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仕事・スキル 介護士の常識 2023/10/30

介護の身体拘束とは?行為の種類や判断基準、問題の理由などを解説

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子 thumbnail.jpg

介護現場では、安全確保や事故防止などを目的に、利用者さんの身体を縛ったり、ベッドを柵で囲ったりして行動を制限する「身体拘束」を行うことがあります。しかし、安易に身体拘束をすることは、利用者さんだけでなく、ご家族や施設の職員にも大きな苦痛・罪悪感を与えかねません。そのため、身体拘束については、原則、法律で禁止されています。

当記事では、身体拘束の概要や身体拘束を行う理由、そして不要な身体拘束を防ぐための方法について解説します。

1.介護の身体拘束とは?

介護業界における身体拘束とは、利用者さん自身や周囲の方の安全確保、事故防止などを目的に、利用者さんの身体的自由を制限することです。身体拘束の具体例は、次の通りです。

1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
4. 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
10. 行動を落ちつかせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
11. 自分の意志で開けることのできない居室等に隔離する。

(出典:厚生労働省【身体拘束ゼロへの手引き】

手足を縛る、柵で囲むなどの物理的な行動制限だけでなく、過剰な薬剤投与などによって行動能力を制限することも身体拘束となります。

身体拘束は原則禁止されている

指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)における身体拘束については、法律で次のように定められています。

・指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という)を行ってはならない。
・指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。

(出典:e-GOV法令検索「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」

施設が介護サービスを提供する際、やむを得ない場合を除いて、利用者さんへの身体拘束および行動を制限する行為は認められません。また、施設は不適切な身体拘束を防ぐための措置を講じるなどして、環境改善を図るよう定められています。

精神障害者福祉に関する法律でも、身体拘束はやむを得ない場合のみ行い、できる限り早く他の方法へ切り替えるように定められています。

(出典:厚生労働省「第8回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」

身体拘束がもたらす弊害

身体拘束がもたらす弊害として、次の3つが挙げられます。

・身体的弊害
長時間の身体拘束は筋力低下や関節の拘縮につながり、圧迫された部位に褥瘡ができやすくなります。さらに、運動量の減少が内臓機能や抵抗力の低下を招き、感染症リスクが上がることも考えられます。

・精神的弊害
身体拘束は利用者さんの人間的尊厳を冒しかねません。また、身体拘束による精神的苦痛は、認知症の進行やせん妄の頻発などを招く恐れがあります。加えて、身体拘束について知ったご家族や、実際に身体拘束を行う職員にも大きな苦痛(あるいは罪悪感)を与えかねません。

・社会的弊害
身体拘束による心身の苦痛や、医療的処置の増加による経済的負担の増大は、利用者さんのQOLの低下に直結します。また、不適切な身体拘束は、職員のモチベーション低下の一因になるだけでなく、施設に関するネガティブなうわさが広まって、地域住民からの信頼も失いかねません。

(出典:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」

身体拘束の「スリーロック」

介護の現場には、スリーロックと呼ばれる3種類の身体拘束があります。

・フィジカルロック
拘束帯で身体を固定する、柵を使って行動を制限するなど、物理的な拘束を行うことです。利用者さんが自力で立ち上がりにくいいすに座らせる、点滴を抜かないようにミトンを装着させるなどの行為も、フィジカルロックにあたります。

・ドラッグロック
睡眠導入剤や安定剤などの不適切な投与によって、行動を制限することです。薬を正しく投与することで認知症の症状などを抑えられる反面、不適切な投与は睡眠リズムの乱れや、ふらつきによる転倒事故などにつながる恐れがあります。

・スピーチロック
「〇〇しないで」「ちょっと待って!」などの言葉によって、行動を制限することです。どのような言葉がスピーチロックにあたるかについては明確な定義がなく、無意識にスピーチロックをしてしまうことも少なくありません(介護のみらいラボの「スピーチロックとは?介護現場で注意すべき状況と防止のポイント」を参照してください)。

