ヘルパーは利用者さんの人生最後の伴走者。尊い介護職で働いていきたい|加藤綾菜
「毎週日曜日は近所の小枝さん(85歳)と会うんです。もう6年くらいの付き合いの親友で」と楽しそうに話す加藤綾菜さん(34歳)。
「赤井さんっていうお友達もいて。昨日も我が家に遊びに来ました。あ、赤井さんはまだ78歳で若いんですけど」と、かなり年上の友人の名前が続々と出てきます。
聞けば、近所には20名ほどの後期高齢者の友人がいるのだとか。利用者さんともすぐに友達になってしまうといいます。
※ご友人の名前はプラシバシー保護のため仮名です。
年齢にかかわらず、誰に対しても分け隔てなく接する綾菜さん。彼女がコメディアンの加藤茶さん(79歳)と歳の差婚で世間を賑わせてから2022年で11年経ちました。現在は芸能活動とは別に、精力的に介護職に携わっています。
これまで介護の仕事のために取得してきた資格は「介護福祉士実務者(ヘルパー1級)」「生活習慣予防アドバイザー」「食育アドバイザー」。さらには取材当日「介護レクインストラクター」に合格されました。
つらい、しんどいと言われている介護職ですが、どうやってモチベーションを維持しているのか、大変なことをどう乗り越えたのか、そして介護を通して得られたことについて聞きました。
「チーたんへの恩返し」の気持ちが介護の原動力に
綾菜さんが介護に興味を持ち始めたきっかけは、結婚3年目を迎える頃、加藤茶さんがパーキンソン症候群を発症したことでした。
加藤茶さんとグランピングしたときの写真。「元気になってくれてよかった」と振り返ります。
「当時の私は泣いてばかりで、何もできなかったという無力感がありました。いつもチーたん(加藤茶さんの愛称)に助けてもらっていて、私だって大切な人を守りたい。でも守り方を知らなかったんです。
介護を学ぼうと思った決定打は、チーたんが77歳を迎えた頃。チーたんと同世代のお友達が介護されるようになってきたのを目の当たりにして、チーたんもいつそうなってもおかしくない年齢だという現実に直面しました」
それから綾菜さんは「介護職員初任者研修」を学ぶ学校に入学し、約半年かけて介護職員初任者研修を修了。その後もより実践的なことを学べる「実務者研修」を取得するために週4〜5日、朝8時から18時まで学校に通う日々が続きました。
「介護福祉士実務者(ヘルパー1級)」の合格祝いに加藤茶さんから貰った腕時計。「防水じゃないから介護現場ではつけられないんですけどね」と言いつつも顔がほころぶ綾菜さん。
介護を学ぶうちに、綾菜さんに起きた変化がいくつかあると言います。
「介護を学ぶ前までは、私はチーたんのために何でもしていて、靴下まで履かせていました。それが高齢者であるチーたんへのサポートだと思っていたんです。でも実は真逆で。これでは、相手の可能性をつぶして認知症につなげてしまう。ずっと健康でいてもらうには、自分で考えて動いてもらう『自立支援』が大切だと学びました」
それからは、車移動をやめて毎日ウォーキングをしてもらうことからスタート。さらに、週1回のジム通いやピラティスを一緒に続けたところ、加藤茶さんに変化が見られたそう。
「それまで曲がっていたチーたんの腰がピンと伸び、筋肉もつきました。頭の回転も以前より早くなった気がします」
綾菜さんのご家族とマネージャー、加藤茶さん、綾菜さんで、定期的にごはん会をするのだそう。「みんなでチーたんを守ってます!」
さらに介護の知識を得たことで、「チーたんの介護に対する心構えもできた」と綾菜さんは続けます。
「介護のことを何も知らなかったときは、チーたんに何かあるたびにビクビクしていましたが、今は動じない心を手に入れました。無知が恐怖や不安を産んでいたんだって気づいて。それに、介護を知れば知るほど、こんなに人のためになる尊い仕事はないと実感します。そんな仕事に巡り会えて、本当に嬉しい。
これまでバッシングなどもありましたが、その間チーたんはずっと私のことを全力で守ってくれました。今度は私が介護を学んで、チーたんに恩返しをする番。元気に『茶寿(108歳)』を迎えられるようにサポートしていくつもりです」
介護の仕事は「その人の人生の最後の伴走者になれる」
「介護職は尊い仕事」と感じるきっかけのひとつに、デイサービスのボランティアで買い物同行を拒否されたエピソードがあります。
