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ニュース 介護業界ニュース 2023/09/06

お寺で介護の悩みを話し合おう|寺院空間で介護の情報交換をする「介護者カフェ」とは?

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介護のみらいラボ編集部コメント

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浄土宗では、介護に関する悩みを話し合ったり、情報交換をしたりする「介護者カフェ」を宗の事業として本格的に推進しており、各地の浄土宗寺院で定期的に開催しています。参加資格はなく、介護に興味がある人は誰でも参加できます。お寺と介護の関係はあまり深くありませんが、なぜお寺で介護者が集まる会を開催しようと思ったのでしょうか。介護者カフェを実施しようと思ったきっかけや、参加者の傾向について、東京都葛飾区で介護者カフェを開催している浄土宗 南松山 香念寺 住職の下村達郎氏、浄土宗総合研究所 研究員の東海林良昌氏、浄土宗の担当者に話を聞いてみました。

1.介護者カフェの概要

――介護者カフェの概要を教えてください。

下村:介護に関する悩みを分かち合い、情報交換を行うための場です。「カフェ」という名前はついていますが、喫茶店のようなお店ではなく、サロン活動の一環と考えていただくと分かりやすいでしょう。参加資格などは特になく、介護中の方はもちろん、これから介護を迎える方や、介護をすでに終えられた方も集まる場です。2023年7月現在は30近い寺院が介護者カフェを開催しています。開催頻度は各寺院によって異なっており、月1回のお寺もあれば、2ヶ月や3ヶ月に1回のお寺もあります。私が住職を務めている香念寺では、2ヶ月に1度の頻度で開催しています。

東海林:お寺が開催している集まりと聞くと、どうしても「檀家さん以外は参加できないのでは?」「布教されそう」などと思われがちです。しかし介護者カフェで布教活動をすることはありませんし、無理に話を引き出すこともありません。また誰もが参加できる場のため、檀家さんや信徒さん以外にも、多くの方に参加していただきたいと考えています。お茶やお菓子を食べながら好きに過ごしていただく会なので、話したいことだけを話し、話したくないことは話す必要はありません。日本の寺院は家族でお寺をお守りしていることから、介護は私達住職の身にも起きる身近な問題です。そのため介護に関わる当事者同士、同じ目線でお話ができればと考えています。

2.参加人数と傾向

―カフェの参加人数や、参加者さんの傾向を教えてください。

東海林:参加者数はそれぞれのお寺によって異なり、5名程度から30名を超えるケースまでさまざまです。家族の介護をされている方はもちろん、地域包括センターの職員さんや、社会福祉協議会の方がいらっしゃることもあります。また認知症の方がご家族と一緒にカフェに参加されることもありますね。年代は50代以上の方が多く、ご両親やパートナーの介護をされている方が中心となっています。

下村:私は香念寺の住職として、2016年より介護者カフェを開催しています。始めたばかりの頃は少なかったですが、1年半後には毎回10〜20人程度の方が参加されるようになりました。コロナ禍ではオンライン開催に切り替えていたものの、最近はまたお寺で集まるようになり、前回は16名の方にご参加いただきました。参加者さんの6割程度はリピーターなので、顔なじみになっている方もいます。近所の方の集まりのように思われるかもしれませんが、参加者の方のうち檀家さんは1〜2割程度、電車で1時間程離れた場所から来てくださる方が多い傾向にあります。自宅からある程度距離があった方が気持ちが切り替わり、悩みを話しやすいのかもしれません。

これから介護を迎える側として情報収集のために参加していた方が、次の月には急に介護者になることもある

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3.介護者カフェを始めたきっかけ

――介護者カフェを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

東海林:超高齢社会において、寺院が地域住民と関わる形について考えたことがきっかけです。1980年代頃から、仏教界では終末期ケアについて考える動きが生まれました。また阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大きな災害の発生により、寺院が社会に対してできることを考える動きも出てきました。そこで浄土宗では、「えにしの手帳」と呼ばれるエンディングノートを作り、死生観を共有しながら今後について考える施策を実行したのです。そしてその後、終末期ケアだけでなく介護についても我々寺院ができることはないだろうかと考え、介護者カフェの研究を始めました。

