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ニュース 介護業界ニュース 2023/08/21

#介護のみらい

世界で最もセラピー効果のあるロボットとは?脳の活性化も期待できる介護ロボット「パロ」の驚きの効果|介護のみらい

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介護のみらいラボ編集部コメント

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メンタルコミットロボット「パロ」は、世界で最もセラピー効果のあるロボットとしてギネス世界記録にも認定されたアザラシ型ロボットです。本物の動物と同じように触れ合うことで、人の心を元気づけたり、ストレスを解消したりする効果があり、国内外の介護施設や福祉施設などで活用されています。日本が誇る介護ロボットとは、一体どのようなものなのでしょうか。概要や効果について、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の上級主任研究員 柴田崇徳氏に話を聞いてみました。

1.メンタルコミットロボット「パロ」の概要

――メンタルコミットロボット「パロ」は、どのようなロボットなのでしょうか。

パロはアザラシ型のセラピーロボットです。介護現場で導入されている身体的なサポートをするロボットとは異なり、精神的な症状の改善を目的として開発されました。パロは国内外で活用されていて、2023年現在は30カ国以上の病院や介護施設などで、7,500体以上が稼働しています。利用シーンは介護施設に限らず、学校や病院、在宅介護の現場まで様々です。国内では福祉用具として扱われていますが、海外では医療機器として活用されています。

外見の特徴を説明すると、大きさは縦55cm、幅29cm、高さ18cmで、重さは2.6kgです。外側はもふもふとした人工被毛に覆われていて、この被毛には銀イオンによる制菌加工が施されているため、バクテリアやウイルスを徐々に減らす効果があります。またパロの内部には触覚や視覚など様々なセンサがあり、3つのマイクや2つの光センサ、被毛の下には全身を覆う触覚センサが設置されていて、撫でると「キュー」と鳴く仕組みです。さらに静かに動く「静穏アクチュエータ」が首や手足、まぶたに搭載されているため、人間との触れ合いによって瞬きをしたり、手足を動かしたりといった反応を見せます。それだけでなく、姿勢センサや温度センサもあり、パロ本体は常に30度程度に保たれています。そのため抱きかかえると、まるで本物の動物と触れ合っているような感覚を覚えられるのです。

2.アザラシ型ロボットを作った理由

――アザラシ型のロボットは珍しいですね。本体の形をアザラシにした理由は何だったのでしょう。

アザラシはあまり身近な動物ではないためです。開発に着手したばかりの頃は、多くの人に受け入れられやすい犬や猫の形が良いのではないかと考え、犬や猫のロボットも試作して使い心地を試してもらいました。すると使用前の評価は高いものの、触れ合い始めるとすぐに本物と比較され、評価が厳しくなってしまったのです。また宗教的な問題で、犬や猫の形を受け入れられない国があることも分かりました。

一方アザラシはかわいくて純粋なイメージがあり、世界中のどの国でも受け入れられやすい動物です。またアザラシと触れ合ったことがある人は少ないので、本物と比べられることもありません。実際にアザラシ型のロボットを試してもらうと、使用前よりも使用後の評価が高くなる傾向にありました。そこで犬や猫ではなく、アザラシ型を採用することにしたのです。ちなみに、パロの「キュー」という鳴き声には、本物のタテゴトアザラシの声を使用しています。

3.「パロ」の機能

――「パロ」にはどのような機能が搭載されているのですか。

パロには人工知能(AI)が内蔵されていて、大きく2つの学習機能があります。1つは、名前の学習機能です。パロを特定の名前で繰り返し呼ぶと、その名前を覚えてペットのように反応します。もう1つは、性格の学習機能です。パロは接し方で性格が変化し、撫でられたり抱きかかえられたりすると喜びますが、叩かれるなど乱暴にされると嫌がります。また継続して触れ合うことで、飼い主の好みの性格を学習することもできます。

パロは国内の工場で1体1体丁寧に作られている

パロは国内の工場で1体1体丁寧に作られている

4.「パロ」の驚きの効果

――「パロ」の使用によって期待される効果を教えてください。

パロは多くの人に楽しみや安らぎを提供するために生まれました。パロの開発にはアニマルセラピーの研究を参考にしており、アニマルセラピーには「心理的利点:うつの改善や動機の増加」「生理的利点:ストレスの減少や血圧の安定化」「社会的利点:コミュニケーションの増加」の主に3つの効果があるとされています。つまり、パロにはこのようなアニマルセラピーと同様の効果があるのです。実際に医療や介護の現場においては、パロと触れ合うことによって、笑顔や会話の増加、ストレスの減少、うつの改善などが認められています。

アニマルセラピーには本物の動物を使用するため、アレルギーや噛みつき、ひっかきなどの問題が存在します。また感染症の問題や、トレーニングコストなども軽視できません。一方パロはアレルギーなどの問題が一切ないほか、時間や場所を選ばずに使用できます。さらに1体約40万円で購入できることを考えれば、トータルコストが動物の10分の1くらいで安く済むのです。ロボットは寿命が長いため、ペットロスも起きません。

介護施設では、入居者さんにパロのお世話(掃除)をしてもらうことで、いつもと立場が逆転し、自尊心が改善されたケースもあります。またパロは認知症の改善にも効果を発揮しており、認知症者の徘徊や暴力などの症状を緩和・抑制したり、徘徊の抑制によって転倒リスクを軽減したりすることにも役立っています。これらの効果により、向精神薬の投薬の低減や、薬では改善できない効果による介護者・看護者の負担の軽減にも成功しました。

5.脳の活性化にも効果的

――認知症の周辺症状の改善にも役立つとは驚きです。

パロは脳の活性化にも効果を発揮することがわかっています。以前、アルツハイマー型認知症の方を被験者として脳波を調べる実験を行いました。アルツハイマーで脳が萎縮している場合は、萎縮した部分がランダムなノイズを発生するために、脳波にムラが発生します。ところがパロと触れ合った後に脳波を測定すると、健常者と同じような動きを見せたのです。また脳の血流を調べる実験では、パロと触れ合った人は、「考える」「感情をコントロールする」など人間にとって重要な働きを担う前頭野や、言語に関わる部分である側頭部の血流の増加が見られました。このようにパロとの触れ合いには、脳の働きを活発にしたり、気分を向上させたりする生理学的なデータが得られているのです。

実際にデンマークでは、母国語である東ヨーロッパの言語とデンマーク語の両方を話していた人が認知症になり、母国語しか話せなくなってしまったものの、パロと触れ合っている時のみデンマーク語で会話ができるようになったケースがあります。ほかにも、認知症で何年も話せなかった方が、パロと触れ合うことで何年かぶりに言葉を発したり、会話ができるようになったりする事例も多く見られています。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー 画像提供/国立研究開発法人産業技術総合研究所

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