高齢者施設にアートを導入!心のケアや認知機能の向上を目指すアートアクション「アートあ」とは?
株式会社SOYOKAZEでは、自社が運営している高齢者施設にアートを導入する「アートあ」の取り組みを実施しています。施設の共有部分に絵画を飾ったり、クラシックの演奏会を開催したりするなど、介護施設にいながらアートに触れられる取り組みです。高齢者施設にアートを取り入れるプログラムとは、一体どのようなものなのでしょうか。株式会社SOYOKAZE アートディレクターの佐藤麻紀子氏に話を聞いてみました。
1.「アートあ」とは?
――「アートあ」とは、一体どのような取り組みなのでしょうか。
「アートあ」は、アートによって、お客様の心のケアや認知機能の向上を目指すプロジェクトです。当社が運営する介護付有料老人ホームや、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどの施設で実施しています。2022年の夏よりトライアル実証を開始し、約6か月間のトライアル期間中には、「施設に彩りを添える4つのアートに関する取り組み」と、「施設の特性にあわせた3種のアートイベント」を開催しました。具体的な取り組みの内容としては、以下のようなものが挙げられます。
<4つのアートに関する取り組み>
・施設内の共有スペースに現代アートを展示する
・フラワーデザイナーがデザインした花を飾る
・選曲家がセレクトした楽曲を共有空間に流す
・アロマセラピストがブレンドした良い香りをエントランスホールや人の集う場所に漂わせる
<アートイベント>
・絵画を通じて対話する「アートの対話型鑑賞会」の開催
・現代アート作家による「アートワークショップ」の開催
・臨床美術士によるアートセラピーの開催
なお、トライアル期間終了後の2023年度からは、「The Easy Art, Action !! 」と呼ばれる、より手軽にアートを楽しめる施策を実施しています。五感を刺激する美的なものを全てアートと捉え、多くのお客様に取り組みを楽しんでいただいていますね。
2.特に人気が高かった取り組み
――単に絵画を飾るだけではない、多種多様な取り組みをされているのですね。トライアル期間を含め、特に人気が高かった取り組みを教えてください。
ワークショップをはじめとしたイベントは、特に人気が高いと感じています。ワークショップでは、アーティストが考えたアート作品を作ります。すると「自分にもアートが作れた」という満足感や自己肯定感を得ることができ、結果として気持ちが上向きになる方が多いようです。実際に施設のスタッフからも、「いつもつまらなさそうにボンヤリしている方の笑顔が見られてとても嬉しかった」「作品を観たお客様のご家族が、感動のあまり涙ぐまれていた」などの声が寄せられており、アートと触れ合う効果を実感しています。
ワークショップではコサージュ作りや指人形作りをすることも
3.現在の取り組みについて
――2024年現在は、具体的にはどのような取り組みを行っているのですか。
現在は「The Easy Art, Action !! 」の取り組みの一環として、プロの演奏家による演奏会の実施や、ガーデニング活動などを行っています。それぞれについて簡単に紹介すると、演奏会とは、プロのシンガーの方をはじめ、フルート奏者やヴァイオリニストなどのプロのクラシック演奏家を施設にお招きして、当社が運営している介護施設「そよ風」ご利用のお客様に生演奏を楽しんでいただく取り組みです。1回の開催時間はアンコールを含めて45分ほどで、ただ静かに演奏を聞くだけでなく、演奏に合わせて手拍子をしたり、歌を歌ったり、時には手話の振り付けをすることもあります。
またガーデニングは、外部講師の指導のもと、お客様ご自身で季節の花々を植える取り組みのことです。「ガーデニングはアートではないのでは?」と感じるかもしれませんが、植物を植えて大切に育て、その様子を眺めて感想を言い合うことは五感の刺激に繋がるため、私たちはアート活動の一つとして捉えています。活動内容としては、講師がセレクトした季節の花々を施設内の花壇に植えたり、水やりをはじめとした植物の手入れをしたりすることが挙げられます。このガーデニングの取り組みは、神奈川県にあるサービス付き高齢者向け住宅「クラシック・コミュニティ横浜」にて実施しており、施設内の屋上庭園を使って活動しています。開催頻度は月に1回ほどで、毎回5〜10人程度の方が植物との触れ合いを楽しまれていますね。
――なぜ「The Easy Art, Action !! 」の取り組みの一環として、演奏会やガーデニング活動を実施することになったのでしょうか。
演奏会を始めたのは、「年齢を理由に生の音楽に触れることを諦めて欲しくない」と考えたためです。歳を重ねると、体が不自由なためコンサートホールに行きづらい、トイレが近くなり長時間座っていることが難しいなどの理由により、生で演奏を聞く機会がどんどん減少してしまいます。やはり生の演奏には、CDやラジオでは感じられない良さがあるものです。そのため、施設にいながら生の音楽に触れていただくことを目的として、施設内での演奏会を継続的に実施しています。なお、この取り組みは大変人気で、2024年6月までに、全国の「そよ風」にて約50回もの演奏会を開催しました。
一方、ガーデニング活動は、「植物を育てることは、身体機能のリハビリや生活の質の向上にも繋がるのでは」との考えから始めました。園芸療法と呼ばれる取り組みがあるように、植物に触れ、育てることには、ストレスの軽減や意欲の回復などの効果があると言われています。お花を育てることがお客様の癒しになるだけでなく、「お花の色あいがとてもきれいね」「ちょっと元気がないように見えるけれど、どうしたらいいかな」「(植え替え後に余った花を)お部屋に飾りたいわね」など、ガーデニングを通して、コミュニケーションの活性化も期待できると感じています。
季節の花々で彩られた屋上庭園
4.入居者さんからの反応
――「アートあ」の取り組みについて、入居者さんからの反応はいかがですか。
2023年から実施している演奏会は、特に多くのお客様に喜んでいただいています。これまでに演奏会を開催した施設では、お客様から「もっと聴いていたかった」といった感想をいただいたほか、感動して涙ぐまれる方もいらっしゃったほどです。また、音楽大学出身のお客様に演奏の指揮をしていただいたり、サックスの演奏経験がある施設のスタッフが演奏に参加して、フルートなど他の楽器とサックスのカルテットを結成したりするなど、さらに充実した演奏会になるように、工夫を施している施設もあるようです。今後もお客様にとってアートが身近になるように、さまざまな取り組みを継続していく予定です。
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介護のみらいラボ編集部コメント
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