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仕事・スキル 介護士の常識 2023/05/26

スピーチロックとは?介護現場で注意すべき状況と防止のポイント

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子 thumbnail.jpg

介護職員として働く方であれば、「スピーチロック」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。スピーチロックは、介護現場では特に注意したい問題です。しかし、なかには「スピーチロックとは一体何なのか、詳細を知らない」という介護職の方もいらっしゃるかもしれません。

当記事では、スピーチロックの概要について解説した上で、スピーチロックの例やスピーチロックを防ぐためのポイントを紹介していきます。介護職員として質の高いサービスを提供したいと考えている方は、ぜひご一読ください。

1.スピーチロックとは?

スピーチロックとは、言葉によって身体的な行動や精神的な行動を抑制することで、「言葉の拘束」とも呼ばれます。

ここでは、介護現場における「スリーロック(3つのロック)」を紹介した上で、スピーチロックを含む身体拘束をしてはいけない理由や、スピーチロックの影響などを解説しましょう。

介護現場の「スリーロック」

介護現場における「スリーロック」とは、スピーチロック、フィジカルロック、ドラッグロックの総称です。

フィジカルロックとは、利用者さんの身体を物理的に拘束し、動けないようにすることを指します。また、ドラッグロックとは、薬物を過剰投与したり不適切投与したりして、利用者さんの行動をコントロールすることです。

ただし、フィジカルロックは拘束具、ドラッグロックは薬物がなければ実行できません。一方で、スピーチロックは特別な道具がなくても実行できる点に特徴があります。そのため、誰もが無意識のうちにしてしまう恐れがあり、スピーチロックについては細心の注意を払う必要があるでしょう。

スピーチロックを含む身体拘束がNGである理由

厚生労働省は、利用者さんの安全を守る上で緊急やむを得ない場合を除き、介護現場における身体拘束を禁止行為としています。

出典:厚生労働省「6 身体拘束に対する考え方」

高齢者虐待防止法においても、身体拘束は身体的虐待に含まれるとされています。スピーチロックも身体拘束につながるため、望ましくありません。

スピーチロックを含む身体拘束をしてはいけない主な理由には、以下の2点が挙げられます。

・利用者さんの心身に弊害が生じる
身体拘束は、利用者さんの自由を奪う行為です。そのため、身体拘束が原因で事故が起きたり、利用者さんの尊厳を侵して、QOLを著しく低下させたりする恐れがあります。

・介護業界への不信や偏見を誘発する
「身体拘束をしている」という事実が明るみに出ると、該当する施設だけでなく、介護業界全体への不信感や偏見を誘発する恐れがあります。また、利用者さんのご家族が、身体を拘束された利用者さんの姿を目の当たりにした時などは、深い悲しみや後悔を感じるでしょう。併せて、現場スタッフの士気が低下することにもなりかねません。


スピーチロックの影響

スピーチロックは、利用者さんに以下のような悪影響をもたらす可能性があります。

・自ら行動しようとする意欲が低下する
スピーチロックによって行動を抑制され続けると、「勝手なことをしてはいけない」と考えるようになり、自ら行動しようとする意欲が低下します。行動意欲の低下はADL(日常生活動作)の低下にもつながるため、注意が必要です。

・円滑なコミュニケーションが取れなくなる
スピーチロックは、介護者への不信感に発展しかねません。利用者さんと介護者の信頼関係が損なわれると、円滑なコミュニケーションが難しくなり、十分なケアを提供できなくなる恐れがあります。

・認知症の症状が悪化する
特に、認知症を患っている利用者さんには、スピーチロックをしないように気をつけることが大切です。スピーチロックによってストレスをため込むと、被害妄想などのBPSD(認知症の行動・心理症状)が悪化するリスクがあると言われています。

2.介護現場で起きるスピーチロックの例

介護現場では、仕事が立て込んでいるために、やむを得ず「少し待っていてください」とお願いする場面もあるでしょう。また、転倒のリスクが高いにもかかわらず、歩き回ろうとする利用者さんに対しては、「座っていてください」と声をかけることもあるのではないでしょうか。

「~してください」という言い回しは、一見丁寧ではあるものの、利用者さんは「命令」と受け取ることがあります。そのため、何気なくかけた言葉がスピーチロックとなり、利用者さんに思わぬ悪影響をもたらす可能性もあるでしょう。

スピーチロックを防ぐためには、利用者さんの意思を尊重しながら言葉を選ぶことが大切です。以下では、スピーチロックをしないために押さえておきたい、言い換えの事例を紹介します。

