ターミナルケア(終末期医療)とは?介護職だからこそ知っておきたい基礎知識
文/中村 楓(介護支援専門員・介護福祉士・介護コラムニスト)
介護の仕事に携われば、利用者さんの死に直面することは少なくありません。介護職として、最期の時を迎える利用者さんにどのようにケアをしていけばいいか、悩む人も多いのではないでしょうか。そこで知っておきたいのが「ターミナルケア(終末期医療)」です。この記事では、介護職が知っておきたいターミナルケアの基礎知識について詳しく紹介します。
1.ターミナルケアとは

ターミナルケアは、終末期医療とも呼ばれ、余命がわずかな状態になった利用者さんに対して行われるケアの総称です。厚生労働省では、以下の条件を3つ満たす場合には終末期(ターミナル期)にあると定義しています。
1. 医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
2. 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
3. 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
ターミナルケアと聞くと、「病院で、特定の病気を持つ患者さんが最期を迎えるためのケア」と思っている人も多いかもしれません。近年では、場所や病気の種類を問わず、ターミナルケアが行われており、介護施設で最期を迎える高齢者も少なくありません。
ターミナルケアでは、利用者さんに残された時間を穏やかに過ごすことを目的としたケアを行います。そのため、利用者さんや家族の意志や希望を尊重し、必要な医療ケアや日常生活上のケアを受けながら、QOL(生活の質)を保つための支援が中心となるでしょう。
終末期を迎えた利用者さんの多くは、さまざまな痛みやつらさを感じています。身体的症状だけでなく、心の痛みや社会から疎外されたような喪失感、経済的不安を抱えている人もいます。ターミナルケアでは、さまざまな関係者が連携しながら、利用者さんの痛みやつらさを軽減するためのケアを提供します。
2.ターミナルケアと類似する3つのケアの違いを知っておこう

ターミナルケアと類似するケアに、「緩和ケア」「看取りケア」「ホスピスケア」があります。いずれも、回復が見込めない人が死の瞬間までその人らしく生きるための支援であり、本人の希望や意思を尊重し、本人や家族が持つさまざまな痛みに対して、多職種で連携して対応するケアという点で共通しています。では、この3つのケアとターミナルケアではどのような違いがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
緩和ケア
緩和ケアとは、がんになって起こるさまざまな痛みや苦しみを和らげるために、行われる治療やケアのことをいいます。日本では、一般的にがん患者さん、もしくはエイズ患者さんが対象で、病気の進行度に関係なく、痛みやつらさがある人に対して提供されます。がんになると、身体の痛みやつらさだけでなく、精神的にも生活面でもつらさを感じがちです。緩和ケアでは、そのつらさをコントロールすることで、できる限り普段どおりの生活が継続できるよう、支援していきます。
緩和ケアは、あくまで病気を治療する行為の一環であることから、病気治療も並行して行われます。病気の進行度に関係なく行われること、治療と並行して行われる点が、ターミナルケアとの大きな違いです。
緩和ケアというと、入院中のケアをイメージしがちですが、通院や在宅診療をうけながら自宅で過ごす人もいます。
ホスピスケア
ホスピスケアとは、がん患者さんやエイズ患者さんを対象に、死期が迫っている方とその家族の苦痛を最小限にすることを目的とするケアを指します。1967年にロンドンで始まったケアで、日本では1987年に静岡の聖隷ホスピスが設立されたのが最初です。2023年7月現在、全国の389施設でホスピスケアが行われており、医療施設によっては、ホスピスケアと緩和ケアを区別せずまとめているところもあります。
ホスピスケアでは、症状や痛みの緩和が中心で、診断検査や延命治療はほとんど行われません。ターミナルケアや緩和ケア、看取りケアと同様に、利用者さん本人や家族の希望に沿い、多職種がチームを組んで支援を実施します。利用者さんの希望に応じ、精神的なケアの一環として、宗教家やボランティアがチームの一員となることもあります。
ホスピスケアは病院で行うイメージが強いものの、訪問診療や看護等のサービスを活用することで在宅でも受けられます。
看取りケア
看取りケアとは、人生の最期を迎えるその時まで行うケアのことをいいます。緩和ケアやホスピスケアと違い、病気による対象の差はなく、死期が迫っている利用者さんすべてが対象となります。
看取りケアでは、循環器や呼吸器疾患、認知症そして老衰など、人生の最期の時を迎えようとしている人に対し、本人や家族の希望に沿ったケアを行います。ターミナルケアでは医療的観点から利用者さんのQOL(生活の質)向上を目的としていますが、看取りケアは日常生活の介助や褥瘡予防の対応など、生活面に重点を置いているという点に違いがあります。そのため、看取りケアの場合、医療的ケアは最小限となり、排せつや食事などの日常生活上のケアが中心です。
近年、看取りケアを行う施設が増えており、全日本病院協会では有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅向けに看取り推進のための指針・マニュアルのモデルを作成し、看取りのための体制づくりに取り組んでいます。
3.ターミナルケアで行われるケア内容は3種類

