歩行介助とは?ケアのメリットや方法・留意点をそれぞれ解説
編集/中西紗羅(介護福祉士)- 目次
- 1.歩行介助とは
- 2.歩行介助を行うメリット
- リハビリになる
- 転倒防止に繋がる
- 生活習慣病の予防に繋がる
- ADLの低下・「寝たきり」になるリスクを防げる
- 歩行介助の種類
- 歩行介助時の立ち位置と介助方法
- 見守り歩行介助
- 寄り添い歩行介助
- 手引き歩行介助
- 階段昇降での歩行介助
- 昇段での歩行介助
- 降段での歩行介助
- 杖を使った歩行介助
- 歩行器具を使った歩行介助
- 歩行器を使った歩行介助
- キャスター(車輪)付き歩行器を使った歩行介助
- シルバーカーを使った歩行介助
- 5.身体状況に合わせた歩行介助のポイント
- 片麻痺
- 認知症
- パーキンソン病
- 半側空間無視
- 6.歩行介助を行う際の留意点
- 対象者の身体症状を理解する
- 対象者の体調や服装を確認する
- 障害物や危険物を取り除く
- 杖や歩行器のメンテナンスを行う
- まとめ:対象者に最適な歩行介助を行いましょう
「歩行介助」とひとことに言っても、歩行介助が必要な対象者の身体状況や持病などによって介助方法が異なります。経験の浅い介護職の方は、「この人には、どのような歩行介助を行えばいいのか」と疑問に思うこともあるでしょう。今回は、歩行介助を行う目的やメリットや歩行介助の種類・方法、実施するときの留意点についてそれぞれ解説します。
1.歩行介助とは

歩行介助とは、主に加齢とともに身体機能の衰えが生じている高齢者や、身体機能に障害を抱えている方を対象に、介護職が歩行をサポートすることをいいます。これらの方々は、筋力や身体機能の衰えなどに伴う「ふらつき」による転倒のリスクが高く、転倒の衝撃によってさらなる障害が発生することが考えられます。また、歩行すること自体に不安を抱えてしまい、日常生活に支障をきたす恐れもあるでしょう。そのため、介護職は自立心の向上や対象者の転倒防止や安心感を与えることを目的として歩行介助を行います。
2.歩行介助を行うメリット

歩行介助を行うことのメリットを解説します。
リハビリになる
一人で歩いたり、移動したりすることが難しくなり、歩行や移動に心配や恐れを抱えてしまうと、外出することが減少する可能性があります。そうなると、さらに筋力も著しく低下する恐れがあるため、一人で歩くこと自体がさらに困難になってしまいます。そのため、リハビリを兼ねて歩行をすることで、筋力の維持・向上を図り、自立した歩行を目指せるでしょう。
転倒防止に繋がる
転倒リスクのある高齢者や、身体機能に障害を抱えている方に歩行介助を行うことで、転倒防止に繋がります。また、介護者が側にいることで対象者が安心して歩行できるようになります。
生活習慣病の予防に繋がる
歩行介助によって歩く機会の身体活動が増えると、生活習慣病の予防にも効果が期待できます。
厚生労働省の資料でも、「身体活動を実施することによって、循環器病、2型糖尿病、がんが予防され、うつや不安の症状が軽減されるとともに、思考力、学習力、総合的な幸福感を高められる」とあり、健康づくりとして運動が推奨されています。(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023│厚生労働省(PDF))
個人差を加味する必要はありますが、高齢者における一つの目安として厚生労働省が推奨している、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上に相当)を、意識して行うことがおすすめです。
ADLの低下・寝たきりになるリスクを防げる
歩く機会が減少すると、体の筋力も衰え、移動・排泄・食事・更衣・洗面・入浴などの日常生活動作(ADL)の低下に繋がります。また、筋力の衰えや転倒リスクなどは、高齢者が「寝たきり」になるリスクを高める要因にもなります。運動することを意識して歩行介助を行い、筋力の維持に努めることで、ADLの低下や寝たきりになるリスクの予防に繋がるでしょう。
3.歩行介助の種類

対象者の歩行をサポートする介助には、以下のような種類があります。
| 歩行介助の種類 | 介助方法 |
|---|---|
| 見守り歩行 | 介助者が斜め後ろに立ち、見守る |
| 寄り添い歩行 | 介助者が対象者の横に立って、体を支える |
| 手引き歩行 | 対象者と介助者が顔を合わせて立ち、対象者の両手を支える |
| 階段昇降での歩行 | 介助者が斜め前方もしくは斜め後方に立ち、見守る |
| 杖を使った歩行 | 介助者は杖の反対側で、脇の下と肘の間を支える |
| 歩行器具を使った歩行 | 対象者が歩行器やシルバーカーを使うのをサポートする |
対象者の身体状況や歩行状態に合わせ、適切な方法で歩行介助を行いましょう。
4.歩行介助時の立ち位置と介助方法

