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ニュース 介護業界ニュース 2024/09/10

#インタビュー

高齢者施設にアートを取り入れた理由や効果は?アートアクション「アートあ」の推進背景

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介護のみらいラボ編集部コメント

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株式会社SOYOKAZEでは、自社が運営している高齢者介護施設にアートを導入する「アートあ」の取り組みを実施しています。施設の共有部分に絵画を飾ったり、クラシックの演奏会を開催したりするなど、介護施設にいながらアートに触れられる取り組みです。では、なぜ高齢者施設にアートを取り入れるプログラムを始めることになったのでしょうか。株式会社SOYOKAZE アートディレクターの佐藤麻紀子氏に話を聞いてみました。

1.「アートあ」の取り組みを始めた2つのきっかけ

――「アートあ」の取り組みを始めたきっかけを教えてください。

取り組みを始めた理由は大きく2つあります。1つは、従来とは異なる、新しい介護サービスの提供を開始する必要があると考えたためです。近い将来において、介護サービスを利用される主なお客様は、団塊の世代に移り変わっていきます。高度経済成長期において豊かな生活を過ごしてきた団塊の世代の方々にとっては、従来の介護サービスだけでは物足りなさを感じる可能性があり、これまでのものに加えて、新しい介護サービスの提供が必要なのではないかと考えました。そこで、新しいサービスの確立を目指して、2022年より「アートあ」の取り組みを行うことにしたのです。

もう1つは、お客様だけでなく、スタッフにとっても快適な環境を整えたいと考えたためです。2025年問題という言葉が広く知られているように、日本は今後ますます「超高齢社会」となり、多くの業界において労働者不足が予想されています。当然ですが、介護施設の入居希望者がたくさんいても、働く人がいなければ施設は運営できません。そのため、介護業界で働く方からも選ばれる施設になる必要があると考えています。当社では、求職者の方やスタッフからも「素敵な環境で働ける施設だ」と思っていただけるように、アートに関する取り組みを行っています。

2.高齢者施設でアートアクションを実施するメリット

――高齢者施設においてアートアクションを実施することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

最大のメリットは、施設にいながら文化的な体験ができることだと考えています。年を重ねると、身体機能の低下などにより、どうしても演奏会や美術館を訪れることが難しくなってしまいます。要介護度が進み高齢者施設に入居した場合は、なおさら芸術に触れる機会が少なくなってしまうのではないでしょうか。年齢を理由に、文化的なものごとが遠い存在となってしまうのは、大変悲しいことだと思います。アートの導入は、癒しやリラックス効果をはじめとした精神面へ良い影響を与えるほか、脳やコミュニケーションの活発化なども期待できると言われています。施設にアートを導入することで、お客様の心と脳にとって良い刺激となれば嬉しいです。

シンガーソングライターで、みやぎ絆大使を務める天道清貴(てんどう きよたか)さんをお招きしてミニコンサートを開催したことも

シンガーソングライターで、みやぎ絆大使を務める天道清貴(てんどう きよたか)さんをお招きしてミニコンサートを開催したことも

3.「アートあ」の取り組み継続にあたり難しかったこと

――2022年のトライアル実証の開始から約2年が経ちますが、「アートあ」の取り組みを継続するにあたり、難しかったことはありますか。

お客様から、現代アートについての理解を得られなかったことでしょうか。この「アートあ」の取り組みを始めた際、実証トライアルの対象施設にて、現代アートや抽象画を展示しました。その背景には、高齢者の皆さんにとってあまり馴染みのないアートを設置することで、脳や心に良い刺激を与えたいとの思いがあったのです。すると、「何が描いてあるのかよく分からない。もっと分かりやすい絵が良いな」「有名な絵はないの?」などのご意見が集まり、設置したアートについて理解を得ることはできませんでした。そのため、現在はアートを見慣れていただくことや、好きなっていただくことを優先して、植物画などの美しく親しみやすい作品を設置するようにしています。

ただ、お客様のなかには、現代アートの鑑賞を楽しまれていた方もいらっしゃるようです。以前あるお客様と現代アートを一緒に見ていた時に、「これって何が描いてあるか良く分からないけれど、もしかして〇〇に関する絵なのかしら?色合いがとても美しいわね」と言われたことがありました。現代アートや抽象画は一見何が描かれているのか良く分からないものが多いですが、ずっと見ていると新たな気づきを得られることがあります。その方なりにアートを解釈しようとしてくださったことが嬉しくて、この出来事は今でも印象に残っています。

「もっとアートを身近に感じていただけたら嬉しい」と話す佐藤さん

「もっとアートを身近に感じていただけたら嬉しい」と話す佐藤さん

4.入居者さんに楽しんでいただくために全て一流のものを用意する

――入居者さんに「アートあ」の取り組みを楽しんでいただくために、その他に行っている工夫があれば教えてください。

全て一流のものを用意することです。これは私の持論なのですが、一流のアートだけが人の心を動かせると考えています。そのため、今年度実施を予定しているアートの展示やワークショップ、現在実施している演奏会やガーデニングにおいても、それぞれの分野のプロフェッショナルの力をお借りして活動を継続しています。

「プロの方の演奏ではなくても良いのでは」と感じるかもしれませんが、ただ演奏が上手なだけでは、喜んでいただくことはできても、人の心は動かせないのではないでしょうか。プロフェッショナルなアーティストによる演奏だからこそ、真からの感動が生まれるものだと思います。日常的に芸術に触れる機会が少なくなってしまった、高齢者の方々に楽しんでいただく貴重な機会だからこそ、レベルの高い物を用意するように心がけています。

5.今後の展望

――今後の展望をお聞かせください。

今後の予定は大きく2つあります。1つは、楽器の演奏に関するイベントを開催することです。現在、マリンバ奏者の方を施設にお招きして、演奏家とお客様が一緒に即興演奏をするイベントを、デイサービスやショートステイなど通所型の施設を中心に企画しています。マリンバはかなり大きな楽器なので、3~4人の方が一緒に演奏するのも良いですし、何か得意な楽器がある方は、その楽器とマリンバで合奏をするのも面白いと思います。

2つ目は、高齢者の脳と心に良い刺激を与えられるアートを探すことです。先ほどもお話したように、最初に現代アートを展示した際はネガティブなご意見が多く寄せられましたが、お客様にとってアートが身近な存在になるにつれて、全ての施設において、ネガティブな意見よりもポジティブな意見が増えました。そのため、今後も多種多様な取り組みにより、お客様にとって最適なアートを模索していきたいと考えています。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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