入浴拒否をする利用者さんへの適切な声かけとは?原因とポイントを解説
文/山本史子(介護福祉士)
介護施設で実施される利用者さんの入浴は、身体の清潔を保つだけではなく、血行促進やリラックスを促す機会として重要です。入浴拒否の言葉や態度がみられる利用者さんがいる場合、大切な時間だとわかっているからこそ、介護職員は声かけや対応に悩むこともあるでしょう。
しかし、利用者さんにも入浴拒否をする理由があり、介護職として原因に合った声かけや対応が望まれます。利用者さんに合った対応を身に付け、入浴につながるようにしましょう。本記事では、入浴拒否をする利用者さんへの声かけのポイントについて解説します。
1.利用者さんが入浴拒否する原因とは?

人によってさまざまな理由がありますが、代表的なものとして以下のような点が挙げられます。
- 裸になるのが恥ずかしい
- 認知機能の低下
- 入浴自体を億劫に感じてしまう
- お風呂にいいイメージがない
- 介護職員の世話になるのが申し訳ない
それぞれ詳しくみてみましょう。
裸になるのが恥ずかしい
「人前で裸になるのが恥ずかしい」と思われる利用者さんも少なくありません。こうした羞恥の感覚は、高齢者になったからといって、無くなるものではないでしょう。介護施設では入浴時間が決められており、複数の介護職員が入浴介助を担当する場合もあります。
また、同じ時間に多数の利用者さんが使うため、人前で服を脱ぐ行為に抵抗があるのかもしれません。そのほかにも、高齢による身体的な変化が出てきており、他人に裸を見られることや汚れた下着が見られることへの抵抗感が、入浴拒否につながる場合があります。
認知機能の低下
認知症の方は、お風呂の目的や行為を理解する能力が低下し、日常的な活動を認識しにくくなることがあります。日常生活の一部である「お風呂に入る」行為自体を難しく感じて、拒否につながるのでしょう。
しかし、なかには、入浴手順や目的を理解できなくなってきていることを自覚しており、漠然とした不安や恐怖感を持つ場合もあります。また、以前は快適だったはずの水の感触が、不快や痛みに感じてしまうことがあるのも入浴拒否の原因の1つだと考えられます。
入浴自体を億劫に感じてしまう
入浴自体を億劫に感じてしまうために、入浴拒否をするケースもみられます。この「億劫」という感情の背景には、さまざまな理由があり、個々に異なります。例えば、体に痛みを抱えるようになり、衣類の着脱や入浴の動作につらさを感じているのかもしれません。
また、体調が万全ではなく、体力を消耗する入浴が億劫だと感じることもあるでしょう。加えて、冬場は衣類を脱ぐことで、より一層寒さを感じます。寒さへの抵抗感が「億劫」という表現に変わり、入浴拒否へとつながると考えられます。
お風呂に良いイメージがない
入浴を拒否される利用者さんのなかには、お風呂に良いイメージがない方もいるかもしれません。例えば、過去にお風呂で滑って転倒したことや、急かされて不快に感じたといった体験です。嫌な思い出が記憶に残っている場合、入浴を避けたい気持ちになるでしょう。
また、浴室や脱衣所が寒いと感じる方にとっては、冷気が体に触れる感覚が苦手な場合もあります。また、排せつの失敗や下着の汚れに関することで、他の利用者さんや介護職員の何気ない言動によって、入浴に良いイメージを持てず、入浴拒否に至る可能性も考えられます。
介護職員から世話をされるのが申し訳ない
利用者さんのなかには、介護職員からサポートを受けることを「お世話になって申し訳ない」と感じる方がいます。長年にわたって自立して生活してきた方が多く、他人の手を借りることに抵抗があるのかもしれません。介護を受けること自体が「他人に迷惑をかけている」と感じているようです。
また、介護職員の仕事が大変なことを理解しており、自分のために特別な配慮や手間をかけさせることへの罪悪感からも「申し訳ない」という気持ちになり、入浴拒否につながる場合もあります。
2.入浴拒否をされた場合はどのような声かけをすればいい?