ターミナルケアのケア内容には、以下の3種類があります。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
身体的ケア
身体的ケアとは、身体の痛みやつらさを取り除くためのケアを指します。具体的には、次のような内容が身体ケアとして提供されています。
- バイタル測定や体調の確認
- 点滴や投薬などの医療ケア
- 安楽な姿勢を整えるための体位変換
- 入浴や食事、排せつなどの日常的なケア
- 褥瘡予防のマットや車いすなどの福祉用具の選定
介護職としてターミナルケアにかかわる場合、体位変換や入浴や食事といった日常的なケアで携わることが多いでしょう。ターミナルケアを受ける利用者さんは、時間の経過とともに全身状態が悪化していきます。入浴が難しくなったり、食事量が減ってきたり、身体が動かせなくなってくる中で、少しでも利用者さんの負担を軽減できるよう、柔軟に対応しながらケアがすすめられていきます。
精神的ケア
精神的ケアとは、利用者さんの死に対する恐怖や不安を軽減させるためのケアです。ターミナル期にある利用者さんは、死期が迫っているという現実に対するつらい思いだけでなく、自分の役割を失うこと、活動範囲が制限されることなどといった社会的疎外感を持つことも少なくありません。残された家族を心配する人もたくさんいるでしょう。このように、ターミナル期には複雑な思いを抱えることが多く、精神面のバランスが崩れやすい状況にあります。
精神的ケアでは、利用者さんのさまざまな感情に寄り添うために、ベッドサイドに座って話を聞いたり、会話をしたりする機会が多くなります。利用者さんの気持ちに焦点を当てて、気持ちを受け止めたコミュニケーションを心がけましょう。利用者さんの心が安らぐよう、趣味の時間を設けることや、家族との面会の機会を提案することも精神的ケアのひとつです。利用者さんの状態によっては、カウンセリングが行われることもあります。
社会的ケア
社会的ケアとして、ターミナルケアで生じる経済的負担の軽減や、利用者さんの家族の負担やストレスのケア、遺産相続や遺品整理のサポートを行います。利用者さんは、ターミナルケアにかかる費用や、家族を含めて周囲に負担をかけていることを重荷に感じがちです。特に、経済的負担は精神的負担につながりやすく、利用者さんにとっても家族にとっても、大きなストレスとなるでしょう。
社会的ケアでは、医療ソーシャルワーカーが、ターミナルケアにかかわる費用を抑えるために利用できる福祉制度の助言や、医療費を軽減するための情報提供を行います。また、利用者さんや家族の希望も加味したうえで、病院や施設から在宅介護への切り替えを検討することもあります。
さらに、亡くなった後のことが不安な利用者さんや家族のために、遺産相続や遺品整理のサポートができるよう、専門家を紹介することもあります。
4.ターミナルケアが行われる場所と、それぞれのメリット・デメリット

