介護における拘縮ケアとポジショニングのポイント
構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子
介護施設などで、利用者さんが身体(関節)を動かしにくくなっている場合は、「拘縮」が起こっている可能性があります。拘縮が進行すると、利用者さんの健康状態に悪影響が及び、介護する側への負担も増加するため、日頃から適切な拘縮ケアに取り組むことが大切です。
当記事では、拘縮の概要と種類、起こりやすい部位について説明します。また、拘縮ケアのポイントと、ポジショニングについても解説しますので、介護業界で働く方はぜひお役立てください。
1.拘縮とは?
拘縮(こうしゅく)とは、寝たきりや病気、けがなどが原因で、身体を動かせない期間が続いたことによって、関節が硬くなり、関節の可動域が制限されている状態をいいます。
拘縮が起きると、関節を動かす際に痛みが生じるため、「立つ」「歩く」といった日常生活が困難になります。しかし、関節を動かさずにいるとさらに拘縮が悪化してしまい、介護職にも多大な負担がかかるため、予防を含めた適切な拘縮ケアが必要です。
拘縮の種類
拘縮には、5つの種類があります。拘縮の種類によって、原因や治療方法が異なるため、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
筋性拘縮 | 長期間にわたって関節が固定されることで、筋肉が萎縮してしまい、関節を動かしにくくなった状態をいいます。寝たきりの状態が長く続いた高齢者によく見られます。 |
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神経性拘縮 | 脳梗塞や脳卒中、脳出血などの病気によって筋肉が麻痺して、関節が動きにくくなった状態をいいます。事故の後遺症が原因で起こることもあります。 |
皮膚性拘縮 | やけどや炎症によって皮膚が引っ張られ、関節の動きが制限された状態をいいます。手術の後遺症が原因となることもあります。 |
結合組織性拘 | 皮膚下の軟部組織、腱、靭帯などの収縮や癒着によって、関節の可動域制限が起きている状態をいいます。生活習慣が原因となるケースが多く見られます。 |
関節性拘縮 | 関節包、靭帯など、関節周辺組織の炎症、損傷によって起こる拘縮です。捻挫や骨折、脱臼などの治療で、関節を長期間固定した際にも発生します。 |
介護現場でよく見られる拘縮は、筋性拘縮と神経性拘縮です。皮膚性拘縮は皮膚科や形成外科、結合組織性拘縮と関節性拘縮は整形外科などの医療機関を受診する必要があります。
拘縮が起こりやすい部位
適切な拘縮ケアを行うには、拘縮が起こりやすい部位と、特定の部位に拘縮が起きた場合、日常生活にどのような支障をきたすのかを知っておく必要があります。
以下に、拘縮が起きやすい部位と、その影響についてまとめましたので、拘縮のある利用者さんに介護サービスを提供する際は、ぜひ参考にしてください。
拘縮が起こりやすい部位 | 拘縮による影響 |
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手・指の関節 |
・手指が曲がった状態になり、物がつかみにくい。 ・爪が手のひらに食い込み、傷がつく。 ・手のひらの清潔を保ちにくく、不快臭や皮膚トラブルなどが発生しやすい。 |
肩・肘の関節 |
・腕や手が上がりにくい。 ・上着やシャツの着替え、食事、洗顔などが困難になる。 |
膝の関節 |
・立つ、座る、歩くといった動作が困難になる。 ・靴やズボンの着脱が難しくなる。 ・膝が変形し、足が曲がらなくなる。 |
足関節 |
・尖足(せんそく/足の甲側が伸び、つま先が下向きに固定された状態)になりやすい。 ・たこや魚の目ができやすく、歩行時に痛む。 ・車椅子のフットレストに足裏がつかず、正しい姿勢を保ちにくい。 |
股関節 |
・入浴、排泄などが困難になる。 ・両足の膝がぶつかり合い、ただれや炎症が起こる。 ・歩行能力が下がり、転倒しやすくなる。 |
拘縮が重度になると、身体機能全般が低下する恐れがあるため、悪化する前に対処することが大切です。理学療法士や医療職など多職種とも連携をとりながら、拘縮の改善・予防のためのストレッチやマッサージを積極的に行いましょう。
高齢者が拘縮になる原因
高齢者の拘縮の主な原因は、加齢や病気、けがなどです。過度な安静状態や活動量の低下が続くことで生じる「廃用症候群(生活不活発病)」、骨や筋肉といった運動器に障害が起こる「運動器症候群(ロコモティブシンドローム)」なども、拘縮の原因になり得ます。
高齢者は、転倒などが骨折・脱臼につながり、寝たきりや運動不足に陥りやすいため、転倒予防するなど拘縮には十分な注意が必要です。日頃から関節を動かすことを意識し、拘縮を予防しましょう。
2.拘縮ケアを実践する上でのポイント3つ
すでに拘縮が起きている利用者さんには、拘縮部位に配慮した介護サービスを行う必要があります。この項目では、拘縮ケアにおける介助方法のポイントを3つ解説します。
(1)痛みを与えないようにゆっくりと介助する
