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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2026/03/20

#認知症ケアの現場から

利用者に心地よい介護技術「起き上がり介助のポイント」|認知症ケアの現場から(40)

文・写真/安藤祐介 B_care40.jpeg

介護技術をひと言でいうなら、「人の動きの支援」です。人の動きは寝返りや立ち上がりといった基本的なものから、食事・排泄・入浴といった複雑なものまで幅広くあり、介護者はそれらを介護技術で支援します。

言葉で書くと簡単そうですが、実際は介護技術に難しさを感じる人も少なくないと思います。その理由は、多くの人が「考えなくても動けている」からです。街ゆく人たちのなかに、「どうやって歩こう?」「どうやって階段を登ろう?」と考えながら動いている人はほとんどいませんよね。そのため、いざ介護者となり利用者さんの動きを手伝おうと思うと、どうすれば良いのかわからずとまどうのです。

そこで、本記事では作業療法士である筆者が、人が楽に動くためのポイントと、現場で生かしやすい介護技術を紹介します。今回は「起き上がり介助」の技術について解説しましょう。

1.起き上がり介助のポイント①:横向き姿勢になる

起き上がり介助は、利用者さんが横向き姿勢(側臥位)から行うのが基本です。なぜなら、横向きのほうが起き上がりに必要な力がかからず、楽に動ける方が多いからです。一方、利用者さんが上向き姿勢(仰臥位)の場合、上半身を起こすのに腹筋の力が必要になります。手でベッドを押して起き上がる動きも行いづらく、なかには足を振り上げて力任せに起き上がろうとする利用者さんもいます。

ですから、上向きからの起き上がりは、筋力が衰えがちな方には難易度が高い動きだと考えてください。利用者さんが上向きで寝ていたら、起き上がり介助をする前に、まず寝返り介助を行いましょう。横向き姿勢になれれば、その後の起き上がりが円滑になります。

※寝返り介助のポイントはこちらをご覧ください
利用者に心地よい介護技術「寝返り介助のポイント」

参考写真

△好ましくない介助...上向き姿勢(仰臥位)からの介助

参考写真

〇好ましい介助...横向き姿勢(側臥位)からの介助

2. 起き上がり介助のポイント②:ベッドから足を下ろす

横向きの姿勢になったら、上半身を起こす前に両足をベッドから下ろしてもらいます。足を下ろすことで下半身の重さが床方向に向かい、その分上半身を起こしやすくなります。また、起き上がってから座位を保つのが難しい利用者さんは、このタイミングで靴を履いてもらうのがおすすめです。寝た状態なら、不安定な座位で靴を履くより介助が楽で、足が床について汚れる心配もないからです。

特に認知症の利用者さんは、足を下ろして靴を履くことで、「これから起き上がるんだな」と、求められている動きを理解しやすくなります。ただし、足を下ろしすぎると腰痛を訴えたり、お尻がベッドから滑り落ちたりするリスクが高まるため、下腿(膝から足首)が下りる程度に留めてください。

参考写真

△好ましくない介助...足を下ろしていない

参考写真

△好ましくない介助...足を下ろしすぎている

参考写真

〇好ましい介助...足を適度に下ろしている

3. ポイント③:半身を下げる

起き上がり介助をする時に介助者が触れやすいのが、利用者さんの「首の下」です。利用者さんが寝ているとちょうど隙間が空くため、手を入れやすくなりますが、首はたくさんの血管や神経が通っているデリケートな場所です。そのため、触れたり介助で圧迫されたりすると、多くの利用者さんが不快に感じて、体を硬く緊張させてしまいます。

1回だけであれば影響は少ないですが、何度も繰り返されると体を固めるのが習慣化し、拘縮が進行したり、介護者との関係性が崩れたりすることもあるので注意しましょう。起き上がり介助の時は、背中など触れられても不快感が少ない場所をサポートしてみてください。

参考写真

△好ましくない介助...首の下を介助

参考写真

〇〇好ましい介助...背中を介助

4. 起き上がり介助のポイント④:ベッドに手をついてもらう

起き上がり介助の時は、手をベッドについてもらうように促しましょう。上半身を起こす際に手の力が十分に使えれば、腹筋の力が低下した利用者さんでも楽に起きてもらえます。実は、ポイント①で横向きの姿勢になってもらったのも、「手の力を使うため」という目的が大きいです(片麻痺の方に健側からの起き上がりを推奨されているのも、健側の手の力が使いやすくなるためです)。

この時、ベッドに介助柵がついていると、つかまろうとする利用者さんもいますが、避けたほうが無難です。柵につかまると、体を引っ張り上げながら起きる「力任せの動き」になりやすい上、柵は体の重さを預ける場所として不十分です。そのため、逆に介助量が増えてしまうことも珍しくありません。

なので、柵は事前に外しておくのがよいでしょう。外せない場合は、ベッドに手をつける空間を確保するために、上半身の位置をずらす対応をしてみてください。

参考写真

△好ましくない介助...柵につか まってもらう

参考写真

〇好ましい介助...ベッドに手をついて もらう

5. 起き上がり介助のポイント⑤:下方向に下がる動きを促す

ベッドに手をついてもらった後は、利用者さんに手でベッドを押してもらう動き(下方向に下がる動き)を促しましょう。起き上がりは「上に上がる動き」と誤解されがちですが、実は「下に下がる動き」のほうが大切です。私たちは起き上がる時、上方向にだけ動くわけではありません。足を下に下げたり、太もも(大腿)をベッドに押し付けたり、手でベッドを押したりと、体のさまざまな部位で「下方向に下がる」動きをしています。試しに、「上方向に上がりながら起きる動き」と「下方向に下がりながら起きる動き」を比べてみてください。

