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ニュース 介護業界ニュース 2020/11/27

#在宅ケア#地域包括ケア#感染対策#新型コロナウイルス#訪問介護

激動の時代、医療や介護のかたちはどう変わっていく? 地域包括ケアと在宅ケア

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介護のみらいラボ編集部コメント

「地域包括ケア時代に求められる在宅医療とは何か」をレポート。訪問診療専門の「ときわ」理事長 小畑正考さんとグリーングラス事務長の中村哲生さんが現場に根差した在宅サービスの未来について語ります。

文:河村武志 ナレッジリング代表

幕張メッセで行われた「第3回医療と介護の総合展(東京)」では数多くのセミナーが企画され、コロナ禍の状況にあっても多数の参加者でにぎわいました。

そのうち、10月15日(木)のセッション「地域包括ケア時代に求められる在宅医療とは?」から、小畑正考さん、中村哲生さんによるセミナーで語られた 「新時代の医療の価値と地域包括ケアのもたらす未来」と、「地域包括ケア時代に求められる在宅医療の姿」についてレポートします。

セミナー(1)「新時代の医療の価値と地域包括ケアのもたらす未来」

小畑正考.医療法人社団ときわ理事長

【プロフィール】
小畑正考
医療法人社団ときわ 理事長
昭和57年生まれ、秋田県出身。東京大学医学部医学科卒業。国際医療福祉大学三田病院で臨床研修後、東京大学公衆衛生大学院でMPHを取得。在宅支援診療所院長、在宅医療支援病院副院長などを歴任後、2016年9月に赤羽在宅クリニックを開業。2017年10月には医療法人社団ときわを立ち上げ、理事長に就任。現在、東京から埼玉にかけて訪問診療を専門とする診療所を展開する。

小畑先生が理事長を務める医療法人社団ときわは、「人に寄り添い、未来に挑む」というビジョンを掲げ、4件の診療所を拠点に16人の常勤医で累計3400人の患者さんを診てきた実績があります(2020年10月時点)。しかし、2020年は「未来に挑む」上で新たなハードルが立ちはだかった一年だったといえるでしょう。言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が原因です。

1.「サプライベース」から「ニーズベース」へ

「私は在宅医療をやっている者として、COVID-19の流行をはじめとする社会情勢の変化に直面し、『これから医療や介護がどう変わっていくか』ということについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。今、皆さんが提供しているサービスの価値が何なのか、それは今後も求められていくものなのか......というところを考えるきっかけをつかむことが本日のテーマです」

このように口火を切った小畑氏は、まずはCOVID-19をきっかけとした業界の変化について、次のように語ります。

「外出しにくくなって受診者や利用者が減少したり、初診時からのオンライン診療が解禁されたりといったことがありましたが、これらは表面的な変化にすぎないと私は思っています。最も本質的な変化は、患者さんや利用者さんが自身にとって本当に価値あるサービスを選ぶようになりつつあることではないでしょうか。つまり、COVID-19を一つの起爆剤としてサプライベースからニーズベースへ価値観が転換していく。このことをまずは押さえる必要があります」

これまでは既存の医療・介護サービスに患者さん・利用者さん側が合わせるかたちでしたが、これからは患者さん・利用者さんのニーズに応じて医療・介護サービスが変わっていかなければならないということでしょう。真にニーズがあるサービスであれば、一時的に利用が減ったとしても必ず回復していく。そうでなければ、コロナ禍をきっかけに切り捨てられることになるかもしれません。

2.「パソジェニック」から「サルトジェニック」へ

講演に聞き入る聴衆

2020年医療と介護の総合展 幕張メッセでの講演

また、これはCOVID-19とは直接関係がないものの、小畑先生は「パソジェニック(pathogenic)」「サルトジェニック(salutogenic)」という聞きなれないワードを使って価値観の転換を説明します。

「パソジェニックは『病因論』と訳されます。病気の症状が現れたら受診して診断・治療を受け、回復したらめでたしめでたし......という、これまで多くの人が考えてきた医療モデルを支える概念です。それに対して、サルトジェニックは『健康生成論』と呼ばれ、そもそも『健康な状態』という基準点を設定せず、元がどんな状態でも、それより良くなればOKという概念です。これは慢性疾患の場合にマッチする考え方ですね」

小畑先生によれば、現在の医療保険制度は、基本的にパソジェニックモデルを前提として設計されたそうです。制度設計された当時は、慢性疾患よりも感染症対策が主眼となっており、診断・治療を重視するモデルとして作られたものが、現在まで脈々と受け継がれてきました。

「すでに完全に回復する見込みがない場合でも、より幸せな状態をめざすことが大事です。生活の中で自分なりの役割や生きがいを見つけたり、仲間や家族と一緒にいる感覚を味わったりすることは、その人の健康や幸福に寄与します。こうした生き方のサポートをすることもサルトジェニックな考え方であり、まさに在宅医療や在宅介護が貢献できる部分ではないでしょうか」

3.「キュア」から「ケア」へ

「現在の医療モデルでは、患者さんの訴えがあって初めてスポット的に介入し、治療につなげていきます。回復したら、医療とのつながりはなくなる。ということは、継続性がないですね。また、予防という観点もあまりありません」