ただし浄土宗の事業として、いきなり介護者カフェに取り組むことになった訳ではありません。実は私自身、2013年から地元の宮城県塩竈市雲上寺で介護者カフェの前身となる「介護者の集い」という集まりを開催していました。そして「この取り組みを研究として形にできないだろうか」「浄土宗として取り組んでもらえないだろうか」と考え始めたのです。しかし研究となると定期的な調査が必要なため、自分がやっていることを研究として成立させるのは困難を極めました。また地方で開催を続けていても、ただの地方の事例となってしまい、広まっていかないのではとの考えがあったのです。そこで東京で介護者カフェを開催してくれる寺院を探したところ、香念寺の下村さんが手を挙げてくださいました。そして実際に香念寺で介護者カフェを開催すると、非常に良い結果が得られたため、浄土宗に介護者カフェの開催を提案することにしたのです。浄土宗は以前より社会事業に積極的に取り組んでいる宗派だったこともあり、介護者カフェは2020年より浄土宗の推進事業として全国に広まることになりました。

4.住職からの反応

――介護者カフェについて、各寺院のご住職からの反応はいかがですか。

下村:まず私自身、最初に介護者カフェのお話を聞いた際には、正直にいえばあまりピンときませんでした。また香念寺は檀家さんがお墓参りに来る機会が多い檀家寺なので、檀家さん以外の方がお寺を訪れることに、最初は不安を感じていました。檀家さんは宗派の教えをお伝えする前提でお話させていただきますが、檀家さん以外の方が来られた際には、どのように対応すれば良いものか、気にかかっていました。実際に介護者カフェを開催してみたところ、いらぬ心配だったことが分かったのですが、開催前は不安がありましたね。

東海林:やはり下村さんのように、開催について不安を感じる方は多いです。なかでも多いのが、「介護の経験や知識がないのに開催できるのか」といった不安です。このようなご意見に対しては、浄土宗で開催時のサポートを行っていることや、介護者カフェは知識を提供する場ではなく、みんなで語り合う場であることを説明することで、住職の皆さんの不安を解消しています。また「人が集まるのだろうか」という点を不安視される方も多くいらっしゃいますが、介護者カフェには決して多くの人が集まる必要はなく、決まった日時に毎回開催することが重要であるとお伝えしています。逆に人が多すぎると1人ひとりが話す時間が少なくなったり、プライベートな内容を話しづらくなったりしてしまいます。一概に人を集めれば良い訳ではないため、丁寧な説明をするように心がけていますね。

5.サポートの内容

――開催時のサポートとは、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

浄土宗担当者:できるだけ開催のハードルを低くするため、計3回の支援を行っています。1つ目は、介護者カフェのチラシをお渡ししたり、今後のスケジュールの調整をしたりすることです。2つ目は、地域包括センターや社会福祉協議会への挨拶に同行すること。3つ目は、介護者カフェ開催当日の運営サポートです。他にも、第1回目の開催までにかかった費用の助成や、ご住職向けのマニュアルの作成・配布なども実施しています。

東海林:浄土宗では年に1回、京都にある浄土宗の研修施設にて介護者カフェの立ち上げ講座を実施しています。今年は京都と東京をオンラインで繋ぎ、東京でも受講できるようにする予定です。お寺は介護者カフェのような事業を立ち上げたことがほとんどないため、不安をなるべく少なくできるように、私達経験者が開催寺院を訪れて具体的な悩みを聞いたり、準備した方が良いものをアドバイスしたりしています。また私達僧侶だけでは介護の仕組みや制度は分からないため、仕組みや制度については、地域包括センターや社会福祉協議会の職員さんにサポートをお願いしています。地域によっては職員の方が介護者カフェに足を運んでくださることもあり、非常にありがたく感じています。困っている方や悩んでいる方に介護者カフェの存在を知っていただくため、今後も開催寺院を増やすための工夫を続けたいと考えています。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

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