身体拘束が認められる3要件

次の3つの要件をすべて満たす場合のみ、例外的に身体拘束が認められます。

・切迫性
利用者さん自身または他の利用者さんや周囲の方の生命や身体が危険にさらされる場合

・非代替性
身体拘束以外に安全確保の介護方法がない場合

・一時性
身体拘束があくまでも一時的なものである場合

(出典:厚生労働省「第8回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」

身体拘束を行うときの手続き

身体拘束が認められる3要件をすべて満たす場合でも、身体拘束を行うための適正な手続きが求められます。

身体拘束の実施が適正か否かについては、担当職員やチームの独断ではなく施設側が判断します。身体拘束を行う場合は、身体拘束の理由や内容について、利用者さんやご家族に十分説明し納得していただく必要があります。身体拘束の実施にあたっては、経過観察、こまめな検討を行い、身体拘束の必要性がなくなればすぐ解除します。

また、施設に対しては身体拘束に関する記録(内容、時間、利用者さんの心身状況など)の作成が義務付けられています。

2.身体拘束が行われる理由と原因

やむを得ない場合を除いて、身体拘束は法律で禁じられています。また、厚生労働省は介護に関わるすべての方に向けて、「身体拘束ゼロへの手引き」を発行しています。しかし、実際の介護現場には、利用者さんが想定外の危険にさらされる場面や、身体拘束につながるような課題も少なくありません。

ここでは、職員個人の努力だけでは解決しにくいさまざまな課題について紹介します。

認知症高齢者の増加

厚生労働省の発表によると、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。

(出典:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト 認知症」

多くの介護施設では、認知症の利用者さんが増えており、今後も増える見込みです。認知症がしているもののある程度自力で動くことができ、かつ徘徊などのBPSD(行動・心理症状)がある利用者さんに対しては、人手不足で十分な見守りができないなど等の理由から深く考えずに身体拘束を行ってしまいがちです。認知症がある利用者さんの人権擁護のためにも身体拘束がない介護現場づくりを実践していきましょう。

介護施設の人手不足

要介護者の増加に対応するため、全国各地で介護施設が増加しています。しかし、多くの施設では介護職員が不足しており、少ない職員で多数の利用者さんをケアするケースも珍しくありません。利用者さん一人ひとりの見守りや、安全確保に手が回らない施設では、危険回避のためにやむなく身体拘束を行う場面もあるでしょう。

3.身体拘束を防ぐ方法

介護現場では、身体拘束を要する状況が起こり得るため、身体拘束を一律になくすことは難しいかもしれません。しかし、身体拘束には多くの弊害があることも事実です。身体拘束はあくまでも例外的な方法だと考えて、施設全体が不要な身体拘束の廃止に向けて取り組む必要があるでしょう。

「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束廃止に向けた指針として、次のような項目を掲げています。

・トップが決意し、施設や病院が一丸となって取り組む
全職員が安心して業務を進められるように、施設長や介護部長などの責任者が身体拘束廃止に向けた指針を決めて、現場をバックアップすることが大事です。

・みんなで議論し、共通の意識をもつ
身体拘束の弊害や、身体拘束廃止に向けて何をすべきかを全職員で話し合い、問題意識を共有することが求められます。身体拘束廃止のためには、利用者さんやご家族の理解も不可欠です。

・まず、身体拘束を必要としない状態をめざす
利用者さんの問題行動には、何らかの原因や理由があります。利用者さんの気持ちや状況を理解し、問題を解決できれば、身体拘束は不要となるでしょう。

・事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援態勢を確保する
事故が起こりにくい環境を整えることで、事故のリスクを軽減できます。また、全職員が随時応援に入れるような、柔軟性のある環境をつくることも重要です。

・常に代替的な方法を考え、身体拘束するケースは極めて限定的に
やむを得ず身体拘束を検討する際は、代替方法の有無を十分検討し、漫然と身体拘束を続けている場合はすぐに解除しましょう。また、外部の研究会などで必要な情報収集し、参考にすることも大切です。

(出典:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」_2022/09/06)