言い換えの例

介護の現場において、スピーチロックになりかねない声かけと、それぞれに対する言い換えの例は次の通りです。

スピーチロックになる声かけ 言い換えの例
少し待っていてください ・今○○をしていて手が離せないので、△分ほどお待ちいただけますか。
・○○さんの後ですので、もう少しですよ。
座っていてください ・どこに行かれますか。
・一人で歩いている時に転んでしまうと危ないので、私の手が空くまで少し座っていていただけますか。
やめてください ・どうされましたか。
ダメでしょう ・○○になると大変なので、別のことをしませんか。
・○○してくれたのですね。ありがとうございます。
なぜそのようなことをするのですか ・何かありましたか。
・○○は危ないので、今度からは△△しましょう。
さっき~したばかりでしょう ・○○したいのですね。
・○○までまだ時間があるようなので、△△をしませんか。
先ほども言ったと思うのですが ・嫌な顔をせず、同じことを丁寧に伝える。

スピーチロックを防ぐためにも、「~していただけますか」などの依頼形の言葉を使うように心がけましょう。また、利用者さんのどのような言動も肯定的に受けとめ、親身になって対応することも重要なポイントです。

3.スピーチロックを防ぐためのポイント

どれだけ丁寧な言葉を使っていても、心がこもっていなければ、利用者さんに不快な思いをさせてしまう可能性があります。そのため、言い換えの言葉を使用するだけでなく、基本的な接遇マナーについてもきちんと身に付け、日頃から利用者さんへの接し方に注意することが大切です。

以下では、スピーチロックを防ぐためのポイントを3つ紹介します。

無意識なスピーチロックに注意する

スピーチロックにならない言葉を選ぶように気を付けていても、無意識のうちにスピーチロックを行ってしまう可能性があります。利用者さんと関わるたびに自分の言動を振り返り、スピーチロックを減らす努力をしましょう。

また、スピーチロックをしてしまったり、見かけたりした場合には会議や研修会で共有し、介護施設の職員全員でスピーチロックを防ぐための対策を練ることも重要です。施設職員が一丸となってスピーチロック防止に取り組めば、利用者さんにより良いサービスを提供できるようになるでしょう。

相手の立場で考える

利用者さんに声をかける時には、相手の立場を考えて言葉を選ぶことも大切です。

もし、周囲にたくさんの人がいる時に、大きな声で「そろそろオムツを替えませんか」と言われたら、利用者さんはどう思うでしょうか。おそらく、多くの方は恥ずかしいと感じるでしょう。

デリケートな話をする時には、利用者さんのプライドを傷つけないように、配慮する必要があります。自分が言われたら嫌なことはもちろん、利用者さんが嫌だと感じそうな言葉はできるだけ使わないようにしましょう。

ジェスチャーや表情にも気を配る

利用者さんに声かけをする際には、意図がうまく伝わらなかったり、誤解を招いたりする場合もあるため、ジェスチャーや表情にも気を配る必要があります。

たとえば、食事の時間になったことを伝える時に「ごはんの時間ですよ」と言いながら食べるジェスチャーをすれば、利用者さんも分かりやすいと感じるでしょう。また、介護者が笑顔であれば、利用者さんは気持ちよく介護者の言葉に耳を傾けられます。

敬意がこもった言葉遣いや口調に加え、豊富なジェスチャーとやわらかい表情を心がけ、利用者さんと良好な信頼関係を築きましょう。

まとめ

スピーチロックは、介護職員として働いている誰もがしてしまいがちな行為です。しかし、スピーチロックは利用者さんに対して、行動意欲の低下、コミュニケーション不全、認知症状の進行などの悪影響を及ぼす可能性があるため、できる限り防止する必要があります。

今回紹介した言い換え言葉や、スピーチロックを防ぐためのポイントを押さえて、健全な介護現場を目指しましょう。

「介護のみらいラボ」は、介護現場で頑張る皆さんに向けて、多数の有益な情報を紹介しています。介護にまつわる知識をたくさん身に付けて、さらなる成長を目指したいと考えている方は、ぜひご活用ください。

※当記事は2022年8月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

介護実践の場において、職員によるスピーチロック(言葉による抑制)は身体拘束の1つとされていますが、目に見えるものではないため、スリーロックの中で最も注意が必要なロックです。
介護施設の職員のスピーチロックに対する認識状況は高いのですが、リスクを回避する場面や認知症の中核症状やBPSD(行動・心理症状)への対応場面など、介護施設内での日常的な場面でスピーチロックをしてしまっていることが多いようです。
人手不足もあり、ついつい「座っていてください!」などとスピーチロックをしてしまいがちです。気をつけたいですね。
ある施設で、スピーチロックに関する介護職員研修を実施した結果、職員は意識せずにスピーチロックをしていたことに気づき、倫理観の意識変化につながったようです。
スピーチロックを含め、利用者さんとのコミュニケーションのあり方を考えたりする研修を行ったりして、質の高い介護を目指していきましょう。

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赤羽克子(Katsuko Akaba)

元聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科教授

社会福祉施設勤務を経て教育の世界に入る。現在はマーシーハンディキャップサポート協会理事として障害者に対する理解の啓蒙活動・障害者スポーツの支援や松戸市シルバー人材センターのアドバイザーなどを行っている。

赤羽克子の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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