ワクチン接種直後に起こるアナフィラキシーは治療できるか? 川崎医科大学中野貴司教授解説
(1)アナフィラキシーとは
ワクチンの接種現場では,接種後のアナフィラキシーに対応できる準備が不可欠である。その理由は,アナフィラキシーは接種直後(ほとんどが接種後30分以内)に起こり,時には生命にもかかわる副反応だからである(図1)。
アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与えうる過敏反応」であり,アナフィラキシーショックとは「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義される4-1)。重篤なアレルギー反応を「アナフィラキシーショック」と総称するのは本定義からは誤用であり,「アナフィラキシーショック」は「アナフィラキシー」の病態の一部である。
アナフィラキシーはアレルゲン等に対する生体の反応であり,造影剤・抗菌薬・鎮痛薬などの医薬品投与,鶏卵・ソバ・ナッツ類などの食物摂取,ハチ刺傷やラテックスへの接触など,発症の原因は様々である。ワクチン接種後も,一定の頻度でアナフィラキシーが起こる。
(2)予診時の注意事項
"ワクチンの成分に対して,アナフィラキシーなど重度の過敏反応の既往のある者"は「接種不適当者」に該当し,当該ワクチンを接種しない。すなわち,当該ワクチンの1回目接種時にアナフィラキシーを呈した者に対して,2回目の接種は行わない(表1)。
ファイザー製ワクチンにはPEGが含まれている。したがって,PEGに対して重度のアレルギー反応の既往が明らかな者も,接種不適当者に該当する。
PEGは大腸検査時に用いる腸管洗浄薬,医薬品,スキンケア製品,ヘアケア製品,洗剤など,様々な用途で使用されている。すなわちPEGを含む医薬品や日用品は非常に多数存在するとともに,それらの製品には他の成分も含まれているため,実際にPEGが過敏反応の原因と特定されているケースは非常に稀と考えられる。
現実的には,アレルギー歴について丁寧に聴取し,原因の特定に至っていない場合も含めて,過去に重いアレルギー症状を起こしたことがある者に対しては,慎重に接種の適否を判断するとともに,接種後は30分間の経過観察を行うことが推奨される。
十分な説明と同意に基づいて慎重に接種適否の判断を行う必要がある者は,「接種要注意者」に該当する(表1)。食物アレルギー,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,アレルギー体質などがあっても接種は可能であるが,即時型のアレルギー反応の既往がある場合は,接種要注意者としての対応が必要である。
なお,ポリソルベートは,PEGと交差反応性を持つと言われている。PEGを含むワクチンは,国内ではファイザー製新型コロナワクチンが初めてだが,ポリソルベートは沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン,組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン,乾燥組換え帯状疱疹ワクチンなど既存のワクチンにも含まれている。また,医薬品のほかに乳化剤として様々な食品にも用いられている。
1回目のコロナワクチン接種後に,紅斑・発疹・瘙痒症など,重篤ではないがアレルギーが疑われる症状を呈した者は,「接種要注意者」に該当する(表1)。2回目の接種については,十分な説明と同意のもとに,接種する場合でも接種後30分間の経過観察が推奨される。また,接種を見合わせること,重度の過敏反応を発症した際に十分な対応ができる体制のもとで接種を行うことなどの選択肢も含めて,慎重に判断する。
(3)アナフィラキシーを疑わせる症状とその対応
ワクチン接種後にアナフィラキシーを疑わせる症状(表2)が出現した場合は,患者から目を離さずに症状経過を観察する。通常,アナフィラキシーは接種直後に発症することがほとんどであり,新型コロナワクチン接種後の海外でのアナフィラキシー報告4-2)においても,約70%は15分以内,約90%は30分以内に発症している(図2)。
また,アナフィラキシーでは通常,複数の臓器に症状が出現することをふまえて観察する。呼吸困難,血圧低下,不整脈,意識消失など緊急対応が必要な症状を見逃してはならず,早期に対処する。
なお,皮膚・粘膜症状はアナフィラキシー患者の80~90%,呼吸器症状は最大70%,消化器症状は最大45%,心血管系症状は最大45%,中枢神経系症状は最大15%に発現するとされている4-1)。
全身性アレルギー反応の臨床所見による重症度分類を表2に示した4-1)。グレード3の症状を含む複数臓器の症状,グレード2以上の症状が複数あれば,アナフィラキシーとしてアドレナリン投与などの対応が必要と考える。
