足の爪ケアで介護予防!別府市の温泉でフットケアを行う「爪切り屋さん」とは?

大分県別府市では、看護師・フットヘルパーの堀友美氏による「爪切り屋さん」が注目を集めています。爪切り屋さんとは、主に足の爪を整えることで介護予防を図るサービスです。自分では足のケアが難しい地域の高齢者を中心に、別府市の市営温泉にてサービスを提供しています。介護予防にも繋がる足の爪ケアとは、一体どのようなものなのでしょうか。爪切り屋さんの概要やお客様の傾向などについて、同氏に聞いてみました。
1.高齢者を対象とした「爪切り屋さん」とは?
――「爪切り屋さん」の概要について教えてください。
爪切り屋さんは、主に別府市周辺にお住まいの高齢者を対象としたフットケアサービスです。足の爪切りはもちろん、足裏にできてしまったタコや魚の目のケアなど、足全体のケアを行っていることが特徴です。2023年8月からサービスの提供を始め、2024年11月現在は大分県別府市にある5つの市営温泉「湯都ピア浜脇・海門寺温泉・柴石温泉・堀田温泉・不老泉」にて、月に13日間のみ開催しています。お客様は70代から90代の方が7割を占めており、ほとんどの方が別府市在住です。ただ、なかには2時間ほどかけて来てくださる方もいらっしゃり、大分県におけるフットケアへの需要の高さを実感しています。
2.元看護士が「爪切り屋さん」を始めたきっかけ
――「爪切り屋さん」を始めようと思ったきっかけを教えてください。
「高齢者の方と関わる仕事がしたい」と思ったことがきっかけです。私は元々看護師として病院で働いていたのですが、自分が本当にやりたいことについてじっくり考えるうちに、介護の現場に携わりたいと思うようになりました。そこで、皮膚科にて看護師の仕事をしながら、介護施設にてアルバイトを始めます。その際気がついたのは、足の爪が伸びている利用者さんが非常に多いことでした。
実は、私は皮膚科での勤務時にフットケアの基本を学んでいたため、足の爪をケアする重要性を非常によく理解していました。しかし、介護の現場は非常にやるべきことが多く、どうしても食事介助やトイレ誘導を優先してしまうため、爪のケアに時間を確保することは非常に難しい状態だったのです。このような経験から、「介護スタッフとして爪のケアをすることが難しければ、爪切りの専門家として現場をサポートできないだろうか」と考えるようになり、フットケア専門のサービスの提供を検討し始めました。

爪切り屋さんの開催スケジュールは、堀さんのnoteでも確認できる
3.フットケアを温泉で開催する理由
――温泉で開催しているのは珍しいですね。特別な理由があるのでしょうか。
そもそも、爪切り屋さんの活動の中心地を別府市にしている理由は、別府市におけるフットケアの必要性について実感したためなんです。フットケアは関東周辺では広まりつつありますが、私の地元である大分県別府市では、フットケアに関するサービスを提供している方はほとんどいらっしゃいません。この状況を把握した際に、「別府市の周辺では足のケアができず困っている方がたくさんいるのではないか」と考え、大分県別府市を拠点として爪切り屋さんを始めることにしました。
ただし、フットケアは別府市の方々にとってはマイナーなサービスであり、実際にサービスの提供を始めても、浸透しづらいことが予想されました。そこで、「地域にお住まいの方々が慣れ親しんだ場所である市営温泉にて開催すれば、より多くの方に興味を持っていただけるのでは」と考えたのです。温泉は地元の方々が毎日のように集まるだけでなく、誰もが裸足になる場所でもあります。日常生活に関わる場所でサービスを提供することで、本当に困っている方にフットケアについて知っていただけるのではと思い、温泉での開催を決めました。
4.サービスは1回30分!その内容は?
――具体的には、どのようなケアを行っているのですか。一回の流れを教えてください。
高齢者のなかには同じ体勢を長時間維持していることが難しい方も多いため、爪切り屋さんでは、基本的に1回のサービス提供時間は30分以内に設定しています。初回のお客様がいらっしゃった場合は、現在の足の状況やご病気、お悩みなどについてのお話を伺いつつ、ご本人が最も困っているものからケアを始めるようにしています。例えば爪と魚の目の両方でお悩みの場合は、どちらがより困っているかについて確認のうえ、優先度が高そうな方からケアを進めるイメージです。リピーターさんは毎回同じ内容のケアを希望される方が多いですが、初回のお客様などフットケアに慣れていない方の場合は、毎回丁寧にご希望を確認しながら作業を進めています。