参考写真

上方向に上がりながら起きる

参考写真

下方向に下がりながら起きる

おそらく、後者のほうが楽に起きられたと思います。利用者さんの起き上がり介助をする時も、下がる動きの支援が大切です。特に横向きの姿勢からは、ベッドについた手や腕の方向に下がることでベッドを押しやすくなり、起き上がる動きが円滑になります。

参考写真

△好ましくない介助...上方向に動きを支援

参考写真

〇好ましい介助...下方向に動きを支援

6. 起き上がり介助のポイント⑥:上半身の前後の動きを引き出す

下方向への動きを引き出しにくい利用者さんの場合は、横向き姿勢のまま上半身を前後に軽く揺らしてもらい、その動きを生かして起き上がり介助を行ってください。人はまったく動きがない、静止した状態から動き出すのが難しいものです。例えば、椅子から立ち上がる時、「止まった状態から立ち上がる動き」と「前後に軽く体を揺らしながら立ち上がる動き」を比べてみてください。

参考写真

止まった状態から立ち上がる

参考写真

前後に軽く揺れながら立ち上がる

おそらく、後者のほうが楽に立てたと思います。それは、前後に揺れる小さな動きを、立ち上がるという大きな動きにつなげられたからであり、静止した状態からいきなり大きく動くほうが難しいのです。

起き上がりも同じで、前後に揺れる小さな動きからスタートし、その動きを拡張するように大きな動き(起き上がりでは下方向に下がる動き)につなげたほうが、楽に介助できる場合があります。

参考写真

△好ましくない介助...止まった状態から起き上がる

参考写真

〇好ましい介助...前後に軽く揺れながら起き上がる

7. 起き上がり介助のポイント⑦:一度で起き上がろうとせず肘立ちになる

体格が大きい利用者さんや、起き上がる動きに慣れていない利用者さんは、一度の動きで無理に起きてもらおうとせず、途中で休んでもらうことも必要です。横向き姿勢から手の力を使って起き上がると、肘がベッドにつく瞬間がやってきます。これは「肘立ち位」とも呼ばれ、比較的安定感がある姿勢です。

参考写真

肘立ち位

一度肘立ち位になれれば、利用者さんも介助者もひと息つけるため、そこから再度前後に揺れる動きを引き出すと、起き上がったり、動きやすい方向を探ったりするゆとりが生まれます。

なお、認知症の利用者さんは、「寝た姿勢」から「座る姿勢」へと急激に姿勢が変わると、混乱が強まることがあります。血圧が不安定な方だと、めまいが起きる可能性もあるでしょう。途中で肘立ち位の姿勢を挟むことには、そうした症状を緩和する効果も期待できます。

参考写真

△好ましくない介助...無理に一度で起き上がる

参考写真

〇好ましい介助...肘立ち位を経由する

8. 起き上がり介助のポイント⑧:お尻の方向に下がりながら起きる

肘立ち位になった後は、お尻の方向に下がる動きを促しながら起き上がりましょう。ポイント⑤でも説明した通り、起き上がる際は下方向に下がる動きが重要です。そのため、横向き姿勢から体を起こす時は手や腕の方向に下がる動きを、肘立ち位からはお尻の方向に下がる動きを促すと上半身を起こしやすくなります。

起き上がりは最終的に座った姿勢になるため、お尻の方向に下がり続けることでお尻の上に上半身が乗りやすくなり、座った姿勢も安定するでしょう。下がる動きを促すには、介助者の触れる場所や立ち位置も大切です。肘立ち位になれば介助者が一時的に手を離しても姿勢が崩れにくいので、触れる場所を背中から肩口に変えたり、お尻の対角線になる位置に移動したりしながら、下がる動きを促しやすくなるように調整してみてください。

参考写真

△好ましくない介助...上半身を引き上げながら起きる

参考写真

〇好ましい介助...お尻の方向に下がりながら起きる

9. ポイント⑨:安定した環境で介助する

ベッドから起き上がる動きについては、本記事のテーマでもある「起き上がり介助」という用語があり、さまざまな介助法が紹介されています。その一方で、ベッドに寝る動きについてはどうでしょうか。「臥床介助」や「就寝介助」という用語はありますが、寝るという動きを明確に示した介助法は、起き上がり介助ほど多くありません。介護現場を見ても、寝る介助は利用者さんの体を抱きかかえるようにし、重力に従ってゴロンと横たえればできてしまうので、起きる介助に比べてそれほど注目されていないのが実状です。

しかし、動きは表裏一体であり、上手に起き上がるには上手に寝る動きが大切です。利用者さんは両方の動きができることで、より多様な動きを身につけられるでしょう。寝る介助を行う時には、起き上がり介助の動きを逆再生するように、ベッドに手をついて肘立ち位になったり、体を下げながら横たわったりといった動きにチャレンジしてみてください。寝る介助が上手になれば、起き上がり介助の質もさらに高まるはずです。

参考写真

△好ましくない介助...抱きかかえるようにして寝てもらう

参考写真

〇好ましい介助...起き上がりの逆の動きで寝てもらう

まとめ

今回は、利用者に心地よい介護技術として、「起き上がり介助のポイント」をお伝えしました。ただし、利用者さんの疾患や障害の状況、長年培われてきた動きの習慣や体の特性によっては、逆に動きにくくなってしまうこともあります。その場合は無理にポイントを当てはめようとせず、その方に合わせた心地よい動きを探ってみてください。

なお、介護技術への理解を深めたい方には、「動きの学習」の専門家である谷口奨先生が提唱するシンプルラーニング・予防介助の考え方をおすすめします。介助に悩んだ時には参考にしてみてください。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

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