経管栄養の種類と注意点とは?介護職員が気をつけるべきポイントを解説
文/山本史子(介護福祉士)
介護の仕事をしていると、経管栄養が必要な利用者さんの対応をする場合があります。しかし、介護の仕事を始めたばかりの人にとっては「経管栄養って聞くけれど、よく知らない」「どんなことをするの?」と疑問を持つこともあるでしょう。本記事では、経管栄養の種類や特徴、注意点について解説します。介護職員としての実施範囲や要件を理解し、スムーズに対応できるようにしておきましょう。
1.経管栄養とは

経管栄養とは、病気や嚥下障害が原因で口から食事を摂れない人に対して、チューブやカテーテルを使用して、必要な栄養を直接投与することを指します。消化機能が正常に働いている人を対象とした支援であり、主に4つの方法があります。詳しい方法については後述しますが、使用期間や利用者さんの状態に合わせて選択します。
ときには、経管栄養と経口摂取と併用して、経口摂取では足りない栄養分を補えば、利用者さん自身の意欲維持につながるでしょう。介護職員は、経管栄養の種類やそれぞれの違いについて理解を深め、対応できるようにすることが大切です。
2.経管栄養の種類とそれぞれの違い

経管栄養には、以下の4つの種類があります。
1. 経鼻経管栄誉
2. 胃ろう
3. 腸ろう
4. 間歇的(かんけつてき)口腔食道経管栄養
それぞれの特徴を詳しく解説します。
経鼻経管栄養
経鼻経管栄養は、鼻から胃や十二指腸にチューブを通して栄養を供給する方法です。この方法は通常、一時的な栄養サポートが必要な利用者さんに対して行われます。対象となるのは、主に嚥下機能が低下し肺炎や誤嚥が起きるおそれが高いものの、消化機能に問題のない人です。
経鼻経管栄養のメリットとデメリットは、以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・体への負担は少ない ・短期間のサポートに対応できる ・経口摂取のリハビリをしやすい ・在宅で生活できる |
・不快感がある ・自己抜去や手足にひっかかり抜ける危険性がある ・まめに交換する必要がある ・皮膚トラブル |
経鼻経管栄養は、口からの栄養摂取の訓練をしつつ負担なく栄養を吸収できるため、必要がなくなれば、すぐに止められることがメリットです。しかし、チューブを固定するためのテープが目立つうえに、長く固定しているとテープでかぶれてしまうケースもみられます。経鼻経管栄養は、長時間鼻から胃までチューブが通っている状態のため、利用者さん自身が無意識に抜いたり、介助中に介護員の手や足に引っかかって抜けたりするため、実施時には注意が必要です。
胃ろう
胃ろうは、内視鏡を使用して胃に穴をあけ、そこにカテーテルを通して胃に栄養剤を注入する方法です。胃ろうは、嚥下機能が低下しているものの、消化機能に問題のない人が対象です。
胃ろうには「体外固定板」「胃内固定板」「カテーテル」を使用し、体外固定板は「ボタン型」と「チューブ型」があります。また、胃内固定板には「バンパー型」と「バルーン型」の2種類存在しており、利用者さんの状態や生活環境によって組み合わせが決められています。
胃ろうのメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・長期間使用可能 ・不快感が少ない ・目立ちにくい ・嚥下訓練が可能 |
・手術が必要 ・チューブの交換が必要 ・皮膚トラブル ・費用がかかる ・感染リスクが高くなる |
胃ろうは、経鼻経管栄養と比べて、チューブが抜けてしまう心配がありません。長期で使用でき、リハビリを実施しやすいところがメリットです。しかし、万が一、チューブが抜けてしまった場合、再度手術が必要となるため、取り扱いには注意が必要です。胃ろうの再手術は費用もかかり、本人の体の負担も懸念されます。また、使用中は下痢や嘔吐などがないか注意し、適切な栄養剤を選ぶことが重要です。
腸ろう
腸ろうは、胃ろうができなかった人で、消化機能に問題のない場合に実施します。また、長期間の経管栄養が必要なときや胃ろうで漏れがみられるケースにも行われます。
腸ろうのメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・胃ろうよりも逆流しにくい ・抜ける危険性が少ない ・目立たない ・不快感は少ない ・嚥下訓練ができる |
・腹部に穴をあける手術が必要 ・抜けると再手術が必要 ・皮膚トラブル ・カテーテルの交換のための通院が必要 |
腸ろうも胃ろうと同様に、経鼻経管栄養と比べると、チューブが抜けにくくなっています。加えて、経鼻経管栄養と比べて不快感が少なく、嚥下訓練がしやすいことがメリットです。しかし、胃ろうよりもチューブの管が細いため、詰まりやすいという難点があります。使用後は必ず白湯を通し、詰まりがないか確認することが重要です。また、腸ろうはあけた穴がふさがりやすいため、ふさがった場合には、再度、手術が必要です。
間歇的口腔食道経管栄養
間歇的(かんけつてき)口腔食道経管栄養は、ここまでに紹介したチューブを入れた状態が続く経管栄養とは異なり、栄養剤を入れるときだけチューブを飲み込み、先端を食道まで通す方法です。投与が終わればチューブを引き抜くため、注入速度が早められ、短時間で栄養剤を注入できることが特徴です。
間歇的口腔食道経管栄養のメリットとデメリットは、次の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・嚥下訓練がしやすい ・体の負担が少ない ・早めの注入も可能 ・注入時間が短い |
・嘔吐反射が強い人には向かない ・胃や食道の手術歴がある人や声が出せない人は要相談 |
間歇的口腔食道経管栄養の場合、栄養剤の投与のたびにチューブを挿入するため、同時に嚥下訓練ができます。しかし、注入ごとのチューブの挿入は、嘔吐反射が強い人や無意識にチューブを噛んでしまう人には向いていません。また、食道や胃に手術歴がある人は逆流する危険性があり、実施可能か十分な検討が必要です。
3.介護施設における経管栄養を実施できる条件

