療機関を受診しても原因が特定できない腰痛もあります。
そういった場合に考えられる原因として、「慢性疼痛(まんせいとうつう)」が挙げられます。
慢性疼痛とは、生活に支障をきたすような疼痛が6カ月以上続いている状態を指します。反対に、一定の期間内で治るような疼痛のことを「急性疼痛」といいます。

慢性疼痛の原因は、心理的要因や、神経系によるもの、ストレスなどさまざまです。怪我や病気で損傷した神経が、怪我や病気の完治後も傷ついたまま残り、痛みを引き起こすこともあります。

介護の現場でできる腰痛予防策(1)
正しいリフティング動作とストレッチで体の負荷を軽減

それでは、具体的に腰痛を防ぐ方法をご紹介します。

急性疼痛を防ぐ安全なリフティング

腰痛を防ぐためには、まず急性疼痛を予防するため、その原因を取り除くことが大切です。
そのためには、体に「予期せぬ負荷」をかけないことと、「用意されていない構え」を避けることが重要です。
「予期せぬ負荷」は、その名の通り、体に急に負荷がかかること。「用意されていない構え」は、体や心の準備ができていないうちから体に負荷がかかることです。
以下より、安全なリフティングについて解説いたします。「予期せぬ負荷」「用意されていない構え」について意識しながら、介護の場面でも参考にしてみてください。

■安全なリフティング動作

1.できる限り生理的湾曲(※)を保ったまま、極端な屈曲や伸展を避けた腰椎で持ち上げる
※脊椎が描いている背骨のカーブのこと。頭を支えるクッションの役割をし、筋肉の負担を和らげている。

2.腰部の筋に要求される力を最小限にするため、股関節や膝関節の伸筋を使用する
立ち上がりの介助などでは、体幹を前屈しないでスクワットで持ち上げるように推奨されていることがありますが、それが必ずしも腰痛のリスクを軽減するとは限りません。
膝を大きく曲げると骨盤が後傾しやすく、反対に腰の負担が増す場合もあります。また、大きな筋力が必要なため、膝や股関節の負担が増すこともあり注意が必要です。

3.荷物を持ち上げる垂直距離・水平距離を最小にする
体幹を前屈すると水平距離が長くなるので、腰部にかかる負荷が大きくなります。
立ち上がりの介助だけでなく、寝返りや起き上がり、オムツ交換時など、ベッドの近くで介助を行うときは、ベッドの高さを自分が楽な高さに必ず調整しましょう。
面倒くさい、時間がかかるなどの理由で不適切な姿勢なまま介護を続けると、腰痛悪化の原因になります。

4.移乗時にねじらない
椎間円板は上下方向への負荷には比較的強いのですが、ねじりには非常に弱いです。
前屈位で持ち上げるだけで通常の数倍の負荷がかかっているところに、ねじりながら高低差のある移動を行えば、当然椎間円板に大きなストレスがかかってしまいます。
コツとして、被介助者に真っすぐ立ってもらった状態で、体重移動を利用しながら、少しずつ足を踏み替えてもらう移乗介助を行えば、腰痛のリスクは減ります。

5.ゆっくりかつ円滑にリフティングする

6.必要なら機器や助手の補助を使用する
被介助者が全く自分の体を支えられないような場合や、自身の介護力が低い場合などは、適切な機器や補助が必要です。
トイレや浴室などのバーや便座の位置、スライディングボード、アームサポートやレッグサポートの脱着が可能な車イス、リフトなどの利用がその一例です。また、必要なときに二人体制が取れるよう、職員間で準備しておきましょう。

腰痛予防に必要な身体的要素

前述したリフティング動作は、実践するには適度な筋力やバランス能力、体幹などが必要です。そのため、腰痛を予防するために「適度な筋力」「適度な柔らかさ」「バランス能力」「体幹の安定性」の4要素を鍛えることをおすすめします。

一部分の筋力よりも、腹筋、背筋、双方の筋力のバランスが取れていることが重要です。
そしてさらに大切なのは、体の「適度な柔らかさ」。関節の可動域や筋の柔軟性、体全体のバランスの取れた柔軟性などが、腰痛予防にとって大きな要素になります。負荷がかかっても、柔軟性のある体はその歪みを吸収できるため、柔軟性がない人と比べると腰痛のリスクは軽減します。

では、どの部分をどのように柔らかくしたらいいのでしょうか?
脊柱の柔軟性はもちろんですが、股関節周囲、またハムストリングスやアキレス腱といった背部の下肢筋群を日頃からしっかりストレッチをしておきましょう。そして、忘れてはならないのは肩甲骨周辺です。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、肩甲骨や胸郭、肩周囲を柔らかくすると、腰の痛みが軽減することはよくあります。