身体拘束を防ぐための具体的な方法は、次の通りです。

身体拘束を誘発する原因を探り、除去する

身体拘束をやむを得ず行う理由として、次のような状況を防ぐために必要だと思われ、行われることがあります。

・周囲への迷惑行為や徘徊
・転倒、転落などの事故
・身体をかきむしる、かむなどの自傷行為
・点滴を抜くなどの危険行動
・座位を自力で保てず、姿勢が崩れる


身体拘束を要する状況の背景には、必ず何らかの理由があります。利用者さん一人ひとりの状況をよく把握し、問題の原因をアセスメントしたうえで対応することが、身体拘束の防止につながるでしょう。

代替方法を検討する

不要な身体拘束をなくすためには、さまざまな視点から代替方法を検討する必要があります。下記は代替方法の一例です。

・問題行動を未然に防ぐ
利用者さんができる限り自立した生活を送れるよう、積極的な自立支援を通じて心身機能の維持・改善につとめます。夜間の徘徊などを防ぐために、生活リズムを整えることも大切です。

・不快感や不安感を防ぐための工夫
例えば、利用者さんが頻繁に車いすから降りようとする場合、長時間座り続けることで苦痛を感じている可能性があります。利用者さんの行動をすぐに「問題」だと決めつけず、利用者さんが少しでも快適に、かつ安心して過ごせるように配慮しましょう。

・事故が起こりにくい、または事故が起こってもけがをしにくい環境づくり
障害物を床に置かない、夜間も施設内を暗くしないなどの工夫で、事故リスクを軽減できます。転倒してもけがをしにくいように、柔らかい床材を使うなどの方法もあります。

・職員による見守りやコミュニケーションの強化
見守りを強化・工夫して、利用者さんの状況を常に把握することも重要です。また、利用者さんが安心して過ごせるように、日頃からこまめなコミュニケーションを心がけましょう。

(出典:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」

まとめ

介護現場において、利用者さんの行動を制限する「身体拘束」は原則として禁じられています。なかには人手不足などの事情で、身体拘束をせざるを得ない施設もありますが、身体拘束には多くの弊害があることを忘れてはいけません。不要な身体拘束を防ぐためにも、身体拘束に至るまでの状況を把握し、代替方法を模索することを心がけましょう。

「介護のみらいラボ」では、介護現場で活躍する方に、現場で役立つ情報をご紹介しています。介護の仕事に興味がある方や、介護職として知識を深めたい方は、ぜひ「介護のみらいラボ」をご活用ください。

※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

身体拘束とは利用者さんの「困った行動がある」「問題になる行動がある」「事故の危険性(可能性)がある」などの理由で、ひもや抑制帯、ミトンなどの道具を使ってベッドや車いすに縛り付けたりすることをいいます。
身体拘束は関節の拘縮や筋力の低下、褥瘡の発生、食欲不振、心肺機能や感染症への抵抗力の低下などの身体的弊害のほか、不安や怒り、屈辱、あきらめといった精神的苦痛を与えてしまいます。さらに、転倒・転落事故や窒息などの2次的、3次的な弊害につながる可能性もあります。
このように悪循環をもたらす身体拘束は、ご家族や介護職員の精神的苦痛やジレンマにもつながり、介護福祉施設・介護事業所の社会的不信・偏見を引き起こすことにもつながりかねません。身体拘束は人権問題であり、社会問題でもあるということを意識しておきましょう。
介護サービスは、利用者さんの行動が自由であればあるほど、さまざまなリスクが増える可能性がありますが、身体拘束を行うことによる利用者さんや介護職員への弊害をしっかりと把握したうえで、身体拘束に向き合う必要があるでしょう。

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赤羽克子(Katsuko Akaba)

元聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科教授

社会福祉施設勤務を経て教育の世界に入る。現在はマーシーハンディキャップサポート協会理事として障害者に対する理解の啓蒙活動・障害者スポーツの支援や松戸市シルバー人材センターのアドバイザーなどを行っている。

赤羽克子の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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