経管栄養は医療行為の一部であり、以前は介護職員が携わることができませんでした。しかし、2012年の介護保険法改正により、介護職員でも経管栄養に関われるようになっています。ただし、実施できる範囲や環境には条件があります。介護職員が経管栄養で実施できる行為と実施可能な事業所について詳しく見てみましょう。
介護職員が経管栄養で実施できる行為
厚生労働省によると、介護職員は「医師の指示のもと、日常生活の営みに必要な行為であれば実施可能」だと記載されています。具体的には、胃ろうや腸ろう・経鼻経管栄養やたんの吸引をする行為です。介護職員が行う場合、介護福祉士の保有者または、一定の研修を修了し、都道府県の登録認定を受けた人が対象です。
実施可能な事業所
経管栄養を実施する事業所は、経管栄養に従事できる「認定特定行為業務従事者」の認定を受けたスタッフが所属し、「登録特定行為事業者」として、都道府県から認定を受ける必要があります。具体的に対象となる施設は、以下のとおりです。
具体的な介護施設
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・グループホーム・有料老人ホーム・通所介護・短期入所生活介護など。
実施可能な事業所として登録するためには、次の2点の要件が満たされている必要があります。
- 医師や看護職員などの医療関係者と連携が取れ、安全かつ適正に実施可能
- 介護福祉士が実地研修を受けている
実施可能な事業所には介護施設のほかにも、障がい者施設や特別支援学校でも登録可能です。ただし、医療機関は対象外となります。
4.経管栄養の手順とポイント

