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ニュース 介護業界ニュース 2021/01/28

#インタビュー#介護福祉士

日本介護福祉士会会長 及川ゆりこさんに聞く(1)「介護福祉士会とは?その役割」

日本介護福祉士会会長の及川ゆりこさん(女性).jpg

日本介護福祉士会は、介護職員を助け、最終的に国民の福祉を向上させるのが使命

介護のみらいラボ編集部コメント

感染者ゼロにはならないまま、長期化する "withコロナ"の時代。
「施設内に1~2人くらいは感染する方が出ても仕方ないという心構えでのぞんでほしい」 ―――大曲貴夫先生から第1回目にいただいたアドバイスです。どんなに感染対策にしっかり取り組んでいても、感染のリスクはゼロにはなりません。インタビュー最終回は「もしかしたらあのご利用者(職員)は新型コロナかも?」、そのとき介護職はどう対応すればよいのか、アドバイスをいただきました。

国家資格である介護福祉士は、質の高い介護を提供するためにいまや不可欠な存在になりました。その介護福祉士の意見を集約し専門性を向上・国民の福祉に寄与するのが日本介護福祉士会です。
2020年7月に会長に就任されたばかりの及川ゆり子会長は、介護現場の1職員から老健、訪問介護、サ責、ケアマネ、特養施設長・法人取締役まで歴任しています。及川会長に、介護福祉士へ寄せる期待や思い、いま社会に伝えたいことを3回にわたってうかがいます。

(2021年1月現在)

目まぐるしく変わる介護業界と介護福祉士の状況

「日本介護福祉士会」は、国家資格である介護福祉士の職能団体として、1994年に設立されました。おもな事業として、介護福祉士向けの生涯研修の開催と調査研究事業に取り組むとともに、国の社会保障審議会等で積極的な提言を行い、介護福祉士が職場で専門性を発揮できるよう、社会環境を整える活動を行っています。事業者だけではない介護する側の立場から意見を述べています。
会員の意見を聞き、現場介護職の意見も代弁した例としては、施設系だけではなく在宅系介護職への新型コロナウイルスワクチン優先接種を求める要望書を田村厚生労働相に提出し、話題となったことなどがあげられます。

――会の事業の中でも、特に「生涯研修」がきわ立っています。

「知識の普及を通じて、介護福祉士の資質の向上を図ることが生涯研修の目的です。いまだに『介護の仕事は誰にでもできる』などと言う人がいますが、そんなことはありません。例えば30年間優秀な営業職だった方がいたとして、その人が体位変換と褥瘡ケアをいきなりひとりで完璧にできるでしょうか?
利用者のニーズが多様化するなかで、介護はきわめて高い専門性が必要とされる仕事です。

特に現場のリーダーである介護福祉士には、しっかりした職業倫理観が求められます。
また、介護についての知識は時代とともに変わっていきます。最近では、認知症高齢者の増加や、いわゆる"8050問題"――障害者が50代、その保護者の方が80代と高齢になり、障害者の今後の生活をどう支えるか――など複雑な問題を含んでいます。介護福祉士の皆さんに、こうした時代のニーズに対応できる新たな知識を身につけていただき、介護の現場で活かしていただきたいのです」

何かを教わるたびに、介護福祉士として次に欲しい知識が増え、広がる

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介護福祉士会会長になるまでの経緯を語る及川会長

及川会長自身は介護職員として病院に入職した後、老人保健施設、訪問介護、通所介護とさまざまな事業所で介護福祉士としての経験を積みました。そして、静岡県介護福祉士会へ参加したのは、介護福祉士を取得して3年目。それを機に及川会長の視野はどんどん広がっていきます。

「地域の介護について情報交換する団体があるのは知っていましたが、毎日の介護業務で忙殺されていて...そんな折、業務で出席した会合で静岡県介護福祉士会の役員から声をかけられたのです。『地域の介護の発展にあなたも力を発揮してください』と。つい、2つ返事で『はい、わかりました!』と答えていました」

