利用者に心地よい介護技術「座り直し介助のポイント」|認知症ケアの現場から(42)
文・写真/安藤祐介介護技術をひと言でいうなら、「人の動きの支援」です。人の動きは寝返りや立ち上がりといった基本的なものから、食事・排泄・入浴といった複雑なものまで幅広くあり、介護者はそれらを介護技術で支援します。
言葉で書くと簡単そうですが、実際は介護技術の難しさを感じる人も少なくないと思います。その理由は、多くの人が「考えなくても動けている」からです。街行く人たちを見ても「どうやって歩こう?」「どうやって階段を登ろう?」と考えながら動いている人はほとんどいませんよね。そのため、いざ介護者となり利用者さんの動きを手伝おうと思うと、どうすれば良いのかわからずとまどうのです。
そこで、本記事では単行本『利用者に心地よい介護技術』(中央法規出版)の執筆者でもある作業療法士の安藤祐介が、人が楽に動くためのポイントと、現場で生かしやすい介護技術を紹介します。今回取り上げるのは「座り直し介助」です。
1. 座り直し介助のポイント①:足をフットサポートに乗せてもらう
座り直し介助を行う前に、利用者さんの足を車椅子のフットサポートに乗せてもらいましょう。座り直す際に、利用者さんがフットサポートを蹴ってお尻を上げることができれば、介助への協力が増えるからです。
移乗の直後にフットサポートが上がっている状態のまま座り直し介助を行うと、利用者さんは足が宙に浮いたり、投げ出されたりした状態になり、足の力が使いにくくなります。介助者も利用者さんを引き上げるような介助をせざるを得なくなり、介助量が増えてしまいます。
移乗後は座面からの転落リスクもあるため、いち早く座り直し介助を行いたい場合もあるかもしれませんが、お尻が座面に半分程度乗り、安定している様子であれば、まずは足をフットサポートに乗せてもらってください。
△好ましくない介助...足がフットサポートに乗っていない
〇好ましい介助...足がフットサポートに乗っている
2. 座り直し介助のポイント②:手でアームサポートを持ってもらう
介護現場で行われることが多い座り直し介助として、「介助者が利用者さんの後方に立って脇の下から手を入れ、腕をつかんで引き上げる」という方法があります。この方法は手順がわかりやすいため、経験が浅い職員でも行いやすいというメリットがある半面、利用者さんが手の力を使えなくなってしまうデメリットもあります。
また、全介助の方法であるため、この介助を繰り返すと、利用者さんが自ら座り直そうとする主体性を失う恐れがあります。脇の下や腕を圧迫されることで、内出血のリスクも高まるでしょう。
こうしたデメリットを避けるため、座り直す際には利用者さんに車椅子のアームサポートを持ってもらいましょう。そうすることで、利用者さんは手でアームサポートを押して体を持ちあげる動きができ、介助量の軽減につながります。介護度が高い利用者さんであっても、手の力がまったくない方は少なく、アームサポートを持ってもらうことで、自らお尻を上げようとする意志(動き)を見せてくれることがあります。
△好ましくない介助...腕をつかんで持ち上げる
〇好ましい介助...手でアームサポートを持ってもらう
3. 座り直し介助のポイント③:前屈みになってもらう
利用者さんの足をフットサポートに乗せ、手でアームサポートを持ってもらったら、介助者は利用者さんの後ろに立ち、前屈みを促しましょう。大きく前に屈んでもらうことで、利用者さんのお尻の重さが軽くなり、楽に座り直し介助が行えるようになります。試しに、椅子に座った状態でお尻の下に手を入れてみてください。
お尻の下に手を入れて座る
すると、手のひらにずっしりとした重さを感じると思います。座り直し介助では、このお尻の重さをどれだけ軽くできるかが大切であり、そのために欠かせないのが前屈みです。試しに、お尻の下に手を入れた状態で前屈みになってみてください。
お尻の下に手を入れて前屈みになる
すると、前屈みになるほど、お尻の重さが軽くなるのを感じられると思います。そして、この状態であればお尻を楽に動かすことができます。利用者さんを介助する際も同じで、いかにお尻が軽い状態を作れるかが、座り直し介助の鍵を握っているのです。
先にポイント①②で手足を介助したのも、足でフットサポートを踏めたり、手でアームサポートをつかんだりできる状況を作り、利用者さんがより安心して前屈みになれるようにしたかったという狙いがあります。
△好ましくない介助...前屈みになっていない
〇好ましい介助...前屈みになっている
4. 座り直し介助のポイント④:お尻を介助して座り直す
利用者さんが前屈みの姿勢になっていれば、お尻の重さはだいぶ軽くなります。介助者は利用者さんの後ろからお尻を支え、座り直し介助を行いましょう。この時の介助方法は、大きく分けて2通りあります。
1つ目は、お尻を左右交互に動かしてもらう方法です。お尻は割れ目を中心に二つに分かれているため、そうすることでお尻の左右に重さを移すことができます。試しに、お尻の下に両手を入れ、体を左右に傾けてみてください。
お尻の下に手を入れて左右に傾く