歩行介助の種類に応じた介助方法を説明します。
見守り歩行介助
直接、対象者の体には触らず、斜め後ろに立ち歩行を見守る方法です。歩行がある程度安定している方、身の回りのことを比較的自力で行える方に適しています。常に対象者の様子には目を配り、ふらつきや、転倒しそうになった場合に、即時に支えられるポジションで見守ります。介助方法は以下のとおりです。
- 介助者は、対象者の斜め後ろに立つ
- お互いの足並みを揃えて、右足→左足→右足と出し、ゆっくりと歩く
周囲の障害物や、足元の段差などの確認も念入りに行い、歩行中は対象者へ声をかけて安心感を与えるといいでしょう。
寄り添い歩行介助
1人では歩行が少し心配な方や体に麻痺がある方の横に寄り添って立ち、体を支える方法です。介助方法は、次のとおりです。
- 介助者は対象者の真横(対象者の聞き手と反対側、もしくは麻痺がある側)に立つ
- 対象者の脇の下と手を支えて、対象者のペースで歩く
対象者の体重全体を支えるのではなく、バランスを取る程度の力加減で行うことがポイントです。
また、安定した歩行介助を行うために介助者自身の姿勢保持も、重要です。
手引き歩行介助
短い移動に適した歩行介助です。介助方法は、次のとおりです。
- 対象者と顔を合わせて立ち、両手を軽く握る、もしくは肘を支える
- 対象者の歩幅に合わせて、ゆっくり歩く
- 歩行時には、対象者とは逆の足を出す
介護者の両手で対象者を支え、顔を向かい合わせながら歩くため、安心感を与えられます。介護者の手で「掴む」のではなく、下から「支える」ようにして支持するとバランスを保ちやすくなります。
介助者は後ろ向きで歩行するため、周囲や足元の状況にも気を配りましょう。
階段昇降での歩行介助
対象者は、手すりや杖を使ってて階段昇降を行います。階段の昇り・降りで、介助者の立ち位置などが異なるため、違いをしっかりと理解しましょう。
昇段での歩行介助
1. 介助者は対象者が位置する段の一段下の段を目安に、斜め後方に位置する
2. 対象者の脇や腰を支えて、歩行できる姿勢を保持する
3. 対象者は手すりに捕まり、一段ずつゆっくりと昇る
4. 杖を使う場合は、杖→健足→患足の順に足を出す
降段での歩行介助
1. 介助者は対象者の斜め前方、一段下の段を目安に立つ
2. 対象者の脇や腰を支えて、歩行できる姿勢を保持する
3. 対象者は手すりに捕まり、一段ずつゆっくりと降りる
4. 杖を使う場合は、杖→患足→健足の順に足を出す
階段昇降は体が疲れやすいため、対象者の体調や状態を常に気にかけましょう。また、階段昇降時は転倒や転落のリスクも高いため、足元も注意深く観察することが求められます。介助者自身も、転倒や転落などに気をつけて介助しましょう。
杖を使った歩行介助
杖を使った歩行介助は、主に下肢の筋力低下やふらつきなどの理由で、長距離での歩行が困難な方に向けた歩行介助です。杖には複数の種類があるため、対象者に合わせた杖を選びましょう。
1. 杖をついて握り、肘の角度が30度ほど曲がる長さに調整する
2. 対象者は患足とは反対の手で杖を持ち、介助者は患足側の後方に立つ
3. 対象者の脇の下から肘(杖を持っていない側の腕)にかけてそっと支える
4. 介助者は、対象者と同じ足を出し、ゆっくりと歩き出す
介助者は、対象者の足並みに合わせましょう。また、事故防止のために、杖を使用する前後で点検しておくことも大切です。
歩行器具を使った歩行介助
対象者の状態に合わせて、歩行器やシルバーカーを使って歩行介助を行う場合もあります。歩行器やシルバーカーは杖よりも安定性があります。
歩行器を使った歩行介助
1. 歩行器は、肘が若干曲がり、少し前かがみになるような高さに調整する
2. 介助者は対象者の斜め後方に立ち、脇の下をそっと支える
3. 対象者は、歩行器→患足→健足の順に、焦らずゆっくりと歩く
キャスター(車輪)付き歩行器を使った歩行介助
1. キャスターなし歩行器と同様に、高さは少し前かがみになり、肘が若干曲がるように調整する
2. 介助者は対象者の後方に立ち、腰や脇の下をそっと支える
3. 対象者が一歩を踏み出したら、介助者もそれに合わせて踏み出す
シルバーカーを使った歩行
1. シルバーカーのハンドルの高さを、肘が若干曲がり、少し前かがみになるように調整する
2. ブレーキの効きを確認する
3. 対象者の斜め後ろに位置し、必要に応じて脇の下をそっと支える
4. ゆっくりと歩行をする
シルバーカーにもたれ掛かり過ぎると、転倒の恐れがあるため注意が必要です。また、ロックのかけ忘れは事故の原因になります。念入りに確認しましょう。
5.身体状況に合わせた歩行介助のポイント