その後、興味のおもむくままに会の活動に積極的に参加した及川会長は、その熱意を買われて静岡県介護福祉士会の役員に選ばれます。おりしも介護保険制度の導入前後で介護業務が大きく変化。及川会長は、介護サービスの質評価システムの評価委員などの仕事を依頼されるようになりました。

「いろいろなことに興味をもつタイプなので、頼まれるとすぐ『わかりました、行きます!』って(笑)。"介護保険は走りながら変わっていく"なんて言われる中で、私もいろいろと新しい経験を積むことができました。介護福祉士会に入っていなければこのような機会はなく、ひたすら目の前の介護だけを一生懸命やっていただろうと思います。先輩方にいろいろなことを教えていただいて、多くの研修にも参加するうちに、入職した当初とは全く違う自分の知識の広がりを感じるようになったんです。何かを教わるたびにまたほしい知識が増えていく。その繰り返しで、今の自分があると思っています」

「一時対立しても、自分が間違っていると思う介護に進んではいけない」

及川会長は活動や研修で得た知識を、事業所でもシェアしました。職員の知識が広がり、現場全体の介護の質のレベルアップにつながっていきます。そのリーダーシップが認められ、施設長へ起用されました。

「自分がまさか施設長になれるとは思ってもみませんでした。でも、順風満帆だったかと言われると、決してそういうわけではありません。泣いたり、怒ったり、喜んだり、仕事も試行錯誤をくり返してここまでやってきました」

かつては、介護職員の人件費について経営者層に激しく反発したことも。

「施設長だった時に、『人件費がかかりすぎているから減らせ、一般企業だと人件費は50%未満だ』と言われてつい『介護の仕事をご存知ですか?』と言ってしまいました。経営効率から言えば人数を減らした方がいいし、職員への給与だってたくさん出せるのかもしれません。しかし、ご利用者の数とそれぞれの状態に合わせて、真っ当な介護をするために必ず必要な人数というものがあります。トップが介護の質を低下させるようなことを言ってはいけない。当然と言えば当然ですが、私は間違った方向に進むことが大嫌いで、現場出身ですから実情を踏まえた意見を言います。経営者からしてみれば、扱いにくい施設長だったと思います(笑)」

「介護士」ではなく「介護福祉士」

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介護の専門性確立のため、技術や知識のある資格保持者をはっきり区別することが必要

そんな及川会長がこれまでもさまざまな場でくり返し訴えてきたこと、それは「介護士」ではなく、「介護福祉士」という国家資格の名称をきちんと用いることです。

「有資格者は『介護福祉士』。それ以外の介護従事者は『介護職員』。いずれかの名称で呼んでほしいとお願いしています。研修を受けて勉強し、専門的な知識がある国家資格の介護福祉士と、これから介護の担い手になる層や、経験の浅い介護職員を一緒にされても困る、というのが私たちの立場です」

――職名をきちんと用いてもらうことは、ひいては介護福祉士の社会的地位の向上にもつながるのではないでしょうか。

「その通りです。これまで長い間、介護職員は社会的地位が低いと言われてきました。最近は以前ほどではなくなってきたと思いますが、それでも、現場で実際に働く介護福祉士には『自分たちの社会的地位は低い』という思いがぬぐえていません。国も介護の仕事のイメージ向上をバックアップしてくれていますが、介護の仕事自体に魅力があり、実際に働く者が誇りを持てなければ、人材も集まりません。そもそも介護福祉士という国家資格自体知らない方がまだまだ多いのが現状です。もっと普及啓発に取り組み、自分たちが専門的な技術をもつ専門職であるというアピールを社会に向けてしていきたいと考えています。

私は会長就任時の所信表明で『介護福祉士は国民が安心できる社会生活を保証します』と申し上げました。介護の仕事はいまや重要な社会的インフラであり、介護福祉士が国民に求められる存在であることを訴えていきたいと思います」