体の傾きに合わせて手のひらにかかるお尻の重さも変わり、交互に軽くなったり、重くなったりするのが感じられるのではないでしょうか。この重さの移動を利用し、利用者さんに左右に傾いてもらいながら、軽くなったほうのお尻を片側ずつ介助すれば、楽に座り直してもらえます。
〇好ましい介助...お尻を片側ずつ交互に座り直す
2つ目は、前後に揺れてもらう方法です。これは体が硬かったり、恐怖心が強かったりして、左右に傾けるのが苦手な利用者さんに行います。体を前後に軽く揺らしてもらうと、お尻の重さが軽くなったり、重くなったりするので、体を前に倒してお尻が軽くなったタイミングを見計らって介助すると、楽に座り直すことができます。
〇好ましい介助...前後に揺れてもらいながら座り直す
5. 座り直し介助のポイント⑤:体の弱点を圧迫しない
座り直し介助の方法には、好ましいとはいえないものがあります。例えば、介助者が利用者さんの脇やズボンを持って引き上げる方法は、あまりおすすめできません。なぜなら、利用者さんの体の弱点を圧迫しかねないからです。
人の代表的な弱点は、首・脇・腰・股といった体の繋ぎ目になる柔らかな部位です。利用者さんはこれらの部位に触れられると抵抗を感じ、体を固めがちになる(=緊張が高まる)ため、動きにくくなってしまいます。また、脇の下に手を入れて引き上げる方法のリスクは、弱点の圧迫だけではありません。肩の柔軟性が低下している利用者さんの場合、骨折のリスクも高まってしまいます。
ズボンを持って引き上げる方法も、弱点である腰と股を圧迫し、衣服の乱れや破損につながる恐れがあります。ポイント④で行った重さの移動を活用すれば、弱点に触れることなく介助できるので、介助量を軽減したいときは実践してみてください。
△好ましくない介助...弱点(脇)を圧迫する介助
△好ましくない介助...弱点(腰・股)を圧迫する介助
6. 座り直し介助のポイント⑥:車椅子前輪の向きを前側にする
車椅子に座っている利用者さんの座り直し介助を行う場合は、前輪の向きを注視してください。前輪は、360度自由に旋回できる「自在輪」と呼ばれるタイプがほとんどです。そのため、前輪が後ろ向きのまま座り直し介助を行うと、利用者さんが前屈みになった際に車椅子の前側に重さが偏り、バランスが崩れて転倒してしまう恐れがあります。大柄な利用者さんの場合は、特に注意しましょう。
前輪が前側を向いていれば、利用者さんが前屈みになっても車椅子が安定するため、事故のリスクを軽減できます。前輪の向きを変える際は、車椅子を少し後方に引くようにすると、両側の前輪が前を向くので、介助者が手で動かすよりも効率的に行えます。
△好ましくない介助...前輪が後ろを向いている
〇好ましい介助...前輪が前を向いている
7. 座り直し介助のポイント⑦:シーティングで安定した座面を作る
座り直し介助は、安定した座面で行ったほうが介助量を軽減できます。人は不安定な座面に座ると、姿勢を保つことに多くの力を使うため自由に動けません。これは、バランスボールに座っている状態を想像してもらえればわかりやすいと思います。バランスボールは座面が不安定なため、その場でお尻を動かして座り直すのは簡単ではありません。しかし、家具の椅子のように座面が安定した所に座っていれば、お尻が動かしやすくなり、座り直しも楽に行えます。
不安定な座面に座っている
安定した座面に座っている
しかし、車椅子の座面は折りたたみができるようにシート状になっており、利用者さんが座ると「たわみ」が生じて不安定になります。そして、この上に柔らかな車椅子用クッションを敷くと、利用者さんはバランスボールに座っているような状態になり、自由に体を動かすことが難しくなります。
そこでおすすめしたい工夫が、車椅子の上に木の板を敷くことです。木の板があることで座面のたわみが解消され、クッションの安定性も高まるため、利用者さんはお尻を動かしやすくなります。その結果、座り直し介助も行いやすくなるでしょう。木の板を敷くような車椅子への工夫は「シーティング」と言われ、座位を整えるのに効果的です。詳しいやり方は、こちらの記事を参考にしてください。
車いす座位の崩れはどうすれば整うの?プロが教える3つのポイント|認知症ケアの現場から(27)
介護現場で座位が左右に傾く利用者さんに試したい、効果的なシーティング2選|認知症ケアの現場から(28)
△好ましくない介助...クッションだけの不安定な座面
〇好ましい介助...クッション+木の板の安定した座面
8. まとめ
今回は、利用者さんに心地よい介護技術として、「座り直し介助のポイント」をお伝えしました。ただし、利用者さんによって、長年培われてきた動きの習慣や体の特性は異なります。逆に動きにくくなってしまう場合は、無理にポイントを当てはめようとせず、その方に合わせた心地よい動きを探ってみてください。
なお、介護技術への理解を深めたい方には、「動きの学習」の専門家である谷口奨先生が提唱するシンプルラーニング・予防介助の考え方をおすすめします。介助に悩んだ時には参考にしてみてください。
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