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仕事・スキル 介護士の常識 2023/01/18

介護職が行う自立支援とは?定義や方法・メリットを解説

文/笑和(社会福祉士、介護福祉士) No1_A(main).jpg

文:笑和(しょうわ)    :現役の大学教員(社会福祉士、介護福祉士)

自立支援とは、介護が必要な人(以下、要介護者)が自分の能力に応じて自立した生活ができるように支援・介護することです。基本となるのは、日常生活場面において、できる部分は本人にしてもらい、できない部分を介護職がサポートするという考え方です。

この記事では、自立支援の重要性について説明するとともに、介護場面における具体的な自立支援の方法や、自立支援のメリットについて解説します。すぐにでも実践できるテクニックも紹介します。

1.自立支援の重要性



自立支援は介護保険制度を理解するうえで、重要な基本理念の一つです。厚生労働省は、公表している資料「介護予防と自立支援の取組強化について」のなかで、「高齢化が進展する中で、高齢者の自立した日常生活の支援、介護予防、要介護状態等の軽減に向けた保険者の取組を一層加速化することが必要」と提唱しています。

また、2016年11月に行われた「未来投資会議」にて、安倍晋三内閣総理大臣(当時)は「できないことをお世話する」ことが中心で、労働環境も厳しい現在の介護から、本人が望む限り回復を目指せる「自立支援」型の介護にする」と発言しました。国として「自立支援」を重要な方針として打ち出していることが分かります。

2.自立支援の定義



自立支援に明確な定義はありませんが、東京都健康長寿医療センター 循環器内科/高齢者健康増進センターの杉江正光氏は、次のような取り組みが自立支援に当てはまるとしています。

1. 高齢者一人一人が住み慣れた地域で、その能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように支援すること
2. 利用者の意欲を引き出し、潜在能力、利用者の強み、できそうなことなどを見出し、それを最大限発揮できるような支援を行うこと
3. 利用者の要介護状態等の軽減または悪化の防止に役立つような支援を行うこと

参照:「日本の介護サービスの理念(自立支援)」杉江正光東京都健康長寿医療センター 循環器内科/高齢者健康増進センター

要介護者の自立を支援・促進することは、介護に伴う(要介護者、介護者の双方の)負担を軽減するだけでなく、要介護者の認知症予防にも効果があり、「その人らしい生き方」の実現につながるといえます。

3.介護シーンにおける自立支援の方法



ここからは、介護場面における具体的な自立支援の方法を紹介します。すぐに実践できるテクニックとして、現場で活用ください。

麻痺のある利用者さんの更衣

例えば、左半身に麻痺のある利用者さんの更衣(着替えの介助)をする場合、介護職が本人に声をかけて、動く右手を使って服を脱いでもらうほか、着る服を持っていてもらう、着心地よく調整するなど、自身でできることを行ってもらいます。
そうすることで、右手の機能低下を防ぐだけでなく、介護を受ける際のストレス軽減にもつながります。あくまでも「できるところは自分でしてもらう」という意識でサポートすることが重要です。

生きがいや役割を持ってもらう

利用者さんに生きがいや役割を持ってもらえるような支援も、自立支援に含まれます。例えば、デイサービスやグループホームの利用者さんに次のような軽作業をお願いすると、意欲を持って取り組まれることがあります。具体的には以下のような軽作業が挙げられます。

  • おしぼりを丸める
  • 洗濯物や布巾をたたむ
  • デイサービスフロアのモップ掛け
  • お茶碗や湯のみ茶碗を拭く

利用者さんによっては「自分の仕事・役割」「任されたら精一杯やる」と率先して取り組む人がいます。必要とされる喜びを感じてもらうことは生活意欲や自発性の向上につながります。また、複数の利用者さんと共にこうした取り組みを行っていると、自然とコミュニケーションが活性化します。このような取り組みも自立支援といえるでしょう。

目標を定める

介護事業所でよくありがちなのが、自立支援や機能訓練が目的化してしまっているケースです。つまり、「何のために」や「誰のために」という最も大切な考え方が抜け落ちてしまっていて、介護職は何のために自立支援をしているのか、本人も何のために機能訓練をしているのか分からなくなっている状態です。これは早急に改善する必要があります。

大切なのは、利用者さんの何を実現するために自立支援をするのか、利用者さんは何のために機能訓練をするのかについて、それぞれの明確な目標を掲げ、それを双方が共有することです。「自立支援が重要だから」という単純な理由で取り組むのではなく、小さな目標でも構わないので、実現可能な目標・ゴールを定めて行うことが重要です。例としては以下のような目標が挙げられます。

  • 自宅でしなくなった家事を再開できるようになる
  • 自宅の湯船をまたげるようになる
  • 入浴時、自分ひとりで背中を洗えるようになる
  • 動く右手を使って、自分ひとりで衣類の着脱ができるようになる など

利用者さん一人ひとりが上記のような目標を定め、「自らが積極的に、さまざまなことに取り組む」というマインドになるよう支援することが重要です。

4.自立支援のメリット



ここからは、介護場面で自立支援を行うメリットについて見てみましょう。

QOL(生活の質、人生の質)の向上

QOLとは、クオリティ・オブ・ライフの略称で、生活の質・人生の質という意味があります。自立支援は要介護者が「自分らしく生きること」につながり、結果としてQOLの向上に役立ちます。日常生活のさまざまな場面において、少しでも自分でできる動作や活動が増えていけば、生活意欲の向上を図ることができるだけでなく、日々の活動や健康状態に良い影響を与えることができます。

介護負担の軽減

自立支援によって要介護者の身体機能が維持・向上されれば、介護に伴うさまざまな負担が軽減されます。例えば、トイレの介助は、介護職だけでなく要介護者にとっても身体的・精神的負担を伴うものです。その他、衣類の交換や入浴介助等の場面においても同様です。
要介護者の自立を支援し、一つでも多くの動作・活動を促進することで、介護に伴う身体的負担・精神的な負担が軽減されることになるでしょう。同時に、介護者・要介護者両者が抱えがちな介護ストレスが和らぎます。

要介護状態の改善

自立支援によって要介護者の身体機能が維持・向上し、生き生きとした生活が実現できれば、要介護度の改善につながるでしょう。通常、年齢を重ねると要介護状態になる可能性があり、介護度が高くなりがちですが、自立支援によって介護度が維持され、場合によっては改善されることがあります。

要介護状態の改善は、要介護者本人にとっては生活意欲の向上につながり、介護者にとっては身体的負担の軽減、政府にとっては医療・介護給付費の軽減につながります。まさに、三方良しです。

5.自立支援を行ううえで大切なこと



自立支援は介護職が一方的に行うものではなく、あくまでも要介護者本人の意思を尊重しながら、自立に向けて生活意欲を引き出していくことが重要です。決して、要介護者に「自立」を強制するようなことがあってはなりません。また、自立支援では要介護者の身体機能の維持・向上ばかりに目が行きがちですが、精神的なケアも欠かせません。要介護者が自立支援の考え方を理解し、自らその取り組みをやってみたいと思うように支援していくことが何よりも重要なのではないでしょうか。自立支援は介護保険制度において、重要な基本理念の一つです。豊かな介護生活を送るために、介護職・要介護者双方が共通理解をもって取り組むことができたらよいですね。

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笑和(Showa)

大学教員(社会福祉士、介護福祉士)

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアを持ち、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障全般にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

笑和の執筆・監修記事

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