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ニュース 医療介護最新ニュース 2021/07/07

#サルコペニア#フレイル#糖尿病#治療法

特集:糖尿病患者をサルコペニア・フレイルにしないためのコツ 東京都健康長寿医療センター 荒木厚副院長

介護のみらいラボ編集部コメント

介護施設のご利用者で糖尿病の方も多くなりました。高齢者糖尿病の併存症として認知症とともに大きな問題となっているのが、大まかに言うと体が虚弱な状態になるサルコペニアやフレイルです。
その定義は骨格筋量低下かつ筋力低下、または身体機能低下。一般の診療所においても、握力の低下(男性28㎏未満,女性18kg未満)、または5回椅子立ち上がり時間延長(12秒以上)の場合は「サルコペニアの可能性あり」と判定されます。
骨格筋量を測定しなくても、この時点から運動や食事などによる介入を行う必要があります。
今回は糖尿病と老年病の専門医、指導医である荒木厚先生(東京都健康長寿医療センター副院長)が「糖尿病患者をサルコペニア・フレイルにしないためのコツ」と題して解説しています。

執筆:荒木 厚 (東京都健康長寿医療センター副院長)

荒木 厚
1985年京都大学医学部大学院卒業。英国と米国に留学。東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科部長を経て,'19年より副院長。糖尿病と老年病の専門医,指導医。老年医学が発展し,フレイルを考慮した高齢者診療の普及を願っている。

1 サルコペニア・フレイルの診断・頻度・危険因子・予後

・サルコペニアの診断の定義は,骨格筋量低下かつ筋力低下または身体機能低下。
・一般の診療所において,握力低下(男性28㎏未満,女性18kg未満)または5回椅子立ち上がり時間延長(12秒以上)の場合,サルコペニアの可能性ありと判定。骨格筋量を測定しなくても,この時点から運動や食事などによる介入を行う。
・身体的フレイルの指標は,改訂J-CHS基準において,体重減少,筋力低下,歩行速度低下,疲労感,身体活動量低下の5項目中3項目以上。また,CGAに基づいたフレイル指標:基本チェックリストなど。
・糖尿病は,フレイルが約1.48倍,サルコペニアは1.52倍起こりやすい。
・サルコペニアとフレイルの危険因子は,インスリン抵抗性・分泌低下,HbA1c高値(8.0%以上),動脈硬化危険因子,低栄養,身体活動量低下など。
・フレイルでは重症低血糖,HbA1c低値(7.0%未満)なども危険因子。
・糖尿病患者にフレイルが合併すると死亡,入院,認知機能障害,要介護のリスクが上昇。

2 サルコペニア・フレイルを考慮した食事療法と運動療法

・適正なエネルギー量を摂取し,極端なエネルギー制限を避ける。
・十分なタンパク質を摂取する:少なくとも1.0~1.2g/kg体重/日のタンパク質を摂取。
・ロイシンが多い肉,魚,乳製品,大豆製品,卵などを組み合わせて摂取する。
・ビタミン(D,A,B群)とミネラルを十分に摂取する。
・食品の種類の多様性を高める。
・レジスタンス運動:インスリン抵抗性を改善し,筋力を増加させ,HbA1cを低下させる。
・市町村での運動教室,「通いの場」,介護保険のデイケアの利用や椅子を使ってのスクワット:少なくとも週2回以上を行う。
・多要素の運動:柔軟性運動,有酸素運動,バランス運動を組み合わせ,レジスタンス運動の強度を強めていく運動。
・多要素の運動はフレイルを改善させるだけでなく,認知機能にも好影響。

3 サルコペニア・フレイルを考慮した薬物療法

・低血糖の起こりにくいものを中心に薬剤選択を行う。
・SGLT2阻害薬,高用量メトホルミン,GLP-1受容体作動薬では,体重減少によるサルコペニアに注意する。
・インスリン分泌が低下している場合にはインスリン療法を考慮。
・メトホルミンの使用では,eGFRで腎機能を評価して用量調節を行う。
・服薬アドヒアランスの低下がある場合は治療の単純化を行う:①服薬数や回数を減らす,②服薬のタイミングを統一する,③一包化する(SU薬は除く),④配合剤の利用を考慮する。
・2型糖尿病患者の複数回のインスリン注射を,経口薬の併用により,①1日1回の持効型インスリン,②週1回GLP-1受容体作動薬などに変更する。

4 血糖コントロール目標設定と高齢者総合機能評価

・高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)は,認知機能とADLの評価に基づいてカテゴリー分類し,低血糖リスクが危惧される薬剤の使用の有無を考慮して設定する。
・DASC-8によってカテゴリー分類を簡易に行うことができる。
・カテゴリーの段階が進むにつれて,フレイル,認知症,うつ傾向,低栄養,服薬アドヒアランス低下の頻度が増加する。
・カテゴリーⅡ以上ではフレイルを考慮した運動療法,社会参加,食事療法,治療の単純化を行う。
・カテゴリーⅢでは減薬・減量の可能性を考慮する。