では、これからの時代に望ましい医療のあり方は何かというと、小畑先生は「広く薄く予防的な介入をしていくこと」だと指摘します。

「治療というものは、患者さんにとっても分かりやすいという側面があります。薬をもらったり手術を受けたりして病気やけがが治る。その効果は分かりやすくて、価値を感じやすい。一方で、予防の価値は分かりづらい。予防的な介入で病気やけがを避けられたかどうかは、統計的なデータからしか見えてこず、多くの人は自身が予防によって助かったとは思いません。しかし、本来は病気になってから治療して治るよりも、そもそも病気にならないほうがいいですよね。そのためには、未病の段階から広く薄く予防的介入をしていく必要があるわけです」

4.「集中」から「分散」へ

小畑先生は、サービス提供場所も変わっていくといいます。従来は大勢のスタッフがいて設備も充実している大規模な病院や施設に安心感を覚える人が多かったところ、これからは「在宅医療や在宅介護でも、自分にとって必要なサービスが提供されればそれでいい」という考え方が主流になっていくと考えられるからです。

「エコーなどの医療機器や、クラウドカルテなどのICT(情報通信技術)の開発が進んだことで、質の高い在宅医療・介護ができるようになったことが大きいです。考えてみれば、1か所に人を集めて医療や介護を提供することは、効率性を追求したシステムだといえます。しかし、技術の発展で在宅医療・介護が不利とされてきた部分が薄れ、『在宅でサービスを受けられる』というメリットが際立つようになると思います」

5.サービスの価値を再定義し、突き詰めよう

本セミナーのまとめとして、小畑先生は次のような言葉を投げかけました。医療や介護に携わる人それぞれが、自分のこととして考えたいメッセージです。

「『地域包括ケアの対象は介護が必要な高齢者だけ』と考えている人もいるようですが、本来はすべての人が対象になるべきですよね。地域で生活するために医療や介護を必要とする人、もっと軽いヘルスケアを必要とする人など様々ですが、その全員が対象になるということ。そして、高度な医療を利用できることよりも、利用しなくて済むことのほうが、より価値が高い。これらは当たり前のようでいて、割と忘れられていることです。これらのことを前提として、皆さんが提供するサービスの価値は何なのかということをしっかりと再定義し、突き詰めていくことが大切なのかなと思います」

セミナー(2)「地域包括ケア時代に求められる在宅医療の姿」

小畑正考.医療法人社団ときわ理事長

【プロフィール】
中村哲生
医療法人社団永生会 クリニックグリーングラス 事務長
1993年に在宅医療の世界に足を踏み入れて以来、27年間にわたって経営に携わる。2017年3月より現職。同年5月に『コップの中の医療村―院内政治と人間心理』(日本医療企画)を出版。これまで在宅医療に係る顧問先は70か所ほどあり、年間100本以上の講演活動も行っている。

医療法人社団永生会(東京都八王子市)は、3つの病院を中核として、クリニック、介護老人保健施設、認知症グループホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を運営し、疾病予防・医療・介護・福祉の切れ目ないトータル的なヘルスケアを提供しています。本セミナーでは、同グループのクリニックグリーングラスで事務長を務める中村氏が登壇しました。

「これから日本の総人口は減っていきますが、65歳以上の高齢者人口だけは2040年まで増えていきます。少子化も長らく続いている中で、これからの医療・介護をどう支えていくか、これが大きな課題です。厚生労働省は『全員参加型在宅医療』の旗を振り始めています。特に、多くの病院が在宅医療に参入することをめざしている。病院側の本音としては在宅医療やりたいとは思っていないことが多いですが、それでもやらないと病院の経営が成り立たない状況に直面しつつあります」

厚生労働省によれば、現時点で在宅医療を必要としている人は全国で約100万人いるとされています。しかし、それを支えられるリソースは確保できていません。仮に、既存の現場が無理に無理を重ねて支えるかたちになれば、看取りや夜間対応のニーズも増え続ける中で、やがて崩壊してしまうでしょう。持続可能な在宅医療のあり方を模索し、形作っていく必要があります。

「在宅医療を必要としている100万人に対して、在宅療養支援診療所は全国に1万4500件程度しかありません。まだまだ高齢者は増え続けるのに、どう考えても足りないじゃないですか。一方で、医療機関は全国に約11万件あります。ここが少しずつでも在宅医療の患者さんを診てくれたら、かなりの部分を賄える......という計算があり、厚生労働省は診療報酬などを使って誘導を進めているわけです」

このようにニーズが旺盛に高まり続ける医療・介護業界ではありますが、個々の法人の生き残りについては安穏としていられないことも確かです。

「在宅医療に進出する医療機関が増えると、社会全体としては望ましくても、個々の法人の経営的観点からすると、だんだんと患者さんの獲得が難しくなることも考えられます。その中で、質の悪い在宅医療は淘汰されます。今の状況をみると、在宅医療で繁盛しているところは、ほぼ100%が口コミによるものです。したがって、良い口コミを広げてもらうという観点からも、地域包括ケアシステムの中で互いに顔の見える関係性を築くことが、これからの重要なポイントになっていくでしょう」

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