厚生労働省担当官に聞く(2)「LIFE集積データから、日本発の標準介護を世界に発信したい!」
介護のみらいについて語る厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室 田邉和孝地域情報分析支援専門官
解説/厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室 田邉和孝地域情報分析支援専門官(医師)
介護の質の向上を目的とした、科学的介護情報システム「LIFE(ライフ)」。(その1)では導入の目的やメリット、申し込み状況などについて伺いました。後編その2ではエビデンスに関する医療との比較、諸外国との比較、そしてLIFE作成にかかわった担当官からのメッセージを厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室の田邉和孝地域情報分析支援専門官に伺いました。
生活を支えたいという願いを込めて「LIFE」という名称に
――改めてLIFEという名称の由来について教えてください。
LIFEはLong-term care Information system For Evidenceの略語です。日本語でいうと「科学的介護情報システム」という名称で、少々、硬く感じるかもしれませんが、そもそもの介護のテーマは生活全般のサポートです。LIFEという名称には「高齢者の生活全般をサポートしたい」という願いが込められているのです。
科学的介護といっても介護は生活ですから、すべてを数値化することは困難です。しかし、例えば栄養分野であれば体重やBMIなど、客観的に把握できる数値もあります。そのような数値を指標として取り入れて、きちんと根拠に基づいた介護をしようというのが主な狙いです。
――現状では、介護に関するエビデンスはないのですか?
現状として国が持つデータには、要介護認定情報や介護レセプト情報がありますが、エビデンス作りには十分とはいえません。なぜなら介護認定は初回のみ12か月ですが、その後は最長で4年に1度の更新となるため、最新の情報はわかりません。一方で、レセプトデータはどのようなサービスをどのくらいの頻度で使っているかはわかりますが、サービス内容の詳細まではわかりません。これまでのデータベースでは、利用者の普段の生活を表す詳細なデータを集めることは困難でした。そこで介護に関する統合的なデータベースとして、新たに作られたのがLIFEなのです。
医療と比べて、介護現場では標準化が遅れている
外科医でもある田邉和孝地域情報分析支援専門官は、医療からの介護への標準治療の横展開を提案
――田邉専門官は医師だと伺っています。医療と比較して介護の現状をどのように考えますか?
私は医系技官として厚生労働省で働いていますが、もともとは外科医です。医師として医療に携わっていた経験から痛感するのは、医療では当たり前の「根拠に基づく」「標準的な」治療という考え方が、介護には乏しいことです。
例えば私は厚生労働省の技官としてしばらく医療現場から離れていますが、今もしも臨床に戻っても、すぐに胃がんの治療はできると思います。それは胃がんの治療について、エビデンスに基づいた標準的な治療方法が確立されていて、日本全国どこの病院でも標準的な治療を行うことができるからなのです。
日本の医療レベルが高いのは、きちんとした標準治療が確立されているからにほかなりません。この考え方を介護に取り入れれば、エビデンスに基づいて、きちんと効果のある介護が、全国どこにいても受けられるようになるのです。これこそがLIFEの目指す介護のあり方なのです。
ICT化を進めて介護現場の負担を軽減
――LIFEのスタートにあたっては"ICT化"もキーワードになると伺っています。
LIFEのもうひとつの目的に、"介護のICT化"があります。介護分野のICT化は大きな課題です。病院では電子カルテの導入が進んでいますが、介護現場ではまだまだICT化が進んでいないのが現状です。レセプトはほぼ100%電子請求ですが、現場の介護記録などの運用は、半数程度が紙ベースとも言われています。
今回、LIFEの申請をオンライン上ですべて完結できるように整備しましたが「メールが送れない」「URLを使ってアクセスできない」という、基本的な操作に関する問い合わせも少なからずいただきました。こうしたことからもICTの普及の遅れがうかがえます。
私自身、病院が紙カルテから電子カルテにちょうど切り替わる時代を経験しているため、抵抗感があるのは理解できます。しかし、戸惑うのは最初だけで、切り替えてしまった後は、電子媒体の方がはるかに効率的です。ICTを活用することで、介護現場が効率化し、介護従事者の負担が軽減できると考えられます。「ICT導入支援事業」の補助金などを活用しつつ、LIFEをきっかけにして、ぜひICTの導入に積極的になっていただきたいと考えています。
日本から「標準的介護」を世界へ発信したい
日本の介護ビッグデータは世界にも通用する可能性がある
――介護のエビデンス作りについて、諸外国の現状はどのようになっているのでしょうか。
介護に関してデータベースを作成し、エビデンスを確立させる試みは世界的にみても極めて先進的な取り組みです。LIFEによって科学的介護を行うためのデータベースが整備されれば、それは世界で初めての試みになるでしょう。
諸外国の例では、例えばアメリカではナーシングホームと呼ばれる高齢者施設で、MDS(Minimum Data Set)という指標などが使用されています。しかしアメリカにはそもそも介護保険がありませんから、日本とは大きく前提が異なります。
介護のビッグデータ収集と分析は、介護保険制度がある日本だからこそできる試みなのです。LIFEによってエビデンスが蓄積できれば「こういう場合は、こういう介護がベストである」という情報を日本から海外にむけて発信できるようになるでしょう。将来的には、日本版の標準介護を海外に輸出するなど、介護の先進国として日本が世界に貢献できる可能性もあるのではないでしょうか。
――今後のロードマップについて教えてください。
3年ごとの介護保報酬改定がひとつの目安になると考えています。始めは加算をつけることで、少しずつLIFEの概念に馴染んでいただく。そのうち3年、6年と経過するごとに「LIFEに取り組むのが当たり前」という環境を整えます。そうなれば、次のステップを目指すことができると考えています。
年数が経つにつれて日本中からデータが集まれば、データの質も高まります。データベースの作成や加算のあり方、項目に関しては、3年単位で見直しを図っていくことになるでしょう。同様に指標についても徐々にブラッシュアップすることになると思います。現場の負担感との兼ね合いをみながら、少しずつ良いものにしていければいいと考えています。
――最後に担当官からのメッセージをお願いします。
LIFEを通じて、日本中どこでも質の高い介護を受けられる環境作りを目指しています。さらにICT化を推進し、現場の介護従事者の負担を軽減できればと思います。
さまざまなご意見をいただきながらより良いシステムを作り、最終的には、100%の全事業所が参加できる体制を整えたいと考えているので、介護関係者の皆様に、ぜひ積極的なLIFEへのご参加をお願いしたいです。
<LIFEのヘルプデスク>
LIFE Webサイト(https://life.mhlw.go.jp)の「LIFE問合わせフォーム」から問い合わせ可能 。
電話:042-340-8819 (平日 10:00 ~ 16:00)
※(混雑が予想されるため「LIFE問合わせフォーム」の方がおすすめです)
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介護のみらいラボ編集部コメント
感染者ゼロにはならないまま、長期化する "withコロナ"の時代。
「施設内に1~2人くらいは感染する方が出ても仕方ないという心構えでのぞんでほしい」 ―――大曲貴夫先生から第1回目にいただいたアドバイスです。どんなに感染対策にしっかり取り組んでいても、感染のリスクはゼロにはなりません。インタビュー最終回は「もしかしたらあのご利用者(職員)は新型コロナかも?」、そのとき介護職はどう対応すればよいのか、アドバイスをいただきました。