「一人暮らしをしているご高齢の利用者さんに『綾菜さんは嫌だから担当者を変えてほしい』と言われてしまい頭が真っ白になりました。でも、『この方の貴重な1日を私に預けてもらえたんだから、最高の日にしなきゃ!』と気持ちを切り替えました。元気よく笑顔でお願いしたらなんとかOKしてもらえて。介護職においてポジティブさや明るさは大切なのかもしれないですね」
人生100年時代とはいえ、高齢者にとって残された時間を無駄にさせてはいけないーー。そんな思いから、利用者の興味がありそうな話題を探りながら、介護食アドバイザーの知識を生かして1カ月分のレシピを提案、食材選びをサポートしました。
「1カ月分の食料が入ったカゴを両手に抱えながら車椅子の操作をするのは難しくて、あちこちぶつけてしまいました。でも、最後に利用者さんから『来月もあなたに担当してもらいたい。120点だったわ』と言ってもらえて。
その日、帰宅したらチーたんに『なんだかやけにご機嫌だな。やっぱり介護職向いてるんだね』って言ってもらえて嬉しかった。介護職はやりがいもあるし、本当に尊い仕事だと思います」
それからというものの、綾菜さんは利用者さんと接する際に、「自分から元気に挨拶をすること」「見えていることだけがその人の全てではないから、その人のバックボーンも知った上で接すること」を心がけているそうです。
「私の周りにいる介護従事者の方たちは、『ヘルパーは利用者さんの人生の最後の伴走者になれる』と思いながら接していると話していて、やっぱり尊い仕事だと実感しました。私もその仲間に入りたいと強く思ったんです」
介護の楽しさややりがいを感じる一方で、「教科書と実践は違う」と冷静にとらえている一面もあるといいます。
「資格だけ持っていても介護の現場を経験していなければ意味がないと思っているので、これからも現場で学ばせてもらいたい。次は特別養護老人ホームに住み込みで働かせてもらう予定です。そのときに必要になると思い『介護レクインストラクター』の資格も取ろうと思っていたので、合格してよかった!」
介護は作業でなく愛情を与えること
そうやって介護の経験を重ねていくうちに、介護には「家族ができること」と「プロに任せた方がいいこと」があると気づいたといいます。
「私の場合、チーたんが私のことを認識しているうちは、排せつ介助だってなんだって頑張れる自信があります。でも、私を誰だか分からなくなってしまったら、心が折れてしまうかも......。そのときはプロを頼ろうと思います」
そして、介護が進んでいるというイタリアから来た先生の研修を通じ、介護そのものに対する認識も変わりました。
「先生から、介護は単なる作業でなく愛情を与えることだと学びました。たとえば、コミュニケーションの取れない利用者さんの場合、ただ触れるだけでは恐怖を与えてしまうそう。包み込むように触れることが愛情だと知りました」
「次に働かせてもらう特別養護老人ホームでは、コミュニケーションが困難な方のサポートを担当させてもらう予定です。知識ももちろん必要ですが、愛情もしっかり持って臨みたいと思っています」
介護をする人自身の体も大切にしてほしい
介護業界の課題である慢性的な人手不足に関しても、「介護職の素晴らしさを知れば、興味を持ってくれる若い方も増え、業界も盛り上がると信じています。私がもっと介護を学び、多くの方に向けて発信していこうと思います」と前向きな姿勢を見せてくれました。
最後に、現場で利用者さんと向き合う介護従事者へメッセージをもらいました。
「『お体に気をつけてください』と1番に伝えたいです。以前、番組でご一緒した勝俣州和さんから『加トちゃんのためにも、綾菜ちゃんが元気でいないと』と激励の言葉をいただいたことがありました。私はそういう言葉で奮起するタイプですが、ここ最近は年齢とともに自分を労らないと続けられないとも感じています。体を大事にしながら、一緒にがんばりましょう!」
取材:畑菜穂子
写真:水野昭子
企画・編集:藤田佳奈美
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介護のみらいラボ編集部コメント
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