介護の現場でできる腰痛予防策(2)
痛みの慢性化を防ぐためにも、早めの完治とストレスフリーな生活を

腰痛を防げれば体の負荷が少なく済むのですが、すでに慢性的な腰痛に悩まされている方もいるでしょう。ここでは、腰痛の慢性化の予防についてご紹介します。

早く治し、心身ともに痛みを断ち切る

腰痛が発生してしまった場合、早い段階でしっかりと完治させることが重要です。「痛みを長引かせず、完全に除去すること」を意識しましょう。
例えば、ギックリ腰になってしまった場合も、しっかり治してしまうことが大切です。ギックリ腰であれば、絶対安静(痛みを再現する動作をしない)を1日前後守れば寛解します。
マッサージ、整体、鍼灸などは、きっちり評価ができて本当に上手な施術でなければおすすめしません。ズルズルと痛みを引きずってしまわないように気をつけましょう。

心理的要因にもご注意を

慢性的な腰痛の約7~8割は精神的なファクターが原因している、という報告もあり、心理的な原因も無視できません。
具体的な例として、抑うつ・心因、運動不足(疼痛制御系の機能低下)、廃用性症候群(負荷への耐用機能の低下)、欲求不満(肥満等)が挙げられます。

ストレスの原因となる要素を探して、可能であれば排除してみるのもいいでしょう。

仕事中も正しい立ち姿勢・座り姿勢で腰痛を予防

最後に、仕事中や自宅でも取り入れられる正しい立ち姿勢・座り姿勢をご紹介します。

■立ち姿勢 のポイント

1.肩の力を抜いておへその下あたり(丹田)を意識する。背筋を伸ばしてアゴを引く※頭の上についた"ひも"で上に引っ張られているようなイメージです
2.上半身は力を抜いて自然にする
3.膝は力をいれずに伸ばしきらない
4足の土踏まず付近に体の重心を置く

背中を丸めて前かがみになったり(猫背)、胸や腰を反りすぎたり、おなかを突き出したような姿勢は、脊椎に無理な力が加わり、腰痛の原因になってしまいます。 正しい立ち姿勢を意識して習慣づけると、腰痛予防に役立つでしょう。

■座り姿勢 のポイント

1.アゴは軽く引き、首に余計な力をいれない
2.背もたれの形は背中のカーブに合わせる。合わない場合は背中との間にクッションなどを挟む
3.イスに深く腰かけて、腰を背もたれでしっかり支持する
※イスの高さは、足の裏がしっかり床につき、その状態で膝の角度が直角くらいに曲がる程度。イスが高すぎるときは台座などの上に足を置く

座っているときも、正しい姿勢を意識しましょう。

今回ご紹介したストレッチや立ち姿勢・座り姿勢などは、少しの意識でできることばかり。
腰痛や痛みの慢性化を防ぐために、日常生活の中でできることから取り入れてみてくださいね。

最新コラムなどをいち早くお届け!
公式LINEを友だちに追加する

お役立ち情報を配信中!
X(旧Twitter)公式アカウントをフォローする

介護職向けニュースを日々配信中!
公式Facebookをチェックする

SNSシェア

福辺節子(Setsuko Fukube)

理学療法士・医科学修士・介護支援専門員
厚生労働省非常勤参与(介護ロボット担当)
一般社会法人白新会 Natural being代表理事
新潟医療福祉大学 非常勤講師

大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。92年よりフリーの理学療法士として地域リハ活動をスタート。医療介護専門職に加え、家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。講習会・講演会のほか、施設や家庭での介助・リハビリテーション指導も行っている。NHK「楽ラクワンポイント介護」「ためしてガッテン」にも出演。

福辺節子の執筆・監修記事

介護の仕事・スキルの関連記事

  • 介護士の常識

    2024/04/17

  • 利用者さんが亡くなったときのご家族への言葉のかけ方の基本と実例

  • 文/中村 楓(介護支援専門員・介護福祉士・介護コラムニスト)
  • 介護士の常識

    2024/04/16

  • 2024(令和6)年度介護報酬改定|処遇改善・職場環境の改善など徹底解説!

  • 文/福田明(松本短期大学介護福祉学科教授)
  • 介護士の常識

    2024/04/14

  • 共感疲労とは?介護職におすすめの対策方法5選も

  • 構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子
もっと見る