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ニュース 介護業界ニュース 2023/09/11

お寺で介護者カフェを開催するメリットは?|寺院空間で介護の情報交換をする「介護者カフェ」の魅力

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介護のみらいラボ編集部コメント

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浄土宗では、介護に関する悩みを話し合ったり、情報交換をしたりする「介護者カフェ」を宗の事業として本格的に推進しており、各地の浄土宗寺院で定期的に開催しています。参加資格はなく、介護に興味がある人は誰でも参加できます。お寺と介護の関係はあまり深くありませんが、なぜお寺で介護者が集まる会を開催しようと思ったのでしょうか。お寺で介護者カフェを開催するメリットや、参加者からの反応について、東京都葛飾区で介護者カフェを開催している浄土宗 南松山 香念寺 住職の下村達郎氏、浄土宗総合研究所 研究員の東海林良昌氏、浄土宗の担当者に話を聞いてみました。

1.お寺で介護者カフェを開催するメリット

――お寺が介護者カフェを開催するメリットは何だと思われますか?

下村:大きく3つあります。1つは、他の場所よりも開催のハードルが低いことです。介護者カフェの開催時には場所を確保する必要がありますが、お寺の境内には充分な場所があり、介護者カフェのような集まりを開きやすいです。また普段からお茶やお菓子の用意があるため、準備も難しくありません。

2つ目は、短期的な効果を求められないことです。例えば行政や企業が介護者カフェを開催したものの、参加者がほぼいなかったとします。このような場合、次回以降の開催が難しくなる、予算が確保しづらくなるなどの問題が生じてしまいがちです。カフェの認知度アップを考えれば継続した開催が重要ですが、行政や企業だと参加者が少ないまま継続するのは難しいといえます。しかしお寺であれば、場所も時間も充分にあるため、出席人数に関係なく活動を継続できます。

3つ目は、お寺という心を落ち着けられる空間で悩みを共有できることです。お寺には大きな仏像や広いお堂があり、お香の匂いが漂っています。参加者さんから「お寺だからこそ悩みを打ち明けられた」とのお声をいただいたことがありますが、このような落ち着いた空間だからこそ、深い悩みを話せる方も多いのではないでしょうか。これは他の場所での開催にはない、大きなメリットだと感じています。

2.介護者カフェを広める際に大変だったこと

――介護者カフェを全国に広めるにあたり、大変だったことを教えてください。

東海林:各寺院のご住職にカフェを継続して開催していただけるよう、モチベーションを下げないためのサポートを続けていくことです。やはり参加者数は目に見えるものなので、人数が少ないと、どうしても開催のモチベーションが下がってしまいがちです。しかし介護者カフェは、人数が少なくても開催を継続していくことで、見えるものがあると感じています。具体的には、「このような会を開催してくださり本当にありがとうございます」といった感謝の言葉を参加者の方からいただいたり、参加者とのつながりを深められたりすることが挙げられます。

また、いつもは話す側となることが多い住職が、話を聞く側の立場になることも気付きを得るきっかけとなります。実際に介護者カフェの開催を通して、「僧侶としてのあり方が180度変わった」と話すご住職もいる程です。しかし、普段の生活のなかで、「皆さんのお話を聞かせていただくことが僧侶の役割の一つである」と実感する機会はとても少ないと思います。そのため、このような気付きを得ていただくためにも、我々僧侶同士でサポートをしていく重要性を感じています。

下村:東海林さんと同じく、介護者カフェを継続していただくことです。参加人数が少ないことが原因でカフェの開催を辞めようかと考えるご住職は多いですが、それは非常にもったいないことだと感じています。介護者カフェにおいては、参加者さんとの信頼関係を築くことが非常に重要です。例えば、あまり親しくない人の前で悩みを話すのは気が引けると考える方は多いですよね。悩みを話していただくには信頼関係が必要なので、1年から1年半程度開催を続けてみて、少しずつ繋がりを作っていくことが重要だと感じています。幸いにも私はスムーズに開催を続けることができましたが、立ち上げ支援の際にさまざまな寺院を拝見していると、人数が集まらないことで躓いてしまうケースは多いように感じています。「介護者カフェを必要としている方は必ずいるので、まずは続けていきましょう」と声をかけるようにしていますね。

