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ニュース 介護業界ニュース 2023/08/29

"日本が誇る介護ロボット"が生まれたきっかけは?世界中で愛されるメンタルコミットロボット「パロ」の開発背景

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介護のみらいラボ編集部コメント

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メンタルコミットロボット「パロ」は、世界で最もセラピー効果のあるロボットとしてギネス世界記録にも認定されたアザラシ型ロボットです。本物の動物と同じように触れ合うことで、人の心を元気づけたり、ストレスを解消したりする効果があり、国内外の介護施設や福祉施設などで活用されています。日本が誇る介護ロボットは、どのようなきっかけで開発されたのでしょうか。国立研究開発法人 産業技術総合研究所の上級主任研究員 柴田崇徳氏に話を聞いてみました。

1.「パロ」を開発したきっかけ

――なぜ「パロ」のような、セラピー目的のロボットを開発しようと考えたのでしょうか。

「日常生活のなかで役立つロボットを作りたい」と考えたことがきっかけです。日常生活で役立つと聞くと、洗濯や掃除などを手伝ってくれるロボットを想像するかもしれません。しかし、そのような家事のサポートは食洗機などの専用の機械を作った方が安上がりですし、性能もアップします。例えば食器を洗ってくれる人間型のロボットを開発するよりも、高性能な食洗機を導入した方が便利ですよね。

上記のような理由から、人間の仕事を減らすロボットよりは、仕事の面では役に立たないが喜ばれるロボットを作りたいと考えたのです。そこで、ペットとして飼われている動物に目をつけました。現代の人は犬や猫にネズミ捕りなどの役割を求めている訳ではありませんが、犬や猫は愛らしい動物として多くの人に喜ばれています。このようなペットの役割について考えてみると、人の心に働きかけて、その人の心を豊かにするといった役割があるのではと感じました。そして、同様の効果を持つロボット・パロの開発に至ったのです。こうして、1998年に第1世代である最初のパロが完成。その後改良を重ね、2023年現在は第9世代を販売しています。

2.「パロ」の開発時に注力したこと

――「パロ」の開発にあたり、特に力を入れた点を教えてください。

特に気をつけたのは、安全性を高めることです。長期的に安心して使っていただくために、壊れない丈夫な設計に最も気を配りました。人の力は強いので、優しく扱っていても機械が壊れてしまう可能性があります。10年以上継続して使用できる耐久性や、安全性が必要になると考え、改良を重ねました。

また医療福祉の現場で使用するための工夫も行っています。病院には免疫力が低下している患者さんも多く、ロボットが病原菌の媒体になってしまう可能性があります。そのためパロの毛皮には銀イオンを使用し、ウイルスやバクテリアを減少させる制菌加工を施しました。さらにペースメーカーの使用者も安心して使えるように、医療機器との干渉を避ける「電磁シールド」を施しています。医療福祉現場でパロを使っていただくには安全性が非常に重要になるため、様々なことに配慮していますね。

パロをペットの代わりとしてかわいがっている人も多い

パロをペットの代わりとしてかわいがっている人も多い

3.利用者さんからの反応

――利用者さんからの反応はいかがでしょうか。

世界中から喜びの声が集まっています。特に介護現場においては、認知症や徘徊をする方の気持ちを落ち着けたり、介護者の負担を減らしたりするためにパロが活用されています。例えばイタリアの高齢者施設では、アルツハイマー型認知症の男性がパロと触れ合うことで、気持ちが落ち着き会話ができるようになった事例があります。この男性は不安感によって大声で頻繁に叫んでいたものの、パロを撫でるうちに気持ちが落ち着き、セラピストと会話ができるようになりました。従来この施設では向精神薬を使って入居者さんの気持ちを落ち着けていましたが、向精神薬には眠気を誘う副作用があり、服用によって車椅子から落ちてしまう可能性があります。そのため落ち着くまで介護スタッフが付き添っている必要があり、人手不足などの問題が生じていました。しかしパロには副作用がないほか、即効性があるため、導入後は薬を使う必要がなくなったのです。同施設ではパロを「気持ちを落ち着かせるためのスイッチ」として活用していて、男性が叫びだしたらパロを渡しています。

またパーキンソン病で身体の動きを制御できない方が、パロと触れ合うことで動きを抑えられた事例もあります。パーキンソン病は脳内のドーパミンが不足することで発症する病気です。そのためこのケースでは、パロと触れ合うことでドーパミンが分泌され、身体のコントロールができるようになったと考えられます。またパロはオキシトシンの分泌によって触れ合う方の気分を向上させ、身体を良い状態に保つため、介護者の負担減少やQOLの向上にも大きく役立っています。

パロは世界中の介護施設や病院、障がい者施設などで使われている

パロは世界中の介護施設や病院、障がい者施設などで使われている

4.「パロ」の使用時における注意点

――「パロ」を介護施設で使用するうえで、気をつけるべき点を教えてください。

パロを介護要員として捉えるのではなく、「介護をしやすくするための道具」として扱っていただけると、より効果を感じやすいのではと思います。アニマルセラピーに対する認識の違いからか、日本と海外ではパロの活用方法が異なる傾向にあります。海外では向精神薬を可能な限り減らすためにパロを使っているケースが多いですが、日本では単なるお年寄りの遊び相手としての使用が多く、パロの効果を充分に発揮できているケースは少ないと感じています。高齢者がパロと触れ合っている間、介護スタッフは別の仕事をしても大丈夫だろうと考えるかもしれませんが、それは非常にもったいないことです。

欧米の認知症介護には、「人には1人ひとり個性があるため、均一なサービスを提供するのではなく、その人に合わせた介護やケアをする必要がある」という考えがあります。この"その人らしさ"を引き出すには、会話によって相手を理解する必要があります。日常会話だけで"その人らしさ"を引き出すことは難しいですが、パロとの触れ合いによってリラックスした状態になれば、よりスムーズなコミュニケーションが取りやすくなります。より良い介護をするための道具として、パロを活用していただきたいですね。

5.今後の展望

――今後の展望を教えてください。

パロは日本では福祉用具として活用されていますが、今の状況ではパロの持つ効果を積極的に説明することは少し難しいと感じています。そのため福祉用具だけでなく、医療機器として治療効果を謳えるようなパロを開発したいと考えています。

パロは向精神薬の低減効果も期待できるものの、向精神薬の使用を控える海外の方針とは異なり、日本では薬の使用を推進している状況です。向精神薬の低減は人間の健康において非常に重要であり、医療費の削減におけるメリットも大きいと感じています。高齢化によって生じる様々な問題の解決のためにも、医療機器としての新たなパロを生み出したいです。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー 画像提供/国立研究開発法人産業技術総合研究所

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