拘縮が起きている部分は、やさしくゆっくりと動かしましょう。強い力を加えたり、無理矢理動かしたりすると、痛みを与えてしまいます。介助を行う際は、足先や指先を引っ張るのではなく、手のひら全体を使って関節付近を下から持ち上げるようにしてください。
(2)リラックスできる姿勢を保って介助する
利用者さんが緊張した状態だと、拘縮部分に痛みを感じやすくなります。身体的にはもちろん、精神的にもリラックスしてもらった状態で、介助にあたりましょう。姿勢を保ちにくい場合は、クッションやバスタオルを隙間に入れて安定させます。衣服の縫い目などの硬い部分も刺激となるため、なるべく肌に触れないように注意してください。
(3)声かけをしつつ介助す
拘縮がある部分に触れる際には、事前に「触りますね」と声をかけましょう。一つひとつの動きに合わせてこまめに声かけを行ったり、アイコンタクトを取ったりすることで、介護の安全性が増します。声かけは、利用者さんとの信頼関係の構築にもつながるため、拘縮ケアもスムーズにできるでしょう。
3.高齢者の拘縮予防に欠かせないポジショニング
高齢者の拘縮予防には、関節可動域訓練や動作練習、体位変換の他に、「ポジショニング」が重要となります。ポジショニングとは、タオルやクッションなどを活用して姿勢を安全かつ適切に保持することをいい、拘縮だけでなく、むくみ、褥瘡の緩和・予防にも効果的です。
適切なポジショニングによって体圧が分散されると、関節に過度な負担がかからず、拘縮が起きにくくなります。拘縮は、一度起きると改善が難しいケースも多いため、日頃からポジショニングに注意して予防に努めることが大切です。
ポジショニングのポイント4つ
ポジショニングを適切に実施するには、いくつかのポイントを押さえて進めることが大切です。下記では、仰向け姿勢におけるポジショニングのポイントを4つ紹介します。
(1)首の後ろに隙間ができないようにする
首の後ろに隙間があると、背中側の筋肉が緊張してしまいます。また、口が開いた状態になり、呼吸がしにくくなります。こうした状態が続くと、拘縮だけでなく、口腔機能の低下やや肺炎といったトラブルにも発展しやすいため注意が必要です。枕はしっかり首まで差し込み、首の後ろに隙間ができないようにしましょう。
(2)肩の後ろに隙間ができないようにする
肩の後ろに隙間があると、肩甲骨が内側に寄り、胸が開いた状態で背中の筋肉が固まってしまいます。肩の下にはクッションなどを敷いて、肩甲骨が外側に開くようにしましょう。また、肘よりも肩を優先してポジショニングを整えることもポイントです。肩が楽になると、自然に肘と手の緊張もやわらぎます。
(3)腰に隙間ができないようにする
腰が反っている状態では呼吸がしにくく、体勢も不安定になるため、全身が緊張します。腰の下に手を入れて、隙間がある場合はクッションなどを敷いてサポートしましょう。
(4)ねじれ・傾きがないようにする
身体にねじれや傾きがある状態では、体圧が分散されにくく、拘縮を引き起こす恐れがあります。両肩、腰、両膝の位置をチェックし、ねじれや傾きがないよう、クッションなどを使って体勢を整えましょう。
まとめ
拘縮とは、関節の可動域が狭くなり、動かしにくくなった状態のことをいいます。病気やけが、あるいは、寝たきりの状態が原因で起こることが多く、重症化すると身体機能の低下につながるため、十分な注意が必要です。拘縮を予防・改善するためのケアでは、利用者さんに痛みを感じさせないように、丁寧な介助を心がけましょう。また、日頃からポジショニングを実践することも、拘縮予防に役立ちます。
「介護のみらいラボ」では、介護現場で役に立つさまざまな情報を発信しています。介護の基本を押さえたい方や、介護業務の質を高めたい方は、ぜひ参考にしてください。
※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています
▼監修者からのアドバイス
拘縮とは、靭帯や筋肉、皮膚などの軟部組織が縮み、関節の動きが制限されて動きにくくなることで、病気やけがなどで長期間関節を動かす機会が制限されることが原因となって起こります。拘縮は、心身機能の不活発、ADLの低下を招きます。するとさらに拘縮を進行させてしまうという負の連鎖に陥ってしまいます。
拘縮は、利用者さん本人の苦痛を招き、介護職にとっては介護負担が大きくなります。高齢になると関節は2か月以上の固定で回復の期待は見込めないといわれます。拘縮を進行させないためのリハビリテーションも大切です。
また、拘縮は褥瘡につながることもありますので、正しいポジショニング、数時間ごとの体位変換を行い、拘縮した関節の悪化を防ぎ、さらなる拘縮の発生を予防しましょう。
ポジショニングを正しく理解し、痛みに寄り添ったケアは、利用者の安全・安楽、生活の質の向上につながるでしょう。
今回は仰向け(仰臥位)のポジショニングについて述べましたが、横向き(側臥位)や車いす(座位)などのポジショニングについても知識を深め実践につなげてください。
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