1 はじめに

人口の高齢化とともに高齢者の糖尿病患者が増えており,この高齢者糖尿病の併存症として認知症とともに問題となっているのがサルコペニア・フレイルである。

高齢者のサルコペニア・フレイルは2型糖尿病発症の危険因子であるが,その一方で,糖尿病はサルコペニア・フレイルをきたしやすいことから,両者は双方向の関係である。高齢期ではサルコペニア・フレイルを考慮した糖尿病治療(食事療法,運動療法,薬物療法)が望まれる。

本稿ではサルコペニア・フレイルを防ぐための糖尿病治療のあり方について述べてみたい。

2 サルコペニア・フレイルのスクリーニング・診断

サルコペニアの診断の定義は骨格筋量低下,かつ筋力低下,または身体機能低下(歩行速度低下など)となっている。

診断には,握力低下または歩行速度低下などとともに,DXA法(dual-energy X-ray absorption)またはBIA法(bioelectrical impedance analysis)による骨格筋量低下を確認する。

アジア・サルコペニア・ワーキング・グループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)のサルコペニアの診断基準が2019年に改訂され,握力低下(男性28㎏未満,女性18kg未満)または5回椅子立ち上がり時間延長(12秒以上)のいずれかがある場合は,サルコペニアの可能性ありと判定する(図1)1)。この時点から運動や食事などによる介入を行うこととされている。糖尿病患者では骨格筋量が低下せずに握力が低下しやすく,筋肉の質が低下しやすいとも言われている。したがって,一般の糖尿病診療においては,握力または5回椅子立ち上がり時間を測定するのがよい。

フレイルとは,加齢によって予備能が低下し,その身体的ストレスのために要介護や死亡に陥りやすい状態と定義される(図2)2)。フレイルは身体的フレイルと高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)に基づく広義のフレイルがある。身体的フレイルの指標として改訂J-CHS(cardiovascular health study-Japanese version)基準があり,体重減少,筋力低下,歩行速度低下,疲労感,身体活動量低下の5項目の内,3項目以上該当する場合がフレイルである(図2)。また,CGAに基づいたフレイル指標として基本チェックリストなどがある。

3 サルコペニア・フレイルの頻度,危険因子,予後

糖尿病はフレイルが約1.48倍,サルコペニアは1.52倍起こりやすい3)4)。サルコペニアとフレイルの共通の危険因子は,インスリン抵抗性,インスリン分泌低下,HbA1c高値(8.0%以上),糖尿病神経障害,動脈硬化の危険因子,脳の白質病変,併存疾患(変形性関節症など),低栄養,身体活動量低下などがある。フレイルではさらに重症低血糖,HbA1c低値(7.0%未満),社会ネットワークの減少なども危険因子となる。

糖尿病患者にフレイルが合併すると死亡,入院,救急受診,QOL低下,認知機能障害,うつ,要介護のリスクが上昇する3)。

また,肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満は単なる肥満と比べて,フレイル,ADL低下,転倒,認知機能障害,骨粗鬆症,大腿骨頸部骨折,死亡をきたしやすく,糖尿病のリスクも高い。サルコペニア肥満は筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性,炎症,ビタミンD低下などがその機序として考えられている。

4 サルコペニア・フレイルを考慮した食事療法

食事療法では適正なエネルギー量を摂取し,極端なエネルギー制限を避ける。「糖尿病診療ガイドライン2019」では高齢者の目標体重は身長(m)×身長(m)×22~25から計算し,身体活動量を反映したエネルギー係数をかけてエネルギー摂取量を計算する。これにより,フレイルの高齢者では従来よりも多いエネルギー量を指示することが可能である。

Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial(J-EDIT)の6年間の追跡研究では,目標体重当たりのエネルギー摂取量が約25kcal/㎏体重未満の群と約35kcal/㎏体重以上の群で死亡リスクが増加しており,目標体重に基づいた過不足ないエネルギー量を摂取することが大切である5)。

十分なタンパク質を摂取することも大切である。欧州臨床栄養代謝学会(European Society of Clinical Nutrition and Metabolism:ESPEN)では,健康な高齢者の筋肉の量と機能を維持するために,少なくとも1.0~1.2g/kg体重/日のタンパク質を摂取することを推奨している。低栄養のリスクがある場合やフレイルがある場合には,1.2~1.5g/kg体重/日のタンパク質を摂取することが望ましい。高齢糖尿病患者の追跡研究でも1.0g/kg体重/日以上のタンパク質摂取の群では身体機能低下が少なかったと報告されている6)。また,Japan Diabetes Complications Study(JDCS)とJ-EDITの2型糖尿病患者2494名のプール解析では,75歳以上でのみ,タンパク質摂取が減少するにつれて死亡リスクが増加した。最も少ない四分位群(0.92g/kg体重未満)で最も死亡リスクが大きく,1.15~1.41g/kg体重以上群の死亡リスクが小さいという結果であった7)。したがって,重度の腎機能障害がなければ,75歳以上の高齢者糖尿病では十分なタンパク質を摂取することが大切である。