介護現場のリーダーの力になりたい

現在のところ、「介護福祉士でなければ担えない」と法的に定められているのは、訪問介護事業所のサービス提供責任者だけです。及川会長は、ユニット型介護老人福祉施設のユニットリーダーは介護福祉士であることを要件にし、介護福祉士の制度的な位置づけを明確にしてほしい、と国に対し要望しています。

介護福祉士が施設介護現場のリーダーであるべきことが、制度的に明確にされていません。実際のところ、現場でのリーダー的な存在は介護福祉士が担っていることがほとんどなのですが。リーダーには介護技術や業界の知識を備え、利用者のアセスメント~ケア計画の立案~評価という一連の介護過程の展開を取りまわせるスキルが必要です。そうしたスキルをもったリーダーでなければ、施設の介護の質の低下にもつながりかねません」

日本介護福祉士会は生涯研修制度を通じて、リーダーの育成に注力してきました。国家資格取得後、2~3年を経た介護福祉士を対象にした「ファーストステップ研修」がリーダー育成のための研修に当たります。

――日本介護福祉士会のファーストステップ研修ではどのようなことを学ぶのですか。

「ケアの技術だけでなく、運営面も学びます。チームを運営するためには何が必要か、リーダー像を学ぶことが現場で人をまとめていくときの力になります。いま、現場で一番疲弊しているのが、リーダークラスの介護福祉士だと思うのです。自分自身が利用者のケアに当たる一方で、新人の介護職員の指導も担わなければなりません。コロナ禍の厳しい状況のなかでも、自分の気持ちも保っていかなければなりません。一生懸命がんばって指導してもやめていく職員がいたり、利用者さんがなかなかおだやかな生活に改善できなかったり。取り組んでは反省するのくり返しでなかなか先のステップに進めないという悩みにも直面します。会としては、何より、がんばっている現場のリーダーたちをできるだけフォローしたいのです。そのためにしっかりとした生涯研修体系を作り上げ、皆さんの力になりたいと思います。現在、コロナ禍で集合研修が全くできなくなってしまいましたが、オンライン研修の準備を進めています」

認定介護福祉士と地域包括ケアシステム

「ファーストステップ研修」の上には、「認定介護福祉士養成研修」が用意されています。一般社団法人 認定介護福祉士認証・認定機構が認定する「認定介護福祉士」の取得をめざす人のための研修です。認定介護福祉士は現在のところ全国で60名(2020年9月現在)誕生しており、その中には及川会長のお名前も。

「私自身もこの養成研修(当時はモデル版)を受講しました。研修で外国人材、元気なシニア、子育て中の空き時間を使って介護現場で働くお母さんといった多様な人材を現場でマネジメントできるためのスキルを教えていただいたり、仲間同士で意見交換をしたりしました。そこでつくづく感じたのは、"地域にかかわることの大切さ"です。地域包括ケアシステムをうまく回していくために自分たちがいる――介護福祉士は自分の事業所のために、目の前の利用者のために、管理者となれば職位のことや事業全体のことを考えて仕事をしています。が、さらに"地域福祉"を考えることができる視野をもった介護福祉士が『認定介護福祉士』なのです。より広い視野をもった認定介護福祉士が少しずつ増えていくと、きっと地域包括ケアシステムのなかで、さまざまな専門職との連携をしっかりと取りまわせる人材が増えてくると思うのです。私の任期中にもっと認定介護福祉士の養成が進むことを期待しています」

次回は、及川会長ご自身の現場での思いや、仕事を続けてこられた原動力などについてお伺いします。

解説/公益社団法人日本介護福祉士会 及川ゆりこ会長(認定介護福祉士/介護支援専門員)
取材/中保裕子(医療ライター)

>>「介護現場で見る認知症とその種類。回復できる認知症も!原因疾患の診断について」の記事を読む

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