"誰もが食べやすい食事"を楽しめるカフェの運営で気をつけていることは?|岐阜県近石病院が運営する「カムカムスワロー」
岐阜県岐阜市に位置する医療法人社団登豊会 近石病院は、地域密着型のコミュニティスペース「カムカムスワロー」を運営しています。コミュニティスペース内にあるカフェでは、幅広い世代の方が食べやすいように工夫されたフードや種類豊富なドリンクを提供。ドリンクメニューには全てにとろみをつけられるほか、フードメニューはやわらか食やソフト食などの嚥下調整食として注文することも可能です。嚥下障がいがある方も食事を楽しめるカフェは珍しいですが、カフェを運営する上ではどのような点に気をつけているのでしょうか。近石病院 歯科・口腔外科の近石壮登氏と、歯科・口腔外科 言語聴覚士かつカムカスワローのマネージャーである蛭牟田誠氏に話を聞いてみました。
1.運営時に気をつけていること
――カフェの運営をするうえで、気をつけていることを教えてください。
近石:嚥下障がいがあるお客様の食事の加工方法について、慎重に判断することです。カムカムスワローのカフェには、嚥下障がいをお持ちで普段は施設に入居されている方が、ご家族と一緒に来店されることがあります。すると障がいをお持ちの方が普段どのような食事をしているのか、ご家族も把握していないケースが多いです。このような場合は管理栄養士が食事について聞き取りを行うのですが、どの程度の加工をすべきか判断に悩むケースがあります。その方にとって適切な状態のお食事を提供できるよう、細心の注意を払っていますね。しかし聞き取りにも限度はあるため、最近は食事に関する連絡帳のようなものがあると便利ではないかと考えるようになりました。現在「おしょくじ手帖」と呼ばれる、その方に適した調理の工夫について飲食店に伝えられる冊子を開発しているところです。
蛭牟田:管理栄養士から積極的にお客様に声をかけることも、意識している点の1つです。カムカムスワローには管理栄養士が常駐しており、困ったことがあれば何でも相談していただける体制を整えています。実際に、食事の方法や栄養の摂り方などについて相談される方は多いと感じています。栄養のことを話せる場は少ないため、気軽に相談できる場所として活用していただきたいです。
2.現在の状況
――2022年12月のオープンから半年以上が経ちましたが、現在の状況はいかがですか。
近石:現在は地域の方々を中心とした多くの方にご来店いただけていますが、嚥下障がいに対応したカフェは珍しいため、最初はどのような場所なのか知っていただくことが難しかったと感じています。「病気の方だけが入れるお店なの?」と声をかけられるなど、一般の方は利用できない施設だと思われることもあるため、もっと認知を拡大していきたいですね。基本的にはInstagramなどのSNSを活用して情報発信を行っているものの、より多くの方にカムカムスワローを知っていただくためには、高齢者の方にとっても親しみやすいツールで情報を拡散する必要があると感じています。そのため、イベント情報やコラムを掲載した「カムスワ新聞」を発行したり、カフェであることを目立たせたりと、さまざまな工夫を行っているところです。
また認知度向上のため、イベントも積極的に開催しています。現在は手話教室や、誤嚥性肺炎を予防するための教室、がんについての悩みや不安を話し合う「がんカフェ」などを開催しており、今後も一般向けのイベントを増やしていきたいと考えています。
カムカムスワローにて開催された介護予防教室の様子
3.利用者さんからの反応
――カフェの利用者さんからの反応はいかがでしょうか。
蛭牟田:嚥下障がいのある方やそのご家族から、喜びの声をいただくことは多いです。以前、90代の既往に誤嚥性肺炎がある患者さんが、ご家族3人でカフェを利用してくださったことがあります。当カフェでは、嚥下調整食の提供時には毎回アンケートのご記入をお願いしているのですが、そのアンケートに「嚥下食を提供している飲食店を探していたけれどなかなか見つからず、一緒に食事をすることはもう無理かなと感じていました。しかしカムカムスワローのカフェを見つけ、家族で食事ができて本当に良かったです」と書かれていました。全ての方が食事を楽しめる場を目指してカフェを運営しているので、そのようなお言葉をいただけて本当に嬉しかったですね。他のお客様からも「カムカムスワローがあってよかった」といったお声をいただくこともあり、嬉しく感じると同時に、やりがいにも繋がっています。
近石:最近は、デイサービスなどの介護施設を利用している方が、団体でモーニングを食べに来られることがあります。岐阜県だけでなく、なんと県外から車で1時間近くかけて来てくださることも。カムカムスワローでは、これからも"誰もが食べやすい食事"を提供できるよう工夫を続けていくので、より多くの団体の方に来ていただけたら嬉しいです。「次はあれが食べたい」「もっと食べられるようになりたい」といった、希望や目標を持つためのお手伝いができればと考えています。
フワフワで食べやすい米粉のスフレパンケーキセット
4.今後の展望
――今後の展望を教えてください。
近石:2023年8月現在、クラウドファンディングを活用して、地域の飲食店に嚥下調整食の存在を知っていただけるような取り組みを行っています。嚥下調整食の知名度はあまり高くなく、嚥下調整食に対応した飲食店はまだまだ少ないです。そのため岐阜市にある飲食店2店舗の協力を得て、嚥下調整食メニューを開発する予定です。またその方に適した調理の工夫について飲食店に伝えられる冊子である、「おしょくじ手帖」を作り広めたいとも考えています。嚥下障がいの方にとって外出は難しく、旅行なども気軽に行けるものではありません。嚥下調整食に対応した飲食店が1つの観光資源になり、「岐阜に行ってみたい」と思っていただけるきっかけづくりができれば嬉しいです。
取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー
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