続いて、経管栄養をする際の準備と手順を解説します。4つの方法いずれの場合でも、大まかな手順は以下の通りです。ただし、方法によって細かい点で手順が異なるため、あくまで目安として確認してください。
まずは、準備から始めます。経管栄養を実施する前に、必ず手洗い・除菌をしてください。また、栄養剤を注入する利用者さんの体調を確認し、必要な準備品や医師からの指示書など注意点をチェックしましょう。
必要となる物品例
経管栄養セットのボトルやチューブ・シリンジ・栄養剤・白湯
※経腸・腸ろうの場合には専用の注入ポンプ
使用前に栄養剤を常温にし、必要であれば先にボトルやチューブに栄養剤を入れておきましょう。その場合、専用のトレイにまとめておきます。
経管栄養は、以下の手順で行います。
1. 経管栄養を始めることを利用者さんに伝える
2. 身体を起こす
3. 注入開始
4. 注入後の経過観察
5. 片付け
上記の手順を詳しく解説します。
①経管栄養を始めることを利用者さんに伝える
経管栄養をする前に、利用者さんに声をかけ「これから栄養剤を注入する」旨を伝えましょう。利用者さんから拒否がみられたときや体調不良時には、看護師に確認します。中止や延期になる場合、水分補給をどうするのかについても確認しましょう。
②身体を起こす
了解を得られたら、利用者さんの好みの高さまで身体を起こします。利用者さんの顔色などの様子を見ながら起こし、無理な体勢にならないように注意しましょう。
③注入開始
事前にボトルに栄養剤を注入していない場合、この段階で準備します。栄養剤を利用者さんに注入する際は、利用者さんにむせや嘔吐がないか確認しながら行いましょう。また、顔色や意識の変化がないか、状態観察も必要です。変化があれば医師や看護師に連絡し、指示を仰ぎましょう。
④注入後の経過観察
注入が終わったらチューブ内に白湯を流し、しばらく身体を起こしておきましょう。注入後1時間は体調が変わりやすいため、問題ないか様子観察が必要です。また、実施後すぐにリハビリをすると、逆流や嘔吐の原因になります。
⑤片付け
注入後は、看護師に利用者さんの様子を伝え、問題点があれば報告します。使用した道具は、指示通りの後片付けをして、記録を取ります。状態の変化やヒヤリ・ハットは記録漏れがないようにしましょう。
5.経管栄養実施の際の注意点

経鼻経管栄養中は、以下の4点に注意しましょう。
- チューブの固定テープ周辺はかぶれていないか
- チューブは抜けやすくなっていないか
- 注入する栄養剤は冷たすぎないか
- 利用者さんに体調の変化がないか
経管栄養の実施中は、固定テープ周辺がかぶれやすいため、不織布やプラスチックテープなど、かぶれにくいものを使用するとよいでしょう。経鼻経管栄養の場合、介護員もチューブが抜けないように気を付ける必要があります。
栄養剤は冷たすぎると下痢をしやすくなります。栄養剤の注入中は、下痢や消化不良などないか、体調の変化を観察してください。経管栄養のチューブを誤挿入する可能性も、ゼロではありません。利用者さんに変化がみられたときは、すぐに看護師や医師に相談しましょう。また、経管栄養をしている利用者さんは、口から食事しないため唾液が少なくなる傾向にあります。経管栄養でもしっかり口腔ケアを実施して、肺炎予防に努めましょう。
6.経管栄養に関するQ&A

ここで、経管栄養に関して、よくある疑問を紹介します。
Q.経管栄養をするときに白湯を使用するのはなぜですか?
栄養剤注入前に白湯を使用すれば、腸の蠕動(ぜんどう)運動の働きを良くし、栄養剤の消化を促します。さらに、温かい水分を入れることで、冷えによる下痢や嘔吐のリスクも軽減できるでしょう。栄養剤注入後に白湯を使用することで、チューブ内の栄養剤を洗い流し、栄養剤の腐敗による感染症の予防にもなります。
Q.経管栄養の注入速度はどれくらい?
胃ろうであれば、1時間に100ml(3秒に1滴)入る速度で開始し、スムーズにいけば1時間に200ml(3秒に2滴)まで調整可能です。医師や看護師の指示や利用者さんの状態に合わせて、速度を調整するとよsいでしょう。また、利用者さんの体位によって滴下速度は変わります。その都度、速度を確認しながら介助しましょう。
まとめ:介護職員として、経管栄養への理解を深めよう

経管栄養は、口から食事を摂れなくなった利用者さんが、適切な栄養を摂取し、心身の健康を維持するために必要な処置です。経管栄養には、経鼻経管栄養や胃ろう・腸ろう・間歇的口腔食道経管栄養の4つの方法があるため、それぞれの特徴や違い、手順を理解しておきましょう。
ただし、介護職員が経管栄養に関わるには、喀痰吸引等研修を修了するか、介護福祉士の資格が必要です。高齢化が進むなか、介護施設においても経管栄養をしている利用者さんの増加が考えられます。介護職員は関われる業務範囲の拡大やスキルアップを狙って、研修を受けてみてはいかがでしょうか。
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