丁寧に足のケアを行う堀さん
――お客様からの反応はいかがですか。
最近はリピーターのお客様も増えてきて、とても嬉しく感じています。頻度としては、1ヶ月から2ヶ月に1回のペースで来てくださる方が多いですね。足の爪で長期間お悩みの方からは、「今までは1時間近くかけて汗を流しながら爪を切っていたけれど、もう爪を切ること自体を考えなくて良くなったので、ストレスから解放された」というご感想をいただいたことがありました。また、フットケア全体に関するご感想では、「タコや魚の目の痛みで長時間歩くことが辛く、旅先で靴を買い換えたり、タクシーに乗ったりしていたけれど、今は散策を楽しめるようになった」といったお言葉を頂戴したこともあります。足の爪でお困りの方のなかには、加齢によって爪がうまく見えなくなったり、握力が弱くなって爪切りに力を入れられなくなったりしている方も多く見られます。足に関するお困りごとが出た際に、気軽に頼っていただけるサービスになればと考えています。
5.ケアの様子はあえてオープンに
――フットケアをする際に心がけていることはありますか。
個室ではなく、あえてオープンな場所でサービスを提供することです。フットケアサービスと聞いても、具体的なイメージが湧かない方はたくさんいらっしゃると思います。そのため、ケアの様子を見えるようにすることで、地域の方々の不安を取り除けたらと考えました。新しい美容室に行く際に少しドキドキするのと同じで、ケアの様子や内容が分からなければ、予約をしたいとは思わないのではないでしょうか。皆さんが毎日通うお風呂でケアを行い、様々な方が「気持ちよかったです」「また来ますね」と言って帰っていく姿を目にすることで、私も行ってみようかなという気持ちになっていただければ嬉しいなと考えています。また、お客様の気持ちを汲み取りながらケアをすることも、心がけていることの一つです。足を人に見せることに抵抗がある方も多いと思うので、お客様のご要望や緊張の度合いを確認しながら、無理のないペースで進めるようにしています。
5.爪を整えるだけでなく、地域の人と人を繋げる場にもなりたい
――今後の展望をお聞かせください。
今後は爪を整えるだけでなく、地域の人と人を繋げる場にもなりたいと考えています。大分県別府市では高齢化率が50%近い地域もあり、今後も高齢者がこの地域で生活し続けるには、横の繋がりを活用してお互いに助け合うことが欠かせません。単に日常生活を送っているだけでは新たな繋がりは生まれづらいため、私が中心的な存在となり、交流の機会を生み出せればと思います。
例えば私が温泉にて爪切り屋さんを開催し、そこに来てくださったお客様と、「何をしているの」と話しかけてくれた方と3人で話をすれば、それだけでも新たな繋がりが生まれますよね。別府には数多くの温泉があるので、皆さんのご自宅近くの温泉でも爪切り屋さんを開催することで、人と人との繋がりを増やしていきたいです。また、地域の介護施設に伺ってフットケアサービスを提供することも検討しています。フットケアは一生自分の足で歩くために欠かせないため、今後も「旅行に行きたい」「出かけて友達とおしゃべりをしたい」などの理由で爪切り屋さんを活用していただければ嬉しいです。
株式会社cheer town 代表取締役 堀友美
フットヘルパー協会認定講師。看護師・保健師免許保持。別府温泉×フットケア事業展開中。
1991年大分県別府市出身。大分大学医学部看護学科卒業。高齢者に関わる仕事をするのが夢で、看護師免許取得。皮膚科クリニックに6年間従事し、高齢者が足の爪切り、タコ・魚の目ケアに困っている現状を知る。足のトラブルで歩けなくなり介護が必要になったのではないかと考え、「人生最期まで歩き続ける足作り」をテーマに、別府温泉の一角を使って【爪切り屋さん】を展開。今後は高齢者介護施設への訪問フットケアサービスや巻き爪専門サロン、フットケアの教育事業も展開する。
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介護のみらいラボ編集部コメント
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