(4)アナフィラキシーの治療
アナフィラキシーを疑った場合は,バイタルサインの確認,人を集める,必要に応じて患者を仰臥位にする,酸素を投与する,などを同時進行で進める。
まず必要な薬剤はアドレナリンであり,適応がある場合は筋肉内に注射する。静脈ルートの確保は,その後となっても差し支えない。アナフィラキシーの初期段階の対応では,アドレナリンの静脈内投与は行わない。
なお,初期の対応はワクチン接種現場で可及的速やかに行う必要があるが,事前に近隣の救急医療・高次医療機関と連携体制を整備しておくとともに,患者搬送の手段も準備しておくことが大切である。
(5)アドレナリンの使用方法
①投与量・投与方法
体重kg当たり0.01mg(最大量:15歳未満0.3mg,15歳以上0.5mg)を,大腿前外側部位(外側広筋)に,皮膚に対して90度の角度で筋肉内注射を行う。上腕三角筋中央部も筋肉内注射の部位として選択できる。
たとえば体重が60kgの場合,0.6mg(0.6mL)ではなく,15歳未満では0.3mg(0.3mL),15歳以上では0.5mg(0.5mL)となることに注意する。体重別のアドレナリン投与量を表3に示した。なお,最大量の年齢区分は,各ガイドラインや成書によって記載が異なる。
アドレナリンの筋肉内注射に用いる注射針は,通常長さ16~32mm程度,太さ23~25G程度のものを用いるが,体格や接種部位によって適宜調節する。
②使用する製剤
アドレナリン注射液として,アドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」(1mL)(テルモ),ボスミン®注1mg(第一三共)などがあるが,いずれも1mg/1mLである。
前者はシリンジ製剤であり,別途注射針を準備する。体重が20kg未満の場合,0.2mL未満の目盛りがないことに注意する。後者はアンプル製剤であり,1mLのシリンジと注射針を準備する。また,誤って,ボスミン®外用液0.1%(第一三共)を使用しないよう注意する。巡回チームによる接種や集団会場での接種など,オペレーションの便宜上の理由によっては,エピペン®注射液0.15mg/0.3mg(マイランEPD)を使用する場合も想定される。
③そのほかの注意事項
アドレナリン血中濃度は,筋肉内注射後10分程度で最高になり,40分程度で半減する。アナフィラキシーによる症状が持続する場合は,5~15分後に再投与することは可能である。
なお,交感神経アドレナリン受容体であるβ受容体を遮断するβ遮断薬を投与中の者では,アドレナリンに十分な反応を示さない場合がある。その場合,グルカゴン(β遮断薬の拮抗薬)を投与した上で,アドレナリンを投与すると有効との報告がある。ただし,グルカゴンはアナフィラキシーの治療薬としては健康保険適応外である。
また,初回のアナフィラキシー発症後,半日程度経過して再発する「二相性アナフィラキシー反応」が,新型コロナワクチン接種以前で時に報告されている。
【文献】
4-1) 日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会:アナフィラキシーガイドライン, 2014.
[https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF]
4-2) CDC:MMWR. 2021;70(2):46-51.
医事新報編集部より:本記事は医療関係者向けに制作しています。本記事に記載されている事項は発行時点における最新情報に基づく著者の見解であり,正確を期するよう,著者・出版社は最善の努力を払っています。しかし,医学・医療は日進月歩であるため,実際に,診断・治療等を行うにあたっては,読者ご自身で細心の注意を払われるようお願いいたします。
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出典:Web医事新報
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介護のみらいラボ編集部コメント
ワクチン接種現場において接種後のアナフィラキシーに対応できる準備が不可欠です。アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応」であり、アナフィラキシーショックとは「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義されます。
「接種直後に起こるアナフィラキシーは治療できますか?」という質問に、中野貴司氏(川崎医科大学小児科教授)が「予診時の注意事項」「アナフィラキシーを疑わせる症状とその対応」「アナフィラキシーの治療」「アドレナリンの使用方法」など、項目ごとに分かりやすく説明しています。 参考文献は本文下部をご覧ください。