浄土宗が配布している介護者カフェのチラシ

浄土宗が配布している介護者カフェのチラシ

3.介護者カフェの開催時に気をつけていること

――お寺で介護者カフェを開催する際に、気をつけていることはありますか。

下村:参加者の方を「介護者」として扱うのではなく、1人の人として語り合うことを意識しています。カフェに参加している人全員がフラットな立場で語り合い、支え合える会を開催するように気をつけていますね。また開催する側のやりがいのために開くのではなく、参加者の方がご自分のタイミングで話したいことを話せる場であり続けたいとも考えています。

東海林:「参加者さんの大切な時間を一緒に過ごさせていただいている」という気持ちで開催することです。参加者さんはプライベートな内容をお話しくださるので、私自身がこの時間をとても大切に思っていることを、相手の方に伝わるように接していますね。

4.参加者さんからの反応

――カフェについて、参加者さんからの反応はいかがでしょうか。

東海林:ある参加者さんから、「介護をすることで治るなら良いけど、治ることはないし、カフェに来ることで解決すれば良いけど、解決することはない。でもカフェに参加したいんです」とのお言葉をいただいたことがあります。介護は大きな問題なので、私達住職も回答を出すことはできません。だからこそ、参加者さんと一緒に悩んでいきたいと考えています。現代は解決思考の傾向がありますが、悩んでいる方によりそって、「今日も解決しなかったけれど、また会おうね」と言えるような場所が世の中には必要だと考えています。悩んでいる方にカフェを必要としていただけることは、本当にありがたいです。

下村:「介護の話題は経験がある方でないと相談できないので、とてもありがたい」といったお言葉を良くいただきます。参加者の方のなかには、「友人に相談しようかと思ったものの、暗い話だから悪いなと感じてしまい、今まで誰にも話せなかった」「介護の大変さについて友人に話したところ、映画にでも行こうと誘われたが、映画に行くよりもただ話を聞いてほしいと思った」などとお話くださる方もいらっしゃいます。やはり介護は経験者ではないとピンとこない部分があり、相談する相手が限られてしまいがちです。介護者カフェは介護を終えられた方の参加も多いので、お互いに悩みを理解できる場として活用していただけているのは、とても嬉しいと感じています。

すでに介護を終えた方も、介護の体験談や故人との思い出を語るために参加している

すでに介護を終えた方も、介護の体験談や故人との思い出を語るために参加している

5.今後の展望

――今後の展望を教えてください。

下村:まだ検討段階ではありますが、介護保険施設の利用者さんやそのご家族に介護者カフェの存在を広めていきたいと考えています。介護者カフェを必要としているより多くの方に、カフェのことを知っていただきたいですね。また香念寺では「介護者の心のやすらぎレター」という冊子を作成し、介護について悩まれてきた方の経験や思いを座談会の形で紹介しています。多くの方に介護者カフェの存在を知っていただくだけでなく、「自分と同じことで悩んでいる人がいるんだ」と、カフェに参加できない方にも気持ちを楽にしてもらえたらと考えています。

東海林:介護者カフェが全国47教区に広まって欲しいと考えています。近年は介護者カフェを浄土宗以外の宗派でも開催する動きが出てきているので、宗派を超えて広がっていって欲しいです。アジアは今後高齢化が進んでいくため、仏教界全体として、超高齢社会のサポートができれば良いなと考えています。また現代はヤングケアラーが問題視されていますが、20歳を超えたら問題は解決するかといえば、そうではありません。大人の介護者は世の中にたくさん存在していますし、どうすれば良いのかと悩んでいる方も多いです。介護に関する悩みを抱えている方に対し、「お寺に行ってみたら話を聞いてくれるよ」「住職さんに相談してみなよ」と世の中の方がアドバイスをしてくださるとありがたいです。多くの方に「お寺=介護のことを相談できる場」と思っていただけるように頑張りたいですね。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

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