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ニュース 医療介護最新ニュース 2020/12/25

全体の約6割 急増する高齢者の救急搬送を減らすには?〜岩瀬 哲(埼玉医科大学病院救急科・緩和医療科教授)

介護のみらいラボ編集部コメント

1999年には救急搬送の約37%でしかなかった高齢者層ですが、2019年には約60%占めるようになり、大幅に増加しています。そのうち8割が転倒によるものでした。
去年過去最高の件数、約664万件を記録してしまった救急搬送。介護保険の使用方法を伝え、緩和ケアを行うことによって、高齢者の救急再搬送を減らした埼玉医科大学病院救急科の緩和医療科 岩瀬哲先生が解説します。

▶救急科と緩和医療科を融合して、ADL低下時に高齢者を地域包括ケアにつなげるシステムを全国で構築し高齢者の救急搬送の削減を目指す

岩瀬 哲(いわせ さとる):1994年埼玉医科大学卒業。東大病院緩和ケア診療部副部長、東京大学医科学研究所附属病院緩和医療科講師を経て、2017年より現職。「遠隔在宅支援システムの有用性に関する研究」を進行中。医局員も募集中。

全国の救急出動件数は年々増加し、2019年は約664万件で過去最高を記録した。埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)では、救急科と緩和医療科を融合し、高齢者の救急搬送を減らす日本初の試みを進めている。この取り組みを進める同院救急科・緩和医療科教授の岩瀬哲氏にインタビューした。

救急再搬送削減には緩和医療と介護支援が必要

─埼玉医科大学病院では救急科と緩和医療科を融合し、どのような取り組みを進めているのですか。

救急搬送患者の増加が問題になっていますが、年々増えているのは高齢者の搬送です。総務省の「救急・救助の現況」(速報値)によると、子どもや成人の搬送はほぼ横ばいなのに対し、1999年に救急搬送患者の36.9%だった高齢者の割合が、2019年には60%に達しています。

事故種別にみると、全国的に高齢者の救急搬送の約8割は、転倒がきっかけです。この状況は当院でも同じで、脱水などを起こして転倒した後、動けなくなって救急搬送される高齢者が増えているのですが、そういう方たちの大半はいわゆるロコモティブシンドロームやフレイルの状態で、治療しないと命に関わる急性期の病気や外傷があるわけではありません。

ところが、急性期疾患ではないので入院が必要ない「軽症」と判断し自宅へ帰すと、また転倒したり急激に体調を崩したりして救急再搬送されるという悪循環に陥ります。2017年に当院に救急再搬送された65歳以上の高齢者の初回搬送時の転帰を調べたところ、帰宅が61.6%、入院が36.8%で、統計学的有意に帰宅患者の再搬送率が高いという結果でした。

そこで、当院では、救急搬送されてきた高齢者の救急の入り口を救急科が、救急出口を緩和医療科が担当する体制を構築し、高齢者の救急搬送の予防に取り組んでいます。もちろん、心血管疾患や骨折して手術が必要な場合など、急性期治療が必要な患者さんは各診療科につなげます。

臓器別の診療科では治療が難しいロコモやフレイルの患者さんは救急科・緩和医療科の病床に入院してもらい、痛みの軽減や症状の緩和などの治療をすると共に、地域包括ケアにつなげて、介護支援を行っています。

全疾患が緩和医療の対象に

─救急搬送されて来る高齢者は、介護保険を利用していない人が多いのですか。

介護が必要な状態だと考えられる高齢患者さんのうち、介護保険を利用している人は1割程度です。一般の人にも医師にもあまり知られていませんが、24時間定期巡回・随時対応型訪問介護看護など介護保険のサービスを活用すれば、独居の高齢者でも自宅で最期まで生活し続けられます。

救急搬送後、当院の救急科・緩和医療科に入院中の高齢患者さんには、必要に応じて介護保険申請手続きをしてもらい、その方に必要な介護サービスをコーディネートしています。介護保険の申請のサポートまで行う緩和医療科は他に例がないのではないでしょうか。

─緩和医療の対象はがんの患者さんだけではないわけですね。

はい。そもそも、緩和医療と言えばがん患者さんのためのものと捉えられているのは日本だけです。世界保健機関(WHO)は、「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチ」と定義しています。

当院の緩和医療科で診ている患者さんの6割は、心不全や呼吸不全、フレイルをはじめ、がんではない病気の患者さんです。

高齢者の救急搬送を予防するシステムの構築を

─救急科と緩和医療科の融合による成果は出ていますか。

成果については論文で報告する予定ですが、当院に救急搬送された高齢者の再搬送は減っています。そもそも救急搬送される前の段階で、住み慣れた地域で必要な医療ケアや適切な介護サービスが受けられるシステムを構築すれば、高齢者の救急搬送自体が減ると考えており、その有用性を検証する臨床試験を始める予定です。

─どのような臨床試験ですか。

多くの高齢者は、臓器機能の低下と共に徐々にADL(日常生活動作)が低下し、転倒したり症状が急激に悪化したりして救急搬送されています。そこで、ケアマネジャーがスマートフォンとSNSを使って簡単にADLモニタリングができるツールを構築しました。

自宅で暮らす高齢者には、このツールでADLが低下したと評価された時点で、地域包括ケア病院(病棟)へ計画入院してもらいます。ADLが低下した時点で適切な医療を施し、その退院後は訪問診療、訪問看護、適切な介護サービスが受けられる体制を整えれば、症状悪化や転倒による救急搬送は防げると考えています。

来年度から「遠隔在宅支援システムの有用性に関する研究」として、ADLが低下した時点で介入した場合と介入しなかった場合の無作為化比較試験を埼玉県内で始める予定です。

─課題はありますか。

高齢者の救急搬送が減ると経営的に困る病院もあるので、そういった病院も一緒に、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられる地域包括ケアを構築できるかが課題です。

─高齢者の救急搬送を減らすために、開業医の役割をどう考えていますか。

このシステムの有用性を検証したうえで全国に広げる際には、地域医師会の先生方に指導的な役割をお願いできればと考えています。既に全国8割の地域医師会で、「メディカルケアステーション」など医療と介護が情報交換するツールを活用しています。開業医の先生方には、高齢患者さんのADLが変化した時点で、地域包括支援センターやケアマネジャーなどと情報交換して、早めに地域包括ケア病棟につなげ、在宅医療を支援するなど、高齢者が急変して何度も救急搬送されることがないようなシステム作りに参加していただきたいです。全国で高齢者が安心して暮らし続けられる地域包括ケアを構築しない限り、高齢者の救急搬送は増える一方だと思います。

(聞き手・福島安紀)

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出典:Web医事新報

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