片麻痺や特定の疾患など、対象者の身体状況に合わせた歩行介助のポイントを解説します。
片麻痺
事故や脳疾患などの後遺症で片麻痺がある方の歩行介助時は、基本的には「麻痺がある側」からサポートをします。
- 介助者は対象者の麻痺側に立ち、腰を軽く支える
- 対象者の歩行の順番は、患足(麻痺がある側)→健足→患足
- 杖を使用する場合には、麻痺側とは逆の手に杖を持ち、杖→患足→健足の順となる
片麻痺の人の歩行介助では、健足に重心を傾け過ぎないこと、麻痺側の足が段差などに引っかからないように注意を払うことが大切です。
認知症
認知症の方は、認知機能や見当識の低下があり、言葉だけでは指示や説明が理解できないこともあります。そのため、言葉以外にも、指差しや目印などを使い、視覚情報からも行き先を理解してもらう取り組みや工夫をしましょう。
また、病状によっては、自分が置かれた状況を理解できずに不安になったり、声を上げたりすることもります。そのため、介助者は常に穏やかな対応で接することが求められます。
見慣れない場所や環境に不安感を示すこともあるため、最初は慣れ親しんでいる場所で歩行介助を行うことがおすすめです。
パーキンソン病
パーキンソン病は、下記のような症状が現れるのが特徴です。
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| すくみ足歩行 | 最初の一歩が出にくい |
| すり足歩行 | 足を床に擦って歩く |
| 小刻み歩行 | 歩幅が極端に狭くなり、歩行が小刻みになる |
| 加速歩行 | 歩行がだんだんと速くなる |
すくみ足歩行には、最初の一歩の目印になるような物を床に点けておくと、歩き始めやすくなります。また、すくみ足歩行・すり足歩行のどちらも、歩幅を大きくして、ゆっくりと歩くように促しましょう。
加速歩行のケースでは、対象者自身に歩行ペースを意識してもらうほか、対象者の体がまっすぐになるように、介助者は横から支えます。
半側空間無視
半側空間無視とは、脳の障害により、片側の空間(視界)にある物を見落としてしまう症状のことです。半側空間無視の症状として、特定の側(方向)ばかり、物や壁にぶつかってしまうことがあげられます。
介助者は、対象者がどちらの空間認識が乏しいのかを理解して、認識しづらい側に立って介助を行います。一方で、対象者へ声をかけるときは、認識しやすい方向から行い、徐々に反対側へ注意を促しましょう。
6.歩行介助を行う際の留意点

歩行介助を行う際に、介助者が留意すべき点を解説します。
対象者の身体症状を理解する
年齢や性別、持病、病歴など、対象者一人ひとりの身体症状はさまざまです。歩行介助が必要な対象者の身体症状を理解することで、その人に最適な歩行介助を提案できます。また、転倒の事故防止対策を考えることにも繋がります。
対象者の体調や服装を確認する
安全に歩行介助を行うには、対象者の体調をしっかりと確認しておきましょう。急な体調の変化で倒れてしまうことも考えられるため、歩行介助は無理せず、万全な状態で行うことが大切です。
また、歩行介助を行う際には、対象者の服装も併せて確認しておくとより安全です。スリッパやサンダルを履いている、ズボンの裾が床に擦っている場合は、転倒リスクが高くなります。歩行時はかかとのある歩きやすい靴を履き、体を動かすのにふさわしい服装で行うようにしましょう。
障害物や危険物を取り除く
椅子やテーブル、電気コード、絨毯マットなどは、衝突や転倒のリスクを高めます。また、段差がある場所、雨水で床が滑りやすくなっている場所なども、転倒や事故のリスクになります。そのため、歩行介助を行う際には、障害物や危険物は可能な限り取り除き、安全を確保したうえで行いましょう。
杖や歩行器のメンテナンスを行う
杖先のゴムが擦れている、シルバーカーのブレーキが効かないなどの整備不良は、転倒リスクや事故の要因となります。福祉用具を使う場合は、必ず使用する前後で状態のチェックを行うことが大切です。最低でも1ヶ月に一回は定期メンテナンスを行うことが望ましいでしょう。
まとめ:対象者に最適な歩行介助を行いましょう

歩行介助を行う主な目的は、高齢者や身体機能に障害を抱えている方が、転倒リスクなく安心して歩行できるようにサポートすることです。歩行介助を行うことで、対象者の健康維持や生活習慣病の予防、リハビリなどにも効果が期待できます。歩行介助には複数の方法があるため、対象者一人ひとりの身体状況や特性に合った方法を選びましょう。
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