入浴拒否をする利用者さんが抱える不安や苦手意識を和らげ、入浴に対する前向きな気持ちを持ってもらう工夫が必要です。介護職員は次のような声かけを意識してみましょう。
- 利用者さんを尊重し共感する声かけ
- 安心感を持ってもらえる声かけ
- 入浴の苦手意識を解消できる声かけ
- 入浴の良さを伝えられる声かけ
それぞれのポイントと、声かけ例を解説します。
利用者さんを尊重し共感する声かけ
利用者さんの入浴拒否がみられたときは、まずは利用者さんの気持ちを尊重し、共感することが重要です。介護職員は利用者さんが感じる入浴に対する不安や恐怖を否定するのではなく、共感し、理解するような姿勢を示したうえで、本人の選択を促すような声かけを意識してみましょう。
例えば、人目が気になる方には「その気持ち、良くわかりますよ」と共感したうえで「皆さんが終わってからゆっくり入りませんか?」と声をかけ、入浴は強制ではなく選択できることを伝えるのも一案です。一方で、一人で入ることが苦手な方には「同じ席の〇〇さんと同じ時間に入りましょうか」などと話しておくと、安心してもらえるでしょう。
安心感を持ってもらえる声かけ
入浴時には、利用者さんが不安に感じる可能性のあるものをできるだけ取り除き、安心できる空間と時間で過ごしてもらえるような声かけをしてみましょう。例えば、一人で入浴することに不安を感じている利用者さんには「いつでも声をかけてくださいね。何かあればすぐに対応しますよ」と伝えることで、安心感を持ってもらえるでしょう。また、転倒や体調の変化に不安を感じる利用者さんには、施設で行っている安全対策を話しておくこともよいかもしれません。
入浴の苦手意識を解消できる声かけ
入浴に良いイメージを持っていない場合には、利用者さんが苦手としていることを把握し、解消してあげるとよいでしょう。例えば、入浴自体に強い拒否がみられる場合には「浴室の見学だけでもしてみませんか?」「脱衣所で下着だけでも交換してみましょう」などの声かけも有効です。
また、高齢になれば体の可動域も狭くなり、自分が思っているほどうまく体を洗えないことで、入浴に苦手意識があるのかもしれません。「今日は、胸とおなかを洗ってもらっていいですか?あとは私がお手伝いしますね」といった、利用者さんが楽になるような声かけを取り入れるとよいでしょう。
入浴の良さを伝えられる声かけ
入浴の目的や良さが伝わらない場合があります。そのため「昨日に入ったから」と、その日の入浴を拒否されることもあるでしょう。このような場合には、利用者さんに入浴するメリットを感じてもらえる声かけが必要です。
例えば「お風呂に入ると、1日の汗や汚れが流れてスッキリしますよ」「お風呂は体も心もリラックスできるので、夜も眠りやすくなりますよ」といった言葉で、爽快感や心地よさを思い出させる声かけが効果的です。入浴に興味を持ってもらえるような声かけを意識してみましょう。
3.入浴拒否をされたときに、してはいけないことは?

多くの介護施設では入浴時間が決められています。また、他の仕事もあるために、入浴拒否をされると予定通りに仕事が進まず、困ってしまいます。しかし、入浴拒否をされた際に無理やり進めても、入浴への恐怖心や職員への不信感を生み、信頼関係を損ないかねません。
また「どうしていつも入浴しないっていうのですか?」といったような否定的な言葉かけをすると、利用者さんは責められていると感じ、自分の意思が尊重されないことに悲しみや怒りの気持ちが出ることもあります。介護職員の一方的な考えだけでは、利用者さんが入浴拒否をする気持ちは理解できません。会話を通じて利用者さんの意見や気持ちを尊重する姿勢が求められます。
4.声かけ以外で入浴してもらえる工夫のポイント

利用者さんに入浴拒否がみられても、なるべく利用者さんに納得して入ってもらえる環境を整えることも大切です。利用者さんの入浴拒否の原因に合わせて、柔軟に対応しましょう。
例えば、施設内の可能な範囲で入浴の順番や時間をずらすことが有効です。そうすれば、人の目が気になる方でも安心して入浴できるでしょう。また時間の経過とともに「みんなと一緒に入りたい」と言われるケースもみられます。
介護職員が声かけしても拒否されてしまった場合には、少し時間をおいて他の職員から入浴を促すことで、気持ちが動くこともあります。可能であれば仲の良い利用者さんに誘ってもらうのもよいでしょう。また、全身浴だけが入浴ではありません。利用者さんの状態やタイミングに合わせて足浴や清拭などの方法を提案してみてください。施設内で実施可能な取り組みを考えながら、利用者さんが入浴に対する抵抗感を軽減させ、入浴の気持ちよさを感じてもらいましょう。
まとめ:利用者さんが入浴拒否する原因を把握して柔軟な声かけや対応をしよう

利用者さんの入浴拒否は、多くの介護施設で抱える問題点の1つとなっています。しかし、介護職員は入浴の強制や感情的な態度を取る行動は避け、利用者さんの気持ちを尊重し、入浴をするかどうかを選べる余白を残すことが大切です。また、声かけだけではなく、入浴の時間帯の調整や対応する職員を変えれば、利用者さんに入浴したい気持ちになってもらえるかもしれません。施設ごとに工夫しながら、利用者さんが快適に入浴できる環境を整え、これまで以上に生活の質を向上させるサポートをしてみてはいかがでしょうか。
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