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ニュース 介護業界ニュース 2025/06/24

#インタビュー

認知症の高齢者が働く飲食店を開業した理由は?|歴17年の介護福祉士が営む「ちばる食堂」

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介護のみらいラボ編集部コメント

愛知県岡崎市にある「ちばる食堂」は、認知症の人がホールスタッフを務める飲食店です。認知症の人が働くお店は全国的にも珍しく、国内のみならず、海外からも注目を集めています。開業のきっかけや採用の工夫について、店主の市川貴章氏に話を聞いてみました。

1.「認知症の人と働く飲食店を開こう」と思ったきっかけ

――「認知症の人と働く飲食店を開こう」と思ったきっかけを教えてください。

介護福祉士として働いていた際に、「もっと高齢者の選択肢を増やしたい」と考えたことがきっかけです。私はもともと介護老人保健施設で17年間働いており、長年介護の現場に携わってきました。その際に感じたのは、入居者さん自身の意思で物事を選択する場面が非常に少ないことです。例えば、入居者さんが「〇〇がしたい」と言っても、施設や介護保険のルール上、残念ながら取り組めないことは数多くありました。このような状況を見るうちに、高齢者が自分自身の意思で選択・行動できる機会をもっと増やしたいと考えるようになったのです。そこで、「高齢になり介護が必要な状況になっても、選択肢を持ち続けられる方法」を模索し始めます。

また、介護に対するネガティブなイメージを変えたいと思ったことも、きっかけの一つです。介護に馴染みがない人からすると、「介護=何もできない状態」と捉えられがちで、以前から間違ったイメージが広まっているように感じていました。そして、その理由を考えたところ、「介護現場から社会への発信力が足りないために、一般社会との間に壁ができてしまっているのではないか」ということに気がつきます。そこで、高齢者にとっての選択肢を減らさないことと、世間の介護イメージを変えることの両方を叶える方法を検討していた時に、「注文をまちがえる料理店」の取り組みを知ったのです。注文をまちがえる料理店とは、認知症の方がホールスタッフを務める期間限定のレストランのことで、現在は全国的な取り組みとしても知られています。そこで、「期間限定の取り組みではなく、認知症の方がずっと働けるお店をオープンさせたい」と考え、ちばる食堂の開店に至りました。

2.認知症の人が日常的に働けるお店にした理由

――期間限定ではなく、認知症の人が日常的に働けるお店にした理由はありますか。

就労に対する一時的な喜びだけで終わらせず、その喜びを持続させたいと考えたためです。以前、ちばる食堂の開店前に、「注文をまちがえる日本料理店」というイベントを開催したことがあります。当時はまだお店のイメージが固まっていなかったため、まずは期間限定のイベントを開催してみようと考えたのです。実際に開催してみると、参加者の皆さんは非常に喜んでくださり、本当に開催して良かったと感じました。また同時に、「たとえ昨日のことを忘れてしまっても、その喜びが毎日続く場を設けたい」と考え、常設の店舗を開くことを決意。2019年4月にちばる食堂を開きました。飲食店は、ビジネス的には決して強い業態ではありません。しかし、多くの方に介護への関心を持ってもらうには、具体的なアクションが必要だと考えています。ちばる食堂から少しずつ新たな意識が広まることで、「認知症になっても、自分らしく生きるための選択肢がある社会」に近づけば嬉しいです。

混雑時は、ランチタイムだけで140食近い注文が入る日もある

混雑時は、ランチタイムだけで140食近い注文が入る日もある

3.スタッフの募集方法は?

――「ちばる食堂」の開店にあたり、スタッフはどのように募集したのでしょうか

立ち上げメンバーを募集した際は、地域包括支援センターに求人を出して、そこから近隣の居宅介護支援事業所にFAXで情報を送ってもらいました。その結果、ケアマネジャーからの紹介を通じて、お店で働くことに興味を持った人を採用する形となりました。ただし、スタッフが入院などで働けなくなった場合は、SNSで求人募集を行うこともあります。SNS経由では、本人よりもご家族が投稿を見つけ、問い合わせに繋がるケースが多いですね。

――採用時に心がけていることはありますか。

本人の意思を尊重することです。SNSなどで当店のことを知り、「ぜひ家族を働かせたい」と連絡をいただくことも少なくありません。しかし、そこで即答するのではなく、必ずご本人と直接話し、働く意思があるかを確認するようにしています。この意思確認は非常に重要で、本人に働く気持ちがない場合は、長続きしづらいと感じています。当店には、オープン当初から現在まで6年以上働き続けているスタッフもいます。やはり「働きたい」という気持ちが強いからこそ、楽しんで働き続けられるのではないでしょうか。

4.今後の展望

――今後の展望をお聞かせください。

介護福祉士の資格を持つ人が、介護の現場以外で活躍できる道を提案したいと考えています。せっかく資格を取得しても、「現場で働き続ける自信がない」と、全く異なる職種に転職してしまう人は少なくありません。しかし、多くの人は介護の仕事が好きで、本当は続けたいと思っているのではないでしょうか。それだけに、現場を離れざるを得ない状況は非常にもったいないと感じています。

これは現時点でのアイディアではありますが、大手カフェチェーンが障がい者雇用を推進するように、高齢者と介護福祉士を同時採用できる仕組みがあれば理想的ではと考えています。企業が認知症の高齢者の対応に迷った場合に備え、介護福祉士も一緒に採用するのです。さらに、資格手当をつければ、より多くの人が新たな選択肢を持てるようになるでしょう。介護の現場経験のある人は、コミュニケーション能力が高いうえに、ヘルパー経験者の中には料理が得意な人も多いため、特に飲食店との相性が良いのではないでしょうか。「今後は、介護福祉士が施設以外でもキャリアを築いていけるような仕組みをつくることが欠かせないのでは」と考えているため、そのための具体的な提案ができればと思っています。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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