タンパク質を多く摂取する根拠は,ロイシンが筋肉のタンパク質の合成を促す作用があることに基づいている。ロイシンは肉だけでなく魚,乳製品,大豆製品,卵などに含まれるので,これらの食品を組み合わせて摂取するように指導する。また,ビタミン(D,A,B群)とミネラルを十分に摂取することも大切である。

食品の多様性の低下はフレイルと関連する。図38)の「さあにぎやか(に)いただく」の10食品(魚,油,肉,牛乳・乳製品,緑黄色野菜,海藻,いも,卵,大豆製品,果物)の中で7品目以上を毎日とるように勧め,食品多様性を高めることもフレイル予防に有用である。

5 サルコペニア・フレイルを考慮した運動療法

フレイルの発症や進行を防ぐための運動療法には,レジスタンス運動または多要素の運動(multi-component exercise)がある。高齢糖尿病患者におけるレジスタンス運動は,インスリン抵抗性を改善し,筋力を増加させ,HbA1cを低下させる。レジスタンス運動を行うと骨格筋のタンパク合成は48時間持続するので,少なくとも週2回以上を行うことが望ましい。具体的には市町村での運動教室,ジム,太極拳,ヨガ,椅子を使ってのスクワットなどを勧める。

介護保険の介護認定を申請し,デイケアのサービスを利用することも大切である。「通いの場」は介護保険の認定がなくても利用することができ,運動の実施だけでなく,社会参加を促すという意味でフレイル予防の対策になりうる。
多要素の運動はフレイル・サルコペニアが既にあり,すぐにレジスタンス運動を行うことができない場合に行う。柔軟性の運動から始めて,軽度のレジスタンス運動を行い,有酸素運動やバランス運動を組み合わせて,レジスタンス運動の強度を強めていく(図4)。

多要素の運動はフレイルの高齢者のフレイルを改善させるだけでなく,認知機能にも好影響を及ぼす。下肢機能が低下した高齢糖尿病患者でも多要素の運動を行うと身体機能や歩行能力が向上するだけでなく,認知機能全般や言語記憶も改善することが報告されている9)。すなわち,フレイル・サルコペニアを防ぐための運動は認知症予防の対策になる可能性がある。

6 サルコペニア・フレイルを考慮した薬物療法

薬物療法では,まず第一に重症低血糖,転倒・骨折,体重減少など有害事象のリスクを少なくする治療を行う。低血糖があると転倒・骨折,フレイル,ADL低下をきたしやすくなる。一方,フレイルやADL低下があると低血糖を起こしやすくなり,悪循環を形成しうる。したがって,フレイルを合併した患者はDPP-4阻害薬やメトホルミンなどの低血糖の起こりにくい薬剤を中心に薬剤選択を行う。

スルホニル尿素薬(SU薬)は重症低血糖を起こしやすいので,できるだけ少量で使用する。グリクラジドはSU薬の中でも比較的重症低血糖が少ないので,10~20㎎/日の極少量で使用している。

グリニド薬は腎機能障害または高用量での使用の場合に低血糖に注意する。SGLT2阻害薬,高用量メトホルミン,GLP-1受容体作動薬では体重減少によるサルコペニアに注意する。フレイルやサルコペニアがあり,インスリン分泌が低下している場合には,高齢者においても低血糖に注意しながら,タンパク同化作用を持つインスリン療法を考慮すべきである。SGLT2阻害薬は後期高齢者,およびサルコペニア,認知機能障害など老年症候群を伴った前期高齢者では慎重に投与する。特に低栄養(体重減少,食事摂取量低下,BMI低値)がある患者では,SGLT2阻害薬の使用を控えたほうが望ましい。

第二に,病態による薬剤選択と用量調節を行う。特に腎機能を考慮した薬剤の用量調節を行うことが大切である。

メトホルミンは,eGFR 30mL/分/1.73m2未満の場合,乳酸アシドーシスのリスクが上昇するので,使用を中止する。メトホルミンは心血管疾患発症または死亡のリスク減少と関連し,サルコペニアやフレイルに好影響を及ぼすという報告もある。

第三に,服薬アドヒアランス低下を考慮した治療を行う。アドヒアランスの低下要因には認知機能障害,うつ,多剤併用,薬物処方の複雑性,低血糖の頻発,社会サポート不足などがある。

服薬アドヒアランス低下がある場合は治療の単純化を行う。すなわち,①服薬数や回数を減らす,②服薬のタイミングを統一する(食直前など),③一包化する(SU薬は除く),④配合剤の利用などを考慮する。

2型糖尿病患者の複数回のインスリン注射は経口薬の併用により,①1日1回の持効型インスリン,②週1回GLP-1受容体作動薬,または③インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更することも治療の単純化につながる。

7 血糖コントロール目標設定と高齢者総合機能評価

日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会による高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)は,認知機能とADLの評価に基づき,認知機能正常でかつADLが保たれているカテゴリーⅠ,中等度以上の認知症または基本的ADL低下がみられるカテゴリーⅢ,その両者の中間のカテゴリーⅡの3つのカテゴリーに分けて設定する(図5)10)。カテゴリーⅡは軽度認知障害や手段的ADL低下を含み,考え方としてはフレイルに相当する。