ターミナルケアが行われる場所には、病院、施設、自宅の3種類があります。それぞれの違いやメリット、デメリットについて、詳しくみていきましょう。
病院
病院でのターミナルケアは、多くの場合、緩和ケア病棟やホスピス病棟への入院となります。医師や看護師などの医療スタッフから、24時間体制でケアが提供されるため、急変時の対応も迅速です。また、ターミナルケアを行う病院には、介護施設と同様に医療ソーシャルワーカーが在籍していることが多いため、医療費や手続きのサポートが受けやすく、家族の負担も軽減できるでしょう。
緩和ケア病棟やホスピス病棟の場合、ほかの病棟に比べて面会がしやすい状況になっています。しかし、面会時間が限られていることも多く、本人が孤独を感じることもあるでしょう。また、緩和ケア病棟やホスピス病棟への入院は予約制で、本人の容態によっても入院の可否が決まるため、すぐに入院できるとは限りません。
介護施設
介護施設では、病院に比べて自宅に近い環境で過ごせるのが特徴です。ほかの利用者さんと交流の機会を持つことができ、孤独感が軽減されやすいでしょう。24時間体制で職員のサポートが受けられるため、家族の負担を軽減しながら、本人も安心して生活を送れます。
ただし、施設によって医療ケアに差が出やすいこともあり、ターミナルケアを行っていない介護施設もあります。ターミナルケアを提供している施設でも、夜勤帯は看護師がオンコール対応となる場合もあり、急変時にすぐに対応できないケースもあるでしょう。また、最期まで施設での生活を希望していても、状況によっては病院への入院が必要となるケースもあります。施設ごとに条件が異なるため、事前の確認が必要です。加えて、入所費用が必要なため、経済的負担が生じやすく、介護施設によっては、空きがなく待機状態が続くケースもあります。
自宅
自宅では、住み慣れた自宅で最期を迎えられるのが最大のメリットです。日本財団が行ったターミナル期の療養場所に関する希望調査では、自宅で療養したいと回答した人は約6割と半数以上にのぼります。家族との交流も自由に行えるため、精神的に負担が少ないのが自宅といえるでしょう。また、病院や介護施設に比べて、費用が抑えやすく、経済的負担を減らすことにもつながります。
ただし、病院や介護施設と比べて、家族の介護負担は大きくなります。基本的に家族が看ている時間が多いため、急変時の判断がつきにくく、対応が遅れる可能性もあるでしょう。自宅でターミナルケアを行う場合には、さまざまなサービスを活用しながら、家族の負担を軽減していくことが大切です。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
病院 |
・24時間体制で医療ケアが受けられる。 ・緊急時対応が可能。 ・医療費や手続きのサポートが受けやすい。 |
・すぐに入院できるとは限らない。 ・面会時間に制限があることが多い。 |
介護施設 |
・病院に比べ自宅に近い環境で過ごせる。 ・ほかの利用者さんと交流の機会が持てる。 ・24時間体制で職員のサポートが受けられる。 |
・施設により医療ケアに差が出やすい。 ・入居費用がかかる。 ・入居待ちのケースがある。 ・面会時間に制限があることが多い。 |
自宅 |
・住み慣れた自宅で最期を迎えられる。 ・家族との面会も自由。 ・費用が抑えられる。 |
・緊急時にすぐに対応できるとは限らない。 ・急変時の判断が難しく、対応が遅れることも。 ・家族負担が大きい。 |
5.ターミナルケアを提供するうえで大切なこと

ターミナルケアを提供するうえで最も大切なことは、利用者さんや家族の希望、意志を尊重することです。利用者さんと家族は、残された時間を後悔することなく有意義に使いたいと考えています。私たち介護職は、利用者さんと家族が穏やかに最期の時を迎えられるよう、思いやりの気持ちをもってケアを行う姿勢を持ちましょう。また、利用者さんや家族だけでなく、かかわる多くの職種としっかりとコミュニケーションをとり、情報共有することも大切です。超高齢社会を迎え、これから介護職がターミナルケアにかかわる機会は、もっと増えてくるでしょう。介護職として、ターミナルケアや看取りの知識を身につけることは、よりよいケアの提供につながります。介護職としてのスキルも高まり、活動の幅が広がる可能性も高くなるでしょう。
まとめ:ターミナルケアを知って介護職としての知見を広げよう

ターミナルケアは、利用者さんが人生の最期を穏やかに過ごすためのケアです。利用者さんの生活に直結する場面にかかわることの多い介護職だからこそ、ターミナルケアについてしっかりと理解しておく必要があります。ターミナルケアの知識を身につけ、利用者さんが最期のその時を安心して送れるケアを提供しましょう。
【日本全国電話・メール・WEB相談OK】介護職の無料転職サポートに申し込む
スピード転職も情報収集だけでもOK
マイナビ介護職は、あなたの転職をしっかりサポート!介護職専任のキャリアアドバイザーがカウンセリングを行います。
はじめての転職で何から進めるべきかわからない、求人だけ見てみたい、そもそも転職活動をするか迷っている場合でも、キャリアアドバイザーがアドバイスいたします。

SNSシェア