再生不良性貧血 金沢大学附属病院輸血部長 山﨑宏人先生
何らかの原因で骨髄の造血幹細胞が持続的に減少した結果,最終的には汎血球減少を呈する症候群である。大部分の患者では,免疫学的機序が発症に関与している。新規発症者数は年間約8人/100万人と推定されており,医療費助成が受けられる指定難病のひとつである。
▶診断のポイント
貧血,出血傾向,発熱が三大症状であるが,急性型では発熱や出血傾向が先行し,貧血はむしろ軽度である。一方,ゆっくり進行する慢性型では高度の貧血を認めるにもかかわらず,自覚症状の乏しい例が多い。
Hb10g/dL未満,好中球1500/μL未満,血小板10万/μL未満のうち,少なくとも2つ以上を満たし,骨髄が低形成で,汎血球減少をきたす他の疾患が除外されれば,再生不良性貧血と診断する。免疫病態が関与した再生不良性貧血は,貧血や白血球減少の出現より血小板減少が先行していることが多いので,診断時に血小板数が10万/μL以上の場合は,他の疾患を慎重に鑑別する。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
免疫抑制療法や同種骨髄移植といった造血回復をめざした治療と,輸血・G-CSF投与・鉄キレート療法などの症状緩和をめざした支持療法がある。どの治療法を選択するかは,網赤血球数・好中球数・血小板数の3つを指標とした重症度と年齢に病態を加味して決める。たとえ輸血を必要としない例であっても,経過観察とはせずに,早期診断・早期治療を心がける。
【造血回復をめざした治療】
輸血を必要としないstage 1およびstage 2a例では,血小板輸血を必要とする抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(ATG)の投与は推奨されない。また,同種骨髄移植の適応もない。血小板数が10万/μL未満ならシクロスポリン(CsA),10万/μL以上なら蛋白同化ステロイドを第一選択薬とする。反応が乏しい場合は,エルトロンボパグ(EPAG)を追加してもよい。stage 2b以上では,ATG+CsA±EPAG±G-CSF併用による免疫抑制療法か同種骨髄移植が選択される。難治例にはロミプロスチム(ROMI)を追加してもよいが,EPAGとの併用はできない。
【支持療法】
貧血症状を伴う場合は,Hb値6~7g/dL程度を保つように赤血球輸血を行う。出血傾向を伴う場合は,血小板数5000~1万/μL程度を保つように血小板輸血を行う。好中球数が500/μL未満で重症感染症合併のリスクが高い例や,実際に合併している例では,G-CSF投与を考慮する。頻回の赤血球輸血による輸血後鉄過剰症例では,輸血総量とフェリチン値を指標に鉄キレート薬であるデフェラシロクスを併用する。
▶治療の実際
【stage 1~2a】
〈血小板が10万/μL未満の場合〉
一手目:ネオーラル®10mgカプセル・25mgカプセル・50mgカプセル(シクロスポリン)1回1.50~1.75 mg/kg 1日2回(朝・夕食後)
〈血小板が10万/μL以上の場合〉
一手目 :プリモボラン®5mg錠(メテノロン)1回2錠1日2回(朝・夕食後)
CsAの投与法:内服から2時間後の血中濃度(C2)が600ng/mL以上となる最少用量で継続する。期待したC2値が得られない場合は食前投与にする。血清Cr値がCsA投与前の1.5倍以上になったら投与量を25%減量する。血球数が回復傾向にある間は投与を続ける。再発例の多くはCsAの早期中止が原因と考えられる。CsAは血球数の回復が得られても,少なくとも1年間は継続し,血球数増加の頭打ちを確認後,2~3カ月ごとに0.5~1.0mg/kgずつのペースで減量するとよい。
二手目 :〈一手目に追加〉レボレード®12.5mg錠・25mg錠(エルトロンボパグ)1回25~100mg 1日1回〔空腹時(食 事前後の2時間を避ける)〕
EPAGの投与法:25mgから開始し,肝障害の出現に注意しながら,効果がなければ2週間ごとに25mgずつ最大100mgまで増量する。
【stage 2b~stage 5】
一手目 :免疫抑制療法(以下の①~④を実施)
①サイモグロブリン®注25mg(抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン)1回2.50~3.75mg/kg 1日1回(12時間以上かけて緩徐に点滴静注),5日間連続
②ソル・メドロール®注125mg(メチルプレドニゾロンコハク酸)1回2mg/kg 1日1回(1~5日目,点滴静注),1回1mg/kg 1日1回(6日目,点滴静注),プレドニン®5mg錠(プレドニゾロン)1回0.5mg/kg 1日1回(朝食後)(8,10,12,14,16,18,20日目)
③ネオーラル®10mgカプセル・25mgカプセル・50mgカプセル(シクロスポリン)1回1.50~1.75mg/kg 1日2回(朝・夕食後)
④グラン®注M300μg(フィルグラスチム)1回400μg/m21日1回(点滴静注),またはノイトロジン®注250μg(レノグラスチム)1回5μg/kg 1日1回(点滴静注)
二手目 :〈一手目に追加〉TPO-RA製剤:レボレード®12.5 mg錠・25mg錠(エルトロンボパグ)1回25~100mg 1日1回〔空腹時(食事前後の2時間を避ける)〕,またはロミプレート®注(ロミプロスチム)1回10~20μg/kg週1回(皮下注)
ROMIの投与法:10μg/kgから開始し,4回投与しても反応がなければ,5μg/kgずつ最大20μg/kgまで増量する。
なお,EPAGは治療開始時からの併用も可能である。その場合は,1回75mg 1日1回(空腹時)とする。
【鉄キレート療法】
一手目 :ジャドニュ®90mg・360mg顆粒分包(デフェラシロクス)1回12mg/kg 1日1回(18mg/kgまで増量可能)
【参考資料】
▶ 特発性造血障害に関する調査研究班:再生不良性貧血診療の参照ガイド令和1年改訂版.
[http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2020/02.pdf]
山﨑宏人(金沢大学附属病院輸血部長,病院臨床教授)
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出典:Web医事新報
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介護のみらいラボ編集部コメント
あまり自分が貧血だと思ったことがないのに、健康診断などの検査結果で貧血と出た…そんな時、再生不良性貧血を疑って、早めに病院で受診したほうがいいかもしれません。
「再生不良性貧血」とは、何らかの原因で骨髄の造血幹細胞が持続的に減少した結果、最終的には汎血球減少を呈する症候群のことです。
新規発症者数は年間約8人/100万人と推定され、医療費助成が受けられる指定難病のひとつです。
主な症状は貧血、出血傾向、発熱の3つとなりますが、急性型では発熱や出血傾向が先行し、貧血はむしろ軽度となります。一方で、ゆっくり進行する慢性型では高度の貧血があるにもかかわらず、自覚症状が乏しい例が多いそうです。